第43話 晴れの日の雨

 用意された戦力は、20mm機関砲搭載の装甲車一台。アースが四機、三機が前衛を務め、一機が狙撃で支援。迫撃砲が五門。着弾観測はご主人様が出してくれた小型ドローンで行い、前記の狙撃型がデータを受信し指示を行う。


 素晴らしい戦力だ。これほどの火力なら、なんの苦労もすることなくすり潰せることだろう。


 前もこれくらい出してくれていれば、俺の片目も無事だったかもしれないのに。そう恨めしく思うことは、決して悪ではないだろう。




『こちら砲兵隊、配置に着いた。初弾装填完了』


「目標は集落入り口三か所。撃て」


『了解』




 ボンボンボン、と鈍い音が空に響く。数秒後、着弾。彼方の集落で三つの爆発が起き、眩い炎と白煙が立ち上る。


 鼠の巣穴に火のついたマッチを投げ込めばどうなるか? 慌てふためいて逃げ出そうとするに決まっている。だが、出口はもう潰れているのだ。逃げ場はない。一匹残らず、このまま焼け死んでしまえばいい。楽に終わるに越したことはない。




『次弾装填、完了。目標の指示を求む』


『こちら観測機。アースが接近中』




 しかし、そうもいかないようだ。HUDの片隅にENEMY:8の文字が浮いて出た。




『画像を確認。パトロール隊だな。アース部隊、排除は任せる』


『了解。接近される前に可能な限り叩きます。砲兵隊は引き続き集落内へ砲撃。漏れた分はガーディアン、お任せします』




 ガーディアンとは、アースと装甲車からなる砲兵隊の防護部隊のことを指す。つまり、俺たちにも仕事ができたということだ。




『ガーディアン。こちらも画像を確認した。任せろ』




 迫撃砲の音に甲高く、鋭い砲声が混じる。エーヴィヒの狙撃砲だ。




『外しました。次弾、命中』




 高威力でよく当たる。味方であれば頼もしい。そのまま何発か発砲し、姿が見えるほどの距離になると敵の数も五機に減っていた。 




『スナイパー、残弾なし。補給に一分』


『ガーディアン、敵が射程圏内に入った。迎撃を開始』




 シールドを地面にアンカーで固定し、その陰からロケット砲を全弾発射。それぞれ9発が3機分、計27発のロケット弾が敵に押し寄せ、いくつかは直撃。それでも抜けてきた2機には、オマケに3機のアースと装甲車による濃密な機銃掃射を受けて、一瞬で塵と化した。盾を持っていなければ仕方のない結末だろう。


 最期まで、反撃の弾は一発も飛んでこなかった。こちらの頭上は迫撃砲弾がずっと飛び続けているが。




『ガーディアン、全機撃破』


『スナイパー、集落外に敵影なし。砲兵隊は残る建物に攻撃を』


『砲兵隊、了解。もうほとんど残ってないがな』




 送られてきた映像では、砲兵隊の言う通りほとんど更地になっている。出てきた生身のミュータントも、アースもどちらも砲撃によって破片となって飛び散っている。集落内には地獄が顕現していることだろう。




『手筈通り、建物は全て破壊してください』


『あいよ。これで最後だ』




 最期の一発が着弾し、もう一度炎を上げる。手筈では、建物をすべて破壊した後に集落内へ進入し、生き残りを探し、完全に皆殺しにすることになっている。血と臓器と肉片の飛び散るであろうあの中へ踏み込めと言われると気が引ける。掃除で慣れているが、気持ち悪いものは気持ち悪い。




『仕事の時間だ。行くぞ。隊列を組め』




 だが、仕事だ。盾を拾い上げて、先頭に立って進む。俺が先頭で攻撃を防ぎ、アンジー・トーマスが後ろから支援攻撃。しかし、敵など残っているかどうか。画像の中の集落は、すべての建物が崩壊し更地になっている。それでも残っている可能性を疑い、念を押して歩兵を進めるのだから、徹底している。




「前進!」




 ローラーダッシュ。集落までの移動にさほどの時間は必要なく、崩れた入り口にたどり着く。がれきの下敷きになり呻いているミュータントが居たので踏みつぶし、内部へ進入。敵を警戒するが、動く反応はなし。


 目に入るものは、瓦礫以外には死体しかない。




『九時方向。何か動いた』




 盾と銃を構える。幾多の人間の残骸の中に、下半身が千切れている子供が居た。まだ息がある、助けを求めているのか、こちらにむけ這いずっている。




「すぐに死ぬ。放っておけばいい」


『待て、別の生存者だ』




 この集落では珍しく五体満足のミュータントが、獣のような奇声を発しながら駆け寄ってきた。武器は持っていない。




「命令に従おう」




 弾を使う必要はない。盾で振り払うだけでいい。分厚い鉄塊で殴れば人は死ぬ、ミュータントも多少しぶといが基本は人間と変わらない。一応トドメとして頭を踏みつぶして、また生存者を探して回る。




 ローラーに肉片を巻き込むのが嫌なので、通常歩行に切り替えて歩き回った。一歩ごとに機体の駆動音に混じり、ベシャリ、ベシャリ、と水たまりを踏む音がする。ああ、今日は珍しく晴れだというのに、おかしなこともあるものだ。

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