17話 自己犠牲
数時間前…
キクリとラフィ、ヴァニタスが寝静まった後、少し時間を起きフェイが起きる。その目には涙をため漏れそうになる嗚咽を噛み殺し必死に我慢していた。
少し落ちついたのか目に貯まった涙を服の袖で拭う。
「おねぇちゃん…、ごめんなさい。」
フェイは小さな震えた声でそう言うと起こさないようベッドから降り扉へ向かう。周りで寝ているラフィとヴァニタスを起こさないよう慎重に。
部屋の扉を気付かれぬよう開け、閉める。そのまま宿の玄関まで走る途中押し殺していた声も漏れ始め玄関につく頃にはすでに我慢していた声も涙も止めどなく流れてしまっていた。
数分そうして泣き続け収まったのか再び涙を拭う。そのまま玄関の戸に手をかけ開けようとしたとき後から声がかかる。
「こんな夜中にどこに行くんだ?」
フェイは慌てて後を振り向くとそこには翔が腕を組み仁王立ちをしていた。
「え、えっと、さ…散歩に…。」
フェイは狼狽えながらそう言うと翔はじっとフェイを見る。
「嘘つかなくて良いからな?多分キクリが話してたの聞いてたんだろ?」
それを聞いてフェイは目を見開き鍔を飲んだ。
「どうせ自分が貴族の所に行って私はどうなっても良いからあの宿とおねぇちゃんには手を出さないでとか言いに行くつもりだったんだろ。」
「ッ…。」
「図星か?嘘つくならポーカーフェイスは学んどくもんだぞ。」
「そんなこといったってフェイが…フェ…イ…がっ…フェイが居るせいでおねぇちゃんに負担かけるくらいならいない方が良いんだもん!フェイが!居るから!皆こなくなったんでしょ!?なら…フェイがここから居なくなればすむことなんでしょ!?…フェイなんてわたしなんて産まれてこなければ良かったの!!!!」
フェイは叫ぶ。
「フェイはどうすればいいの?おねぇちゃんも、おかあさんも、おとうさんも皆好きなの!でも!フェイのせいで故郷を追い出されたんでしょ?フェイのせいで宿に誰も来なくなったんでしょ?フェイのせいでお父さんも死んじゃったんでしょ!?フェイのせいで!家族が離れて行っちゃったんでしょ!?わたしは…もう家族を壊したくないの…。そしたらもう大人しく引き取られる方が良いんだよ…。」
フェイは泣き叫び最後に俯いた。
「それで?」
「えっ…」
「それで何が変わる?本当にその貴族はお前の言うことを聴くのか?残されたキクリはどうなる?独りでこの宿をやっていかせるのか?お前の自己犠牲はただの逃げだぞ?」
翔はフェイに向かって淡々と告げる。
「いいか?自己犠牲なんてのが俺は一番嫌いなんだ。自分はどうなっても良いからあの人だけは助けたい…なんて俺だって思ってたさ。だがなぁ、それを他の親しい人間が自分のためにやったときやられた方はどう思うかわかるか?どうしようもない後悔に襲われるんだよ。なんで自分じゃなかったんだ、なんで自分なんかのためにってな…。」
フェイは翔の言葉を大人しく聞く。
「俺はな、少し前にそれで大切な人を殺されてんだよ。俺の目の前で俺をかばったせいでな。まぁ殺した張本人が俺達と一緒にいたもう一人の男なんだが。まぁ、それは良い、過ぎたことだし良い教訓だ。だがお前は違うだろ?まだ間に合うだろ?お前の自己犠牲はそのままだと全員を不幸にするぞ?」
「嫌だ!それだけは…もう、わたしのせいでおねぇちゃんまで不幸になるのは嫌なのっ…。」
「ならどうする?このまま指をくわえて見ているだけか?それとも自分以外の誰かに協力を求めるか?また別の自己犠牲を考えるか?」
フェイは考えるそぶりを見せず翔の顔を真っ直ぐ見ながら
「フェイ…私に…大切な人を守れる力を下さい!」
と、力強く叫んだ。
「だってよー。リュウ、どうする?」
翔がそう言うと階段から龍忌が眠そうに欠伸をしながら降りてくる。
「んー、いいよ。それじゃあ早速行こうか」
「いやいやいや、流石に早すぎるだろ。…そうだな、まずフェイには武器をやろう。」
「え、でも私今まで戦ったことすらないのに武器なんて使えるの?」
フェイはそう言うと翔が笑う。
「これから使えるようにすんだよ。リュウ頼んだ。」
「うぃー。原典『枢要罪』:
「教典『七元徳』:
2人がそう唱えると龍忌の体から黒い靄が溢れ出し翔からは光の粒が地面や周囲から集まっていく。
「空間支配」
翔がそう唱えると光の粒が霧散し3人を白い壁が覆う。
「時間遅延」
続けて龍忌が唱えると黒い靄は床へ薄く広がり魔方陣のように時計が描かれていく。そしてその時計は動いてはいるが明らかに進みの遅い動きをしていた。
「さて、それじゃあ始めようか?」
今目の前で起こったことに驚き辺りを見回しているフェイに翔が話しかける。
「え、と、なにを…ですか?」
「決まってるだろ。フェイの為の特訓だよ?」
そういった翔の顔は笑顔だった。それをみたフェイはなぜだか青ざめていったのだった。
(…やっぱり感覚的にはこの空間って某格闘漫画のあの部屋だよな…。)
このスキルを作った時の2人の反応はきっとこんなだっただろう。
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