11話 黒龍

 「すみませーん。何の騒ぎか知りませんがここに翔は居ますかー?」 


 そう言って龍忌はギルドの中を見渡す。中は男が多く、先程出されたシュリルの捜索及び奪還の依頼を受け躍起になっている。


 そんな騒ぎの中、翔を見つけそこへ歩いて行く。翔も龍忌の事に気付いているらしく龍忌の方を見ながら隣に居る幼女?と話している。


 「おー、なんか久しぶりだな。で、これ何の騒ぎ?」


 「あぁ、町長の娘のシュリルって子がオークに攫われたらしくてなその捜索依頼が出されたんだよ。そしたら報酬がとんでもない額でなここにいる奴が躍起になってるって訳だ。」


 「へぇ、シュリルねぇ。それで?其方に居る女性は?」


 「えっとなー、…あれ?そういや名前聞いてないな。とりあえずここのギルド長だ。」


 翔の紹介に対し不機嫌になっているギルド長は翔と龍忌に自己紹介をする。


 「はぁ、アタシはここのギルド長をやってるメリッサってもんだ。翔と普通に接してるからどんな奴かと思ったけど…なんだいあんたも化け物の類かい?」


 「へぇ、メリッサさんね。そうだね化け物って言うのは少し違うかな。強いて言えば神様かな?アハハッ」


 「へぇ、神様かい称号にもそんな事は出てないだろう?そんな嘘は言うもんじゃないよ?」


 メリッサの言葉を聞き翔と龍忌は一瞬驚くがその変化は本当にわずかだったためメリッサは気付くことはできなかった。


 「ご忠告ありがとうございます。あっ、そうだショウ、豚の集落に居た女性達を保護したんだが戻せるかい?」


 「?…あぁ、なるほど。戻せると思うけど。その女性達はどこに居るんだ?」


 「とりあえずこの町の門の外にね、ヴァニタスも居るから襲われて殺されるなんてことはないさ。」


 「そうか、なら急ごう。案内頼むよ。」


 と、龍忌と翔の会話が終わり出ていこうとする所をメリッサが止めに入る。


 「ちょ!ちょっと待とうか!え、なに?豚ってもしかしてオークの集落にいた女性を保護した!?」


 「え、えぇ、しましたよ?そのシュリルって子がいるかは知りませんけど。一緒に来ますか?」


 「あぁ、行く!ちょっと待ってろ!」


 メリッサはそう言うと受付嬢に少し出てくる告げ何の説明もしないままメリッサは翔と龍忌について行った。


 




 「…はぁ、ここまで意外と距離あるんだよね。腹減ったな。」


 「あれ?食いに行ったんだろ?」


 「結局女性達を、ここまで運ぶのにまた使っちゃったんだよね。今日はもう遅いし明日喰いに行くよ。」


 翔と龍忌、そして会話に交ざれないメリッサは門から出て森の近くに向かう。


 森の入り口を見たメリッサは違和感を覚えたのか前を歩いている2人に問いかける。


 「なぁ、あの森ってあんなに暗かったか?」


 「ん?俺は見てないから分からんぞ?」


 「あー、多分もう少ししたらわかると思うよ。」


 2人は違う答えを出す。そのまま歩いて行くと暗い森はいくら近づいても奥が見えてくることは無く徐々に動いているように見える。


 その森は夕暮れ時の為少し暗く見えるがいつもならもう少し奥が見えるほど高い木が密集している訳でも草木が生い茂っている訳でも無い森だったはずだからだ。


 さらに近づくとそこには黒い何かが壁のようになっていただけであった。しかしその壁は規則的に静かに上下している。


 「なぁ、アレはなん…!?」


 メリッサがその壁に迷い無く向かっていく龍忌と翔に話しかけようとしたとき、壁の一部が上下に開かれ動き出す。


 ソレは首をあげメリッサを見つめると口を開く。


 「クッ…おい!そこから離れるんだ!このドラゴンはヤバい!町に行って知らせてくれ!!」


 メリッサが2人に向かって叫ぶ。現れた黒い龍は口を開けたまま警戒している。


 「クソッ…こんな所にドラゴンが居るなんて報告聞いてないぞ!…おい!早く町へ!」


 龍はメリッサが叫ぶ方向にいた翔と龍忌をみると口を静かに閉じる。そして顔を近づけていった。


 それをみたメリッサは勘違いしたのか龍の顔をめがけ魔法を放つ。


 「ック…火炎弾ファイアバレット!!」


 龍めがけて飛んでいく火の弾丸は徐々に勢いを増し大きくなっていく。本来なら15㎝ほどにしかならない中級魔法だがメリッサはギルド長だけあってそういった経験や実力も高く、アレンジなども得意なのだろう。


 しかしその弾丸は龍の目の前に現れた透明な壁にぶつかり空中で霧散してしまった。


 メリッサがその壁の出所を調べるために辺りをみると翔が手を向けていた。そしてその後ろには龍忌が龍を撫でている光景を目撃し言葉を失う。


 「っな…、何をしてるん…だ?」


 少しして目の前の光景に対し疑問をぶつけると龍忌から答えが返ってくる。


 「何って…撫でてるんですけど?」


 「いやいやいや!ドラゴンだぞ!?確かに見たこと無い種だが、ドラゴンは総じて人に懐くなんて聞いたことが無い!」


 「おぉ、良かったですね。初めて見る懐いたドラゴンですよ。」


 「あぁ、珍しいもんが見られて満足…しねーよ!?はぁ…どうなってんだあんたら2人は…。」


 その間も黒龍は龍忌に撫でられ気持ちよさそうに目を閉じ喉を鳴らしていた。



 




 その後しばらく龍忌と翔のこれまでのこの世界には勇者と共に巻き込まれた形で召喚されたこと、この世界の前にも召喚されたことがありそこで力を付けた事等を簡単に説明した。


 龍忌と翔が前の世界で敵同士であったことは隠して。







 



 

 

 

 

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