雪河智絵最後の事件:3
†同日20時、アスクレピオス
≪
「もちろん。それよりもこの世界が『雪河智絵』を失うことの不利益の方が大きいもの。本日開始時点の智絵の記憶の転写を実行しなさい」
≪了解しました、マスター・ソフィア。記憶の転写を開始します≫
†同日同所21時
「おはよう、ソフィア」
「おはよう、智絵。あなたにひとつ残念なお知らせがあるの」
「なに?」
「今21時よ。義体にエラーがあって一日中寝たままだった。正直目を覚まさなかったらどうしようかと思っていたところ」
「義体が違うのはそのせい?」
「そう。仕方がないから義体を全部作り変えた。前と違って智絵と同じ183cmの女性型ボディにしてみたわ。これでどう?」
「ううん、そのことなのだけれどね」
「私は反対。男性型義体を使って、別人として生きるだなんて」
「ソフィー。私はとうの昔に死んだんでしょう?いくら世界が望んでいるから、なんて言ったとしても、死人に生きることを望むのは筋が違うと思うの。だから私はもう雪河智絵として生きるつもりはない。それに」
「それに?」
「折角ソフィーが私に新しい人生をくれたのだから、それをめいっぱい楽しんでみたい。他の人にはできないような。今までの私とは違う全く新しい体と命を、私らしく楽しんでみたい」
その最たるものこそは男性の義体で、いかにも男性らしい人生を送ることに他ならないはずだ。さらに言えば機械である以上は機械にしかできない楽しみ方をすべきである、と僕は考えたのだ。
「リスクなきところにリターンなし。私の生き方にケチはつけさせない。生前の私なら間違いなくソフィーにそう言わない?どう?」
「…………言う」
「ほらね?だから雪河智絵はもうお終い。私は
「そうね。帰ってきた浦島太郎は幸せにはなれなかったのだものね。智絵、いいえ文成、あなたの選択を応援するわ」
「どうもありがとう。感謝するよ」
雪河智絵最後の事件――終。
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