15話 昔話①

 「わたし達の住んでいた獣人の里の中ではこんな御伽話があったのです。内容は一際白く赤い眼を持つ獣が里に現れ力の限りを尽くし暴れ回り里は勿論周囲の自然すら破壊する獣になり、そこに現れた獣人族の勇者がその獣を討ち取り獣人を守ったという話です。」


 キクリの語りにヴァニタスは真剣に聞き入る。


 「そんな話があるのでわたし達のいた里では白は不吉の象徴とされてきました。生まれてくる子は白い子もいましたが目の色は赤ではなくしっかり親の色を受け継いでいたりしてなんの非難もありませんでした。」


 「ある日私の母が二人目を妊娠したと聞き楽しみでしかたがない日の連続でした。女の子かな男の子かなや、お母さん似かなお父さん似かななんてことをお母さんといて大きくなっていくお腹を見ながら思っていました。」


 「それからさらに月日がたちついにフェイが生まれました。私はその時言葉を失ったのを覚えています。お母さんもお父さんも同じ心境だったのでしょう喜びの声はなくフェイの泣き声だけが家の中を満たしていました。」


 「それもそうでしょう生まれてきたフェイは真っ白い体に赤い瞳の御伽話の獣の特徴と一致してしまったのですから。しかしお父さんとお母さんはフェイをゆっくりと抱きしめていました。生まれた直後の静寂から両親が泣いているのが分かりました。それが生まれてきてくれた事への感謝なのかこれから起こるフェイの人生に対する謝罪かは分かりません。恐らく両方だったと私は思っています。」


 「私はそんな両親を見て抱きしめられているフェイを見ました。そこには御伽話で聞く恐ろしい獣ではなく私からは天使のようにも見えました。こんな子が恐ろしい獣になるだなんて思うことはその時捨てました。この子を守っていこうと。」


 「それからフェイはスクスクと育っていきました。しかし人目にはつかないように。幸いわたし達家族が住んでいたのは里の少し外れだったのですぐに気付かれることはありませんでした。」


 「それからさらに二年ほど経った夏の日でしょうか、私は油断してしまいました。それまでフェイと遊ぶことも多く家の中を歩き回るだけだったフェイがいつの間にか家の外へ出てしまったのです。扉は少し開いた状態だったので少し押すだけで開いたのでしょう。」


 「私はすぐに外に出て探しました。すると里の方で私より年下の子供達がフェイを木の枝わ足を使い殴る蹴るを繰り返していたのです。」


 「私の中に怒りがこみ上げてきて気がついたときには子供達を殴り返しボロボロにしていました。我に返った私はすぐにフェイを抱え家へと逃げるように走って行きました。」


 「家に帰ってきたあと、お母さんにフェイを預けすぐに部屋へ入り私は泣きました。守ると誓ったのに守れなかった事に対しての後悔によって。…いえ、それだけでは無いですね。私は憎かったのだと思います。何で私がこんな目に合わないといけないんだ…フェイがいなければこんなに苦労する事なんて無いのに…と。」


 「それからすぐに里の人達が私達の家の周りを囲みました。子供達から何があったのか聞いた親から広まったのでしょう。外からは「白い獣を出せ」や「厄災の獣は殺してしまえ」と言った怒声が聞こえてきました。」


 「部屋の窓から外を見ると桑や鉈を持った男の人達が大勢いて私は怖くなりました。そんな中男の人達をかき分けてお父さんが急いで帰ってきました。」


 「両親に事情を説明した後、お父さんとお母さんは外に出てフェイの事を説明していました。とても必死にあの子はうちの子だと厄災の獣なんかではないと…何度も何度も、そしてお父さんは私達家族が今後一切この里に関わらないと誓い、私達家族は里を出て行くことになりました。」


 「その後、数日かけてこのノクタムの町にたどり着いたのです。」


 「ここまでが私達家族がこの町にいる理由ですね。」


 キクリは最後にそう言うとヴァニタスの方を向き哀しげに笑った。直後部屋の戸が開き下で作業をしていた翔と龍忌、ラフィの3人が戻って来る。


 「おつかれさまー、起きたのか?」


 翔が聞くとキクリは頷き隣を見る。


 「すみません、フェイはまだ寝ているみたいで。」


 「かまわねーよ、んで?二人で何話してたんだ?」


 翔が聞くとヴァニタスが返事をした。


 「えぇ、この二人の昔話を聞かせて貰っていたんです。」


 「へぇ、俺らも興味あるな。聞いても良いか?」


 「はい、構いませんが続きからで宜しいですか?」


 「うん、続きからで言いよ後でヴァニタスから聞けば良いしね。お願いするよ。」


 「分かりました。ではこの町にきてからのことです…。」

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