第31話 恩赦
翌日、エーヴィヒが謎めいた記録ディスクをもって家にやってきた。聞けば捕虜の頭から吸い出した情報を詰め込んであるという。俺じゃなく頭に直接渡せばどうだと言おうとして、猟犬が一人で頭に会いに行ったところで門前払いがオチだろうと納得し。受け取ったら一度服を着替えて、頭のところへ持っていくことにする。
道中、引き渡した捕虜はどうしたと尋ねると「処分しました」と返事が。まあそんなとこだろうとは思った。
シェルターまで行き、門番に身分証を見せて中へ。広間の奥では頭が書類の束と格闘していた。紙は希少な資源だから、こういう非常時以外で見ることは少ない。俺たちの戦争は終わったが、頭の戦争はまだ続いているようだ。
「誰だ」
「足のクロードだ。ご主人様に頼んで、捕虜から情報を吸い出したから見てもらいたい」
「信頼できる情報か?」
「中身は見てないが、支配階級の技術だ。嘘を入れてなければ確かだろう」
「中身の閲覧を許可する。他の捕虜に裏取りしてこい。連中がそんな無駄なことをするとは思えんが、念のためな」
「了解。じゃあちょっと行ってくる」
残る捕虜は二人。両方から情報を取れば、信頼度はより高まる。そんなわけで、また少し場所を移動して捕虜の待つ牢屋へ向かう。捕虜二人は脱走防止のため別々の部屋に入れられているが、今回は一人ずつ聞くのもめんどくさいから一か所に集めた。殺す前の慈悲といえばそうなるか。
武装した看守三人に立ち会わせて、情報をプリントした紙を見せる。
「お前らのお友達はよく耐えた。だが、それでも限界が来たらしい」
二人の反応は鈍く、動揺の色は見えない。まさかご主人様が嘘をついたか? それとも耐えているだけか。揺さぶってみよう。
「俺たちの仲間がそう簡単に口を割るわけがない」
「もちろん簡単にとはいかなかった。苦労して吐き出させた嘘かどうかを調べるために、お前たちに協力してもらおうとな」
「断る」
「協力すれば死に方くらいは選ばせてやる。このままだと猛獣に生きたまま肉を貪られることになるぞ」
「そんな猛獣がどこに居る」
「俺以外は食うぞ」
「何をだ」
「このコロニーはクソマズイ合成食糧以外だと、人間かネズミくらいしか食うものがなくてな。看守、こいつらは美味そうか?」
「肉は堅そうだが、食うところはそこらのゴミより多そうだ」
ゾクリ、と震えあがったのが見て取れる。脅しの効果としては上々のようだ。
「もう一度聞くが、これは事実か? 答えた方には恩赦をやろう」
「……事実だ」
「お前っ! 家を裏切るのか!?」
「ずいぶん素直に口を割ったな」
「どうせ助けは来ないんだ。それならせめて、苦しみたくない!」
顔を伏せて、ぼそりと漏らした本音はあまりにも悲痛だ。俺も死都撤退戦で捕まっていたら、同じ目に遭っていたのかもしれない。しかし同情はしない、人の家を散々荒らしまわったのだから、その報いを受けるのは当然だ。
しかし、俺は嘘が嫌いだ。自分で言ったからには約束は守る。
「ところで何か言い残すことは?」
「地獄へ落ちな、糞野郎」
「ああ」
恩赦とは、一発の銃弾である。苦しんで死ぬことを思えば救いだろう。
「ジーーーク!!」
「死体の掃除は任せた。残りはまだ生かしておけ。頭から追って指示がある」
「へい」
看守に残りを任せておいて、俺はまた仕事の続き。頭のところへもう一度向かう。少し前までは俺みたいな下っ端が、組織のトップと何度も直接話すなんて考えてもみなかったが、人生わからないものだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます