SS  異世界でのクリスマス

このお話は、去年のクリスマスに書いたものなのですが、カクヨムでの投稿が登場人物に追いついておらず投稿出来なかったお話です。

今日はクリスマスイヴということなので、加筆修正版を投稿させて頂くことにしました。

今日という日を、皆様が穏やかに過ごせる事を願っております。


2018.12.24 クボタロウ

==========






「クリスマス?」



 そう言うと、メーテとウルフはこてんと首を傾げる。



「うん。僕の居た世界の風習だね。

神様の誕生日を、家族でツリーの飾りつけとか料理を作ってお祝いしよう。っていう感じのお祭りかな?」



 そんな2人に対して、クリスマスについての大雑把な説明をするのだが……



「まぁ、恋人同士でお祝いしたりもするけど……

僕には関係の無い話かな……うん」



 不意に恋人達が愛を語り合うイベントであることも思い出してしまい、そういった意味では自分とは縁の無いイベントだった思うと、思わず言葉から力が抜けてしまう。


 そんな僕の様子を見ていたメーテとウルフ。



「ど、どうしたアル? 急に遠い目をして? 

い、異界の祭りというのは、そんなに恐ろしいものなのか!?」


「アルにこんな表情させるなんて……

クリスマス……一筋縄じゃいかないお祭りのようね」



 どうやら、変な勘違いをさせてしまったようで、やたら神妙な表情で尋ねてくる。


 まあ、このまま勘違いさせておいても問題無いといえば無いのだが、僕の発言の所為で前世の風習に対して悪評がついてしまうのも如何なものだろう?

 そう思い直した僕は、誤解を解く為にクリスマスについて一から説明していくことにした。



 そうして、クリスマスについての一通りの説明を終えると。



「要するにあれか? クリスマスは家族以外に恋人と過ごすというのが主流で、アルはそういった経験が無いから遠い目をしていた訳だな?」


「なるほどね〜、要するに僻みってヤツなのかしら?」



 鋭利な刃物で一突きにするが如く、身も蓋も無い現実を突きつける二人。

 反論の一つでもしてやりたいところではあるのだが、事実である為にぐうの音も出ない。

 その為、悔しく思うと同時に、僕は少しだけ不貞腐れてしまうのだが……



「じゃあ、こうしよう」



 そんな僕を見兼ねたのだろう。

 メーテは苦笑いを浮かべた後、何かを思いついたかのようにポンと手を打った。



「後一週間程で12月25日、アルの言うクリスマスとやらだ。

折角だし、そのクリスマスパーティーというのを開いてみてはどうだ?」


「あら、それは良いわね。

アルが居た世界のお祭りを開くなんて楽しそうじゃない?」



 どうやら、メーテが思いついたのはクリスマスパーティーを開くということで、そのような提案をすると、ウルフも賛同を示すかのように尻尾を揺らす。

 

 僕としても断る理由が無く、むしろ賛成ではあったのだが、一応、本当にクリスマスパーティーを開くのか訪ねてみることにすると。



「アルにとっては懐かしいイベントだろうし、私も興味がある。

それに、どちらの世界の神様の計らいかは分からないが、もしかしたらそちらの神様の計らいでアルに出会えたのかも知れないからな。

感謝の気持ちを込めてお祝いをさせて貰うのも悪いことじゃないだろう」


「そうね〜。

そっちの世界の神様のおかげなら、お礼をするべきかも知れないわね」



 二人はクリスマスパーティーを開くことに対して乗り気なようだ。


 前世でのイベントをこちらの世界で開いたことなど無かったので、もし開くのであれば、メーテが言うように懐かしく感じることだろう。

 

 それに加え、二人の言葉が単純に嬉しく感じた僕は――



「じゃあ、折角だしクリスマスパーティーを開いてみようか?」



 そう伝えると、クリスマスパーティーを開くことが決まるのであった。






 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆






 クリスマスパーティーを開くことになってからは慌ただしかった。


 もみの木に似た木を探して飾りつけをしたり、クリスマスケーキを作ったりと、クリスマスパーティを開く上での色々な準備に追われる事になったからだ。


 特に、クリスマスケーキの準備などには随分と手こずらされたといえる。

 ケーキを用意すると決めたのは良いのだが、ケーキを作った経験なんて、母親の手伝いくらいでしか経験が無いのだから当然だろう。


 その記憶を掘り起こしながらケーキ作りに取りかからなければならず、その為、ちゃんとしたケーキを仕上げるまでに結構な時間を費やす事になってしまった訳だ。


 まあ、その甲斐もあり、満足出来る出来映えのイチゴのホールケーキを完成させることが出来たのだから、苦労した甲斐もあったといえるのではないだろうか?


 そうして着々と準備を進め、迎えたクリスマスパーティー当日。 



 フライドポテトやピザ、それに鳥の丸焼などなど。

 クリスマスの食卓に並びそうな料理はメーテにお願いしており、キッチンに立ったメーテは手際よく調理をこなしていく。


 だが、そんなメーテの後ろ姿を見て、不安に思うことがあった。

 それは、料理を頼む際にレシピは伝えていたものの、レシピがうろ覚えであった為に、僕が知っている料理と違うものが出来上がる可能性があるということ。


 だがしかし――



「もう少し蜂蜜で甘さと――後は香草を加えてみるのも良いかも知れないな?」



 そう言って、前世の記憶にある料理に近い品。

 と言うか、それ以上に美味しい料理に仕上げてしまうのだから流石メーテとしかいいようがない。


 ちなみに、この間ウルフは何をしているのかというと。



「お肉程じゃないけど、生クリームって言うのも案外いけるわね?」



 などと言い、ボウルに残った生クリームで口の周りを白くしていた。


 それから少しの時間が経過したところで料理の大半が出来上がり、後はテーブルに並べればクリスマスパーティーが始められるといった状況が整う。


 すると。


 コンコンッ


 まるで、計ったかのように玄関の扉が叩かれ、来訪者に心当たりがあった僕は、急いで玄関へ向かう。



「いらっしゃーい」



 そう言って玄関を開いた先に居たのはダンテにベルト、それにソフィアとラトラ。



『折角アルの世界のお祝いをするんだから、友達にも声を掛けてみたらどうだ?』



 メーテのそんな提案により声を掛けた結果、皆はこうして訪ねてくれた訳だ。

 ちなみに、異世界のお祭りだと伝える訳にはいかないので、田舎の風習だと言って誤魔化しておいた。



「今日は誘って貰ってすまないな。

知らない風習だから失礼があるかも知れないが、気を付けるので大目に見てくれたらありがたい」



 室内に招くなり、畏まった調子のベルト。

 クリスマスは厳かに過ごすと人達も居るようだし、国によって受け止め方は違うとは思うのだが、僕の勝手な印象では、食事を楽しみながら家族や友人と過ごす日。

 と言った印象があったので、その事を伝え、そんなに畏まらないで良いことを伝える。 



「そうか、習慣や宗教といった問題はデリケートだからな。

少し不安だったが、アルディノの話を聞いて安心したよ」



 ベルトは僕の話を聞き終えると、言葉にした様に安堵の表情を浮かべるのだが……



「おい! なんだよこれ!? すげーうまそうだな!!」


「にゃんだこれ! にゃんだこれ! 凄い美味しそうにゃ!」



 ダンテとラトラはそういった話よりも食事の方に興味津々のようで、テーブルへと駆け寄ると並べられた料理に目を輝かせる。


 そんな二人の様子を一緒に眺めていたベルトとソフィア。

 このメンバーの中では比較的落ち着いている二人ではあるのだが、興奮した二人の様子を見て興味を惹かれてしまったのだろう。



「そ、そんな美味しそうなのか?」


「ま、まったく行儀悪いわよ? もう少し落ち着きなさいよ?」



 そう言うと早足でテーブルへと向かい、そんな皆の姿を見た僕は、自然と頬を緩ませた。






 ◆ ◆ ◆






「さて、グラスは行き渡ったかな?」



 メーテの言葉で周囲を見渡して見れば、皆の手にグラスが行き渡っていることが分かる。



「どうやら行き渡っているようだな。

それでは乾杯の音頭だが、ここはアルに任せようと思う。

ではアル、後は頼んだぞ」



 急に振られたことに驚いてしまうが、僕の世界の習慣なのだから僕がしきるべきなのだろう。

 そう思うと、葡萄水の注がれたグラスを手に持って立ちあがる。



「えっと、今日はこの集まりに参加して頂きありがとうございます。

皆はこのお祭りを知らないと思いますが、僕自身、クリスマスというお祭りは神様の誕生日を家族や友人と穏やかに過ごしながら祝う。そういったお祭りであると受け止めています。

ですので、皆さんも穏やかな気持ちで今日という一日を過ごして貰えたなら――そんな風に願っています」



 そこまで口にした所で皆の様子を窺ってみると、僕の話に皆が耳を傾けているのが分かるのだが、若干二名程の視線は料理に釘付けとなっているようだ。


 そんな二人の姿を見て少しばかり呆れてしまうと同時に、これ以上我慢させるのも可哀想に思えてしまう。

 加えて、折角の料理なんだから温かい内に食べた方が良いだろう。

 そのように考えた僕は、ささっと話を切り上げることを決める。


 そして――



「我慢させるのもようだし、挨拶はこれくらいにしてましょうか?

それでは、僕の後に続いてお願いします。

では――メリークリスマス!」


「「「メリークリスマス!」」」



 その言葉と共にグラスが重なる音が響き、クリスマスパーティーが始まることになった。







「うめぇ! なんだこれ!」


「こんなにチーズを使ってるなんて贅沢だにゃ!」



 ダンテとラトラはピザが気にった様で、口いっぱいに頬張り至福の表情を浮かべる。



「そっちのも美味しいけど、私はこっちの方が好みかも」


「そうだな。僕もソフィアに同意だ」



 ソフィアとベルトもピザをお気に召したようで、香草とトマトが乗ったピザ。所謂マルゲリータを美味しそうに頬張っている。


 ちなみにダンテとラトラが頬張っているピザは、ベーコンにコーン、それにマヨネーズをトッピングしたピザで、ダンテくらいの年齢であれば濃い目の味付けの方が喜ぶだろうと思い用意しておいたピザだ。


 至福の表情を浮かべて料理を口に運ぶ皆の姿と、その姿に穏やかな視線を送りながら葡萄酒を嗜むメーテとウルフ。

 そんな皆の姿を眺めながら、クリスマスパーティを開いて正解だったな。

 そのように感じていると。



「さて、ソフィアとラトラ。ちょっと付いて来て貰っていいか?」



 メーテが席を立ち、手招きして2人呼ぶ。


 一体、どうしたのだろう?

 僕と同様にソフィアとラトラも疑問に思ったようで首を傾げている。

 だが、疑問に思っている間にもメーテは2人を捕獲し、ウルフを引き連れて部屋から出て行ってしまった。



「どうしたんだろ?」


「さぁ、何か催しでもあるのか?」


「そんな話は聞いてないんだけどな〜?」



 部屋から出て行った四人の行動を不審に思いながらも、『まあ、いいか』と深く考えるのを放棄して、ダンテとベルトとの会話を楽しみ始める。


 それから10分ほどだろうか?

 玄関の扉がガチャリと空き、四人が部屋へと戻って来たのだが――

 僕は戻って来た皆の姿を見て、間の抜けた声を漏らすことになった。



「……えっと、なにそれ?」



 その疑問に答えたのはメーテで。



「サンタクロースというヤツだな!

ん? もしかして何処か間違っているのか?」



 そう言ったメーテの全身に目をやれば、大きく肩を露出したファーの付いた赤い服を身に付けており、頭の上にもファーの付いた赤の三角帽子を乗せていた。


 そして、他の三人へと目をやれば……

 ソフィアもメーテと同じような服装をしており、恐らく、恥ずかしがっているのだろう。スカートの裾を押さえながらもじもじとしている。


 続いて、ラトラに目をやれば、ラトラの場合はチューブトップバージョンとでも言えば良いのだろうか?

 肌面積が多く、少しばかり刺激的な格好をしていた。


 メーテは一体何をやらせているんだか……


 そう思うと、思わず頭が痛くなるのを感じるが、それをグッと堪えてウルフに視線を向けて見ると――



「どう? 似合うかしら?」



 いや……何でトナカイ?


 一人だけ、トナカイのきぐるみを着ているウルフ。

 もしかして仲間外れにされたのではないだろうか?

 そんな疑問が浮かんでしまうのだが。



「これ温かくていいわね〜。魔物に食べられたらこんな気分なのかしらね〜」



 などと、ウルフは訳の分からないことを言っており、満更でもないといった様子だった。


 まあ、確かにクリスマスにはサンタクロースがプレゼントを届けてくれるという話はしたし、パーティーなどではサンタクロースの格好をする人も居ると教えたのは確かだが……


 そのような事を考えながらいま一度皆に視線を向けると……



「お? グラスが空になってるじゃないか?

どれダンテ、私が果実水を注いでやろう」


「あ、あざっすメーテさん!」


「ち、ちょっとラトラ! スカート引っ張らないでよ!?」


「にゃんで~? 少しくらい良いじゃにゃいか~」


「ベルトも楽しんでる? 細いんだからしっかり食べないと駄目よ~?」


「り、料理も美味しいし、凄く楽しませて頂いています!」 



 噂に聞く、女性が接待してくれるようなお店に迷い込んでしまったような錯覚に陥ってしまい、なんともいえない苦笑いを浮かべてしまう。


 そして、そんな僕の表情を見て何かを察したのだろう。



「ちょっ! ちょっとメーテさん!

アルが喜ぶ――じゃなくて! し、仕方が無いからこんな恥ずかしい格好したっていうのに! な、何か引かれてません!?」



 ソフィアはメーテに対し抗議の声を上げる。



「あ、あれは照れ隠しだ! そ、そうだろ? アル?」



 照れ隠しも何も、若干引いているというのが本音ではあるのだが……

 だがしかし、ここで正直な感想を口にした場合、間違いなくソフィアの精神に甚大な被害を与えることになるだろう。

 そのように考えた僕は。



「み、皆の格好が可愛らしかったから言葉が出なかったんだよ……うん」



 多少わざとらしい口調ではあるが、そう言って褒めることにした。

 すると。



「かかか、可愛いって! と、当然じゃない!

恥ずかしい格好してあげたんだから感謝しなさいよね! ……うへへぇ」


「んにゃ! ラトラちゃんが可愛いのは当然のことにゃ!」



 二人は嬉しそうに肩を弾ませ、渾身のドヤ顔を見せつける。


 そして、メーテとウルフは? というと。



「おいおいアル、私はもう可愛いって言われて喜ぶような歳じゃないんだがな〜?

ま、まったく仕方が無いヤツだなアルは……くふふっ」


「そうよ? メーテはとっくに可愛いなんて呼ばれるような歳じゃないんだから」


「は? なんだ? 喧嘩売ってるのか?

馬鹿みたいな着ぐるみを着てるやつに言われたくないんだが?」


「馬鹿みたいとはなによ? トナカイ可愛いじゃない?

て言うか、何で私だけサンタクロースの格好じゃないのよ?」


「そ、それは、ウルフにサンタの格好なんてさせたら、子供たちに悪影響を及ぼすからだと言っただろ?」


「どこが悪影響だって言うのよ?

トナカイは可愛いけど私もサンタクロースしたかったわ」


「ど、何処がって! 胸だ胸! 阿呆みたいな胸してるから悪いんだろうが!?」


「本当にそれだけかしら? メーテの私情が挟まれているような気がするけど?」


「ウルフ? 何処を見て喋ってる?」


「ん? メーテの貧相な胸だけど?」


「ふぅー……よし。ここでは迷惑になる。表に行こうか?」


「いいわよ。表に行きましょうか?」



 何故か喧嘩を始めようとする二人。

 僕は慌てて喧嘩の仲裁に入ると同時に、『本当この人達はなにをしたいの!?』。

 そんな疑問を浮かべ、盛大に溜息を吐くとになった。






 その後もクリスマスパーティーは続いた。


 料理に舌鼓を打ちながら、カードゲームやボードゲームに興じ、そうして盛り上がりを見せている内にテーブルの上の料理は殆ど平らげられしまい、テーブルの上には食後にと用意していたクリスマスケーキが置かれることになった。


 手作りということもあり、味や皆の反応が不安だったのだが――



「んー! コレ美味しい! 流石メーテさんね!」


「ん? これはアルの手作りだぞ?」


「へ? アルが作ったの?」


「そうだよ。 自慢になっちゃうけど結構上手く出来たと思うんだよね」


「アルの手作り……うへへぇ」



 クリスマスケーキは思いのほか好評だったようで、ソフィアはそう言うと頬をだらしなく緩めながらケーキを口へと運び、皆も頬を緩めながらケーキを運んでいる。



「あらメーテ、苺嫌いなの? しょうがないから食べてあげるわね」


「なっ!? お、お前!? コ、コレは最後に食べようと思ってだな……」


「あ、あら……そ、そうなの? ご、ごめんねメーテ?

私の苺無くなっちゃったから……ケ、ケーキなら半分残ってるから食べる?」



 メーテとウルフを見ればそんなやり取りをしており、本来のメーテであればウルフの事を叱りつける場面に違いない。


 だが、余程ショックだったのだろう……年甲斐も無くまさかの涙目だ。


 それを何となく不憫に思ってしまった僕は。



「僕の分あげるから、そんな悲しそうな顔しないでよ?」



 自分の苺を、メーテのケーキの乗せてあげることにした。



「アルゥ……お前はなんて優しい子なんだ!

そして、アルのから貰った苺は格別にうみゃい!」



 たかが苺で……そうは思うも、メーテからすれば余程嬉しかったのだろう。

 そう言うと、僕の頭を抱いて大袈裟に頭を撫でまわすメーテ。


 皆が見ており、僕としてもかなり恥ずかしいので必死に脱出を試みるのだが……

 お酒の所為で加減を忘れてしまっているメーテからは逃れることが出来ず、友人たちから生暖かい視線を向けられることになってしまった。




 そうしてクリスマスパーティを楽しんでいたのだが、皆は遊び疲れてしまったのだろう。

 ラトラがソファーで丸まって寝出したのをきっかけにして、一人、また一人と眠りの中へと落ちて行く。


 それは僕も例外では無いようで、いつの間にか眠りへと落ちていく事になった――






 ◆ ◆ ◆






「寝てしまったようだな」


「随分とはしゃいでたみたいだしね」



 子供たち人一人に毛布を掛けて周った後、メーテとウルフは蝋燭の明かりが揺らめく中、葡萄酒の注がれたグラスを傾けていた。



「まさか、こうやって子供たちに囲まれながら穏やかな時間を過ごせるなんてな。

13年前の私に教える事が出来たとしても、とても信じては貰えないだろうな」


「ふふっ、良かったわね」


「ああ、本当にアルには感謝しているよ。

……も、勿論ウルフにも感謝してるぞ」


「あら? どうしたの?

そんなこと言い出すなんて珍しいじゃない?」


「う、うるさい! お酒が入っているからな、口がすべっただけだ!」



 メーテの言葉にクスリと笑みを溢したウルフ。

 残り物の萎びたポテトを口へと運ぶと、ワインを傾けるのだが――ふと視界の端。窓の外にチラチラと白いモノが映り込んでいること気付いた。



「あら、雪ね」


「ほう、道理で今日は冷え込むと思ったが……雪か」


「確かに今日はちょっと寒かったわよね」


「ああ、ここの地域ではもう少し先にならないと降らない筈なんだがな……」



 ウルフは窓を開けると、舞い落ちる雪の粒へと手を伸ばす。



「珍しいこともあるものね」


「ああ、この世の中には珍しいことが沢山あるからな。

――そう言えばクリスマスに雪が降ることをアルが何とかっていってたな?」


「なんだったかしら?」


「確か――ああ、そうだ。ホワイトクリスマスだ」


「ホワイトクリスマス……ね」



 ウルフはそう呟くと窓の外を眺め、メーテも同じように窓の外を眺める。



「もしかしたら、異世界の神様からのプレゼントなのかも知れないな」


「あら、ロマンチックなことを言うのね?」



 ウルフの言葉に、メーテは照れくさそうにしながらも笑みを溢す。



「ともあれ――粋な計らいをしてくれた異世界の神様にいま一度感謝しようか」


「ええ、そうね」



 そして、そんな言葉を口にすると――



「「メリークリスマス」」



 窓に映る雪を背景にし。

 蝋燭の温かな灯りが揺れる部屋に、澄んだグラスの音が優しく響くのであった。

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