第37話 選択
買ってきた武装をアースに積んで、FCSの調整も済ませて、軽く動かしてみて、それで休日はお終い。なんとつまらない一日だ、あの糞共の侵攻さえなければ余っていた金で女の子に相手してもらえたものを、今やすっからかんだ。軽くなった財布を振ると悲しさがこみあげてくる。
そんな休日の、翌日の朝。招集のブザーで目が覚めた。電子メールを覗くと、これから一時間後にスカベンジャーはシェルター前に集合と。予定した時間よりもずっと早く叩き起こされたせいで、休日で少しはリフレッシュした気分も一発で底に沈んだ。
ブザーは一体何事かと思ったが、ただの招集命令なら、ゆっくりしていてもいいだろうと、朝の支度を進める。
「おはようございます」
同じようにブザーで目が覚めたエーヴィヒに気付いたら、挨拶を返す。
「ああ。おはよう」
とりあえず顔を洗って、雑巾のようなタオルで拭いて。寝ぼけて瞼を擦るエーヴィヒに朝食と水を渡して、自分もテーブルにつく。自分のモノになっている美少女との食事、とシーンだけ切り取れば、ロマンあふれる素晴らしいものだ。ただしゲロのような合成食糧を、吐き気を堪えながら胃に流し込む拷問に等しい苦しみを味わえば、その喜びは汚泥を希釈する程度のものでしかない。
「……ごちそうさまでした」
二人揃って蒸留水で口内の後味を洗い流し、朝食を終える。痛みが生を自覚させるなら、俺は毎日、毎朝命あることを実感している。
食い終わったゴミはちゃんとゴミ箱へ。そろそろゴミを集めて出さなければ。溜まってきている。
「じゃ、行こうか」
「はい」
静かに返事をした彼女に、コートとマスクを投げ渡して一緒に家を出る。今日も何事もない一日でありますように、と願いながら。
しかし、残念なことに何事もなくということはなかった。道中ではエーヴィヒを狙うゴミを掃除する羽目になったし、シェルターに着いたら今度は頭の演説が始まって。その内容がまたひどいものだった。遠征では羽が、防衛戦では足が、多くの戦力を喪失した。その被害の大きさを一番理解しているはずの知る頭が、なんと報復のための大規模遠征を提案し、そのメンバーを募ったのだ。
こうなるのは知っていた。予想外なのはその先だ。同僚、隣人、あるいは戦友と呼ぶべき者たちを失ったスカベンジャー達の多くは、何を思ってか銃を掲げて賛同したのだ。
お前らそんなに死にたいのか、とあきれたが、彼らが自身の意志で選択したのだから、異を唱える隙などなかった。俺にできるのは、ただ顔をしかめて残留組と愚痴るだけ。
「連中、そんなに死にたいのかよ」
「好きにさせとけ。死にたい奴は勝手に死ねばいい」
死にたくない奴は残る。死にたい奴は出ていく。簡単な話だ。出ていく連中が死んだら俺たちの仕事が増えるが、それはまあ。仕方ないこととあきらめる。出ていった連中がなんとか帰って来たら、英雄として歓迎しよう。
「ようクロード」
雑談の最中、後ろから誰かが声をかける。振り返る。マスクのせいで誰かわからなかったが、コートの肩に書かれた番号でわかった。トーマスだ。
「小さいガキを連れてるからすぐわかったぞ、お前は行くのか?」
「いや、行かない。俺がここ一月で何度死にかけたと思ってる」
エーヴィヒに何度も狙われて、その次は死都で、その次は戦車に狙われて。もう戦いは勘弁してくれという気分だ。
「そういうお前は?」
「部下の敵討ちもあるし、行かなきゃならんだろう」
「上司は大変だな」
「ちなみにアンジーも行く。どうだ、気は変わったか」
「やれやれ。実戦部隊のツートップが揃ってバーサーカー(戦闘狂)か。行ってこい。そんで死んでこい。生きて帰ってきたら、褒めてやるよ」
「……なんだ行かんのか。つまらん」
「留守番も必要だろ」
「ガキでもできる」
「ガキで結構。じゃあな」
周りにも一言愚痴り合いから抜けるといって、今日の自分の持ち場へ足を向ける。退屈な仕事でも、その良さが俺にはわかる。鉄火場へ行かずに済むならそうあれかしと神に祈りを捧げてもいい。そんな気分だ。
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