第8話
空も周囲の木々も、やけに色が濃い。
彩度の高い景色は、一真の故郷、実家の近くの山の中だ。
特に何も不思議に思わず、野山を分け入る。
雑木林の獣道を少し歩くと、藪の中が妙に気になった。
そちらへ目を向けると、茂る下草の中に埋もれる様にして、猫の死体がある。
猫は自分が死ぬ所を人に見せないって言うけど本当だったんだな、と思いながら、一真は道を外れて猫の死体に近付いた。
死んで数日は経っているのだろうか。
死肉は腐っていた。
臭いは感じなかったが、反射的に一真は鼻と口を覆う。
死体の表面は黒く蠢いていた。
蝿と蟻が集っているのだ。
その下で動く白いものは蛆だろうか。
蝿も蛆も丸々と肥えている。
これが、俺の姿か、と一真は思った。
死に集り、命を食い物にするもの姿。
取るに足らない大多数の内の一つ。
連綿と繰り返される誕生と消失の中で、いつか消失する、意味も価値も無い生命。
撮らなければ、と一真は胸に手を遣る。
カメラを手にして顔を上げると、周囲の景色は一変していた。
見慣れた薄い茶褐色。
乾いた匂いの風が髪を巻き上げる、故郷から遠く離れた、中東の砂の国だ。
目の前には猫の死体ではなくジャンが座っている。
ジャンはこの世の暗闇を固めた様な目で、静かに一真に告げる。
声は聞こえない。けれど一真には言葉が理解出来た。
『生命など、皆同じだ』
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