第196話 合宿最終日の夜空

 皆が催眠状態に入ってから一時間以上が経過した。

 メーテの話によれば、最低でも一時間は催眠状態が続くという話なのだが……

 その一時間を過ぎたというのに、皆の意識が戻る気配は無く、僕は不安を募らせ始めていた。


 本当に皆は大丈夫なのだろうか?


 そのように考え、芝生に横たわっている皆の姿を見守っていると。



「――はッ!?」



 意識を取り戻したようで、ハッと目を見開くソフィア。

 ゆっくりと身体を起こした後、自分の居場所を確認するように視線を泳がせた。



「ソフィア、大丈夫だった?」


「べ、別に余裕だったわよ!」



 ソフィアはそう答えると、僕の視線から逃れるかのように顔を逸らし、その反応を見た僕は苦笑いを零してしまう。

 しかし、僕に対して素っ気ない態度を取るのはいつもの事だし、慣れたものだ。

 ある意味、いつも通りといえるソフィアの反応を見た僕は、この調子なら問題なさそうかな?

 などと考えると、ホッと胸を撫で下ろしたのだが――



「し、心配してくれてありがと」



 不意に告げられた感謝の言葉と、向けられた少しぎこちない笑顔に、撫で下ろした胸が僅かに跳ねるのを感じるのだった。






 それから、更に一時間程が経過した。

 ソフィアが意識を取り戻してからというもの、それ切っ掛けにするように一人、また一人と意識を取り戻していった友人達。

 気が付けば残すはミエルさんだけという状況となっており、そのミエルさんも丁度意識を取り戻したところであった。


 そして、その状況を見守っていたメーテ。

 ミエルさんに喉を潤わせる為の白湯を渡した後、少しの時間を置いてから口を開いた。



「どうやら、全員が自分自身に打ち勝てたようだな。本当によく頑張った」



 メーテは皆の事を称賛すると、満足そうな笑みを浮かべる。



「正直、全員が打ち勝つのは無理かもしれないと考えていたんだが……どうやら私の目が節穴だったようだ」



 更にはそのような言葉を続け、感慨深そうに頷くメーテなのだが……



「お前達の成長。私は心から嬉しく思って……な、なんだその表情は……」



 そう言ったところで、皆の表情が不満気である事に気付いたようだ。



「なんだはこっちのセリフっすよ! つーか聞いてないっすよ! 自分自身と向きあうとか言ってたのに殆ど実戦みたいなもんじゃないっすか!」 


「本当ですよ……しかも、自分の黒歴史を聞かされながらの実戦とか……地獄でしたよ……」



 そう言ったのはダンテとベルト。

 メーテが出した課題――催眠状態の出来事に不満があるようで、メーテに喰ってかかる。



「羞恥から悶え死ぬかと思いましたわ……」


「んにゃ! 客観的に見る自分ってキツイものがあるにゃ!」



 続いて、コーデリア先輩とラトラからも物言いが入ってしまい、そんな反応を見て少しばかり風向きが良くないと感じたのだろう。



「だ、だから言っただろ? 魔道式を組み込んでおいたから実戦に近い体験をする事が出来ると。

そ、それはお前達も了承してくれたことだろ?」



 そのような反論をするメーテなのだが……



「実戦がある事については言ってないですよね?」


「ええ、メーテ様は肝心な部分はボカしていましたね」



 うん。確かに言っていない。

 メーテは「すこ〜し魔道式を組み込んでおいた」などと言いながらニヤリとしていただけで、ソフィアとミエルさんが言うように、実戦があることは伝えていなかった。  


 というか、皆の追及を避けるためにメーテは嘘を吐いたのだと思うのだが……

 あまりにも姑息で、若干引いてしまう。


 そして、そんな態度を取られてしまったら友人達も黙って居られる筈も無く。

 火に油を注ぐような発言をしたメーテに対する追及の声が、次第に大きくなっていく。


 だからだろう。



「わ、わかった! 午後のバーベキューは最高級の肉を用意してやろう!

そ、それと! この前アルに習ったデザート――そ、それに上等な果実水も容易しておくから機嫌を直してくれ! な?」



 あからさまに物で釣ろうとするメーテ。

 その様子を眺めていた僕は、流石に安易だろうし、皆も納得しないのでは?

 などと考えるのだが。



「言質は取ったっすからね!」


「んにゃ! してやったりにゃ!」



 ダンテとラトラがそう言うと、友人達は揃いも揃って悪戯気な笑みを浮かべて見せる。


 どうやら、本当にメーテを責めていた訳では無く。

 先程までの態度は、肝心な部分をボヤかしていた事に対しての意趣返しだったようだ。

 そして、それの事を理解した僕は、メーテを手玉に取ったという事実に、感嘆の声を漏らす事になった。






 その後、なんやかんやありながらも湖畔へと移動する事になった僕達。

 湖畔に到着すると、大人組はバーベキューの準備に取り掛かり始め。

 学生組は、早速と言った様子で服の下に着込んでいた水着姿を披露する。


 まぁ、僕も一応は学生組ではあるのだが、精神面でいえば大人だ。

 流石に皆のようにはしゃぐ事が出来ず、バーベキューの準備を手伝おうと考えるのだが。



「アルとミエル。お前達も水遊びに混ざって来たらどうだ?」



 適当な立木を見繕い、テーブルや椅子に加工している最中のメーテに止められてしまう。



「でも、他にも準備があるでしょ?」


「気にするな。私の他にもウルフやマリベルも居るんだ。準備は大人達に任せれば良いさ」


「いや……でも……」


「でもじゃ無い。遠慮が過ぎのはアルの悪いところだぞ?」



 手伝いの必要は無いとメーテは言うのだが、ふと視線を動かしてみると……


 二人は――いや、一人と一匹は湖で遊ぶ気満々だったのだろう。

 マリベルさんは上着を半分ほど捲くし上げてヘソを覗かせているし。

 ウルフに至っては狼の姿に戻っており、楽しそうに尻尾を揺らしている。


 流石に、そのような様子を見せられては手伝えとは言いにくし、やはり僕が準備を手伝うべきだろうと考えるのだが。



「まぁ、遊ぶのは構わんが……その場合、お前達は肉無しだからな?」


「わっふ!?」


「ちょっ!? メーテっち!?」



 メーテの一言によって一人と一匹は遊ぶ事を諦めざるを得なかったのだろう。

 慌てて踵を返すと準備に取り掛かる事になり、僕とミエルさんは苦笑いを浮かべながら学生組の輪の中へと混ざる事となった。






 そうして、僕は水遊びを始める事になったのだが……

 正直に言うのであれば、水遊びではしゃぐほど子供では無いというのが本音だ。

 まぁ、昨年は皮を繋ぎ合せたボールを作って無邪気に遊んでしまったが、アレが若気の至りというヤツなのだろう。


 ともあれ、キャッキャッと声を上げて遊ぶのでは無く、適度に水の冷たさを感じながらのんびりと過ごすというのが出来る大人の水遊びというものだ。


 そして、今年は去年のような愚行は犯さない。

 だから用意したのだ。大人による大人の為の遊具を。


 僕は皮で繋ぎ合せた遊具に風属性魔法で空気を送り込む。

 すると、徐々に膨らんでいき、大人が身体をあずけられる程の大きさになる。

 これこそが大人の為の水遊び道具であり、前世の海でも大いにお世話になった遊具。


 その名も――



「おっ? なんだこれ? イカか?」


「は? イルカちゃんなんですけど」



 物を見る目の無いダンテに水を差されてしまったが――そう。イルカちゃんである。


 そして、このイルカちゃんなのだが、そんじょそこらのイルカちゃんじゃない。

 凡人や素人あたりなら、青で着色するのが普通なのだろう。

 だが、僕くらいになるとイルカはイルカでも白イルカを選択してしまう。


 その所為でダンテはイカなど戯けた事を言ってしまったようなのだが……ダンテの乏しい感性ではイカとイルカの見分けもつかないのだろう。

 そう考えるとなんだか悲しくなってきてしまい、肩パン一発でダンテを許してあげる事にした。


 その後、ダンテに肩パンをすると逃げるようにして湖へと向かい、湖面にイルカちゃんを浮かせる。

 すると、イルカちゃんはプカプカと湖面で揺れ、その愛らしさを強調させた。 


 そして、そんな愛らしい姿を見せられたら無視できないのが人の道理だ。

 皆はわらわらと集まり出し、イルカちゃんを囲みだす。囲みだすのだが……



「イカにゃ!」


「凄いわね! これはイカを模した遊具?」


「大したものだな。上手いことイカを模してある」


「イカですわね。私は揚げたものが好きですわ」



 友人達は揃いも揃ってイカだイカだと騒ぎだすのだから、流石の僕でも看過する事が出来無い。

 僕はギュッと拳を握り込むと、イルカちゃんの名誉を守る為にも反論する事を決める。


 だがしかし。



「んにゃ!? これは楽しいにゃ!」 


「あっずるい! 私も乗る!」


「んぐっ……」



 我先にとイルカちゃんに跨ったラトラが楽しそうに声をあげ――



「アル君には魔法だけでは無く、芸術の才能まであるんですね」



 ミエルさんそう言われたら反論する気が削がれてしまう。そして、その結果。



「自分でも良い出来だと思っているんですよ……このイカ……」



 イルカちゃんである事を自ら否定し、イカであると認める発言をする羽目になってしまった。

 ……イルカから『ル』が抜けただけだし、きっとイルカちゃんも許してくれるだろう。

 そんな風に慰めながら。





 そうして、遊び始めてから暫く経った頃。



「そろそろ肉が焼き上がるぞ〜」



 メーテが声を掛けて来た事で皆は湖から上がり、竈の周りへと集まりだす。



「うわっ! 旨そう!」


「流石、最高級の肉だにゃ!」



 竈の上に設置された網には、最高級と呼ばれるだけの存在を放つ厚い肉が置かれており。

 その肉汁が炭の上に落ちると、ジュウという音に加え、食欲がそそられる香りが煙と共に運ばれて来る。


 そして、その肉を網の上で切り分けるメーテ。

 メーテが肉にナイフを入れると、サクリと肉が切れ、こんがり焼けた外側と、肉汁を含んだ赤身が断面を覗かせた。

 その様子を見て、誰かがお腹を鳴らすのだが、誰もそれを指摘する事は無い。

 何故なら、僕と同じように、肉から意識を逸らす事が出来ないからだろう。



「き、均等に分けてやるから席に着いて待ってるといい」



 皆が肉に群がった事で、少し気圧された様子のメーテ。

 席に着くように促すのだが、それでも動く気配の無い皆の姿を見て、少しばかり呆れてしまったのだろう。



「席に着いて無いヤツは、意地悪して小さいのにするぞ?」



 メーテは意地悪そうな笑みを浮かべながらトングをカチカチと鳴らす。

 その事により、皆は慌てた様子で席に着くことになり、程なくして食事が始められる事になった。






「うめぇえ! メーテさん、この肉うまいっす!」



 食事が始まると、待ってましたと言わんばかりに肉に齧り付いたダンテ。

 余程美味しかったようで、目元を緩めながら頬を膨らませている。



「ほ、本当に美味しいですわね。こんな美味しいお肉は今まで食べた事ありませんわ」



 余程美味しく感じたのだろう。 

 コーデリア先輩は、只でさえ大きな目を、更に大きくすることで驚きを表現して見せた。


 しかし、その様子を見た僕は少しだけ疑問に感じてしまう。

 何故なら、最高級のお肉といっても店売りの中での最高級品だ。

 貴族であるコーデリア先輩なら、これ以上のお肉を口にした事があるだろうし、専属の料理人なんかが居て、上等な料理に仕上げてくれる事だろう。


 それなのに、これほどまで驚きを露わにしているのだ。

 すこしだけ大袈裟なように感じてしまったのだが――



「友人達と水遊びをしたり、野外で食事をするのが、こんなに楽しいものだとは思いませんでしたわ!」



 そんなコーデリア先輩の言葉を聞き、僕は納得するように頷く。

 要するに、お肉の味もさることながら、友人達と食事を楽しんでいるという状況。

 その状況がコーデリア先輩にとっての最高のスパイスで、お肉の味を引き立てているのだろう。


 そして、そのように理解した僕は、自分の考えが野暮であったっことに気付き、理屈っぽく考えていたことを恥ずかしく感じてしまう。


 そして、そのように感じていると。



「――ところで、皆は今年の席位争奪戦はどうするつもりなの?」



 思い出したかのようにソフィアが口を開き、席位争奪戦の話題を皆へと振る。



「俺は勿論参加するぜ!」


「ああ、僕も参加するつもりだ」


「んにゃ! 今回こそベルトに勝ってやるにゃ!」


「わたくしも参加しますわ。去年の雪辱を晴らして見せますので、覚悟しておくと良いですわ」



 どうやら、今年も席位争奪戦に参加するようで、各々が参加の意志を口にした。



「で、アルはどうするの? あれだけ大見得切ったんだから勿論参加するわよね?」



 ソフィアは授与式での「三年間、第一席を譲るつもりは無い」という僕の発言を指してそう言っているのだろう。

 まぁ……僕としては、少し恥ずかしいのであまり思い出したく無いというのが本音だったりするのだが……

 それはさて置き。



「勿論参加するよ。これで参加しないって言ったらどうなるか分かったもんじゃないしね」



 流石に参加しませんという訳にはいかないだろうし、今年こそは不正容疑を掛けられることも無く、純粋な気持ちで席位争奪戦を楽しみたいという思いもあってので、参加の意志を伝える。


 そして、そのようにソフィアに伝えると――



「こ、今年は教職という身であるから大っぴらに応援する事は叶わないが……

だが! アルを応援しているという気持ちは変わらないからな!」


「贔屓だって怒られちゃうから人前では応援できないけど、皆の事はこっそりと応援させて貰うわね」



 教員という立場からしたら、一人の生徒に肩入れするような真似は出来ないのだろう。

 メーテとウルフは悔しそうな表情を見せる。



「ってことは……今年は二人と観戦できないって事よね?

一人で観戦するのは寂しいから……教職なんて辞めちゃえば?」



 そんな二人に対して、冗談めいた言葉を口にするマリベルさん。

 冗談めいた口調ではあるものの、その表情を見れば少し不貞腐れているのが分かり、寂しいという言葉に関しては本心である事が理解出来た。

 その為。可愛らしいところもあるんだな〜。などと考えていると。



「何ニヤニヤしてんのよ? ぶっ飛ばすわよ?」



 などと言われて睨まれてしまい。



「マ、マリベル様、今年も貴賓席に招待しますので、どうか落ち着いて下さい」



 ミエルさんが貴賓席に招待するまでの間、ベチベチと腕を小突かれることになってしまった。


 そして、そうこうしてる間にも時間は流れていき――







「さて、そろそろ良い時間か」



 楽しい時間というのはあっという間で、空を見上げれば星が出ている事に気付く。



「それでは、さっさと片づけて家に帰るとするか」



 テーブルの上の食器を手早く重ねると、メーテは立ち上がろうとするのだが。



「ちょっと待って」



 僕は待ったを掛け、持参した荷物の中から一つの物を取り出した。



「なんだそれは? こよりのように見えるな?」


「えっと、これは花火だね」



 そう。僕が取り出したのは手持ち花火――所謂、線香花火というヤツである。

 自由研究で作った記憶があり、その記憶を頼りにして作ってみる事にしたのだ。



「花火といえば打ち上がるのが主流だと思うんだが……これも花火なのか?」


「そうだね。まぁ……そういうのと比べると見劣りしちゃうんだけど、これはこれで風情があるよ?」


「そうなのか?」



 メーテはそう言うと興味深そうに花火に見入り、他の皆は疑わしく思っているのか怪訝な視線を向けてくる。



「まぁ、見ててよ」



 百聞は一見にしかず。僕は手持ち花火に火を着けた。

 すると、火薬が弾け、パチパチという音と共に小さな花を形造った。



「ほう。確かにコイツは花火のようだな」


「なんか可愛らしいわね。アルが風情があるって言ったのも理解出来るわ」



 メーテとウルフの反応を見て嬉しくなった僕は、順に手持ち花火を手渡していき、皆は花火に興じ始める。



「なんだろ、私は初めてこの花火をみたけど……なんだか暑い時期が終わるって感じがするわね」


「ええ、弾ける火花とポトリと落ちる火種がそれを連想させるのかも知れませんね」



 火花を眺めながらそのような会話を交わすソフィアとミエルさん。

 その会話の内容が、言い得て妙で、思わず頬が緩んでしまった。


 そうして、竈の灯りとカンテラの灯り。手持ち花火の灯りに照らされながら花火を楽しむ僕達。

 皆も楽しんでくれているようで、ホッと胸を撫で下ろしたのだが……



「初めは楽しかったけど……こう、何本もやってると地味に感じるよな……」


「お、おい……折角アルディノが作ってくれたんだからそういう事を言うなよ」


「でも、地味なものは地味にゃ」  



 聞き捨てならない言葉が耳へと届く。



「ん? なんか言った?」


「い、いや。な、なんでもねーよ」


「ん、んにゃ! 何も言ってないにゃ!」


「本当? なんか地味とか聞こえた気がするんだけど?」


「い、いってねーよ! なぁ、ラトラ?」


「ウ、ウチに話を振るにゃ!」



 僕が問い詰めると、慌ててシラを切るダンテ。

 しかし、しっかりと耳に届いているのだ。シラを切ったところで意味など無い。


 そして、そんな二人の発言……「地味」という発言は僕の心を深く抉っていた。

 何故なら、僕だって線香花火だけでは味気ないと考えており、線香花火以外も用意しようと考えていたからだ。

 しかし、思考錯誤はしたものの、結局はうまいこと炎色反応を定着させる事が出来ず、線香花火しか完成させる事が出来なかった。


 そのような経緯があったので「地味」という言葉は僕の心を抉った訳なのだが……

 それに加えてだ。そもそも、何故花火を作ろうと思い至ったかというと、それは皆を楽しませる為だ。

 この合宿で皆が大変な目に合っているのは知っていたし、最終日くらいは楽しんで貰いたいと思ったからに他ならない。


 だというの二人は地味などと口にする。

 それは僕の心を抉るのに充分で、僕のおもてなし力を否定するに充分な言葉であった。


 だからだろう。



「だ、だったら! だったら派手なのを見せるよ!」



 自分で馬鹿な事を言っているというのは理解している。

 だけど引き下がれない何かが僕の身体を動かした。


 そして、唱える。

 万が一、線香花火すら完成しなかった時の為に練習してきた魔法を。

 複雑すぎて、殆どの魔力を消費する、おもてなしの為だけに考案した魔法を――



『暮の絶景 宵の百景 星下に咲くは極彩の華ッ! ――混合魔法 三尺連花ッ!』



 僕は空へと手を掲げる。

 そして次の瞬間――膨大な魔力が身体から抜けていくのを感じ取り――


 心臓を叩くような音と共に極彩色の花が闇夜に咲く。

 それは一発だけに留まらず、二発、三発と咲き続け、地上に居る僕達の姿を様々な色で照らした。



「うおっ!? なんだこれ!? す、凄ぇ!」


「うわぁ……綺麗……」


「こ、こんな色とりどりの花火は……見た事がありませんわ」



 夜空に上がった大輪を見た友人達は、驚きの声を上げると共に目を輝かせる。



「ていうかコレ……上級魔法の域を超えて無い? ミエル、これ出来る?」


「い、いえ……私には無理ですね……ちょっと訳が分からないレベルです」


「う、美しいのは確かだが……な、なんちゅう才能の無駄遣いを……

――いや、人を楽しませるだけに存在する魔法。これも一つの在り方か」


「わっふ! わっふ!」



 更には、呆れながらも笑顔を浮かべるメーテ達。


 まぁ、かなり無茶な魔力構築をして、無理やり詠唱で魔法の形を保っているので、正直辛いし、呆れるのも分かるのだが……

 それよりも、この花火を見て皆が満足してくれたというのが重要なのだ。   


 そのように考え、皆の笑顔を眺めていると――



「てか……イカの遊具を用意したり、花火を用意したり、挙句の果てにはこの花火だろ?

この合宿を一番楽しみにしてるのって、実はアルなんじゃね?」


「ははっ、言えてるな。普段は大人びているが……アルディノには案外子供じみているよな」



 ダンテとベルトがそのような会話を交わし。



「まぁ、そこがアルらしいんじゃにゃいか?」


「ええ、自分では大人だと勘違いしてる部分がアルっぽいわよね」



 ラトラとソフィアまでもが心外な評価を口にする。


 僕は慌てて反論の一つでもしようと考えるのだが――



「でも、本当に綺麗……」



 そういったソフィアの横顔に何故かドキッとしてしまい、反論の言葉を飲み込んでしまった。


 ――こうして、短いようで長い一週間。

 皆と過ごした一週間の合宿は、極彩色の光の中で終わりを告げようとするのだった。

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