第143話 本戦前の観客席
修練場と言う名の本戦会場へ到着した僕達は、その足で観客席へと向かう。
そうして観客席へと辿り着いた訳なのだが。
観客席の様子を見て思わず驚きの声を上げてしまうことになる。
「なにこれ!? ほぼ満席なんじゃない?」
僕が言葉にした通り、観客席は人で埋め尽くされていて。
空いている席など殆ど見つからず、4人が並んで座れる席を探のは困難と言った状況だった。
それに加え、これから行われる本戦に観客達は胸を高鳴らせているのだろう。
何処かしこから会話が聞こえ、まだ試合も始まっていないと言うのに歓声までもが響いている。
予選の時もかなりの人が観戦していると思っていたのだが。
今日の本戦はそれ以上の人が席を埋めており、予選とは比べるまでも無い程に盛り上がりを見せていた。
そんな観客席を眺め、驚きながらも空席が無いか探していると。
「この様子では座れそうに無いな……もう少し早く来るべきだったか?」
僕と同じように観客席を眺めていたメーテがそんな疑問を口にする。
メーテが言う通り、もう少し早く来ていれば座って観戦出来たのかも知れない。
そう思った僕は「確かにそうかもね」と言って同意を示すのだが。
僕達の言葉を聞いたマリベルさんは呆れたように息を吐くと、僕の言葉を否定してみせた。
「少し早く来たところで席は空いてなかったと思うわよ?
2人が席位争奪戦にどんなイメージがあるか分からないけど、2人が思っている以上注目度が高いイベントなのよね。
だから、予選は兎も角、本戦だけは絶対見ようって言う人も少なくなくってね。
人によっては徹夜で並ぶ人なんかも居るし、席の売買なんかも行われてるらしいわよ?
まぁ、立ち見でも充分見えるっちゃ見えるんだけど、良い席で観戦したいって人も少なくは無いらしいのよね」
そう言ったマリベルさんの視線の先を見てみると。
身なりの良い男性がお金を渡して席を譲って貰っている最中で、まさに席の売買をしている瞬間だった。
「はぁ、なんか凄いんですね。
ソフィアが品評会みたいなものだって言ってたし、注目度が高いんだろうな〜。
とは思ってたんですけど、徹夜に席の売買ですか……」
「そうよ、今日は本戦の第一試合だからこんなもんで済むけど。
準々決勝や決勝なんかになると、下手したら入場制限が掛かるかも知れないわね。
開場の2、3時間前に並べば、立ち見で入場出来るかも知れないけど……今回は入場できないかもしれないわね〜」
そう言うとマリベルさんは思案顔を見せる。
何故、今回は入場できないかもしれないのだろう?
そう思った僕はマリベルさんに尋ねてみる事にすると――
「何かあるって……アルの友達に関係してることなんだから理解しときなさいよね?
まったく……仕方が無いから、このマリベルちゃんが教えてあげるわよ。
――この、最強に可愛くて可憐なマリベルちゃんがね!!」
マリベルさんは呆れるような表情を浮かべた後、ドヤ顔でそんな言葉を口にする。
それだけなら良かったのだが……
「ほら復唱しなさいよ!
最強に可愛くて可憐なマリベルちゃんありがとうございます、って!
ほら、さん、はい!」
有ろうことか訳の分からない要求を突き付けてくる。
正直、マリベルさんの要求を無視するのも手段の一つではないだろうか?
そうも思ったのだが、友達に関係していると言われてしまったら無視するわけにもいかず。
「さ、最強に可愛くて可憐なマリベルちゃんお願いします……」
渋々ながら要求を飲むことにする。
「なんで顔引き攣ってんのよ!? ……まったく素直じゃないんだから!」
僕の表情を見て不服そうなマリベルさんはではあったが、一応は満足したのだろう。
「今回は入場できないかもしれない」と言った、その理由を説明してくれた。
「席位争奪戦が毎年行われるのは知ってると思うけど。
通から言わせてもらえば、大きく変わり映えしないって言うのが本音なのよね。
だってそうでしょ? 本戦に進む選手と言えば大体が前期組の高学年ばかりだし。
試合内容をとっても学生の枠に収まっているて感じなんだもの。
それに本戦の大半は去年の席位争奪戦で席位を取った選手で埋められてるでしょ?
だから、予選だけ観戦して、目ぼしい選手が居なかったら本戦はパスって言う人も少なくは無いのよね」
マリベルさんはそこまで話すと僕の鼻先でビシリと人指し指を立てる。
「でも! 今回は違う!
まず、去年の席位争奪戦で見事に第一席を獲得したコーデリア=マルシアス!
この子は学生だけど、通を唸らせるだけの実力と華があるわ。
コーデリアの試合を観戦する為だけに会場に足を運ぶ人も少なくないでしょうね。
次にソフィアっち!
去年低学年ながらに第七席を奪取した期待の少女よ!
一部では『紅蓮姫』なんて二つ名で呼ばれ始めてるみたいで、ソフィアっち目当てに足を運ぶ人も結構いるみたいね。
そして、最後にダンテ、ベルト、ラトラっちの3人!
学園が創設されてから後期組が本戦に進むことなんて殆ど無かったらしいんだけど。
今回は同時に3人も本戦に進んでる上に、しかも今年入学したばかりの3人となれば。
毎年毎年、同じような試合を見せられていた通にとって、これはある意味大事件よ?
だから、今回は予選だけ見て本戦はパスしてた人なんかも大勢見に来ると思うの。
要するに、今回の席位争奪戦はいつもと違う!
そう判断した人達が観戦に来ることが予想されるから「今回は入場出来ないかもしれない」って言った訳なのよね」
説明を終えたマリベルさんは満足そうに胸を張り。
説明を聞いたメーテとウルフは納得するように頷いていた。
「そうだったんですね。みんな注目されてるんだな〜」
僕も皆が注目されていることを知り、そんな言葉がついて出たのだが……
「なに呑気なこと言ってるのよ!
アルが本戦に出場していたら、絶対盛り上がると思って楽しみにしてたんだからね!」
マリベルさんはそう言うと僕の胸倉を掴みガクンガクンと揺する。
「それに! アルなら絶対勝てると思って銀貨5枚も賭けたのよ!?
おかげで今月はお茶菓子を節約しなきゃいけなくなったじゃない!」
「そ、それは僕の所為なんですか!?」
流石にそれは理不尽な気がしないでもないが……
まぁ、予期せぬ形で期待を裏切ったのも確かなので。
「か、賭け金には足りないと思いますが。
会場を出てすぐの屋台でお菓子売っていたのでお詫びとして奢らせて下さい……」
マリベルさんの機嫌を取る為に、お詫びの菓子を奢ることを提案すると。
「分かってるじゃない! よし! 早速行くわよ!」
「えっ!? でも、もうすぐ試合が始まるんじゃ!?」
「平気平気! 入口の所なら全然間に合うから!」
マリベルさんは僕の手を引いて屋台へと向かう。
そして、そんなマリベルさんと僕の姿を見たメーテとウルフなのだが――
「マ、マリベル!? 手をつなぐとかずるいぞ!
わ、私だって最近て何か繋いでないのに!!」
「じゃあ、こっちの手は私が貰うわね?」
「なぁっ!? ウルフ! それは抜け駆けと言うヤツだろうが!」
「あら? メーテには言われたくない言葉なんだけど?」
「ぐっ……ぐぬぬぬぬ」
そんなやり取りを大声でしていた所為で、自然と周囲の視線が集まってしまう。
「不正した癖に美女2人に美少女に囲まれるとか良い身分だよな……」
「めちゃくちゃレベル高いじゃねぇかよ――糞がッ!!」
「ぐぎぎぎぎぎ、羨ましくなんかねぇし! 羨ましくなんか……爆発しろっ!!」
そして、周囲の視線と共に耳に届くのは思わず頭を抱えたくなってしまう会話で、更に下がって行く自分の評判にゲンナリしてしまうのだが。
そんな僕を他所に、マリベルさんとウルフは笑顔で僕の手を引き。
メーテは恨めしそうな表情を浮かべながら、僕達の後を追うのであった。
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