第13話 戦利品

 猟犬を返り討ちにして、その機体を家に持ち帰るのはこれで二度目だが、今日は前回と違い中身入り。中身を捨てなかったのは、昼間に殺した奴と同一人物かどうかを確かめるためだ。


「オープンセサミ」


 強制解放ボタンを探し当てて、押し込む。バカン、と勢いよく前面装甲が開かれたら、少し焦げ臭さが鼻をついた。我慢できないほどじゃないので、中身を覗いてみる。


「……やっぱり同じか」


 そこに居たのは、昨日殺し、今日の昼にも殺した真っ白な少女だった。軽い死体をアースの中から引っぱり出して床に倒す。今回の死因は、装甲を貫通したレーザーが腹部、内臓を焼いたことによるショック死だろう。真っ白な肌に炭化した裂け目がよく目立っている。

 さて。では、ここからは確認作業だ。見ての通り死体だが、場合によっては起き上がってくるかもしれん。そんなことはないとは思うが……一応、気には止めておく。


「銃創は、ないな」


 髪は燃え尽きた灰のような白。髪をかき分けた下も髪と同じく真っ白。銃弾が貫通したような痕はない。

 うつ伏せにひっくり返して、服の背中側をナイフで切り開く。こちらも真っ白。銃創なんてどこにも見当たらない。髪の中に手を差し込んで探っても同じく。

 当たり前だが、死体が動いて殺しに来たというわけではないようだ。この死体が動き出すかも、なんて馬鹿な考えはいますぐ捨てていいな。


 さて、となると妙な話だ。死人が俺を殺しに来た。だがその死人は生きていて、もう一度殺した。わけがわからないな。死人は決して生き返らないのが常識だと思っていたが……その常識が間違いだったか。いや、それはどうなんだ?


「……ふむ」


 まず、俺は昨日この少女を一度殺した。その時は胴体が真っ二つになっていたはずだが、繋ぎ合わせたような痕はない。昼には背中と頭に銃弾を撃ち込んだが、その痕もないと。

 おもむろにナイフを背中に突き刺して、骨が見えるまで切開する。白い骨。赤い血と肉。そのどれもが、彼女が真っ当な生き物であることを示す。ナイフを抜く。当然、傷がふさがる様子はない。

 三度殺して、その三度とも別人なのは間違いない。三つ子……いや、こいつは殺された奴のことを『私』と呼んでいたから同一人物だ。



「頭痛くなってきた……」


 難しいことを考えるのは苦手だ。ゾンビみたいなオカルティックなものではない、ということだけわかったから良しとしよう。さて、残ったものは二つ。猟犬用のアースと、死体だけ。アースはそうだな。二度あることは三度あるという、次も無傷で終われるとは限らないし、こいつは部品取りに置いておこう。死体はアンジーに引き渡すかね。あいつなら喜んで引き取ってくれるだろう。


「遊びに来たわよー!」

「……なんでお前はいつも勝手に入ってくるんだ」


 呼びに行く手間が省けたから、今回だけは大目に見よう。


「今日は主役だったらしいじゃない。でも猟犬もあなたに殺されるだなんて、噂程強くないのかしら? それともあなたが意外と強かった?」


 見直すなら無断進入をやめてほしい。


「羽に転属する気はない? 足じゃゴミ掃除ばかりで退屈でしょう? うちに来たら楽しいわよ?」

「……今のところ、ない。その内気が変わるかもしれんが、その時はよろしく頼む」


 生存不可領域で、アースに乗って過去の遺物漁り。野生動物だけじゃなく、他コロニーの人間と接触するリスクもある。小心者の俺にとっては、あまり楽しそうな場所には思えない。

 だが、猟犬がまた襲ってくるようならコロニーの外へ逃げることにしよう。確実に襲ってくる脅威より、来るかわからない脅威のほうがまだ気分が楽だ。


「話は変わるが、死体はいらんか?」

「鮮度と血抜きは?」

「三十分前に死んだばかりだ。血は抜いてない」

「えー……抜かないといけないのはめんどくさいわね」

「じゃあ燃えるゴミに出す」

「うーん、それももったいない。いいわ、折角だもの。もらってあげる」

「助かる。捨てる手間が省けた」

「あ、美味しい」

「食うなら持ち帰って食えよ。俺のガレージを食いカスで汚すな」

「はいはい。うるさいわね……台車貸してもらえる?」

「ちゃんと返せよ。返さなきゃお前の家の玄関をアースの拳でノックする」


 高いものじゃないが無いと不便だ。台車なしでクソみたいに重いアースの武装をどうやって運べって? 一々持ち上げて往復? 馬鹿な、腰が砕ける。でも一々買いに行くにもかさばってめんどくさい。


「じゃあ貰っていくから」 

「はいよ」


 台車に死体を乗せて去っていくアンジーを見送り、穴の空いたアースの修理に取り掛かる。といっても分厚い鋼板を持ってきて、穴のサイズに合わせて切って、ハンマーで叩いてまげて、溶接するだけの簡単な作業だ。穴はわき腹、ここに被弾することはほぼないので、塞ぐだけで十分なのだ。

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