第12話 決闘
ゴミ共の分別が終わるまでの間、猟犬は一歩も動かず、ただこちらを向いているだけだった。ただ、逃げるそぶりを見せれば砲身が動くし。トーマスには逃げたら殺すと言われるし。
結局、死にたくないなら戦う他に選択肢はないのであった。
「下っ端は辛いね。上の都合で振り回されて、責任まで全部負わされる。お前もそう思うだろう、頼むから見逃してくれよ」
ギャラリーの間には観戦ムードが広がり、どちらが死ぬかの賭けでわいわい盛り上がっているようだ。
人の気持ちも知らず、なんとも不愉快だが、喧嘩と読書以外に楽しみがないのだからしょうがない。俺がギャラリーでも同じようにしてるだろうな。
『いいえ。それはできません。自分で死ぬか、私に殺されるか。どちらでもお好きな方をお選びください』
「……そうか。まあそうだよなぁ」
機体の中でため息をつきながら、視線で武装を操作する。20mm連装砲は構えないと使えないから、使用前にバレるから却下。対人機銃は威力が足りない。威力を補うために、昨日と同じ手は通用しないだろう。武装はランチャーを選択。弾種は榴弾。発射位置、ターゲットの足元。発射。
装甲越しに、ボシュッと軽い音が鳴る。しかし直撃すればアースなら撃破。至近弾でも損傷は免れない。足を潰せばあとはターキーシュート。相手の武器にさえ気を付ければ、あとは切るなり焼くなり潰すなり……
「まぁ、避けるよな」
構えなくても、狙った場所に弾を撃ちこむためにランチャーは動く。それを見て警戒しないなんて、スカベンジャーでなくとも、アースに乗っていればありえないことだ……ああ、でもさっきの雑魚は例外で。
もう一度ため息を吐きつつ、両肩の武器をパージ。対人機銃も手放す。ランチャーは不意打ち以外で当てるのは難しく、20mm連装機関砲は構えないと反動が大きく構えないと使えない。どちらも近距離戦では荷物にしかならないなら、捨てて身軽になった方がいい。
相手も同じ答えを出したようで、巨砲は手放してライフルに持ち替えた。ライフルは両手持ち。対装甲用の20mmと見た。一発二発ならともかく、盾があっても受け続けるのは危険。
だがあえて突っ込む。こっちの武器はブレード一本と奥の手一つ。どちらで殺すにしても、近寄らなければ話にならない。
「しかし、重いなっ」
ガン、ガンと装甲越しに伝わる衝撃は、強靭な外殻越しに腕を押し返す。腕だけでなく、機体ごと後退してしまいそう……いや、質量差から後退することはありえない。それは下がりたいと思う、こちらの心だろう。
「下がってちゃ勝てねえだろ。なぁ」
自分に言い聞かせるように、前進。相手はこちらが射撃武器を手放したのを見て、引きに徹するが、しかしこちらの方が身軽だ。後退よりも前進の方が早い。盾が壊れるよりも早く、装甲の限界が来る前に、相手の懐にもぐりこんで……剣を振るう。ライフルを弾き飛ばし、勢いを殺さず、盾で殴り飛ばす。衝撃で機械なり中身なりが壊れてくれたら御の字だが……そんな軟なつくりじゃ兵器としては欠陥品だ。
『ぐっ』
反撃の態勢を整えられる前に追撃を加える。俺の技量でアースを斬るのは無理でも、ブレードで殴れば鉄も凹む。頭のカメラを潰せば、状況はこちらに有利に傾くだろう。そう思って、右腕を突き出す。
「死にやがれ!」
『死ぬのはあなたですよ』
モニターの端に灰色の塊が映る。相手の残っている武装はブレードだけ……だが、その切れ味はよく覚えている。突きから振り下ろしに軌道を切り替えて迎撃、同時にローラーの回転方向を変更し、相手の機体を中心に旋回。刃は真ん中で相手のブレードを受け止めて……食い込んで、二つに折れた。
ブレード一本の犠牲で、胴体は無傷で済んだ。そして目の前にはがら空きの背中。左の拳を握り、打ち込もうとした瞬間に、相手が反転した。
慌てて後退して、剣が盾に掠って火花が散る。
盾には深く切り込みが入り、もう一発は受け止められそうにない。
「ちっ」
盾も安くはないのに。と、舌打ちをしてる暇はない。攻守は逆転した。相手の油断は……今のところ願えない。
奥の手は……まだだめだ。当たると確信した時まで取っておこう。一度見せれば警戒されて、二度とは使えない。だから使う時には一度で仕留めねば。
振るわれる剣から逃げて、避けて、また逃げる。
逃げた先はのんきに観戦している外野のすぐ前だ。ちょうどよく、ブレードを持った機体があった。返り血がついてるし、さっきゴミを掃除したトーマスの機体だな。ちょうどいい。
「観戦料だ、借りるぞ!」
当たり前のようにもらっていく。
『あ、てめ! くそ後で弁償しろよ』
「生きてたらな!」
機会は一度のみ。外せば死ぬ。盾でボディを隠し、剣は上段に振りかぶって、追ってくる相手に正面から突撃!
そして、相手の間合いのずっと外で振り下ろし……ながら手を離す。当然すっぽ抜けて、振り下ろされる勢いそのままに真っ直ぐ飛んで行く。大質量の鈍器だ、そのまま受ければ損傷は免れない。
『ヤケですか?』
相手からすれば、たった一つの武器を手放した馬鹿にも見えるだろう。
「いいや、まさか」
一人ほくそ笑む。猟犬が武器を横に一閃、叩き落され、真っ二つになったブレードが地面に転がる。しかし、それでいい。避けるなり、防ぐなり。どちらでもよかった。これで相手は、こちらには『もう武器がない』と認識したはずだ。
その誤認、それにより生まれた油断のおかげで、致命の一撃を差し込むことができる。
振るった剣が戻されるよりも早く、もう一歩踏み込む。シールドバッシュで腕を叩き、ブレードごと腕を払いのけ、がら空きになった胴に返す拳を突きつける。
奥の手は、この瞬間のために。
「くたばれ」
眩い光、莫大な熱量が刃を形成し、アースのわき腹を焼き切る。振り上げた腕がびくりと跳ねて、すぐにだらりと下がった。
そのままゆっくりと離れて、相手が動かなくなったのを確認して……
「勝ったぞ!!」
腕を高々と上げて、勝利宣言。ギャラリーの歓声が湧き、高揚感に酔う。そして、己の幸運に感謝することも忘れない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます