第30話 尋問

 コロニーを襲った連中の残党を牢屋にぶち込んで一晩。あいつらをどうするのだろうな、と考えていたら、頭から命令を受けた。内容はシンプル、「連中の拠点と戦力を尋問して吐かせろ」

 反撃を考えているんだろう。俺も奴らの顔面に一発食らわせてやりたいから、それには大賛成だ。ちなみに方法はこちらに任せるそう。それなら丁度いい案があるから、是非任せてくれと胸を叩いて引き受けた。


 そんなわけで捕虜の待つ檻までやってきたのだが……どういう訳か、椅子に縛り付けられて顔がパンパンにはれ上がっている。

 どうして、とは考えるまでもない。先客がいたからだ。


「よう! 遅かったじゃないか」

「トーマスじゃないか。どうしてここに?」

「暇だから手伝いに来た。こんな楽しそうなことは独り占めさせないぜ」

「ああ。楽しみたいなら好きなだけやってくれ」


 どっこいせと壁際の椅子に座り、トーマスのお楽しみを眺めることにする。眺めている間に振るわれる両腕と、飛び散る汗と血。いやぁ、汚いもんだ。


「ところで、床に散らかってるのはなんだ?」


 床に散らばっている合成食糧の空袋と、何度か吐き出したような痕が気になったので尋ねてみる。


「賞味期限切れの廃棄品を集めてきた。吐かせようにも、腹の中が空じゃ何も出てこないだろ?」

「上手いこと言うな」


 合成食糧はゲロの味だが。血も混じっているから、結構な回数吐かせたんだろう。


「それで、何か情報は?」

「なにも喋らない。なかなか口が堅い」

「やり方が悪いんじゃないのか」

「最初は優しく聞き出そうとしてたんだが、口を割らないから仕方なくな」

「……じゃあ仕方ないな。で、そこの糞野郎。どうしても喋らないつもりか?」

「へ……当たり前だろ。喋れば殺されるってのに、どうしてゥっ!」


 もういいとばかりにトーマスの右ストレートが顔面に突き刺さり、椅子ごと床に倒れていった。無力な糞が一方的に嬲られるのを見ても、哀れみは感じない。侵略者に情けをかける奴がどこに居るというのか。


「喋れば命は助けてやるぞ」


 たぶん俺の案を実行すれば、まず生きては戻れない。コロニー内の住人にすら猟犬を差し向けるのに、外から来たエイリアンに情けをかけるはずがないだろう。


「ぐっ、くははっ、騙されるかよ」

「じゃあ喋れば一発で楽にしてやる」


 笑顔で懐に手を突っ込んだトーマスに制止を求める目線を送ると、冗談だと言わんばかりに動きを止めた。止めなきゃ撃ってただろお前。


「……馬鹿だろ、お前」


 こればかりは捕虜と同感。せっかく生きて捕らえた情報源を、用済みにもなってないのに殺すんじゃない。


「ちなみに捕虜はあと二人居るから、一人くらい減っても問題ないんだぞ」


 今度は見せつけるように、懐からゆっくりと拳銃を抜き出した。明確な死の象徴の登場に、さすがに捕虜の表情も動いた。顔がパンパンに張れているせいで感情は読み取れないが、話の流れから考えれば、彼の今の感情は恐怖だろう。


「まあ待てよ、トーマス。素直に喋れば恩赦を進言してやってもいいぞ、命が惜しいならそうしろ」

「誰がしゃべるかよ。ぺっ」


 血の混じった唾を顔にかけられたトーマスは、床に倒れたままの糞の顔を、無言で何度も踏みにじった。靴底に鉄板の入ったブーツであんなことされちゃ、さすがに死ぬんじゃないだろうか。

 まあ、まだ捕虜は残ってるし。一人くらいなら死んでもいいんだが……それでも仕事は少ないに越したことはないだろう。


「疲れたから休憩する。その間によく考えておけよ、蛆虫」


 罵倒を吐き捨てて出ていくトーマス。そのうしろをついて檻を出る。


「存外口が堅い。散々殴ったが、これじゃ口を割るより死ぬ方が早いかもしれんな」

「やり方が悪いんじゃねえのか」

「これ以外にどうしろって?」

「馬鹿だからわからんな」

「上司に向かって馬鹿ってなんだよ」

「まあまあ。落ち着け」


 さっきまで捕虜で温めていた拳がこちらに向く前に、そっと腕を押しとどめる。


「俺たち馬鹿にはわからなくても、賢い奴がいるじゃないか」

「誰だよ。頭か? あれはアテにならんぞ」

「もう一つ上だよ。支配階級」

「あの豚に協力してもらうのか?」

「使えるものはなんでも使えばいいじゃないか」

「頼んでも手伝ってくれるかって話だよ」

「利害は一致してる」


 コロニーの防衛に関係することなら、奴も手伝ってくれるだろう。


「伝手はあるのか」

「あるとも。猟犬は誰の手先だ?」

「……なるほど。で、支配階級ならそれが可能だって確証はあるのか」

「それもある」


 エーヴィヒは自分を記憶を受け継ぐクローンだと言った。どうやって記憶を受け継ぐにしろ、一度記憶を抜き出す必要がある。なら、あの糞野郎から記憶を抜き出すこともできるはずだ。やらないなら奴は統治者の義務を放棄したということで、頭にクーデターを進言する。

 他所へお礼参りに行くのに、後ろから撃たれたら嫌だろうしな。


「……なら一人任せる。駄目なら既定路線で行くぞ」

「おう。任せろ」


 さて、そうと決まれば早速エーヴィヒを使い走りにするか。自分からオモチャになると言ってきたのだし、拒否はしないだろう。

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