10話 堕胎罪

 小屋の中に入ったヴァニタスは気配と姿を消す。そのまま人がいるところまでを堂々と歩き檻を開ける。


 この時点で周囲のオークとゴブリンは気付かず、捕らえられている人も気付いていない。


 ヴァニタスが自身にかけたスキルを解く。すると目の前に居た女性が突然現れたヴァニタスに驚き、声を上げようとする。しかしそれをヴァニタスはすぐに自身の着物の袖を使い女性の口を塞ぐと小声で言う。


 「助けにきたけど。他の人はどこ?」


 女性は震えながら答える。


 「も、もっと奥にある部屋、です。お、お願いします。ここに捕まってる人を全員助けて下さいっ!。」


 「分かってるわよ、じゃあちょっと大人しくしててね?」


 ヴァニタスはそう言うと女性に触れると先程と同じように姿と気配を消した。そしてそれは女性の身にも起こり見回りにきたオークが檻に誰も居ない事に驚いたのか大きな声で鳴いた。


 オークが上げた鳴き声に他の場所に居たオークとゴブリンも集まり檻の中を見て回る


 ヴァニタスと女性はその隙に檻のある部屋を出て皿に奥、他の人が捕まってる所へと向かう。


 「この部屋?」


 「はい、ここです私ももともとここからあの部屋に移されたので。」


 女性がそう言うとヴァニタスはすぐさま部屋の扉を開ける。それと同時に小屋の入り口から不気味な数種類の音が鳴り響いた。

 

 「あー、ちょっと遅かったですね。急ぎますよ?」


 「あ、え?…今の…何の音…ですか?」


 女性は先程の音を聞き腰を抜かしたようでへたり込んでいる。


 「今のは私のマスターが使うスキルの1つですがあれは見境が無くなることもあるので助けたらすぐに脱出しますよ。」


 ヴァニタスがそう言うと足下の影を広げると女性をその中に有無を言わさず引きずり込んだ。そして走り出し他に捕まっていた人を片っ端から影に引きずり込み小屋の外へ抜け出す。


 小屋から離れた所に少し高い丘があり、そこから先程までのオークたちの集落を見ることができる。ヴァニタスはこの丘に捕まっていた人を影から出す。


 いきなりのことで混乱している人も数名居たが檻の外であることに対し素直に喜ぶ者と呆然と虚空を見るものに別れていた。恐らく呆然と下者たちはすでにオークやゴブリン達に弄ばれたのだろうお腹が膨れた者ばかりであった。


 オオオォォォォオオォ…


 ヴァニタスはそんな女性達の事に目を向けること無く先程まで居た小屋に目を向けている。そして喜んでいた者たちもヴァニタスにつられ今まで捕まっていた小屋を見る。


 小屋は異形と化した龍忌の触手により入り口部分は完全に壊されスキルの性か触手が壊したもの全てが風化していく。そしてオーク達は止めることなどできず、触手が変化した顎に噛み砕かれ喰われていく。通った後には植物や木の板、鉄、オークとゴブリンの死骸さえ砂と化し残るのみであった。


 そんな光景を作り出している龍忌を見ている人達はすぐに目を背けた。しかし大半の者はその姿に対し恐怖し嗚咽を漏らす。


 「大丈夫そうね。さてと、あら?あの姿見ちゃったの?」


 ヴァニタスがそう言うとすぐに頷く。


 「あれは人が認知してはいけないものよ?すぐに忘れなさい。」


 そう言って一人一人の頭に手を置いていくと、先程見たものを忘れてしまったのか見る前の状態に戻った。


 そして、音がなくなると小屋の方から人の姿に戻った龍忌が戻ってきた。


 「…あー、やっぱり少し無差別になるな。もうしばらく使うのは止めるか。ヴァニタス、保護したのはそれで全員かい?」


 突然現れた男にヴァニタスに助けられた者たちは警戒する。


 「えぇ、全員です。えー、皆さんこの方は私のマスター兼旦那様です。そんなに脅えないで下さいな。」


 ヴァニタスが紹介すると1人の女性、小屋でヴァニタスが最初にであった女性が質問する。


 「私達をどうなさるおつもり…ですか?」


 「どうも?正義感で助けたわけでも報酬のためでも無いよ?だから好きなようにすれば良い。帰りたいなら帰れば良いよ?」


 その言葉を聞き質問した女性は予想外の答えだったのか呆けると、続けて質問する。


 「で、ではわたし達を奴隷として売る…とか?」


 「へぇ、この世界って奴隷制度もあるんだ。忌々しいね。それで?売る気なんて無いし帰りたいなら帰れば良いって言ってるんだよ?」


 龍忌の言葉に捕まっていた者たちの多くが歓喜した…がすぐに落胆した。その理由を先程の女性より年上らしい女性が説明する。

 

 「わたし達はここまでの道を知りません。それにここから自由に帰れと言われても森を魔物に襲われずに抜けることはできません。…お願いです。街まで護衛していただいても宜しいでしょうか?」


 「…いいよ?それと、喜んでる人達も一緒に来るんだろうけど君たちは?」


 そう言って龍忌が指を指した先にはすでにお腹に子を孕まされた者たちだった。


 「…お願いします。…殺して下さい。この中には魔物の子が居ます。それに…何度も汚されました。こんな体で戻ってもどこにも宛てなど無いでしょう?」


 孕んでいる女性の一人がそう言うと他の妊娠していると思われる女性達もそれに同意する。

 

 「…ふむ、お腹の子は消すことはできるし体も元に戻す宛てがあるがそれでもいいのかい?」


 その答えに女性達は顔を上げる。


 「本当…ですか?…元に…戻れるんですか?」


 「あぁ、大丈夫だと思うけど、それでも死にたいかい?」


 「…いえ、生きていたい…です。お願いします。わたし達も連れて行って下さい。」


 女性はそう言うと龍忌とヴァニタスに向かい礼をする。それをみた龍忌はお腹の膨れた所に手を向ける。


 「原典『枢要罪』:色欲ルクスリア暴食グラ怠惰アケディア


 龍忌の手に黒い靄が集まったとても細い針ができあがる。


 「ちょっと痛いけど我慢してね?」


 そう言うと女性はえっ?と声を上げるが龍忌の手にあった針はすぐに女性の体へ向かい刺さっていく。


 しかし痛みがないのか女性は少し驚くと針の入った所を見つめる。


 すると女性のお腹は徐々に小さくなっていき、最後には女性お腹に入っていった針が抜ける。


 「これでお腹の中にはもう魔物は居ないよ?後は君の体を元に戻すだけなのだけどそれは僕じゃできないからできる人の所まで連れて行こうか。」


 それを聞いた女性は涙を流す。その光景を見ていた他の女性も龍忌が施したスキルを見て私も!、と続いていく。


 しばらくして全員の魔物を消した龍忌は


 「これから町に向かうけど早い方が良いね。『混沌』」


 龍忌はそうして黒龍を数体生み出すとその背に女性を何人ずつか乗せる。この時点で龍に驚き気絶した者も数名いたがそのまま背にのせノクタムへと戻った。


 「あー、腹減ったな。結局マイナスで終わったし。ノクタムに美味い飯屋あるかなー。」


 龍忌はノクタムへ向かう途中、黒龍にのりそんなことを考えていた。

 

 


 

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