6話 王女

 「無事なら返事をしてくれ?」


 目の前の女騎士は目の前で起きたことに驚きしばらく呆けていたが目の前で話しかけると此方を見てすぐに立ち上がった。


 「す、すまない!助かった!私はシャーリー、アルバトス王国王女の専属騎士を任されている。」


 立ち上がったシャーリーは兜を外し礼をする。先程まで体型と声でしか判断できなかったが、長く美しい金の髪とすんだ蒼い目を持ち美しい顔立ちをしていた。


 「王女?」


 翔が聞く。まさか迷った森で他国の王女に出会すとは思っても居ないのだから。隣に居た龍忌でさえ少し驚いている。


 「…あぁ、本当は言わない方が良いのだが命の恩人に隠し事をするのもどうかと思うのでな。内緒にしてくれると助かる。」


 「それは良いけどその王女は無事なのか?」


 翔が聞くとシャーリーは徐々に青ざめ倒れた馬車へと駆け寄っていく。少しすると馬車からシャーリーが此方へ戻ってくるとその後には見た目10歳ほどの少女がついてきていた。


 少女は雪のような銀の髪に碧の目を持っていた。よく見ると少し震えているようで周りをキョロキョロとしながら警戒しているようだ。


 「…すまない。この子はアルバトス王国の王女、ミルフォード・アルバトス様だ。このように内気な性格故余り威圧的にならないで貰えると助かる。」


 「分かったよ。…ところで聞きたいことがあったんだけど。」


 「ん?…なんだ?できることなら協力するぞ?」


 「実は道に迷っててな。この近くに町があればそこまで案内してもらえないか?」


 「なんだ、それなら此方からも頼もう。実は護衛として冒険者を数名雇っていたんだがあのオークとゴブリンの群れを見てすぐに逃げ出してしまってな。先程の強さを見てしまっては護衛を頼みたいんだ。」


 シャーリーは苦笑して答える。


 「それくらい構わないよ。リュウも大丈夫だろ?」


 「あぁ、大丈夫だよ。ただ、どこに行くんだい?僕たちは王都には入れないだろう?」


 それを聞いたシャーリーは2人に対し警戒した。王都に入れないなど普通はどこかで犯罪を犯した者だからだろう。


 「…あぁ、犯罪なんてしてないよ。ただ王の機嫌を損ねて追い出されたってとこだから。」


 龍忌は警戒したシャーリーに伝える。


 「…まぁ、確かに疑いが晴れたわけでは無いが町に入るには魔道具で犯罪の有無を調べるし命の恩人であることは変わらない。それに犯罪を犯すような輩には見えないしな。とりあえずは信じておくとしよう。」


 シャーリーはそう言うと馬車のほうを見る。


 「この近くだとノクタムの町が一番近いしアルバトスへも行けるからな。…しかし、馬車があれでは徒歩で行くしかあるまい。2日程はあるぞ?」


 それを聞いた翔と龍忌は互いに面倒臭そうな顔する。そして2人は何も無い草原の方へ手をかざす。


 まず翔が、《創造》っと言うと目の前に白い魔方陣が現れ一面を白い光で染めると4人が座れる広さを持ち黒色に少し金の装飾が施された馬車が現れ、龍忌が、《混沌》っと言うと龍忌の体から黒い靄が溢れ出し本来馬が繋がれる部分に留まる。その靄が晴れると高さ2メートルはある巨大な黒い狼が繋がれていた。


 「なっ…」


 シャーリーはその光景に絶句し言葉を失った。そしてその後に居たミルフォードには現れた狼が近寄り匂いを嗅ぐと気絶して倒れてしまった。


 「「あっ、」」


 翔と龍忌はその後2人を馬車に乗せとりあえずはミルフォードが起きるまでシャーリーに説明することにした。


 

____________________


 

 

 「そ、そんなことがあったのか。…実際過去の勇者が異世界人であることは知っていたが稀有過ぎて夢物語だと思っていたぞ。」


 シャーリーに翔と龍忌の召喚されてからの経緯を話すと素直に納得していた。

 

 「まぁ、俺らはまた特殊だけどな。」


 「ん?どういうこと…」


 「うぅん…、ここ、どこ?」


 ミルフォードが目を覚ますと見慣れぬ馬車の内部を見回し隣に居たシャーリーをみて安堵したのかほっとしていたがすぐに翔と龍忌をみてビクビクし始めた。


 それをみたシャーリーはミルフォードの頭をなで始めると落ち着いてきたのか徐々に笑顔になっていく。


 「…それでこの道であってるの?」


 「あぁ、合ってるぞこのまま行けば後30分ほどでノクタムが見えるだろう。本当に早いよこの馬車?は。」


 「それはどうも黒狼も珍しく懐いてるからね。君たち特にミルフォード王女には。」


 それを聞いたミルフォードは首を傾げる。


 「…狼さん、私、食べない?」


 それを聞いた龍忌は一瞬驚いた。今まで声を聞いたことが無かったのにいきなり喋ったからだろう。声は澄んでいて聞いていて心地の良い声色だ。


 「ふふっ、食べないよ。この子達は僕の魔力でできあがっているようなものでね、基本何でも食べるけど魔力は気に入った相手からしか貰わないし賢いから世話するのに苦労はしないよ。」


 それを聞いたミルフォードは目を耀かせ黒狼二体を見つめる。


 「…何なら2体とも世話してみるかい?」


 「ほんと!?」


 「あぁ、2体とも君の魔力を気に入っているし魔力量も多いから餌には困らないだろう。普段は影に入れることもできるからね。黒狼2体も君なら安心して任せられるさ。…たまに散歩でもさせてくれよ?」


 ミルフォードはさらに目を耀かせると


 「わかった!」


 と言うと前の黒狼2体も「ヴォウ!」と吠える。


 「ふふ、2体とも宜しくね。この子を守ってやってくれよ。ミルフォード王女はこの2体を大切にしてくれよ?」


 ミルフォードは元気よく答えると前の黒狼も元気よく吠えた。その光景をシャーリーと翔は頬笑ましく思っていた。


 「…名前…は?」


 ミルフォードが龍忌に聞くと。


 「それは僕が決めることじゃないよ。君が決めることだ。これから一緒に居てくれる相手に最初のプレゼントをあげなよ。だからじっくり考えてね。今度会うときまでにはさ。」


 「うん!」


 ミルフォードが返事をする。するとシャーリーが外で何かを見つけたようだった。


 「…ふむ、予定より速かったな。あの町がノクタムだ。我々は宿を確保しに出るが町をそうだな3日後には出るつもりだその時までに護衛の依頼を出すつもりだ。受けてもらえないか?」


 「…あぁ、構わないよ。町についたらしい冒険者登録するつもりだしな。」


 「僕も大丈夫だよ、護衛依頼を受けたときには名前決めててね?王女様?」


 「はい!」


 


 


 

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