第179話 課外授業二日目
課外授業が始まり、一日目の夜が明けた翌日。
僕達は、目標である十匹の魔物を狩る為『ブエマの森』の奥へ向かう事を決める。
聞く話によれば、森の奥に進むほど魔物との遭遇率が上がるらしいので、その情報を頼りに『ブエマの森』の奥へと向かう事にした。
まぁ、正直な話。
僕が『魔力感知』で魔物を見つけてしまえば済む話で、わざわざ森の奥まで魔物を探しに行く必要性は無いのだが。
僕の考えでは、自分達の力で魔物を発見し、どのように対処するかも実戦経験の内だと考えている。
その為、『魔力感知』で周囲の警戒こそ徹底するものの。
魔物が居る場所は敢えて教えず、皆がどのような行動を取るのかを、見守る方針でいくことに決めていた。
そうして、引率の立場から逸脱しないよう。最悪の事態が起こらないよう。
周囲に警戒しながら皆の行動を見守っていると――
「さ、さっさと魔物を狩って、少しでも食料調達の時間に当てるぞ!」
「「「「は、はい!」」」」
何故だろう?
皆を鼓舞するフィデルも、返事を返す四人も、悲壮感を含んだ複雑なやる気を見せており。
有り体に言うのであれば、もの凄く必死な様子を見せている。
そんな皆の様子を見た僕は。
『育ち盛りだろうし、あの量の食料(ムカデ)じゃ足らなかったのかな?』
そう考えると、なんだか心配になってしまい――
「昼食は支給された食料で何とかなると思うし、夕食は……少し甘いのかも知れないけど、僕が調達して来てあげるからさ」
狩りに集中する為にも、不安の種を取り除いてあげるつもりで、そう伝える事にしたのだが。
「ア、アルディノ先輩はじっとしててくれよ!! な?」
「ぼ、僕達の力でなんとかしますので、本当に何もしないで下さい!」
「わたし達で! わたし達だけで! なんとかするからじっとしてて欲しいな〜!」
一年生トリオは若干涙目になりながらも、必死な様子で、僕の申し出が不要である事を訴えた。
そして、そんな一年生トリオの姿を見た僕は。
引率である僕の力を頼ろうともせず、自分達の力だけで頑張ろうとする姿勢。
そのやる気と責任感に感動してしまい、思わず目頭が熱くなってしまう。
「み、皆……うん。分かったよ」
だからだろう。
皆の意志に反してしまうかも知れないが、少しでも力になってあげたいと考え。
それと同時に、皆の意志を無碍にしない範囲で、僕に何が出来るかを思案する。
――すると。丁度その時。
「そこっ!」
視界の端にあるものが映り込み、ソレをナイフの投擲で仕留めると素早く捕獲する。
「ち、ちょっ!? そ、その芋虫をどうするつもりっすか?」
「え? こんだけ大きいのは初めて見たけど、クリーミーで美味しいんだよ」
どうするもこうするも食べる以外選択肢は無いだろうし。
皆が自分達の力だけで頑張るというのであれば、僕に出来ることは食事に一品追加してあげるくらいしか……
情けない事だが、僕の足りない頭ではこれくらいしか思いつかない。
僕は無力さを噛みしめながらもどうにか笑顔を作り。
「楽しみにしててね?」と伝えると、布袋に食料(芋虫)を放り込むのだが――
「駄目だッ! この人全然分かってくれてねぇぞ!!」
「お、落ち着けエイブン! こ、こうなったら今日中に魔物を十匹狩りきって、無理やりにでも食料調達の時間を作るぞ!」
「え!? だったら狩りを適当な所で切りあげて、食料調達をすれば良いんじゃ?」
「甘いぞノア!! 昨日の俺達の反応を見ても『どう? おいしいでしょ?』みたいな反応をしてた人だぞ! 俺達が安定して食料を確保できなきゃ、間違いなく善意という名の悪意を押しつけてくる!!
それを回避する為にも目標を達成して、残りの時間を全て食料調達に当てるくらいじゃなきゃ、この先待っているのは地獄だぞ!!」
「お、お兄ちゃ〜ん……じ、地獄は嫌だよ……」
「俺だって嫌だ! と言う事で、お前ら! 絶対に目標を達成するぞ!!」
「「「「は、はい!」」」」
皆はそんなやり取りを交わすと、先程よりも必死な様子を見せ、森の奥へと進んで行く。
そして、その様子を見ていた僕は。
『……まったく、子供なんだから素直に喜べば良いのにな〜』
皆の謙虚さに僅かに笑みを浮かべると、その後を追い、森の奥へと進むのであった。
その後は順調だった。
あれから少し進んだ所で、運良くゴブリンの群れと遭遇した僕達なのだが。
前期組の三年であるフィデルが中心となり、一年生トリオに的確な指示をする事で、難なくゴブリンの討伐に成功する。
まぁ、群れと言っても五匹だけではあったのだが。
フィデルが上手いこと立ちまわり、一年生トリオとゴブリンが一対一で戦える状況。
その状況を戦闘中にも関わらず、見事に作りあげて見せたのだから素直に褒める場面だろう。
それに、妹のノアも地味ではあるが、渋い活躍を見せていた。
やはり双子だからだろうか? フィデルが指示を出すまでも無くフィデルの意志を汲み取り。
敢えて魔法を当てない事でゴブリンを牽制し、フィデルが指示を出しやすい環境。或いは一年生トリオが一対一で戦える状況を作るのに密かに貢献していた。
そして、その状況が出来上がってからはサポートに徹し、その役割を完璧にこなして見せたノア。
ノアがいなければ、全員が安心して戦える状況が出来上がる事は無かったと言えるだろう。
だがしかし……
「ノア先輩……もっと派手な魔法とかで援護して下さいよ〜」
「そうっすよ! 何回も魔法外してたっすよね?」
「エ、エヘヘ……ご、ごめんね〜」
シータやエイブンにはそれが伝わらなかったようで、なんとも散々な評価を受けおり、そんなノアを見た僕は何となく不憫に感じてしまう。その為。
「牽制に使った『水球』のタイミングも、放った位置も完璧だったよ」
そう伝えると、影の功労者を讃える為にポンと頭に手を置き、クシャリと撫でる。
「ひうっ!? ア、アルディノ先輩!?」
僕の突然の行動にノアは驚いたのだろう。
少しばかり間抜けな声を漏らすと、肩をビクリと跳ねさせて見せるのだが――
「……アルディノ先輩に頭撫でられると、な、なんか落ち着きます」
そう言うと、頭に乗せられた手を振り払うことも無く、目を細めて見せた。
更に、その後の狩りも順調であった。
では、どのくらい順調であったか?と言うと。
「はぁはぁ……よし! 目標の十匹を狩り終わったぞ!!」
「や、やったね! お兄ちゃん!」
「全部ゴブリンだったけど……目標達成することは出来たっすね!」
「こ、これで、食料調達に専念できますね」
「ああ〜! もう疲れた〜! って言うか、二日で目標達成するとかわたし達凄くな〜い?」
皆が口にしているように、十匹の魔物を狩るという目標を二日目にして達成してしまったのだから順調としか言いようがないだろうし。
その内容も、完璧とまではいかないものの、危ない場面なども一つも無く、余裕で及第点を超えているのだから文句の付けようがない。
『これなら、オークとた戦わせてみても良かったかな?』
ゴブリンの死体を前に、今だ余力を見せる皆の姿を見てそのような事を考えていると。
「よし、じゃあ魔石を回収して、食料調達に取り掛かるぞ!」
フィデルが声を上げ、魔石回収に取り掛かかるのだが……
「って言うか、フィデル先輩……この時間から食料調達は無理っぽくないっすか?」
「えっ?」
エイブンの疑問によって、周囲を窺うように視線を彷徨わせるフィデル。
フィデルに釣られた僕も周囲を見渡してみると、周囲の木々は夕日に照らされ、赤く染まっている事に気付く。
「確かに、エイブンが言うように今日は無理かも知れないね」
「で、でも! 多少無理をすれば――」
「いや、夜の森って信じられない程の暗闇だよ? 『魔力感知』が出来るなら兎も角。
目視での周囲の確認なんて僕にだって出来ないからね。暗くなる前に野営場所に戻ることにした方が良いよ」
「で、ですが――」
僕の説得に浮かない表情を見せるフィデル。
恐らくではあるが、自分達の力だけで頑張ると言った手前、食料の面で僕に迷惑を掛けてしまうのを気にしているのだろう。
そう考えた僕は、皆を安心させる為「夕食の事なら気にしないで良いよ」と伝え、食料(芋虫)が入った革袋をポンと叩くのだが。
「それ芋虫じゃないですか……」
フィデルは露骨なまでに渋い顔をし、皆も覇気のない表情を浮かべる。
「いや、これだけじゃないよ?」
そう。実は皆がゴブリンを狩っている間に偶々食料を見つけていたので、バックパックには芋虫以外の食料が入っているのだ。
だが、それを伝えたところ、皆の顔は徐々に青ざめていき――
「ムカデ、芋虫と来たら何が来るんだよ……俺、今日死ぬかも……」
「も、もしかして蜘蛛……とかか?」
「蜘蛛!? いやあっ!? 想像したでけで鳥肌が! やだやだやだやだ!!」
一年生トリオは、まるで、この世の終わりかのように取り乱す。
その様子を見た僕は呆れたように溜息を吐くと、バックっパックに手を突っ込み、食料を取り出して見せる。
そして、その瞬間――
「「「ぎゃあああああああああ……あれ?」」」
「「きゃあああああああああ……あれ?」」
咄嗟に悲鳴を上げてしまったのだとは思うのだが、改めて僕が手にしているモノを見ると悲鳴を止めて見せた。
「え? これって野兎ですか?」
「そうだよ? まぁ、虫も美味しいけど、やっぱり野兎とかの方が美味しいしね。
偶々見掛けたから捕獲しておいたんだよ」
皆は呆けた表情を浮かべると、僕と野兎の間に何度も視線を行き来させ。
何往復かした所で状況を飲み込んだのだろう。
「今日の夕食は虫じゃない! 虫じゃないんですね!?」
「お、お兄ちゃん! 良かったね!!」
「虫食いの味覚馬鹿って訳じゃなかった!!」
「アルディノ先輩!! 僕は信じていましたよ!!」
「蜘蛛じゃなくて本当によかったよ〜!!」
皆はそう言うと、半べそになりながら僕へとしがみつく。
若干、凄い馬鹿にしているような言葉が混ざっている気もするが……
まぁ、それは兎も角。
みんなが喜んでくれている事は充分に理解する事が出来たし。
後輩達が喜ぶ顔を見れたのは素直に嬉しいというのが本音だった。
その為、少しばかり調子に乗ってしまい。
「そ、そんなに喜んでくれるなら、もっと喜んで貰えるような料理を作らなきゃね!」
僕はドンと胸を叩くと、割と自信のあった料理の腕を披露する事に決めたのだが――
「じ、じゃあ! 今日の夕食は『野兎の香草焼き〜芋虫のクリームソース添え〜』を振舞っちゃおうかな!」
僕が、声を弾ませながらそう伝えた瞬間。
一転して、皆の瞳から光が消えるのであった。
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