白雪文成最初の事件:4

「で、なんで私が来るまでの間に二人は喧嘩しているの?」

「だって彼女が」

「だってこの人が」

「ハモらなくてよろしい。わかったからまずは自己紹介をしましょう。それさえもまだでしょう。私はソフィア。人造人間NE。型式はNE-001-03。現存稼働する唯一の第一世代型でソフィー・システムの運用責任者。次、文成ふみなり

「白雪文成、52歳。元雪河智絵親衛隊。現残雪派所属の全身義体NE

「夏山陽奈、16歳。無職。電脳化処理済みの義体化率30%以下人間

「もっと、こう、あなたたち、良識のある振る舞いをしようとか思わないわけ?お互いに愛想良くするとか」

「ない」

「ないです」

「仕方ないわね。躾は後回しだわ。じゃあ次。一体何の言い争いをしていたの?」

「この小娘は、必要のない連続空き巣に手を染めていた。それに、コニー誘拐の実行犯の可能性がある。さっき斬りかかられた時に、太刀筋で確認したが、コニー=Bの腕だった」

「私は食べ物を分けてもらっていただけ。困っている人をさらに困らせたくないから、てっとり早く『残雪派』を選んでいただけなの。ほんの出来心だから無罪放免でいいと思う。コニーなんて人は知らないし、絶対に誘拐なんてしていないから」

「ハルナ、コニーを知らないって本当なの?」

「私はソフィー・システム上に通販で出ていた『達人』ってファイル名の武器管制電脳回路ACシステムを買っただけなんです。コニー=Bなんて人の名前も、その人が何日も行方不明なのも、さっき知ったばっかりです」

警察に陽奈を引き渡すのはたやすいが、まだ16歳の陽奈のことを考えると、ソフィーのところにしばらく置くのがいいと思う、と文成が口を挟む。

「なるほど……。その『達人』ファイルの確認を取らないといけないわね。ハルナの身柄については文成の意見に賛成だわ」

「なぜ?私は帰れないの?」

「空き巣は兎も角、警察の捜査が進めば、コニー誘拐の件では、ハルナ、あなたの名前がすぐ出てくるでしょう。それも最有力の容疑者としてね。そうなれば残雪派の人間が私刑に走らないとは限らないのよ。今の日本はほぼ無政府状態で、残雪派の人間の善意で夜警国家としての体裁を保っているに過ぎないからね。残雪派を敵に回すようなことは避けるべきよ。あなたの安全のためにね。そうよ!この際だから、いっそのこと文成の助手として、文成に協力してくれないかしら」

「ソフィー。子守りは僕の仕事じゃない」

「ソフィアさん。私スケベ親父のブンセーと組みたくない」

またまたハモらなくてよろしいというソフィアの発言は、二人の耳には届かなかった。

「オーケイ、ハルナ。表に出なさい。君の傲慢さにはいい加減ウンザリしてるんだ。決着をつけようじゃないか」

「合点、ブンセー。達人データが私のものとして機能していることをその身に教えてやる。女の底力は男の10倍あるんだ。私を舐めるんじゃねぇ」

「バカ二名。落ち着きなさい。二人できちんと協力して、ハルナをハメたクソッタレに怒りをぶつけなさい。だから今は我慢。少なくともこの件が片付くまではね。戦うべき相手が違うでしょ」

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