第150話 嫌な縁


「いやぁ、なんか楽勝だったわ」



 試合を終え、観客席に居る僕達と合流したダンテ。

 疲れを感じさせない様子でそう言うと、屋台で買ったのであろう飲み物を口へと運ぶ。



「うん、なんかビックリするくらいに楽勝だったね。

……こう言うのもなんだけど、見ててスッキリしたよ」


「ランドルには散々馬鹿にされて来たからな。俺もかなりスッキリしたわ」



 ダンテは言葉通り、晴々とした表情を浮かべると、今度は屋台で買って来たのであろう串肉を口へと運んだ。


 そんなダンテの様子を見ていたウルフ。



「ダンテのお肉美味しそうね。私お腹すいてきちゃったわ……」



 先程屋台で散々買い食いしたと言うのに、物欲しそうな視線をダンテへと向ける。



「あ、あげないっすよ! 試合後で腹減ってるんすから!」


「ええ〜、いいじゃない? 一口でいいのよ?」


「だ、駄目っす! ウルフさんそう言って絶対一口で全部食べますもん!」


「……食べないわよ?」


「なんすか!? その間は!?」



 流石ダンテ。ウルフの事をよく理解している。

 ウルフの事だから、一口を許した瞬間に串に刺してある肉は全て持っていかれる筈だ。


 そんな風に思いながら、ダンテとウルフのやり取りを見ていたのだが。

 このままではダンテの串肉がウルフの胃の中に収まるのも時間の問題だろう。 

 そう思った僕は、ダンテの串肉を守るべく話題を変える事にした。



「そう言えばさ、試合の最後の方でランドルと話してなかった?

此処からじゃ聞こえなかったんだけど、何話してたの?」


「ちょっウルフさん駄目ですってば!

あ、ああ、なんか俺は『ヴィルバーツ』だぞ! とか面倒臭いこと言い出したんだわ。

まぁ、ヴィルバーツと言えば大貴族だし、名前を聞けば俺が怯むとでも思ったんだろうけど。

試合に親だか爺さんの名前出すとかどうなのよ? ありえなくね?」



 ダンテはそう言うと呆れたような表情を浮かべ、串肉を口へと運ぶのだが。



「あ、あれ? 俺の肉がねぇ!? ちょっ!? なんで食っちゃうんすか!」



 話してる隙にウルフに串肉を食べられてしまったようで。

 先程まで肉の刺さっていた串を見ながら悲痛な声を上げる。


 ウルフはウルフでもっちゃもっちゃと頬を膨らませており。

 その姿を見た僕は、その大人気の無さに若干引いてしまい。

 「はぁ」と溜息を吐くと、ダンテには後で串肉を奢る事に決めた。



「確かに権力を笠にって言うのは良くないよね……

って言うか、ランドルが名前を出すからにはヴィルバーツって結構有名な貴族なんでしょ?

ダンテは構わず倒しちゃったけど、今後嫌がらせとかされないかな?」


「お、お前……ヴィルバーツも知らないのかよ……

魔族の俺でもヴィルバーツくらいは知ってるんだぞ? アルは人族なんだからそれくらい覚えておけよな?」


「ご、ごめん」


「ったく、アルは興味ある事とか魔法以外は本当に疎くて心配になるわ。

で、嫌がらせだっけ? 多分だけどあると思うぞ。

まぁ、俺も一応は魔族側の貴族だし、問題がややこしくなるだろうから、ヴィルバーツ侯爵家が出張ってくるって事は無いと思うんだけどよ。

ランドルは絶対根に持つだろ? 権力を笠に嫌がらせしてくるんじゃねぇかな?」


「それって……大丈夫なの?」


「まぁ。大丈夫じゃないと言えば大丈夫じゃないけどよ。

今まででも充分に迷惑掛けられてんだから今更って感じじゃね?」


「ああー、それは確かに言えてるかもね……」


「それに、学園がどう判断するか分かんないけどよ。

もしかしたら、不正を暴けばランドルは退学になる可能性もあるかも知れないじゃん?

まぁ、どっちにしたって成る様にしか成らない気がするし、深く考えても仕方ないんじゃねぇかな?」


「そっか、確かにそうかもね……

……本当、放っておいてくれたら楽なんだけどなー」



 そんな会話を交わすと、2人して力ない笑みを浮かべるのだが――



「つーか、エドワード侯爵の孫だからって自分が偉い訳じゃないのによ。

ランドルのヤツも大概だよなー」



 僕はダンテの言葉で目を見開くことになった。



「へ? エドワード侯爵?」


「おう、ランドルはエドワード侯爵の孫って話だぜ?

流石のアルでもエドワード侯爵の名前は聞いたことある感じか?」


「えっ……まぁ、うん」


「なんだ? なんか歯切れが悪いな?」



 ダンテが言う通り思わず歯切れの悪い言葉を返してしまったのだが……それも仕方が無いだろう。

 ダンテの言うエドワード侯爵と僕の知っているエドワード侯爵が同一人物であるのなら、ちょっとした因縁のある相手である。


 だからこそ歯切れの悪い返事を返してしまった訳なのだが。

 もしかしたらエドワード違いと言う可能性も否定は出来ない。

 そう思った僕は「エドワード侯爵って他にも居たりする?」などと言う間抜けな質問をしてみる事にすると――



「……アル? 何言ってんだ?」



 訳が分からないと言った視線を向けるダンテ。


 その視線と一言により、僕がした質問が的外れである事を知り。

 ダンテの言うエドワード侯爵が僕の知っているエドワード侯爵と同一人物である事を察する事が出来たのだが。

 それと同時に、何とも面倒な事実を知ってしまった事に頭が痛くなる。


 エドワード侯爵と言えばダンジョンにある中層の町で出会った際にメーテをお金で買おうとし。

 それを断った所、力づくと言うことで騎士を差し向けてくるような人物であった。


 まぁ、差し向けられた騎士はしっかり撃退して見せたのだが……

 それが原因で年齢制限による一定階層の侵入禁止などと言う、僕達に対する嫌がらせのような精制度を設けた人物で、浅からぬ因縁のある相手でもあった。


 まさか、ランドルがエドワード侯爵の孫なんて思ってもみなかったし。

 まさか、2代揃って嫌がらせを受ける羽目になるとは考えてもいなかった。


 嫌な偶然に本当に頭が痛くなってしまうが。

 そんな偶然を引き寄せてしまう自分の運にある意味感心していると――



「ヴィルバーツとは本当に縁があるんだな。

まぁ、良縁とは言えないのが残念なところだがな。頑張るんだぞアル?」



 まるで他人事のような事を言いだすメーテ。


 エドワード侯爵と揉め、事の経緯をダスティン副ギルド長に説明した際に。



『悪ふざけをした友人の息子を叱ってやった。と言うのに近いかもしれないな』



 と言う言葉を口にしており。

 メーテが何百年も生きていることを知った今。

 メーテ自身、ヴィルバーツ侯爵家とは浅からぬ因縁がある事を察することが出来るのだが……


 そんな自分の事を棚に上げてメーテはくつくつと笑う。


 何となく腑に落ちない部分があるのだが、皆の前では問い詰める事も出来ず。

 また今度話を聞くことに決め、話を戻そうとすると。



「って言うか、午前中の試合は終わりでしょ?

午後からの試合は一試合挟んでソフィアっちだから、その間にお茶でもしに行かない?」



 マリベルさんのそんな提案によって遮られる。 


 マリベルさんが言う通り、ソフィアの試合は午後に行われる4試合中2試合目で。

 ソフィアの試合が始まるまでには結構な時間があった。


 まぁ、このまま試合観戦をしていても良いと思ったのだが。

 ダンテが屋台で軽食を買っていた事から分かるように、試合終わりのベルトやラトラもきっとお腹がすいている筈で。

 その事に気付くと、マリベルさんの提案を受け入れる事にし――



「じゃあ、お茶でもしに行こうか?

それと、試合に出た3人が無事に勝ち進めたって事で、お祝いとして昼食を御馳走するよ」



 ささやかではあるが、お祝いとして食事を奢る事を提案すると。



「流石アル! 分かってんじゃん!」


「アルディノ、本当に良いのか?」


「おおー! 太っ腹にゃ! にゃに食べようかにゃー」



 3人はそんな言葉を口にするのだが――



「やった! アルの奢りならデザートも付けちゃおうかしら!」


「マリベル、あまり高いの注文してアルを困らせるなよ?

あっ、私は紅茶だけで構わんからな?」


「お茶も美味しいけど、頼むならやっぱりお肉が良いわよね〜」



 何故か奢ってもらう気満々の大人3人。


 ……まぁ、構わないと言えば構わないのだが、何となく腑に落ちないモノを感じていると。



「とりあえず腹減ったから早く行こうぜ!」


「んにゃ! 早速出発にゃ!」



 ダンテとラトラは急かすように僕の背中をグイグイと押し。

 そんなダンテとラトラの姿を見て、ベルトは呆れた様な表情を浮かべ。

 僕達は人で賑わう観客席を後にし、食事する為に会場を後にするのだった。

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