18話 特訓
宿の1階、普段食堂となっている部屋は白い壁に覆われている。
端から見れば中には何も無いように見えるだろうが注視すると3つの影が中で動き回っている事がわかる。
箱のでは翔と龍忌がフェイの特訓をしていた。龍忌が自身を変化させ数多の触手を造り多数の方向から攻めていく。上から下、右から上、右下、上、左下、左、右とランダムに触手がフェイに向かう。フェイはそれを手に持った双剣で切り落としていくが触手の勢いが上がり受けきれなくなっていく。この作業が白い箱の中でかれこれ一週間ほど続いていた。
「さてと、今やっと外で二時間経った頃かな?」
「あー、まだそんなとこか。全く、腹が減って仕方が無いな。」
翔はポケットから取り出した時計を見てそう呟くとフェイの相手をしている龍忌が余裕を持ち悪態をつく。フェイはその間も続く触手の攻撃をひたすら躱し反撃していた。
「よし、フェイ。ここまでだ。リュウも止めて良いぞ。」
そう言うとフェイの目の前に迫っていた触手が突然消え対処しようとした手が空を切る。そのまま振り抜いた剣に体が持っていかれフェイは勢いよく倒れた。
「…フェイ?大丈夫…では無いか。それにしても流石は獣人ってとこだな。」
「まぁ、じゃ無きゃ耐えられんだろ。」
フェイのそばに寄った2人はフェイが寝ているのを確認すると2人は近くに座り起きるのを待った。
「……あれ、ここは?」
「ん?起きたのか。おはよう。」
「えっと、私って何時間寝てましたか?」
「そうだなこの中だと12時間くらいだな。あと6日と半日で外の時間は早朝になる。」
フェイは近くに居た龍忌に問うと半日過ぎていたことに驚いたのか目を見開き慌てて立ち上がる。
「すみません!続きをお願いします!」
「まぁまぁ、取り合えず座れ。この一週間で反射速度は上がったがまだ対人や対魔、それに魔法の攻撃だってしてねぇ。これから教えるから今は休め。その間に準備するからいつでも大丈夫な状態にしとけよ。」
龍忌の後で自身の武器を作っていた翔はフェイの近くによりそう言うとすぐに離れてこの世界の一般的なロングソードを量産し始めた。
その光景を前に龍忌が寝始める。フェイは言われたとおり休もうとするが先程まで寝ていた為か疲れを感じさせず準備運動を始めていた。手首の関節をほぐしたり伸びをする。
それから数分後龍忌が起き上がると何も言わずに白い箱の壁際へ向かう。
「始めるぞ。」
龍忌がそう言うと小声で何か呟く。すると龍忌から出て来た黒い靄が3つに分かれ人型を取った。形も大男のような形と騎士のような形、小柄な子供のような形をだった。
3つの人型はそれぞれ手に武器のような者を持ち大男が大剣、騎士がロングソード、子供が双剣である。
フェイはその容姿を不思議そうに観察していると突然人型が動き出しフェイに攻撃を仕掛けて行く。
大男が上段から大剣を振り下ろす。それをフェイは2本の双剣で受け止めるが後ろに回っていた騎士と子供から膝蹴りを食らう。
盛大に飛ばされたフェイは白い箱の壁に激突する。起き上がったフェイは人型を見る。その顔は油断なく敵を殺そうとする目に変わっていた。
それから数十分後…
フェイは3体の人型と戦闘を続けている。3体は攻撃法法をすぐに変えるようになり同じ攻撃がほとんど無くなっていく、と思いきや対処された攻撃を再び繰り出し虚を突こうとする。
そういった攻防が数時間続くなか、ついにフェイは大男の人型から蹴りをもろに食らってしまった。衝撃で壁へ激突するとフェイは再び気を失ってしまった。
「ふむ、強すぎたか?」
「明らかに強すぎだろ。お前の混獣やら虚妖は一体一体が強すぎんだよ。調整できねーのか。」
「できるが、したくないだけでね。…さて、戻っておいで。」
龍忌がそう言うと先程フェイを蹴り飛ばした3体の人型は龍忌の元へ向かう。龍忌はそれを見て足下の影を広げ人型の下へ伸ばしていく。伸びた影が人型を呑み込んでいく。
「面倒臭いし、妥協したみたいじゃん?」
「生きてるなか殆どを妥協と諦めで生きてる奴に言われても説得力が無いな。」
龍忌がその言葉に苦笑出答える頃に人型は影の中へ完全に呑み込まれていた。
「…今頃、勇者達は何をしてるかねぇ。」
「さてね。関わる事なんて殆ど無いだろうけど。」
「そんじゃあ残りの日数はオレが貰うぞ。」
「いいよ、流石にもう魔力が心許なくてね。休ませてもらうよ。」
龍忌はそう言うと白い箱の隅へ移動し床に胡座をかいて座るとそのまま腕を組み寝た。
翔がその光景を見た後気を失ったフェイの近くまで行きどこからか取り出した毛布を掛けその近くに座ると双剣を取り出し研ぎ始めた。
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