第248話 不器用な親子
「雪解の季節など訪れなければ良いのに……」
そう考えるようになったのは何時からだろうか?
一年前? 二年前? それよりもっと前か?
私は、枕に顔を埋めながら自問に対する答えを探す。
「そんなの……アル君を好きになった瞬間に決まっているじゃないですか」
が、そのような自問に対して、答えはあらかじめ用意されていた。
だというのに、私が意味のない自問自答に耽ってしまうのは――
「はぁ、咲いてしまうんですよね……」
薄紅の蕾が木々を彩り始めていたからで――
「卒業……してしまうんですよね……」
アル君の卒業が迫っているという事実を――別れが迫っているという事実を上手く飲み込めずにいたからだ。
「私って、こんなにも女々しい女だったのですね……
全然……想いに蓋をできていないじゃないですか……」
私はそう言うと、枕元に置かれたアル君人形をギュッと抱きしめる。
すると、アル君の匂いによって精神が落ち着ついていく感覚を覚え、同時に、微笑むアル君の姿が瞼の裏へと浮かぶ。
私は、そんな妄想のアル君に対して、反射的に笑顔を返しそうになるのだが……
「分かってますよ……もう終わってしまったんだって……」
私は、返しかけた笑顔を苦笑いへと変える。
何故なら、瞼の裏に浮かんだアル君の隣にはソフィアさんの姿があり、二人の手のひらががっちりと結ばれていたからだ。
「本当に……本当に分かっているんです……」
事実、終わってしまったことは充分に理解できていた。
なにせ席位争奪戦という大舞台の上で、二人は想いを伝えあったのだ。
そのような瞬間を見せつけられてしまっては、「終わってしまった」と理解するしかない。
それに加えてだ。
理解してしまったのは――アル君の話を聞いて理解してしまったのは、私が想いに蓋をしなかったとしても、アル君はソフィアさんを選んでいたという事実で、私が未練がましく思い続けたところで、この想いは決して実ることがないという事実だった。
「いー……笑顔を作るのは難しいですね?」
だからこそ、いつまでもこの想いを引きずる訳にはいかない。
そう考えた私は、口角を指先で持ち上げて笑顔を作る為の練習をする。
だって私は……
「いー、こうですかね?」
アル君が好きだ。
「違いますね? いー、こうでしょうか?」
ソフィアさんも大好きだ。
私の想いが終わったからといって、二人を妬むような真似はしたくない。
妬みたくないからこそ――二人を祝福したいと本心で願っているからこそ、笑顔で「おめでとう」と言う為の努力をしてみるのだが……
「やっぱり……やっぱり上手く笑えません……」
私は、今日も上手く笑うことができなかった。
「だったら……」
私は、木箱に閉まっていたお菓子の包み紙を手に取る。
「だったら!」
アル君がお薦めしてくれたから購入した本を手に取る。
「だったら!!」
枕元に置かれていたアル君人形を手に取る。
「全部忘れてしまえば……上手く笑えますよね?」
そして、【火球】を指先へと灯し、テーブルに並べられた思い出の品々に火をくべようとした瞬間――
「ミエル、邪魔しても良いかのう?」
木製の扉が数回なり、扉の向こうから声が掛けられる。
「テオドール様? も、勿論構いませんが……」
そのことにより構築しかけた【火球】を霧散させると、私はテオドール様を自室へと招き入れた。
「ん? テーブルの上が散らかっているようじゃのう?」
「それはその……あっ、何かお飲みになられますよね? 紅茶でよろしいでしょうか?」
「ふ、ふむ。では、一杯頂くことにするかのう」
「か、かしこまりました! 座ってお待ちください」
私は、ソファに置いてあった本をどかすと、すぐさま紅茶を淹れ始める。
自室に水道は通っていないものの、【水属性魔法】と【火属性魔法】を使用すれば紅茶を淹れることなど訳ないことだ。
魔法によって熱湯を作ると、ティーポットへと移して茶葉を薫り立たせる。
「ほほう、可愛らしいカップじゃのう?」
「自室であるゆえ、それしか用意できなかったことをご容赦ください」
「構わんよ。そういえばミエルは昔から可愛らしい物が好きじゃったのう」
ティーカップというよりはマグカップ――猫の絵が描かれており、尻尾が持ち手になっているマグカップを手にしながら笑みを浮かべたテオドール様。
「如何でしょうか?」
「うむ、実に美味じゃよ。
【水属性魔法】を飲み水と使用した場合、埃やカビ臭さを抜くことができない者も居るからのう。
それを一切感じることがないのじゃから、流石はミエルと言ったところじゃのう」
続けて紅茶を啜ったテオドール様は、そう言ってもう一度笑みを浮かべる。
対して、笑みを向けられた私なのだが……
「あ、ありがとうございます」
表情を強張らせてしまい、上手な笑顔を返すことができずにいた。
だが、それも仕方がないことなのだろう。
「こうしてミエルの部屋を尋ねたのは……十年振りくらいかのう?」
「そうですね。私の年齢が十を過ぎた頃でしょうか?
テオドール様は室内に入ることを躊躇うようになりましたから」
「うむ、思春期の女の子の部屋に上がるというのも何だか気が引けてのう」
「そうでしたか……私でしたらいつでも歓迎しましたのに」
なにせ、テオドール様を自室へと招き入れるのは約十年振りのことなのだ。
多少は緊張してしまうし、強張りもしてしまう。
「それで……本日はどのようなご用件で?」
続けて、そう尋ねた私は表情を強張らせながら固唾を飲む。
気の引ける思いをしてまで訪ねて下さったのだ。
相応の理由があり、それほど重要な話があるからなのだろう。
そのように考え、確信したからこそ、私はゴクリと固唾を飲んでしまった訳なのだが……
「用件? そう焦らせるでない」
「とは言われましても……
テオドール様が私の部屋を訪れるのは稀なことですので……」
何処か気の抜けた口調を返したテオドール様。
その口調を聞いた私は、ソレが重要な話をする時の口調ではないと知っていた為、言葉とは裏腹にホッとしてしまう。
「ふむ。ならば、端的に伝えさせてもらおうかのう」
しかし、ホッとした私に告げられたのは――
「ミエル――お主を解雇する」
「……へ?」
信じたくない一言だった。
「わ、私を解雇? 冗談ですよね?」
「残念じゃが冗談ではない」
「じょ、冗談じゃない? な、何故ですか!?」
「言わねば分からぬか?」
「言ってくれなきゃ分かりませんッ!!」
「ふむ、なら言わせて貰うが……
今のミエルには仕事を任せる気になれないからじゃ」
「仕事を……任せる気に?」
「ここ数カ月、お主は何処か上の空じゃ。
勤務中もぼうっと空を眺め、空を眺めていたと思ったら出てくるのは溜息ばかり。そのような者に対して、子供たちに関わる仕事を任せようなどと思うか?」
「う、上の空であることには気付きませんでしたが……
わ、私は勤務も! 子供たちのことも疎かにはしていません! その証拠に先日――」
「先日?」
「わ、私は子供たちの……ひぐっ……」
私は言葉を続けることができなかった。
続けるつもりなら、「子供たちの将来を考え、貧しい者でも学園に通えるような構造を確立した」と、続けることもできたのだが、私は上手く言葉を発することができなかった。
何故なら……
「テオドール様……なんで……なんで知っでるのに意地悪ずるんですか?」
これ以上、テオドール様に反抗したくなかったからだ。
反抗してしまったらテオドール様に嫌われてしまうから。
孤児である私を、今まで育ててくれたテオドール様に嫌われたくなかったからだ。
「テオドール様ぁ……もっど……もっど頑張りますから」
私は、テオドール様のローブをギュッと握る。
「は、離すのじゃ! いくら泣いたとしても儂の考えは変わらん!」
「どうして!? わだじは! わだじはこれからどうすれば!?」
「さ、触るでないッ!! どんなに泣こうと儂の考えは変わらん!」
「でおどーるざまッ!!」
「は、離せと言うておろうが!!」
瞬間、振りほどこうとしたテオドール様の手が頬を叩き、室内にバチンという音を響かせる。
「ミ、ミエル……だいじょ――ッ! そ、それが! それが儂の答えじゃ!」
「……テオドール様?」
「……呆けた顔をするでない。
数日以内に……卒業式までに荷物をまとめておくように……」
テオドール様はバタンと扉を閉める。
自室に残された私は、猫が描かれたマグカップに視線を送ると――
「嘘だ……嘘ですよね? そんなの嫌だよ……嫌だよテオドールさまぁ……」
私は泣きじゃくりながら、お気に入りのマグカップを胸に抱いた
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「テオドール様……あれで良かったのですか?」
「良い悪い以前の問題じゃ……胸が張り裂けそうな思いじゃよ」
「なら何故? あのような真似を?」
ベルトは疑問を口にする。
対してテオドールは、今にも泣きそうな表情をベルトへと向けた。
「ミエルは……あの子は儂に依存しておるから……」
「依存ですか?」
「うむ……依存じゃ。
孤児であるミエルは、育ての親である儂に心底依存しておるのじゃよ」
「それは……ある意味当然だと思うのですが?」
「そうじゃのう……確かにそれは当然なのかもしれん」
テオドールはペシリと禿げ頭を叩き、そのまま滑らせて自分の目を覆う。
「じゃが……それは依存の形にもよる」
「形ですか?」
「うむ。そしてその形が問題なのじゃよ……」
「問題、と、言いますと?」
「先程も言ったとは思うがミエルは心底依存しておる。
それは孤児であることや、育ててもらったこと対する感謝の気持ちに起因していることは儂も重々理解しておる」
「感謝の気持ち……」
「加えてじゃ。
あの子は感謝だけではなく、恐れも抱いておる」
「恐れですか?」
「あの子は真面目で責任感が強く……そして少し怖がりな子じゃ。
感謝という形で依存する一方で、恐れるという形でも依存しておる。
儂に捨てられたくない。儂に嫌われたくない。儂に逆らってはいけない。
そんな強迫観念にも似た、自らを追いこむような形でのう」
「そのような考え方は……とても苦しいような……」
「苦しいじゃろうな……
じゃから、そのような感情と長年付き添って来たミエルはあのように育ってしまった」
「あのような子?」
「自分を――自分の感情を律してしまう大人にじゃよ」
「律する……ですか?
正直、アルへの対応を見ると、あまり律していないような気が……」
「痛いところを突くのう……
とはいえ、それは自分の感情を律してきたからで、感情の発露が下手だからじゃ。だからこそ、アルに対しても不器用な行動を取ってしまうのじゃろう」
「……度を超えているような気もするのですが?」
「だとしてもじゃよ。
確かに、他人から見れば、律することが下手なように思えるかも知れない。
じゃが、あの子は様々な場面で自分を律してきた。
儂は、その事実を知り過ぎているからこそ、律することのできないミエルの姿を見れたことを心底嬉しく感じておるのじゃ」
話を聞いていたベルトは、眉根に皺を寄せながら僅かに首を傾げる。
僅かに話が逸れていることに加え、テオドールが言いたいことを完全に理解することが適わなかったからだ
「ミエルさんが依存していることや律していることは分かったのですが……
テオドール様は何を問題とし、何故あのような真似をしたのでしょうか?」
とはいえ、理解できないまま話を終わらせるのはベルトの性分ではない。
ベルトは改めて尋ねることにより、テオドールの意図を汲み取ろうとした。
「要するに……ミエルにとって、儂という存在は枷なのじゃよ」
「枷……ですか?」
「うむ、実際、ミエルは枷などと欠片も思ってはいないのじゃろう。
じゃが、儂という存在はミエルにとっての枷にしかなっておらんのじゃよ」
「それは……悪い方に考えすぎているような気がするのですが……」
「じゃが、それが真実じゃ。
本当に……本当にあの子は真面目で責任感の強い子じゃ。
だからこそ、感謝、恐れ、責任、様々な感情に縛られてしまい、儂の元から離れようと――いや、儂の元から離れることができない。
それを枷と呼ばずに何と呼ぶ?」
「えっと……」
「答えられないのも当然じゃ。
なにせ、それが事実であり、儂という存在が――儂という依存対象が、あの子の選択肢を閉ざしていることは確かなのだからのう……じゃから儂はあのような真似を……」
「テオドール様……」
テオドールの話を聞き、ベルトはなんとなく理解してしまう。
自分が傍付として雇われた理由も、ミエルを突き離すような真似をした理由も。
そして、その裏側にある親としての葛藤や、その葛藤と行動の全てがミエルの枷を外す為に存在していたことを。
「ですが……」
が、そう理解するのと同時にベルトは間違いを感じてしまう。
事実、ミエルの枷を外したいのであれば、別のやり方があった筈だ。
お互いに心を痛め、お互いが苦しい想いをするのであれば、別の方法を模索した方が良いに決まっている。
そのように考えたベルトは、「もっと別のやり方が」と、続けようとしたのだが――
「もっと別のやり方があると思ったじゃろ?」
「――ッ」
続ける筈の言葉を先に言われてしまい、びくりと心臓を跳ねさせた。
「分かっておるんじゃよ……酷く不器用なことは。
じゃが、儂が優しい言葉で説得したとしてもミエルは自らを律してしまう。
本音を隠してまで儂に尽くそうとする筈じゃ……じゃから、突き離すような真似をするしかなかった。
頭では間違っていると理解しているのに、このような選択しか選べなかったのじゃよ」
「それは不器用……というかなんというか……」
「笑ってくれても構わんよ?」
テオドールは自嘲するような笑みを浮かべて髭を撫でつける。
対して、そんな力ない笑みを向けられたベルトは――
「笑いませんよ……笑いませんが何故なのでしょうか?」
何故という疑問の言葉を口にした。
そこには幾つかの疑問が含まれていたが、ベルトが一番知りたかったのは「そもそも、巣立たせる必要があるのか?」と、いった疑問に対する答えで、テオドールは「何故」という短い言葉から求めている答えを察したのだろう。
「好きな人と幸せになって欲しいからじゃ……」
慈しむような笑みを浮かべ、疑問に対する答えを口にした。
「幸せ……ですか?」
「うむ、ベルト君も察しているとは思うが、ミエルはアルに想いを寄せておる」
「それは察していましたが……アルはソフィアと……」
「そうじゃな。席争奪戦の舞台で結ばれたと言っても過言ではない――いや、結ばれたというのが紛うことなき真実じゃ」
「それならば……」
「それならばなんじゃ?」
「諦めるのが筋かと……」
「で、あろうな」
ベルトの頭は混乱し始める。
テオドールの言葉に幾つかの矛盾を感じたからだ。
が、そんなベルトを他所にテオドールは話を続ける。
「じゃが、そのようなことは知ったことではない。
確かにアルとソフィア君は結ばれたかも知れんが、じゃからと言って誰かが想いを殺さなければならない理由にはならないからじゃ」
「そ、それはそうかも知れませんが……しかし、その場合……」
「奪い合いになるかも知れんのう」
「奪い合いって……折角二人は結ばれたのに……」
「儂の考え方は最低だと思うか?」
「最低だとは思いませんが……あまり理解できそうにはありません」
「うむ、それもまた正解じゃ。
じゃが、理解されなかったとしても儂はミエルの幸せを一番に考えておる。
勿論、アルのことも好きじゃし、ソフィア君のことも可愛いと思うとる。
それでも、最近のミエルを見ていると――毎日のように溜息を吐き、ぼうっと空を眺めているミエルの姿を見ると、不憫に思えて仕方ないのじゃ……」
「だから……ミエルさんを解雇するのですね……」
「そうじゃな……だから儂は、ミエルを解雇しようと決めた。
突き離すことでミエルの巣立ちを促し、儂という枷を外してアルを追う切っ掛けを――幸せを掴む切っ掛けをミエルに与えてやりたかったのじゃ」
「ですが……あのようなやり方では……」
「嫌われたかも知れんのう? だとしても構わんよ。
例え嫌われようと、ミエルが幸せを掴めるのであれば然したる問題にもなりはせん。
例えどれだけ憎まれようと、儂は変わらずにミエルの幸せを願い続けるだけじゃ」
「こういうのも失礼かとは思うのですが……
テオドール様って結構な親馬鹿だったのですね?」
「そうじゃのう。確かに親馬鹿なのかも知れんのう?
じゃが、儂はそれでも構わないと思うとるよ?
ミエルの前では――誰かにとっての【賢者】ではなく、馬鹿と呼ばれる【愚者】でありたいからのう」
そう言ったテオドールは髭を撫でつけて笑い、ベルトは呆れたように笑う。
そのことにより、小さな笑い声と、紅茶をすする音だけが響くことになった執務室。
二人は、ほぼ同時にティーカップを置いて「ほう」と息を吐いたのだが……
「お前は阿呆か?」
「へぶしっ!?」
その瞬間。
扉がバタンと開き、拳骨を落とされたテオドールは間の抜けた声を漏らすことになった。
「メ、メーテ様!?」
「まったく……扉の向こうで黙って聞いていれば、訳のわからんことを言いおってからに」
「扉の向こう……ですかのう?」
「ああ、部屋の前を通りがかったら、捨てられた子猫みたいなヤツが居たもんでな」
「子猫?」
「ああ、扉の前で子猫が膝を抱えながら泣いていたぞ?
ほら、子猫ちゃん。中に入ってきたらどうだ?」
「……はい」
「ミエル……」
テオドールはバツの悪そうな表情を浮かべ、ミエルは捨てられた猫のような――懇願とも媚とも言えないような表情を浮かべる。
「たいしたものだな? 娘にこのような表情をさせるのだから」
「ち、違います! 儂はそのようなつもりじゃ!」
「じゃあ、どのようなつもりだ?」
「そ、それは……」
メーテは「はぁ」と息を吐くと、ミエルの頭を抱き寄せ優しく撫でた。
「まあ、私も人に説教できるほど出来た人間ではないさ。
が、説教できる人間ではないとしても、何が間違いであるかくらいは判断できる」
そして、テオドールに話し掛ける。
「なぁテオドールよ。犠牲という自己満足に逃げていないか?
何の為にお前には口がついているんだ? 何かを伝える為に口がついているんだろ?」
「――ッ」
そして、ミエルに話し掛ける。
「遠慮するな。甘えろ、駄々を捏ねろ、困らせろ。子供のように癇癪を起せ。
お前を育ててくれた【賢者】は、そんなに器の小さな人間か?」
「ひぐっ……」
「願うな、縋るな、求めるな。人間はそんな器用にできていない。
伝えたいのであれば、伝える為の想いを言葉にしろ」
メーテはパンと手のひらを叩く。
それが吐きだす為の切っ掛けになったのだろう。
「私を嫌いにならないで!」
「誰が嫌いになるものか!」
「じゃあなんで!」
「ミエルの幸せを願っているからじゃ!」
「私の幸せはテオドール様――」
「違う――違くは無いが幸せの形が違う!
ミエルが求めている幸せは儂の元にはない! それはミエルも分かっておる筈じゃ!」
「で、でも!!」
「でもではない! 儂はもう幸せを沢山もらった!
子の居ない儂に! 子育ての大変さも! 子が成長する喜びも!
娘の部屋に入る気まずさも! 下着を洗う際に覚える嫌われないかという不安も! そしてなにより! ミエルの親であるという誇らしさも!!」
テオドールは、コツコツと歩み寄り、メーテからミエルの頭を奪う。
そして胸元へと抱き寄せると――
「だから、儂はもう充分なのじゃよ」
「ておどーるざまぁ……」
「ミエルよ――我が娘よ。どうか自分の幸せを追い求めておくれ」
「うぐっ……ひぐっ……」
「愛しておるぞ、ミエルよ」
「ひぐっ……私も愛していまず……おとうしゃん……」
愛娘の頭を、そっと優しく撫でるのだった。
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