第33話後掃除Ⅱ
ゲートの掃除は予定通りに進行し、夕方には一段落ついた。大量に積もっていた、あるいは散らかっていた瓦礫を左右に退けて道を作るだけの単純作業。生身なら腰を痛めて翌日寝たきりになるところを、アースのおかげで楽々……とまではいかないが、労力は大幅に軽減できた。
トラック一台なら余裕をもって通れる程度の広さの道には、もう小石くらいしか残っていない。文明のすばらしさを再認識できた、貴重な機会だったな。これが戦争の後始末でなければ、とても感動的だったのだが。
自分のやった仕事に小さな達成感を抱き、退けた瓦礫の上に腰を下ろす。その隣に当たり前のようにエーヴィヒが座る。居心地が悪く少し離れると、離れた分だけ寄ってくる。何だと思って近寄れば、寄った分離れて、一定の距離を保たれる。
何がしたいのか、と聞こうと思ったとたん、遠くからエンジン音が聞こえてきた。顔をそちらに向ければ、道路の彼方に点が見える。確認のため双眼鏡を使うと、いつもお客様が乗ってくるトラックだった。
そういえば糞共はこのコロニーには攻め込んできたが、道中にあったミュータントの集落には気付かなかったのだろうか。小さな集落だから見逃したか? ありえなくもないか。
「よいしょ……」
「どうしました」
「お客様だ」
そういえば、少し前にミュータント関係で問題があったな。
「お前は帰れ」
「なぜでしょう」
「お客様が殺されると俺が怒られる。最悪責任を取って殺される」
「しかし私にもミュータントを排除する役割があります」
「見なかったことにはできんか」
「できません」
「そうか。なら仕方ないな」
逆手でナイフを抜いて、彼女のこめかみに突き刺した。よく研がれた刃は樹脂製のマスクを簡単に貫通し、肉と頭蓋骨を割り、その奥にある柔らかな脳にまで到達した。痛みを感じる時間もなく逝っただろう。
正直に言えば、彼女にこういう乱暴な手段はあまり取りたくない。汚いゴミを道端に蹴り飛ばすのと、花を踏みつぶすのでは、気分が違うのだ。必要だからやるけども。
「ぅぁ」
白目を剥いて倒れるエーヴィヒ。ナイフを抜いて血を拭いて、鞘に戻す。死体は交通の邪魔にならないところへ放り出しておいて、こちらに向かうトラックに向かって手を振り案内をする。無視をしてパンクして立ち往生しても俺は知らん。
やがてトラックが至近にまで寄ってきて、運転手が窓から顔を出す。マスクなしでも呼吸できるのは羨ましいが、猟犬に命を狙われるのは気の毒だ。ミュータントでもないのに命を狙われた俺はさらに気の毒。
「ひどいありさまだな」
「そうだろう。復旧には時間がかかる。おたくとの取引も増えるかもな」
「そりゃ結構。対価さえ寄こしてくれるならいくらでも持ってくるぜ」
「こっちの懐事情によるな。まあそこら辺は頭と話してくれ。じゃあ、道はいつも通り。大きい通りは片付いてるが、破片が残ってるかもしれん。ゆっくり走れ」
「あいよ、忠告どうも」
言うべきことだけ言ったら、自分は残りの仕事を片付ける。エーヴィヒも俺も、アースに乗ってやってきたが、エーヴィヒはここで殺してしまった。そのせいで片方のアースは乗り手が居ない、すっからかんの状態。これを放っておくわけにはいかないので、家に持って帰らないといけないのだ。
エーヴィヒが言うことを聞かなかったおかげで、余計な仕事が増えた。本当、疫病神だなあいつは。
それから家に帰ると、すぐに頭から呼び出しがあった。今度の声は大層お怒りの様子。まあ、心当たりは大いにある。ミュータントが来たこのタイミングで怒るってことは、たぶん借り物についてだろう。行きたくないと思いながら、もう一度家を出た。
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