第193話 お酒を嗜む

 それは合宿五日目。夕食時の出来事だった。



「今日もしんどかったわ……重り八個とか……明日はまた増えるんだろうな……」


「ダンテも辛そうだな……僕の場合、体力的には問題無いんだが……迷路の攻略が上手くいかなくて頭から煙が出そうだよ……」



 そんな会話を交わすのはダンテとベルト。

 随分と課題に苦しまされているのだろう。満身創痍といった様子でテーブルに突っ伏している。



「二人の指導を受けた事がある私から言わせて貰えば……どっちも地獄よね……

メーテさんの指導は理詰めのような厳しさがあるし、ウルフさんの指導は感覚的って言うのかな?

取り敢えずやって覚えろ。みたいな有無を言わせない厳しさがあるわよね……」


「確かに……メーテ先生はじわじわと追い詰めるような厳しさがありますわね」


「分かるにゃ! ウルフ師匠は肉体言語の使い手って感じがするにゃ!」


「有無を言わせないという意味ではメーテ先生も同じような気がしますが……言わんとすることは分かります」



 更にそのような会話を交わすのは、寝巻姿でラグの上に腰を下ろしている四人の女子。

 ソフィとラトラ。それにコーデリア先輩とミエルさんなのだが、こちらも随分と課題に苦しまされているようで、少しばかり表情が暗い。


 そして、そんな皆の姿を横目で見ていた僕はというと――



「お待たせ、夕食が出来上がったよ〜」



 夕食を作り終えたところで、今日のメインである肉料理をテーブルへと置いた。



「おっ、今日の飯も美味そうだな。コレなんて料理だ?」


「えっと、ローストビーフ――というよりかは牛のタタキって感じかな?

オニオンスライスとガーリックチップ、それに幾つかの香草も用意したから好きなモノを乗せて食べてね」



 僕がダンテの質問に答えていると、その会話を聞いて皆も興味を持ったのだろう。

 テーブルの周りへと集まりだし、興味深そうな視線をテーブルの料理へと注ぎ始める。



「はいはい、突っ立てないでさっさと席に座んなさい」



 そんな皆の様子を見て、おたまで鍋を叩き、カンカンと鳴らすことで指示を出すマリベルさん。

 その姿はまるで漫画の一場面のようであったが、その事によって皆は席へと着き、程なくして食事が始められることになった。






 そうして始まった夕食のひと時。


 正直、今日のメインである牛のタタキは主食のパンに会わないのではないか?

 などと考えていたのだが、何種類かのソースを用意した甲斐もあってか、各々が自分の好みに合ったソースを見つけられたようで、美味しそうに頬を膨らませている。


 まぁ、臭いが残るのが気になるようで、オニオンスライスやガーリックチップなどはあまり人気が無いようなのだが……



「んん〜! お肉の甘さとオニオンの辛み、それに鼻から抜けるガーリックの香りが良いわね!

なんだかお酒が欲しくなって来ちゃう味だわ!」


「確かにお酒が欲しくなる味だ……ふむ、これなら赤ワインが合う感じか?」


「あら? お酒飲むの? だったら私も頂こうかしら」



 どうやら大人達には好評のようで、そのようなやり取りの後にワインとグラスがテーブルに置かれる事になった。



「あまり飲み過ぎないでよ?」


「ああ、酒は飲んでも飲まれるなが基本だからな。その辺は心得ているさ」



 僕が尋ねると、澄まし顔でそう答えるメーテ。

 実施のところ、メーテの酒癖はあまり良い方では無く、僕自身も何度か被害を被っていたので、どうしてそのような澄まし顔が出来るのか謎だったのだが……


 この場で追及して、水を差すのも野暮だと思った僕は。



「本当に飲み過ぎないでよ?」



 もう一度だけ釘を差すと、その後の成り行きを見守る事にし、食事を再開させることにした。






 それから一時間ほどが経過した頃。

 夕食を終えた僕たち未成年組は、本を読んだりお喋りをしたりと自由な時間を満喫し。

 大人たちは酔いが回って来たのだろう。ちびちびと料理をつまみながら上機嫌に会話を交わす。


 その中には、何時の間にかミエルさんも含まれているのだが……

 それ程お酒に強い訳では無いようで、普段見せないようなホワホワとした気の抜けた表情を浮かべていた。



「てか、大人って酒が好きだよな〜。俺は果実水とかの方が好きだわ」



 大人たちが盛り上がっているのを尻目に、そんな言葉を口にするダンテ。



「お酒の席には何度か同席してるし、その際に少しだけ飲ませて貰った事はあるけど……僕もお酒よりかは紅茶とかの方が好きかな?」



 僕個人の意見としては、別にお酒の味が嫌いという訳ではないのだが、頻繁に飲みたいと思う程では無かったのでダンテの意見に同意する。



「だよな〜……でもよ、俺達も来年で十五歳だし成人する訳だろ? 酒は飲めた方が良いとは思うんだよな……」 


「なんで? 別に飲めないなら飲めないで良いと思うんだけど?」



 別に成人したからといってお酒を飲むことが義務になる訳では無い。

 嫌いなら飲まなければ良いし、苦手なものを無理して飲む必要は無いと思ったのだが……



「だけどよ! 冒険者ギルドに大体酒場が付いてる訳じゃん?

依頼を終えた後とかに酒場で一杯やるとか、何か格好良いと思わねぇか?

それと、カウンターで一人グラスを傾けるのとかも出来る男っぽくて格好良いだろ?

俺は酒の味は好きじゃないけど、そういうのには憧れるんだよな〜。だから、少しは飲めるようになりたいと思ってるんだけどよ……」



 どうやら、お酒を飲むことよりもお酒が作り出す雰囲気に憧れがあるようで、その気持ちを何となく理解出来た僕は、成程と頷いた。



「確かに、渋いマスターが居る店で「マスターいつもの」とか言ってみたいかも」


「そうそう! そういう感じなんだよ!

それでよ、その渋いマスターも初めは無愛想なだけなんだよな! だけど、何度も通っている内に少しづつ打ち解けて来て「またお前か」なんて憎まれ口を叩きながらいつものを用意してくれる訳よ!」


「ああ〜分かるわ分かる。最初は「子供か」なんて見くびられるんだけど、通が頼むようなお酒を頼むことで「分かってるじゃねぇか」みたいな感じで認められるんだよね?」


「おお、アルも中々分かってんじゃん! 俺はそういうやり取りをしてみたいんだよ!

……してみたいんだけどよ……酒は苦手なんだよな……」 



 興奮した様子で言葉を並べるダンテ。

 しかし、お酒が苦手という現実を思い出してしまったみたいで、「はぁ」と溜息を吐くとガックリと肩を落とした。


 すると、そんな僕達のやり取りに聞き耳を立てていたのだろう。  



「それなら今の内から慣れておけば?」



 お酒がまわっている所為だろうか? トロンとした表情のマリベルさんがそのような提案をする。


  

「未成年にお酒を勧めて良いんですか? 法律でも禁止されている筈ですよね?」


「まぁ、確かに学園都市では禁止されてるけど、それって大きな都市に限られた法律よね?

領地によっては十二歳から飲酒が認められてるし、酒精が低ければ成人未満でも飲酒を認めてる領地だってあるんだから別に飲んでも構わないんじゃない?」


「へ? そうだったんですか?」


「そうよ? 更に言えば、私が十代の頃なんかは学園都市でも十三歳から飲酒が認められてたんだから」



 未成年の飲酒については法律で禁止されていた筈なので、それを理由に断ろうと考えていたのだが。

 どうやら飲酒に関しての法律は領地によって異なっており、統一されている訳ではないようだ。


 そんな話を聞かされた所為か、別に飲酒しても構わないんでは?

 などと考えてしまっていると――



「お、俺は飲むっす!」


「僕も少し興味あるかな」


「み、皆さんが飲むのなら私も飲みますわ!」



 ダンテとベルト、それにコーデリア先輩がお酒に興味を示し。



「だ、駄目ですよ! 他の領地は兎も角、ここは学園都市なんですから!」



 ソフィアがそれを止めようとるのだが……



「ソフィア? 「酔っちゃった〜」とか言いながらしな垂れ掛かるチャンスじゃにゃいのか?」


「!?  メ、メーテさんの部屋から来たから勘違いしちゃったけど、よくよく考えればここは学園都市じゃないものね!

ど、何処の森かは分からないけど、学園都市の法律を持ち出すのは間違ってたわ! ということで飲みましょう!」



 ラトラがなにやら呟いた後、手のひらをグルンと返して見せるソフィア。

 なにやら鼻息が荒いのが少しばかり不安を掻き立てるのだが……


 まぁ、それはさて置き、皆はお酒に興味があるようで、飲酒に関して肯定的な意見を示して見せた。

 そして、その成り行きを見守っていたメーテ。



「法律に関しては灰色の部分があるが……コレも一つの経験といったところか?

まぁ、流石に酒精の強い酒を飲ます気にはなれんが、果実酒くらいなら問題無いだろう。

ということでコイツは殆ど果実水みたいなもので酒精も強くは無い。だからアルもそんな心配そうな顔をするな?」 



 色とりどりの果実が漬け込まれている瓶を取り出すと、人数分のグラスを並べ始め――



「酒精が強くないとはいえ、体質的に合う合わないがあるからな。合わないと感じたら無理して飲むんじゃないぞ?」



 そう言うと、順にグラスの中を満たしていくのであった。






 それから、更に一時間ほどが経過した頃。



「なんらよ! 酒なんてたいことねぇらぁ〜」


「ダンテ……お前、酔ってないか?」


「酔っれねぇし!」



 ベルトが尋ねるとそれを否定するダンテ。

 目が据わっている上に、呂律もまわっていないのだから説得力が感じられない。


 ちなみに、まるで小動物を思わせる仕草で、舐めるようにしてお酒を飲み進めていたダンテなのだが、グラス一杯でここまで酔えるのだから本当にお酒が得意じゃないのだろう。



「お酒は初めて飲みましたけど、思った以上に美味しいですわね。

それに、頬や身体が火照るような感じが、なんだか心地良いですわ」    


「にゃはは! なんかポカポカして気持ち良いにゃ!」



 そんな会話を交わすのはお酒初挑戦のコーデリア先輩とラトラ。

 二人は二杯ほど開けた時点で程良く酔ったらしく、今は紅茶を飲みながらフワフワとした表情を浮かべている。


 そんな中、同じくお酒初挑戦のソフィアは、というと?



「ううぅ……なんでみんな酔えてるのぉ? 全然酔えないんだけどぉ……これじゃ作戦が……」



 グラスを二杯開けた上に、間違ってメーテが飲んでいた酒精の強いお酒まで飲み干してしまったソフィア。

 だというのに、まったく酔った様子が感じられない。

 正直、何で泣きそうになっているのかは謎なのだが……ともあれ、これがザルというヤツなのだろう。


 まぁ、かく言う僕も二杯を開けて少し火照ってるくらいなので、ザルとは言わないまでも弱い方では無いようだ。

 そんな風に考えていると――



「よひっ! お前らの夢を語れ!」



 酔っている所為だろうか? いや、確実に酔っているからだろう。

 普段のダンテであれば、あまり言いそうにないような事を言い始める。



「ほら、ベルトの夢はなんら?」


「ダ、ダンテ……そ、そういうのはまた今度にしないか?」


「駄目ら! 駄目! 早く言えお〜」


「い、嫌だ! は、恥ずかしいだろうが!」



 更には絡み始めるダンテ。

 あまり酔っていないベルトは「夢」を語る事に照れがあるようで、答える気は無いという態度を示すのだが……



「ほう、それは面白そうだ。

お前達も来年で卒業だという事を考えれば「夢」――と言わないまでも目標や進路といったものは決めておくべきだろうな。ということでその話を続けて貰おうか?」


「そうね。確かに興味があるわ」


「やぁん! 少年少女が夢を語る! なんか青春って感じじゃない!」


「私も気になります」



 大人達は新しい玩具を見つけた時のように目を輝かせると、ダンテの提案に喰いついてしまう。


 その事により逃れることは出来ないと察したのだろう。

 ベルトは諦めるように溜息を吐くと、渋々といった感じで口を開いた。



「正直……どうするべきなのか答えが出せていません。

入学したころは騎士になりたいと考えていた時期もありましたが、今ではアルディノ達と冒険者を続けるのも良いんじゃないかと考えている自分がいます……

その反面で、僕にしか出来ない何かがあるんじゃないか? という気持ちもあって……

ですので、期待しているところ悪いんですが……夢も目標もはっきりしていないというのが僕の現状ですね……」


「ほう、幾つかの選択肢の間で揺れている訳か……私個人の意見としてはアルと冒険者を続けて欲しい気もするが……それを強要するのは間違いなのだろうな。

ともあれ、残された時間は少ないがまだ猶予はある。しっかり悩んで答えを出すべきだろうな。

まぁ、助けになるかは分からないが、悩んだ時は気軽に声を掛けてくれて良いからな? 相談くらいなら幾らでも乗ってやる」


「あ、ありがとうございます」



 そのようなやり取りを交わすベルトとメーテ。


 普段はこのような話をしない――ということは無いのだが、漠然とした部分があり、将来を語ることに照れがある所為か、お互いにどこか誤魔化しているような節があった。


 しかし、今は大人達の圧力がある所為か? それともお酒の所為だろうか?

 誤魔化した様子も無く、自分の将来と現状を語るベルト。

 そんなベルトの姿を見た僕は、改めて自分の目標やベルトの将来について考えを巡らせる。


 正直に言うのであれば、僕個人としてはベルトに冒険者を続けて貰いたいというのが本音ではある。

 だが、いってしまえば、それは僕の目標に付き合わせてしまうということだ。


 僕の目標は冒険者や探索者といった職業で高みを目指し、有名になる事なのだが……

 何故有名になりたいかと問われれば、この世界で無視でき無い程の発言力を得る為で。

 何故無視できない程の発言力が欲しいかといえば、それはメーテに対する「禍事を歌う魔女」という悪評と、世間が持つ、闇属性の素養に対する悪評を払拭する為に他ならない。


 正直、穴だらけの目標ではあるし、もっと別のやり方があるのだとは思う。

 だが、前世で普通の高校生だった僕には、内政を変えるほどの知識は無いし、前世の商品を形にする技術も無い。

 まぁ、商品に関しては実現可能な物もあると言えばあるのだが。

 商才も無い僕では小遣い稼ぎが関の山で、発言力を得るほどに大成することは無いのだろう。


 話が少し逸れてしまったが、僕と共に冒険者を続けると言うのは目標が目標だけに危険が伴う。

 尚且つ、闇属性の素養を伝える事が出来ていない現状で、冒険者を続けて欲しいと願うのは不誠実以外の何ものでも無い。

 それは、ベルトに限らず、他のメンバーにも言える事で、卒業後も僕と冒険者を続けたいと考えるのであれば、一度真剣に話し合わないといけない事なのだと思う……


 などと考えていたからだろう。

 ベルトに他の道があるのなら、その道を模索し、応援するべきだと思えてしまい。

 そう考えた僕は、ふとこんな言葉を呟いてしまう。



「教師……」


「教師?」


「いや、なんかベルトって魔法の扱いも丁寧だし、教えるのも上手でしょ?

だから何となく教師とかが似合うかな〜と思ったんだよね」


「そう言って貰えるのは嬉しいんだが……僕がパーティーに居るのが不服か?」


「ち、違うって! 勿論いてくれた方が嬉しいに決まってるよ!

ただ、似合いそうだなって思っただけだからさ……き、気を悪くしたならごめんね?」


「ははっ、冗談だよ」


「ちょっ!? お、驚かせないでよ!?」



 教師という言葉を呟いた所為で、少々心臓に悪い思いをする事になってしまったが、どうやらベルトなりの冗談だったようでホッと胸を撫で下ろす。


 そうして胸を撫で下ろすのだが……



「教師……か」



 噛みしめるように呟くベルトの姿は、やけに真剣なものに感じられた。

 そして、そんなベルトの姿を眺めていると――



「じゃあ次はラトラらな!」


「んにゃ! 聞かせてやるから耳の穴かっぽじってしっかり聞くにゃ!」



 酔っている所為か、やたら上機嫌のラトラが口を開く。



「ウチの夢は、母ちゃんをぶっ飛ばして自由に生きることだにゃ!」 


「へ? 母ちゃんを!?」


「んにゃ! ウチの母ちゃんはクルルの長――えっと、ウチの故郷の事にゃんだけど、そこの長をやっているんだにゃ!

それで娘であるラトラちゃんに跡を継がせたいみたいなんだけど……集落に縛れるにゃんて面白くにゃいだろ?

だから、母ちゃんをぶっ飛ばす事で認めて貰う! それで自由に冒険者をやるんだにゃ!」



 いつもなら、故郷の話になると嫌な顔をするラトラなのだが、今日は饒舌に身の上を語る。

 というか、どれくらいの規模がある集落なのかは分からないが、跡取りということはラトラは結構なお嬢様なのではないだろうか?

 そのように思い、新たに知ったラトラの一面に、少しばかり驚いていると。



「じゃあ、次!」



 ダンテが話を進行させる。



「わ、わたくしはオーフレイム叔父様を超えるような冒険者になりたいですわ!」


「次!」


「えっ!? えっと……私はアルが冒険者を続けるな――」


「次!」


「ちょっ!? 言わせなさいよ!?」



 ダンテはコーデリア先輩とソフィアをおざなりにして話を進行させる。

 その様子を見た僕は、しっかり話を聞いてあげなよと思うのだが、そんな僕を他所にダンテは口を開く。



「んじゃ! 次は俺の番らな!」



 どうやら、二人をおざなりにした理由が自分の話をしたかったからという事が分かり、僕はその奔放さに思わず溜息を零してしまう。

 しかし、そんな僕の姿などやはり目に入っていないようで、ダンテは語り出した。



「ズバリ俺の夢はSランク冒険者になっれ、俺の名を轟かせることら!

実際、貴族と言っても俺は三男坊だから家を継げないし、頭は悪くないけど身体を動かす方が好きだひな!

それに、男ならやっぱり冒険に憧れるらろ!?

らから俺は冒険者になって、色々な場所を冒険して自由に生きてやるんら! なぁラトラ? 自由が一番らよな!」


「んにゃ! ウチらは自由に生きるにゃ!」


「「おおーーーーー!!」」



 自由という言葉に共感したのか、ダンテとラトラは肩を組み楽しそうに声を上げる。

 そして、肩を組んだまま上半身を左右に揺らのだが、そうしている内に尚更楽しくなって来たのだろう。



「俺達は伝説の魔物を狩って、歴史に名前を残すんら!」


「んにゃ! 『茨の王』、『巨壁』、『角折れ』、『幻月』! まとめてかかって来るにゃ!」


「おっ! 竜にゴーレムにミノタウロスに魔獣! より取り見取りらな!」


「そうだにゃ! どれもこれも伝説級にゃ! そいつらを倒して有名になるんだにゃ!」


「「おおーーーーー!!」」



 伝説と呼ばれるような生物の二つ名を挙げ連ねていき、再度声を上げるのだが――



「あら怖い。じゃあ、返り打ちにしてあげた方が良いのかしら?」



 ウルフが噛み合わない言葉を口にする。



「へ? ウルフ師匠、ろういうことっすか?」


「んにゃ、酔ってるのかにゃ?」



 ダンテとラトラも話が噛み合わない事を疑問に思ったようで、キョトンとした表情を浮かべる。



「でも、今いったじゃない? かかってこいって?」



 それでも尚、噛み合わない会話を続けるウルフ。


 だからだろう。ダンテとラトラ以外も呆けた表情を浮かべるのだが――



「ウルフ、その話をしても良いのか?」


「ええ、別に構わないわ」


「ウルフがそう言うのなら私は止めんが……」



 真剣な様子で会話を交わすウルフとメーテの姿を見て、何かを感じ取ったのだろう。

 場の空気が僅かに張り詰めたものになる。


 そして、そんな空気の中――



「ねぇ? 『幻月』の由来って知ってる?」



 ウルフはそう尋ねるのであった。

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