第128話 旅行最終日の一幕

 皆が森の家を訪れて2週間が経ち。

 訓練と旅行の両立をお題目にした、僕にとっての里帰りも最終日を迎えることになった。


 そして、最終日を迎えた本日。

 今日まで訓練を頑張って来たご褒美と言うことでバーベキューをする事になっており。

 僕達は森の中にある湖の畔へと向かっていた。


 本来であれば、庭でのバーベキューを予定していた筈なのだが。

 急遽予定が変更された為に、湖の畔へと移動している最中と言う訳だ。


 では何故、予定が変更されたかと言うと――



「訓練することも出来て、旅行気分も味わえるって話だったのに。

旅行気分なんて全然味わえて無いじゃないですか!!」



 ダンテからそのような物言いが入ったからだろう。


 まぁ、確かにダンテが言う通り、森の家に来てからと言うもの訓練ばかりが続き。

 旅行らしい事など碌にしておらず。

 ダンテからそんな不満が漏れてしまうのも仕方が無いことに思えた。


 だがしかし、メーテとウルフからしたらその物言いには不満があったようで。



「森にピクニックしに行ったり、洞くつ探検だってしたじゃないか?」


「そうよ。川に泳ぎに行ったりもしたじゃない?」


 

 2人はそう言って反論して見せたのだが。



「ピクニック!?  魔力枯渇状態で魔物の居る森の中に放置されたアレがピクニックだと言うのか!?」


「洞くつ探検て……まさか、ゴブリンの巣に放り込まれた事を言ってませんよね?」



 まずはベルトとソフィアから物言いが入り。



「川に泳ぎに行った!? 両足を縛られて川に放り込まれることを泳ぐとは言わないっすよ!!」


「本当にゃ!! お花畑で手招きするおばーちゃんと危うく合流する所だったにゃ!!」



 続いてダンテとラトラから物言いが入る事になる。


 流石にこの発言を聞いてはメーテとウルフの肩を持つ事も出来ず。

 と言うか、むしろ友人たちに対する扱いに引いてしまい。

 隣で話を聞いていたマリベルさんも引いてしまったようで、僕とマリベルさんは2人に対して冷たい視線を送る事になった。


 そして、そんな視線を向けられたからだろうか?

 メーテとウルフはバツが悪そうな表情を浮かべると。

 当初予定していた庭でのバーベキューを取り辞める事を告げ。

 この場所でなら旅行らしさを味わえることが出来るだろう。

 と言うことで湖の畔でバーベキューをする事を提案し。

 その提案を受け入れた結果、湖の畔へと訪れることになった訳である。






 そう言った経緯があり、湖の畔へと訪れた僕達。


 適当な石を見つけると竈を組み、家から持参した大きな鉄板を竈の上に乗せる。

 雑な作りではあるが、バーベキューをするには何ら問題は無いだろう。


 その他にも持参した肉や野菜、ここに辿り着くまでに森で採取した茸類や果物などを布の上へと並べて行く。


 そうして準備している間にも、より居心地を良くとでも考えたのだろう。

 メーテは魔法を駆使して立木を伐採すると、魔法で加工を施していき。

 切り株をL字型にしたような椅子をあっという間に全員分作りあげる。


 更には切り株を脚にし、その上に一枚板を乗せることで簡易的なテーブルまで作ってしまうのだから流石としか言いようが無い。


 これで、バーベキューの準備は整い、いつでも始められると言う状況になったのだが。



「おっしゃあ!! 湖だ! おいアル! 泳ごうぜ!」


「んにゃ! まずはご飯より遊ぶ方が優先にゃ!」



 まずは遊び優先との事らしく、ダンテとラトラはそう言うと服を脱ぎ始めようとする。

 だが、ダンテは兎も角、ラトラは女の子だ。

 着替えるにせよ、ここで脱ぎ出すのは流石に問題があるだろう。


 そう思った僕は慌てて止めに入ろうとするのだが。

 どうやら間に合わなかったようで、ラトラは勢い良く洋服を脱いでみせ。

 思わず目を覆ってしまう。



「アル? なにやってるにゃ?」


「な、なにやってるって! ラトラこそ何してんの!?

女の子なんだからもう少し慎みを持ってと言うか、なんて言うか……」



 目を覆う僕を見て、ラトラは不思議そうな声色で声を掛け。


 

「お前、何想像してんだよ?」



 ダンテは呆れたような声を出す。


 それを疑問に思った僕は、恐る恐る目を覆っていた手を離すと。

 目に映ったのはチューブトップにショートパンツと言った格好のラトラ。  


 前世での水着と比べればデザイン性や華やかさなどに欠け。

 比べるまでも無いシンプルなデザインではあるものの。

 どうやら、しっかりと水着を着用していたようで、ホッと胸を撫で下ろしたのだが……



「本当、にゃにを想像してたんだか。

もしかして、にゃにも着てないとでも思ってたにょか?」



 当たらずとも遠からずなことを言われてしまい。

 ホッとしたのも束の間で恥ずかしさから顔を赤く染める事になってしまった。 






 早とちりした所為で要らぬ辱めを受けることになってしまったが。

 そんな僕を他所に、皆は湖で水遊びを始める。


 旅行に出発する前に、湖や川があると言う事を伝えられていたので。

 皆はしっかりと水着を用意していたらしく、今は水着に着替えて水辺で楽しんでいる最中だ。


 ベルトなんかはあまり湖と聞いても反応しなそうに見えたのだが。

 やはりそこは子供なのだろう。ベルトもしっかりと水着を用意していたようだ。


 そんな皆の様子を眺めながら、微笑ましい気持ちでいると。



「おい! アル!そっち飛んでったぞ!」


「任せてよダンテ! いくよーソフィア!」



 薄い皮を張り合わせ、空気を詰めた球体。

 所謂ボールが僕の方へ飛んでくる。

 ソレをポンと軽くはじくと今度はソフィアの方へと送る。



「ま、任せて!」



 そう言ってボールを弾くソフィア。

 ソフィアもラトラ同様、チューブトップにショートパンツと言った格好をしているのだが。

 流石はお譲様と言ったところなのだろう。

 その水着は髪の色と同じ赤で統一された上、刺繍なんかも施されており。

 ラトラが着用している水着と比べたら、随分とお金が掛かってそうに見えた。


 そんな事を考えている間にもボールを弾いては楽しそうな声を上げる。


 僕としてはボールなんて必要ないとは思ったし。

 子供じゃないから水場でボール遊びなんか全然興味などない。


 だが、僕は別としても皆は興味があるかもしれないので渋々ボールを作ることにしたのだが。

 皆の楽しそうな様子を見ていると、やはり作って正解だったと思えてくる。


 まぁ、作りあげるのに徹夜したし。

 「お、俺達はボールが無くてもいいから」なんて止められはしたけど。

 この様子を見れば、その言葉もきっと照れ隠しかなんかだったのだろう。


 ――まったく、ボール遊び何かに夢中になるなんて本当に皆は子供だな。

 そんな風に思い、無邪気に遊ぶ皆の姿を眺めていると。



「うはー! なにこれ! 中々楽しいわね!」



 見た目子供だから違和感無く溶け込んでいたが、マリベルさん混ざっていることに気付く。


 そんなマリベルさんの格好もソフィアやラトラと同じような水着で、この形の水着がこの世界では一般的な物だと言う事を今更ながらに知る。


 そして――



「中々楽しそうじゃないか? 私達も混ぜてはくれないか?」


「なんか丸い物がポンポン跳ねてると追いかけたくなっちゃうのよね」



 そう言ったのはメーテとウルフ。

 やはり皆と同様の水着を着用しているのだが……



「……持つ者と持たざる者」



 不意にそんな声が上がり。

 その言葉を聞いた皆の視線は2人に――いや、2人の胸に集まる。


 そして、その視線は2人の胸を交互に行き来し。


 ある者は憐憫の眼差しを。


 ある者は畏敬の眼差しを。


 またある者は絶望するかの如く膝を付いた。


 そんな皆の様子を見たメーテ。




「ふむ、今日は頑張ったお前達を労おうと思っていたんだが――――――やめだ」



 そう言うと『水球』を一つ浮かせたのを切っ掛けに一つ、また一つと発現させていき。



「ち、ちょっとメーテっち?

流石にこれは多すぎじゃないかしら?」



 メーテの周囲を囲むように30……いや50近くの『水球』が発現されることになる。


 そして―― 


 

「誰が持たざる者だっ! そして憐れむような目で見るんじゃない!」



 その言葉と共に『水球』を放つと、穏やかな空気は一変し、阿鼻叫喚の地獄と化すのであった。






 その後、平身低頭の姿勢を見せることで、どうにかメーテを宥めることに成功した僕達。


 メーテを宥める事も成功したので、気を取り直して水遊びを再開しようとするのだが。

 メーテの放つ水球から逃げ回ったことにより体力が底を尽きかけていたようで。

 湖から上がる事にすると、バーベキューの鉄板を囲み始めた。


 そうして、鉄板を囲み湖で少し冷えた身体を温めていると。

 熱せられた鉄板に肉や野菜が並べられていき、ジュ―と言う食欲をそそる音と匂いが五感を刺激し始め、喉の奥がゴクリ鳴る。


 それから程なくして、メーテは食材に火が通ったと判断したのだろう。



「そろそろ焼き上がったんじゃないか? 肉だけじゃなくしっかり野菜も食べるんだぞ?」



 そう言うと、木製の皿に肉と野菜を取り分けて行き。

 皆はお皿を受け取ると、口へと運び頬を緩ませるのだが。

 ダンテとラトラはあまり野菜が好きでは無いようで、お皿を受け取ると露骨に渋い顔をして見せる。


 だが、メーテの恐ろしさを先程嫌というほど味わった所為だろうか?

 渋い顔はしたものの、文句も言わずに口へと運び、野菜の苦味に顔を顰めさせていた。


 そんな風にしてバーベキューを楽しんでいると。



「そう言えば、アルは席位争奪戦には参加するの?」



 不意にソフィアに尋ねられる。


 確か席位争奪戦と言うのは、年に一度トーナメント方式での試合を行い。

 その結果に因って席位と言う学園での序列を与えられる大会だと言う記憶があった。


 僕個人としては席位と言うものに特に拘りがある訳では無いのだが。

 なんとなく興味はあるし、皆が参加するのであれば参加してみるのも面白そうだと考えていた。


 しかし、自分の実力が学生の枠に収まっていないと言うのを知った今。

 参加して下手に大会を混乱させるのもなんとなく気が引けてしまうと言うのも本音であり。

 ソフィアの質問にどう答えていいか迷ってしまい、逆に質問してしまう。



「うーん、悩みどころだよね。

ソフィアは参加するつもりなんだよね?」


「この旅行に参加したのも少しでも実力を上げて、次の争奪戦で順位を上げる為だもの。

勿論参加するわよ!」



 ソフィアはそう言うと「次の争奪戦が楽しみだわ」と言って不敵に笑って見せ。

 そんなやり取りを交わしていると。



「俺も参加するぜ! ウルフ師匠の訓練の成果を見せつけてやんきゃいけないしな!」


「折角厳しい訓練を受けたんだ。

どれだけ強くなったのか、争奪戦で自分を試してみたいと思っている。」  


「ウチも参加するにゃ! トーナメントであたっても手加減しにゃいからな?

ベルトとダンテ! 覚悟しとくにゃ!」


「……なんで俺とベルトだけんなだよ?」


「……アルとソフィアは当たった時点で勝てる気しにゃいもん」


「あー……それは確かに」




 皆も参加するつもりのようで、争奪戦に対する意気込みを口にする。

 まぁ、少しばかり諦めが入っているような気もするのだが……


 それは兎も角。

 皆は争奪戦にやる気を見せており、そんな姿を見た僕は。

 参加するのも面白そうだけど、今回は皆の特訓の成果を見る方に周ろうかな?

 そんな風に考え始めたのだが―― 



「皆も参加するみたいだし、アルも参加してみたら?

良い成績を残せれば、最近のアルに対する不良みたいなイメージも拭えるかも知れないじゃない?」



 ソフィアの提案に目から鱗を落とすことになり。



「流石ソフィア! 凄い名案だよ!」 



「ととと、当然じゃない! ……うへへぇ」



 素晴らしい提案をしてくれたソフィアに感謝の言葉を口にすると、争奪戦に参加することを決める。 


 こうして全員が争奪戦に参加することを決め盛り上がる中。



「なんか青春て感じよね〜。

いいないいな〜。私もあの頃に戻りたい!!」


「マリベルは充分若いじゃないか? 恐らくだが年齢で言えば――」


「ストーーーーップ!! その先を言ったら戦争よ!!」


「ふぉうふぁの? ふぇんほうはふぉふぁいふぁね(そうなの? 戦争は怖いわね)」


「……ウルフ、お前はまだ肉を食ってたのか?」



 大人達はそんな会話を交わし、旅行最終日は過ぎて行くのだった。




============


近況ノートにも書きましたが、目を通していない方もいると思いますので、こちらでもご報告させて頂きます。


今回の投稿を持ちまして、少しの間お休みさせて頂くことにしました。

理由は作品を見直したいと言うのと、ストックがあまりない状況で焦って投稿し、話に矛盾が出るのを防ぎたかったからです。

毎日更新を楽しみにしていた方には本当に申し訳ないと思いますが。

ご理解頂けたらと思います。本当にごめんなさい。


そして、今後の投稿予定なのですが。

2月の上旬には投稿を再開させて頂こうと考えており。

投稿を再開してからは、恐らく毎日更新と言う訳にはいかなくなると思います。

ですが、なるべく投稿間隔を開けないように努力しますので。

引き続き「魔女と狼に育てられた子供」と言うお話にお付き合い頂けたら嬉しいす。


それと、皆様のおかげでコンテストも順調のようで。

長い間ランキングに名前を載せて頂いております。

レビューの星や作品のフォロー、応援のハートや応援コメントをくれた皆様。

そして、この作品を読んでくれている全ての皆様には感謝の気持ちでいっぱいです。

本当にありがとうございます。


2018.01.24 クボタロウ

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