第22話 撤退戦

 装甲車から降りてすぐに弾丸の歓迎を受け、まず盾を構えてなかった馬鹿が二人、盾を構えていたが、防御範囲外に命中し損傷を受けたのが一人、戦線から脱落した。生死の確認はしていないが、ドンパチで忙しく回収している暇はないので死亡同然ということで。ちなみにその中にはエーヴィヒも入っている。俺の時にはあんなにやる気マンマンで来たくせに、どうして今回だけやる気がないんだか。

 ……いや、もしかしてわざと死んだか。監視が面倒だから、ここで死なせることにした? それもありえる。何にせよ帰ったら問い詰めてやる。


「問題は生きて帰れるかだな……!」


 弾の飛んでくる方向へこちらも撃ち返しながら、装甲車の移動に合わせて並走する。マガジン一本打ち尽くしても撃破数は不明だ。一応当たってはいるんだが、それでもゼロかもしれない。だができることはそれだけ。シールドはまだ持ってはいるが機能しなくなるのも時間の問題。盾が穴あきチーズになるか、盾のカバー範囲外に穴が空いて倒れるか、そうなる前に撤退が完了するか。


『死ぬならせめて苦しまないのがいいね! もちろん死なないのが一番いいけどな!』

『いやまったくその通りだ』

『口を動かす暇があるなら敵を撃て馬鹿共!』


 怒号と銃弾が飛び交う中、自分も一生懸命に撃ち返す。もちろん俺だけじゃなく皆撃ってるが、敵は遠距離狙撃装備と中距離の接近用とで別れてる。接近用の機体は狙いが雑だがどいつも盾を持ってるせいでしぶとく生き残り、後方の敵は接近してくる奴らのせいで正確な狙いがつけられず、撃破が難しい。

 非常にまずい状態だ。


『敵の目的は装甲車の鹵獲よ! 装甲車をバックに戦いなさい!』

「そうしてても撃ってくるから困るんだよな」

『こちらドライバー、敵が正面に展開した。誰か蹴散らしてくれ』

『一番足が速いのは!?』

「たぶん俺だ。後方への火力が減るが大丈夫か? あと下手したら攻撃後に車に戻らなきゃならんぞ」

『なんとかするわ、行きなさい』

「ラジャ、成功するよう祈っといてくれ」


 反転し、射撃を避けながら装甲車の前面に回り込むと、二機のアースが正面に居た。取り付いて動きを止めるためか、軽装備。シールドを貫通できるほどの重火器は装備していない。加えて相手の機体は以前相手にした連中と同じ型。とはいえ二対一を正面からというのは……できればやりたくないのが本音だ。しかしやらねばやられる。ならやるしかない。あまりに単純な、単純すぎてもはや理屈と言ってもいいものかという次元だ。

 ともかく、やろう。


 片方に向け機銃をバースト射撃。撃破目的ではなく、車に張り付こうとする糞を引きはがすため。もう片方から銃弾が飛んできたが、それはシールドで防ぎ。ロケット弾は蛇行機動で回避、格闘戦の間合いへもぐりこむために、ロケットの斉射が絶えた瞬間を狙い突進。相手はライフルの引き撃ちに切り替えたが、こっちの方が早い。シールドバッシュで体勢を崩し、追撃に重機関銃のゼロ距離射撃を胴体に叩きこんで、一機撃破だ。

 一息つく暇もなく、撃破した敵機の背後に回り込み、それを盾にしてリロード。死体になったとはいえ、仲間に向けて銃を向けるのは躊躇うのか銃声は大人しい。その代り、ブレードを構えて突進してきた。

 盾もなしに接近戦はあまりに無謀だ。ハチの巣にしてやろう。

 もう目と鼻の先まで近寄った相手に銃口を向けて、トリガーを引く……が、弾が出ない。


「ジャム!?」


 痛恨の弾詰まり。一瞬の動揺であっても、死地においては十分に致命的。切っ先が迫る。


 防御か、回避か。動転した思考は一瞬では答えを出せず、代わりに体が勝手に動いてくれた。弾を吐き出さない銃身を槍として、相手に突き込んだ。おかげでブレードは逸れて装甲表面を削るだけで済み、致命傷は避けられた。

 直後再起動した思考は、反撃を選択。機関銃を手放し、一歩踏み込んで、左のレーザーブレードを殴りつけるように突き刺した。


「こちらクロード、装甲車に取り付こうとしていた敵を排除したが、残りのバッテリーが一割切った。もう動きながらの戦闘は不可能だ。車に戻る」

『こちらアンジー、了解』

『こちらドライバー。了解。左側ハッチを開放する。そこから入れ』

「感謝する」


 早速開いたハッチから中に入り、すぐに機体から降りて運転席に駆け込む。


「銃座を使わせてくれ。機体はバッテリー切れでこれ以上は動かせない」

「安全装置は解除した。生身で少しの間汚染地帯に居ることになるが大丈夫か」

「もちろん。ここで出なきゃ今死ぬことになるんだからな」


 そう言って、ガスマスクとコートをしっかりと着けなおす。外で活動するにはあまりにも貧弱な防具だが無いよりはマシだ。格納車両に戻り、はしごを昇って屋上に。荒い地面を走る振動と、吹き付ける風に振り落とされないよう銃座にしっかりとしがみついて、装弾用レバーを引く。


「アンジー! 支援を開始する!」

『好きなだけ撃ちなさい! 今なら敵食べ放題よ!』


 敵の数は減っているものの、それでもこちらより多い。後方に転がるアースの残骸は、果たしてどちらのものか判断がつかない。だが、生きている敵の見分け方は簡単だ。こっちに銃を向けてるのが敵、そいつらを撃てばいい。

 敵に銃口を向けて、スイッチを押す。眩いマズルフラッシュ、耳を叩く銃声、手を伝い全身を揺らす振動をすべて耐えて、曳光弾の軌道を見ながら照準を調整して、敵を攻撃していく。当たればよし、当たらなくても敵の足を鈍らせれば支援の効果は十分。


「ひぇっ」


 ヒュンと近くを掠める弾丸に肝が冷える。アースなら掠る程度はなんともないが、生身なら掠るだけでも致命傷。これで怖くないわけがなく。しかし、こちらは的が小さい、そうそう当たるものではないと願いながら、銃弾を撃ち返していく。

 だがまあ、当たれば苦しむ間もなく死ねるのだから、それはそれでいいかもしれない。

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