第26話 戦争(中)
いい機会だから、少しだけ本音を明かすことにする。
俺は殺し合いが嫌いだ。のんびりと街道を監視して、たまに暴徒を一方的に虐殺するだけの、安全で簡単なお仕事ばかりしていたい。命の危機にさらされてどうして楽しめるだろう。だってのに、世の中には殺し合いが大好きでたまらない人間であふれている……特に猟犬なんて死んでばかりなのに飽きもせず人殺しをしようとしているし。怖いとは思わないのかね。
ああ……ただ現状を嘆きたかっただけだ、個人の主義について立ち入るつもりはない。
「そこの路地に入るぞ」
センサーが敵の位置を捉え、それを頭の中の地図と照らし合わせて攻撃位置を考えた。後続の二人を従えて路地へ入り、敵を待つ。正面から殴り合うなんて馬鹿のすること、とは何度か言ったような言ってないような。ともかく奇襲はいい。上手く行けば一方的に相手をなぶり殺しにできるのだ。そっちの方が殺し合いより趣味に合ってる。
「敵の数は?」
「音源のタイプからして装甲車1、アースが6。歩兵もたぶんいるだろうな」
頭数だけならあっちの方が多い。中身がどうかはともかく。
センサーの性能は、骨董品だけあって良好。相手はこちらの音を拾えていないのだろう、動きに変化はない。非常にいいスタートだ。
「長旅で疲れてるだろう。歓迎してやらないとな」
「それはそうとして、作戦は?」
「ロケット弾で装甲車を潰す。その後は反撃を受ける前に路地に引っ込んで、自由戦闘」
アンジーはああしろこうしろと指示を出すより、好きに行動させた方が戦果が期待できる。それだけ腕に信用がある。前回のような不利な戦いはともかく、今回はこちらのホームグラウンド。その実力を十全に発揮してもらえるだろう。
そうして少し待ち、路地の切れ目から装甲車が横顔を覗かせる。
「よし、撃つぞ」
横っ面を全力で殴り抜けるようなイメージで、肩のロケットを惜しむことなく全弾斉射。煙の尾を引いて飛んでいく弾は、見事装甲車に全弾命中。炸裂し、炎を上げる。
そのあと撃破確認をすることもなく、ランチャーをパージしすぐに路地の奥へと引っ込むと、さきほどまで自分が居た場所を銃弾の嵐が破壊しつくした。退いていなければ鉄と人肉のあいびきミンチができあがっていたに違いない。
「散開、あとは好きにしろ」
俺は曲がり角で待ち伏せ。アースは動かなければほとんど音を出さない。他の二人が動き回って音をまき散らせば、相手はこちらが二人だけだと勝手に思い込むだろう。
少しだけ待つと、敵の歩兵が先に顔を覗かせた。小回りの利く歩兵を先に行かせる程度の頭はあるようだ。不運な兵士はブレードで殴り飛ばし、角から飛び出して敵アースに向き合い、突撃。数は二機だが、一機は射程圏内。盾を構えて突っ込んで、弾を受けながらシールドバッシュ。体勢を崩した相手に、立て直される前に、首と胴との接合部にブレードを突き立て、手放す。
「あと一人」
強襲から立ち直った敵はこちらにライフルを向けてきた、しかし使う武器を間違えてる。ここは肩に抱えてるランチャーを使うべきだったな。
焦らずしゃがみ、盾で胴体部分を覆い隠し、肩に乗せている連装機関砲をぶち込む。口径と装甲の厚さが同じなら、火力がでかい方が勝つのは当然。何秒か撃ち続けて盾を貫通し、敵機が被弾の衝撃にブレはじめて……それでも射撃を続け、やがて反撃がなくなったところでこちらも射撃をやめる。
「よぉし」
倒れたアースに足をかけ、ブレードを引き抜く。鉄同士がこすれる音と手ごたえが、装甲越しに伝わってくる。めり込んでいた切っ先には血とオイルが付着していて、確実に敵を仕留めたということを教えてくれる。
そうだ、殴り飛ばした歩兵はどうなっているだろう。死んでないならキッチリトドメを刺しておかないと、万が一生きていた時に逆襲されてはかなわない。
ぐるりとあたりを見回すと、すぐに発見できた。マスクは剥がれ落ち、千切れた腕を大事そうに抱えてあちこちから血を流しながら、へらへらと笑っている。放っておけば失血死するだろうが、とりあえずトドメにとブレードを振り下ろす。
「帰ったら洗わなきゃな」
そんなことをつぶやきつつ、機体の状態を確認。少し無茶をしたせいで腕のメンテナンスが必要なようだが、もう一戦くらいならいけるだろうと判断。他の二人に連絡を入れる。
「こちらクロード。俺の分は終わったぞ。そっちはどうだ」
『もう終わったの? 早いわね。じゃあすぐ終わらせるわ』
『こちらはもう少し時間がかかります』
手伝う必要はなさそうだ。
「先に通りに出てる。終わったら合流しろ」
こんどは通信先を変えて、トーマスにつなげる。
「こちらクロード。担当区画の敵殲滅は間もなく完了する。次はどこへ行けばいい」
『こちらトーマス。D4に行け。そこが苦戦しているらしい』
「了解。装甲車を潰しといたから、あとで回収してくれ。何かの役に立つだろう」
『オーケーだ。あとで向かわせる』
通信を終えると同時に通りに出た。いまだに火を燻ぶらせている装甲車を眺める。うちのコロニーと似たような、アースと歩兵を収容できる大型コンテナをつなげていて、装甲もそこそこ分厚そう。で、運転席をぶち抜いたから損傷も少なめ。コンテナ部分だけなら再利用もできそうだ。
「我ながらいい仕事をした」
一人で満足し、一人で頷く。これならボーナスを要求してもバチはあたらないだろう。
『クロード、終わったわよ』
『私も終わりました』
「消耗は?」
『一発も撃ってないからまだまだいけるわ』
『あまり使ってません。たまに余裕はあります』
ならもう一戦くらいは余裕でいけるか。少し待ち、全員集合してから機体を眺める。損傷はどちらも軽微、戦闘に影響するほどのものは見られない。さらに言えば弾に余裕がある、となれば。
「よし。次はD4区画だ。行くぞ」
『了解』
『わかりました』
もう少し手柄を稼ぐとしよう。二人を連れて通りを進む。これだけ楽なら、どうやら今回も生きて帰れそうだ。
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