第148話 宣戦布告


「うわぁ……あれ、絶対潰れたよね……」


「あ、ああ……ラトラは今後怒らせないようにしないとな……」



 ラトラの試合を見終えた僕は、思わず内股になりそんな言葉を口にする。


 それに同意を示したのはベルト。

 試合を終えたベルトはラトラの試合の途中から合流し、一緒に試合を観戦していた訳なのだが。

 ラトラの事をそう評すると顔を青ざめさせていた。

 ちなみにだが、ベルトも僕と同様に内股である。


 そして、一緒になって観戦していたメーテとウルフ、それにマリベルさんはと言うと。



「暴漢に襲われそうになった際に潰したことがあるが、なんと言うか独特な感触で気分が悪かったのを覚えてるよ」


「そうなの? 私は人間では潰した経験が無いわね〜、オークとかと変わらないのかしら?」


「変わんないわよ、オークも人間も感触は同じね。

と言うか、こんな話してたら冒険者時代に夜這い掛けてきたヤツの事思い出しちゃったわ……」


「あら、それは大変ね? 大丈夫だったの?」


「当り前じゃない! しっかり潰して追いかえしてやったわよ!

今じゃ、冒険者辞めて女性として生きてるらしいからざまぁ見ろって感じよね!」



 なんだか、恐ろしい会話のやり取りをしており。

 僕とベルトだけでなく、会話が聞こえる範囲に居る男性陣の顔は揃って青くさせている


 と言うか、揃いも揃って潰した経験があると言うことに引いていると――



「お疲れにゃー!」



 試合を終えたラトラが明るい声を上げて合流する。


 ラトラの姿を見た瞬間、先程の試合の映像が浮かび一瞬後ずさりしそうになるが。

 それを堪えると、ラトラの健闘を讃える言葉を贈ることにした。



「途中、一瞬危ない場面があったけど、結果を見たら快勝って感じだったね。

おめでとうラトラ」


「塊を飛ばしてきた時は少し焦ったけど、ラトラちゃんからすれば余裕って感じかにゃ?」



 ラトラはそう言うと、笑顔を浮かべ胸を張って見せるのだが。



「嘘は良くないわよ? 試合展開だけ見れば余裕に見えたかも知れないけど。

私から見れば、2人の実力に大きな差は見られなかったわ。

……まったく、あんな一か八か見たいな戦い方して、少し焦っちゃったじゃない」



 ウルフに指摘されたラトラは「にゃははは」と気まずそうに笑い、頬を掻いて見せた。



 そうしてラトラの試合について話していると。



「そう言えばベルト、お前も一発いいのを貰っていたな?」



 メーテが思い出したかのようにベルトに話を振る。



「は、はい、避けられると思ったのですが、不甲斐ないことに喰らってしまいました」


「まったく、ベルトの持ち味は手数だろ?

無駄に中級魔法で対抗しようとするから遅れを取るんだ。

まぁ、試合後半の展開は褒めてやっても良いが……その辺はちゃんと理解しているのか?」


「は、はい! た、確かに対抗しようとしてしまったのかも知れません! は、反省します!」


「それなら良いんだが……とりあえずは進出おめでとうと言っておこうか」


「あ、ありがとうございます!」



 メーテの苦言を聞き、やたら畏まった様子で答えるベルト。

 この2人が会話をしている場面はあまり見掛けたことが無く。

 会話をしてるのを見掛けても、先生と生徒のやり取り言う印象を受けていたのだが。

 この様子では教官と訓練生と言う印象を受けてしまう。


 そんな2人の様子を見た僕は、今更ながらに旅行の間でどれだけしごかれたのだろう?

 そう思い、なんだか申し訳なく感じていると。



『席位争奪戦第三試合! コールマン=マクガレス選手対カート=ルクナー選手の――』



 審判員が声を上げ、その声により、試合が始まると考えたのだが……



『試合ですが、カート=ルクナ―選手が棄権したことにより。

第三試合はコールマン=マクガレス選手の不戦勝となります!』



 審判員は、コールマンの不戦勝を告げた。






 ◆ ◆ ◆






「先輩、棄権ってどう言うことっすか?」


「お、お前には関係ないだろうが!」



 席位争奪戦第三試合、審判員が棄権を告げた直後。

 人通りのない通路の片隅で、ダンテは先輩であるカート=ルクナーに詰め寄っていた。



「関係無くは無いっすよ。俺の友人は嵌められて予選で失格になりました。

それにこのトーナメント表、Aブロックに後期組がやたら固まってるじゃないっすか?

その他にも、比較的席位の低い人が多いし、挙句の果てには理由も無く棄権する人まで出る始末。

なんて言うかキナ臭いんすよね」


「た、偶々だろ! そ、そんなの知らねぇよ!」



 カートはそう吐き捨てると、ダンテを押しのけこの場から離れようとする。

 だが、ダンテはそれを阻止するようにカートの腕を掴む。



「逃げないで下さいよ? その様子だとなんか知ってんじゃないっすか?」 


「し、知らねぇって言ってんだろうがッ!」



 あからさま過ぎるカートの態度に、ダンテは半ば確信する。

 カートは事情を知っていると――そう確信したからこそ、カートを逃がすまいとダンテは指先に力を入れるのだが――



「それくらいにしたらどうだい? カート君が嫌がってるじゃないかぁ?」



 そんな言葉と共にダンテの手首が掴まれる。



「ぐっ!」



 ギリギリと締め付けられるような手首の痛みに思わずカートの腕から手を放してしまうダンテ。

 そんなダンテを他所に、ダンテの手首を掴んでいた者――コールマン=マクガレスは口を開いた。 



「大丈夫かなぁ? カート君?」


「だ、大丈夫です。コールマンさん」


「それなら良かった、ここは僕が対応するから君は帰ってゆっくり休みなよぉ」


「あ、ありがとうございます。そ、それでは失礼させて頂きます」



 お礼の言葉に片手をヒラヒラとさせる事で答えるコートマン。

 カートが通路を曲がり、完全に見えなくなったところでダンテの手首から手を放した。



「つッ……てか、なんでこんな所に居るんすかねぇ?

試合が終わったんなら帰るなり、観戦するなりしたらどうっすか?」


「そんなの僕の勝手だろぉ?

それに、急に棄権と聞かされたら同じ学園に通う者としては心配にもなるじゃないかぁ」


「心配……? その割にはそんな素振りも無く追い返したように見えたっすけど?」


「心配してる故に、ゆっくり休めと言ったつもりなんだけどねぇ?

どうやら、僕の気遣いと言うのが君には理解できなかったようだねぇ」



 ダンテは心の中で「嘘を付くな」と悪態をつく。


 大方、聞かれてはコールマンにとって都合の悪い話でもあったのだろう。

 だからこそ、カートの様子を覗う為にこの場へ訪れ。

 詰め寄られるカートの姿を見て、早々にこの場から追い帰したのだとダンテは予想して見せる。


 だが、そんな予想したところで確たる証拠も無く。

 それを口にしたところで、コールマンはとぼけて見せるだろう。

 そう思ったダンテは悔しい思いに耐えながらも、睨みつけるだけに留めたのだが――



「怖いねぇ、随分と嫌われてしまったようだけど。

友人を失格に追い込んだ相手となれば、それも仕方が無いことかねぇ」



 自白ともとれる言葉を聞かされたことでダンテは声を荒げる。



「手前ぇ! やっぱり手前ぇがアルを嵌めたのか!?」


「そうだよ? 正確には僕とランドル君と言った方が正しいかなぁ?

食べれば儲けもの、食べなければまた別の策を――と、思ってたんだけどねぇ。

くくくっ、まさか、あんな不味そうな物を食べるなんて思わなかったから随分と笑わせて貰ったよ」



 声を荒げるダンテに対し、煽る様な言葉を口にするコールマン。

 これでダンテが激高でもして手を出してくれたのであれば正当防衛を理由にし。

 試合に差し支える程度に痛めつけてやろう。そうコールマンは考えていたのだが……


 そんなコールマンの思惑とは裏腹に、ダンテは殴り掛かりたい衝動を抑えて見せる。


 正直に言ってしまえば「殴り掛かってやりたい」と言うのがダンテの本音だった。

 だが、此処で怒りに身を任せて手を出そうものなら、手痛い反撃を喰らうのは確実で。

 そうなった場合、友人を失格に追い込んだ相手。

 その片割れであるランドルと戦う余力が無くなるどころか、最悪の場言ここで棄権となる可能性さえ考えられた。


 それは、友人を嵌めた相手を自分の手で倒すと決めていたダンテにとって、不都合以外の何物でも無く。

 ランドルに勝ちさえすれば、嫌でも次の試合で戦うことになるのだから……

 そう自分に言い聞かせたダンテは、殴り掛かりたい衝動と共に思考を落ち着かせて見せた。



「へぇ、案外冷静なんだねぇ?」



 煽って見せたと言うのに、手を出してこないダンテをコールマンはそう評する。



「言う程冷静じゃないっすよ? そのむかつく面を殴りたくてしょうがないっすから。

つか、良いんすか? 俺にばらしちまって?

俺は容赦なくコールマンが不正をしたって言いふらしますよ?」


「好きにしたらいいさぁ。

まぁ、言いふらしたところで、生徒会会長であり学園第二席の僕と。

後期組の不正者の友人の言葉では、どちらが信用に足るか目に見えて明らかだけどねぇ?」


「んじゃ、アンタをその席から引きずりおろす事が出来れば、俺の言葉にも信用性が出るって事っすかね?」



 ダンテが口にした言葉は明確な宣戦布告。


 そして――



「やれるものならやってごらんよぉ?」



 ダンテの宣戦布告の言葉を受けたコールマンは酷薄な笑みを浮かべるのだった。






============


活動報告にも書かせて頂きましたが、こちらでもご報告させて頂きます。


「魔女と狼に育てられた子供」を読んで下さり、応援して頂いた皆様のおかげでカクヨムコン3の中間選考を通過する事が出来ました。

応援して頂いた皆様、本当にありがとうございます。


最終結果は5月と言う事らしく、どの様な結果になるかは分かりませんが。

読んでくれた、応援してくれた皆様の期待に答えられるよう、面白いと感じて頂けるようなお話を書いていきたいと考えていますので、これからも「魔女と狼に育てられた子供」と言うお話に、お付き合い、応援して頂けたら嬉しいです。


2018.03.09 クボタロウ

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