第142話 嵌められた

 席位争奪戦3日目。

 席位争奪戦を観戦しに来た人達で学園は賑わっており。

 出店で購入した食べ物を頬張る人々や、誰がトーナメントを勝ち進むのか?

 そんな話で盛り上がる人々を眺めながら、僕は盛大に不貞腐れていた。


 それもそうだろう。

 まさか、女子生徒を利用し不正となる強化薬を摂取させるなんて考えても居なかったし。

 まさか、早々に失格になるなんて考えてもいなかった。


 そして何より、男心を弄んでくれたって言うのがまったくもって気にいらない。


 それに加え……



「おい、アイツだよ……不正して失格になったったヤツ」


「聞いた聞いた。強化薬を使用して試合に挑んだんでしょ?」


「そうそう、やっぱり不良は不良ってことよねー」


「折角応援してやったのに、本当がっかりだわ」


「どうせ一次予選も卑怯な真似して勝ち上がったんじゃないの?」



 などと言う誹謗中傷の声がひっきりなしに聞こえてくるのだから尚更だ。


 元々不良と言う印象を払拭する為に参加したと言うのに。

 不良と言う印象に加え、卑怯者と言う印象まで付属されてしまったのだから本末転倒と言うかなんて言うか……本当に頭を抱えたくなってしまう。


 思わず溜息が零れそうになり、先程屋台で買った飲み物を飲むことで一緒に飲みこむのだが。

 飲み込んだ所で誹謗中傷の声が無くなる訳でも無く、結局は大きく溜息を吐くことになってしまった。


 そうしていると――



「まったく、女性の色香に騙されてからに……

し、仕方ないから色香に耐えられるよう添い寝をしてやろうじゃないか?

まぁ、私は添い寝なんか興味ないんだがな、渋々だぞ渋々? ……くふっ」


「あら、それは良いわね? 早速今日から実行しましょう」



 そんな訳の分からない理屈を展開するメーテとウルフ。

 渋々なんて言う割にはニヤニヤとした表情を浮かべ、自分の願望を隠し切れていない。



「えっ、未だに添い寝とかして貰ってんの? 正直引くんだけど?」



 そして、そんな2人の言葉を変に間に受けたのであろう。

 マリベルさんは言葉通り僕から一歩距離をとるとジト目を向ける。


 本来であれば反論の一つでもする場面ではあるのだが。

 今の僕はそんな気力もなく「そうですね……」と力なく答えるので精一杯だった。



 と言うか、何故3人がここに居るのかと言うと。

 今日から本戦が始まると言うことで、皆の成果を確認する為に観戦しに来たらしいのだが。

 実際は一次予選から観戦していたようで、二次予選での不甲斐ない姿もバッチリ見られていたようだ。


 その所為で――



『何で私が授業したのに二次予選で落ちてるのよ!? 馬鹿なんじゃないの!?』  



 マリベルさんに怒られる羽目になってしまった訳なのだが。

 失格までの詳しい経緯を話したところ――



『ぷすす、超間抜けで超ウケるんですけど』



 怒るよりも馬鹿にする方にシフトしたようで。

 散々いじられる羽目になってしまい、随分と精神を削られる事になった。


 まぁ、そんな僕の精神の話は兎も角。

 メーテにウルフ、それにマリベルさんは皆の試合を観戦する為に学園へと訪れ。

 予選も失格し、暇であろうと言うことで捕まった僕は、3人に付き合わされていると言う状況であった。 






 本戦の行われる会場へと向かうその途中。



「で、まずは誰の試合があるんだ?」



 メーテが尋ねた事で僕は記憶を探り、質問に答える。



「えっと、確か第一試合にベルトが出場する筈だよ」


「ほう、一試合目からとは……ベルトも貧乏くじを引いたものだな。

まぁ、本戦に出られない者と比べれば、貧乏くじでもくじを引けるだけずっとましか」


「ぐっ……」



 皮肉を込めたメーテの言葉がグサリと胸に刺さる。

 確かにメーテが言う通り、第一試合目と言う重圧の掛かる試合だとしても、出場できるだけマシだろう。



「と言うか、アル以外は全員本戦に進めたって言うのに……

はぁ、久しぶりに鍛え直さなきゃダメかしらね?」


「ウルフっちの言う通りよ! まったく! 師匠の顔に泥塗るなんて!」


「うぐっ……」



 追撃と言わんばかりのウルフとマリベルさんの言葉が胸に刺さり、思わず声が漏れる。


 ……そう、そうなのだ。

 ウルフが言ったように、唯一僕だけが本戦出場を逃しており。

 訓練兼旅行に参加したメンバーは全員見事に本戦出場を決めているのだから反論の仕様が無い。


 ちなみに、皆が本戦出場を決めた試合内容なのだが。


 ダンテは二次予選で前期組の一つ上の先輩相手に一歩も引かない試合展開を見せ。

 相手が油断した隙を見逃さず、前期休暇中に身に付けた身体強化の重ね掛けで一気に間合いを詰めることで相手の不意を突き。

 相手が対応に戸惑ったところに渾身の一薙ぎを胴に加えて見せた。

 その一撃で恐らく相手のアバラあたりが折れてしまったのだろう。

 そのまま蹲ると負けを認め、その事によりダンテに軍配が上がることになった。


 次にベルトなのだが。

 ベルトの対戦相手も前期組の一つ上の先輩だった。

 流石に長く学園に通っているだけあり魔法の錬度も高く、試合の序盤はベルトが押されると言う形で進み。

 傍から見れば魔法さえ当たればベルトが負けると言った状況だったのだが……


 しかし、それはベルトが思い描いていた展開だったようで。

 後一歩で勝てると思わされることによって、勝ちを焦った相手に無駄な魔力を消費させる為の演技だったと言うのだから驚きだ。

 その後は魔力が枯渇し始めた対戦相手に余裕を持って対応し、止めに3発の『水球』を放つことで勝利をもぎ取ることになった。


 ちなみに、決着が付いた直後。

 満身創痍になった相手に「良い試合でした」と言って手を差し伸べて見せるのだから。

 観客席に居る女子達の間から黄色い悲鳴も上がると言うものだろう。


 そして、最後にラトラ。

 ラトラの対戦相手なのだが――不運なことに最高学年の生徒が相手だった。

 しかも聞いた話では前回の席位争奪戦で本戦まで進んだ相手らしく。

 結果が分かり切った組み合わせに、観客席も冷めた反応を示していた。

 だがしかし――蓋を開けて見れば、ラトラの変則的で狡猾とも言える動きに相手は翻弄されるばかりで、使う魔法も振るう剣もラトラの皮膚に届くことすらなく。

 最終的には懐に潜り込まれた瞬間地面へと倒され、馬乗りになったラトラにボコボコにされてしまったのだから目も当てられない。


 見事下馬評を覆したラトラ。

 結果で言えば、二次予選を一番盛り上げたのはラトラの試合だったと言えるだろう。



 そんな感じで見事本戦出場を決めた友人達。

 ソフィアやグレゴ先輩なんかは席位持ちなので本戦からの参戦が決まっているので。

 いつものメンバーは見事に本戦出場を決める事になった。


 まぁ、僕は本戦に進めなかったが、皆が本戦に進めたのは嬉しいし。

 活躍する姿を見るのは楽しみなのだが……少しばかり気掛かりな事もあった。


 それは、これから行われ本戦の組み合わせ。

 Aブロック8名、Bブロック8名の計16名によりトーナメント形式で試合が行われることになっており。

 午前中にAブロックの四試合、午後にBブロックの四試合が行われる予定になっている。

 そして、今日の試合に勝利した者が翌日の準々決勝に進むことが出来ると言った感じではあるのだが。

 不運な事にAブロックにダンテ、ベルト、ラトラの後期組が固まっていた。


 まぁ、それだけなら運が悪かったで済む話だとは思う。

 しかし、Aブロックにランドルとコールマンの名前があるとなれば、嫌でも作為的なものを感じてしまう。

 本当に偶然の可能性もあるし、邪推し過ぎだと言えばそうかも知れないのだが……

 僕と同様に小細工を使われて失格――なんてことになってしまわないか気掛かりでもあった。


 そんな事を考え、少し不安になっているとメーテから声が掛かる。



「まぁ、本戦には進めなかったが。

ある意味、こう言った搦め手を体験できたと言うのは良い経験だろう。

この経験を活かし、今後は引っかからないようにするんだぞ?」


「ああー、ニコニコして毒とか盛って来る奴とかも居るものねー。

案外、経験してみないと警戒心って根付かなかったりするし、本当良い経験になったんじゃない?」



 メーテの言葉に同意を示すマリベルさん。

 そう言うものなのだろうか?などと思うが。

 マリベルさんが言う通り、同じような状況になれば嫌でも今回の事を思いだすだろう。

 そう考えれば確かに経験になったと言えなくはないが、ある意味トラウマとして残りそうで少しだけ不安でもある。

 そんな風に思っていると。



「て言うかさ? 抗議とかしなかったの?

事情を説明すればどうにかなりそうな気もするんだけど?」



 マリベルさんが不思議そうに尋ねる。



「一応は抗議したんですけどね……

そうしたら証拠の品を求められたので、焼き菓子? を渡そうと思ったんですけど。

控室に戻ったら何故か無くなってたんですよね……

確かに控室のテーブルの上に置いた筈なんですけど、ダンテ達に聞いても分からないみたいだし。

でも、「アルが会場に行ってすぐ他の選手にずっと話しかけられてたわ」って言ってたんで。

恐らくですけど、その間に回収されちゃったんじゃないかな? なんて考えてるんですけどね」


「成程ね〜。本当嵌められたって感じなのね〜」



 僕の話を聞いて頷くマリベルさん。


 確かに僕はランドルに嵌められたのだろう。

 出会いは方は最悪だったし、僕の事が嫌いなのは知っていたが。

 嫌がらせする為だけに、まさかここまでするとは……

 どうやら、ランドルの嫌がらせにかける執念を甘く見ていたようだ。


 ――しかし、失格になってしまい、抗議が受け入れられない以上、引きずっていても仕方が無いだろう。

 不良と言う印象に加え、卑怯者と言う印象を付属されしまったが。

 今後の行動で、払拭して行く方法をに頭を悩ませるほうが建設的だ。

 そう思った僕は気持ちを切り替えようとしたのだが――



「まぁ、しかしなんだ?

アルの手作りに掛ける執念は異常だな、普通、そこまでまずそうなら食わんだろ? くふふっ」


「優しさ? って言うより必死さが感じられるわよね~? わふふっ」


「ねーねー? 手作りの焼き菓子貰って嬉しかったの?

無理して口にしたのに、嵌められたって知った時ってどんなな気持ち? ぷすす」



 どうやら気持ちの切り替えをさせてくらないようで、小馬鹿にした表情を浮かべて見せる。


 そんな3人の表情に若干の殺意を覚えてしまうが、事実である為に反論することも出来ず……

 3人にいじられ続けた僕はゴリゴリと精神をすり減らしていくのだった。

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