第127話 それぞれの成果

 時間の流れと言うものは早いもので。森の家に来てから明日で2週間が経とうとしていた。


 そして現在。

 僕達は午前中から庭へと集まり、メーテの話に耳を傾けていた。



「――と言う訳なのだが……

その様子では、あまり自分の実力が上がっていることに気づいていないようだな」



 メーテが語って聞かせていたのは今までの訓練でどれくらい実力が上がっているかの説明だったのだが。

 訓練を受けていた4人はあまり実力が上がったと言う実感が無かったのだろう。

 揃いも揃って首を傾げている。


 そんな4人の様子を見たメーテは。



「まぁ、実技は殆どなかったしな。仕方無いと言えば仕方無いか……」



 そう言って溜息を吐くと、ソフィアのことを呼び寄せる。



「よし、ソフィア。

『魔装』――いや、今は『魔法剣』だったか? ソレを使って見せてみろ」


「は、はい」



 ソフィアはメーテの言葉に従い、腰に差してある剣を抜く。


 そして――



『火天渦巻き剣を纏え!』



 魔法剣を発現させる為に口を開いたのだが。

 続いてソフィアの口から漏れた言葉には多分に驚きが含まれていた。



「あ、あれ!? な、なんか炎が弱くなってません!?」



 そう言ったソフィアの視線の先にあったのは炎を纏った剣なのだが。

 以前見た時の荒々しい程の炎の姿は何処にも無く。

 ソフィアが言う通り、弱々しくも見える炎が剣を纏っていると言う状態だった。


 その所為もあってか、メーテに集まる皆の視線は懐疑的なものになり。

 皆の懐疑的な視線を受けたメーテは慌てて口を開く。



「な、なんだその目は!? 

ソ、ソフィア! そのまま少し待っていろ!」



 メーテはそう言うと家の中へと駆け込み。

 少しした所で一抱えほどある岩のような物を持ちだして戻って来る。


 そして、その岩のような物を地面へと置くと。



「切りつけて見ろ!」



 岩のような物を切りつけるように指示し。

 ソフィアは状況を飲み込めていないのか困ったような表情を浮かべるものの。

 メーテに従い岩を切りつける事に決めたようで、鋭い一閃を放つ。


 すると、まるで熱せられたバターナイフでバターを切る時のように。

 ヌルリと刃が食い込むと、見事に両断して見せた。


 その様子を見たメーテは満足そうに頷き「な? 凄いだろ?」と口にするのだが。



「えっと……確かに以前より簡単に切断出来ましたけど……」



 ソフィアにとってはあまり変化が感じられなかったのだろう。

 口にする言葉はなんとなく歯切れが悪い。

 その所為もあり、皆がメーテに向ける視線は未だ懐疑的なものであった。


 だがしかし。

 僕だけはメーテの用意した岩のような物。その正体を理解しているからだろう。

 目を見開き驚愕の表情を浮かべるのだが――



「ア、アル? な、なんか凄い顔してるわよ?」



 正体を知る筈もないソフィアは僕の表情を見て不思議そうに尋ねた。



「……それ、ゴーレムの外殻」


「へ?」


「それゴーレムの外殻なんだけど」



 そう。岩のような物。それはゴーレムの外殻であった。


 僕が切断出来るようになるまで、散々苦労する羽目になったゴーレムの外殻。

 それを2週間足らずで切断するに至ったと言うのだから、僕が驚愕の表情を浮かべるのも無理ないことだと思う。


 そして、ゴーレムの外殻だと伝えられたソフィアはと言うと。



「そ、そんなまさか〜?

ゴーレムの外殻なんて今の私に切断できる訳ないじゃない――で、出来ないですよね?」



 自分がしたことに気付いていないのか、恐る恐るメーテに尋ねるのだが。



「出来たではないか?

なんなら魔法剣では無く普通に切りつけて見るといい。

本当に只の岩なら切断に至らなくても多少の傷くらいは付く筈だからな」



 返ってきた言葉はそんな言葉で。

 ソフィアは魔法剣を解除すると、剣を収め、抜剣の勢いを持って切りつけて見せる。


 しかし。



「堅っ!?」



 今度は先程と同じようにはいかず。

 切りつけた勢いのままに剣は弾かれ、ゴーレムの外殻には傷一つ残っていなかった。

 その事により、ソフィアは漸くゴーレムの外殻を切断した事実を受け入れ――いや、受け入れきれなかったのだろう。

 顔を引き攣らせ、なんとも言えない笑顔を浮かべることになった。


 そんなソフィアを他所に。



「まったく……あれだけ訓練して弱くなる筈が無いだろうが。

元よりソフィアの魔法剣が派手に見えていたのは、魔力の制御が拙く分散してしまっていたから派手に見えただけだ。


約2週間の訓練で魔素への干渉、それに魔力の制御。

それを感覚で身に付けた結果、魔法剣を纏う炎の収束、威力の向上に成功しと言う訳だな。

要するに、無駄な脂肪が筋肉へ変わったと言えば何となくわかるんじゃないか?」



 メーテは魔法剣についての説明を終えると、見事なドヤ顔を見せる。


 その説明聞いた皆は、ゴーレムの外殻とメーテのドヤ顔に何度も視線を行き来させ。

 そこで漸く、自分の実力が上がっていると言う言葉を信用したようで。

 メーテを見る目を懐疑的な物では無く、キラキラとしたものへと変化させて行くことになった。






 その後、実力が上がったと言う事を実感させる為。

 一人一人の成果を見て行くことにしたメーテ。


 そうして、皆は約2週間に渡る訓練の成果を見せることになったのだが。

 正直言って驚かされてしまった。



 ダンテはいつの間にか循環させる身体強化や身体強化の重ね掛けを身に着けていたし。

 そもそもの剣技から無駄が削ぎ落されているように感じた。


 ベルトは『水球』を同時に7発まで使用可能になってる上。

 メーテが中級魔法を使うように指示すると、見事に使用して見せたし。

 一つ一つの魔法の威力が格段に跳ね上がっていた。


 ラトラもダンテ同様に循環させる身体強化に身体強化の重ね掛け。

 もともと魔法を補助的な使い方に使用する傾向が強いラトラだったが。

 循環させる身体強化を覚えたことで、身体強化と魔法をの繋ぎの部分が軽減し。

 より一層、動物的で狡猾的な動きを身に着けることになっていた。



 そんな皆の成果を見た僕は、自分のことのように嬉しくなり。

 思わず頬を緩ませていたのだが。



「そう言えばアルはどうなんだ?

転移を覚えたのは知っているんだが、それからの進展は聞いていなかったからな。

マリベルに聞いても ナ イ ショとか言われてしまうし……」



 メーテは僕の進展が気になったようで、身を乗り出して尋ねてくる。

 それはウルフも同様なようで。



「それは私も気になるわ」



 今まで黙って僕達の様子を眺めていたウルフも身を乗り出して尋ねてきた。


 だがしかし。

 メーテが言った通り、マリベルさんに進展は内緒にしとけと言われていたので。

 どう答えて良いか迷ってしまい、助け船を求めてマリベルさんに視線を送ってみると。


 ウルフ同様今まで黙っていたマリベルさんは、こくりと頷いて見せた後に。



「マリベル先生の優秀さを見せつけてやんなさい!」



 そう言って内緒にしていた成果を見せつける許可を下ろした。



「じゃあ、許可も出たことだし僕の成果も見せるよ」



 そう言うと僕は魔法陣の描かれた白い手袋をはめ。

 両手の指を組むとグッグッと指を伸ばし関節を鳴らす。



「それじゃあ、見ててね」



 その言葉と共にポケットからビー玉くらいの鉄球。

 転移魔法陣が刻まれた、転移する為の媒介である鉄球を取り出し上空へと弾く。


 次の瞬間。


 僕は転移を発動させると、上空に姿を現す。

 そして、同じように鉄の球体を水平方向に飛ばし。

 自由落下中に転移を発動させ、水平方向へと飛ぶ鉄球の元に姿を現した。


 後はそれの繰り返しだ。

 上下左右、不規則とも言える動きを繰り返す様は、見る人が見ればUFOの変則飛行を思い出すに違いない。


 そんな僕の様子を見て、皆は「おぉ〜」と言う驚きの声を上げるが……



「な、なんか気持ちわりぃな……」


「そ、そうだな、なんと言うか目が回ると言うか……」


「そ、そう? 私は凄いと思うわよ……うん」


「にゃはは! なんかこんな動きする虫を見たことあるにゃ!」



 驚きの声の後に聞こえたのは友人達の何とも言えない評価で。

 思わず顔が引き攣ってしまう。


 マリベルさんもそんな評価が不満だったのだろう。

 少しだけ……いや、少しでは無いな。

 思わずこっちが引いてしまうくらいに顔を引き攣らせていた。


 そんなマリベルさんを見た僕は、このままではマリベルさんの顔に泥を塗ってしまう。

 そう思ってしまい、正直成功するかは分からないのだが。

 もしかしたら可能ではないか?と思っていた一つの技を披露することにした。


 僕は地面へと降り、ソフィアが切断したゴーレムの外殻を掴む。

 そして、手のひらに描かれた転移魔法陣を添えると――



『開けっ!』



 その言葉と共に手のひらが淡く光り。

 それとほぼ同時に後方でトスンと言う音が聞こえ、皆の視線がそちらへと向く。


 そこにあったのは僕が弾いた鉄球と円柱状の硬質そうな物体。


 再び、皆の視線が僕へと向き。

 そのまま手に持っている円柱状にくり抜かれたゴーレムの外殻に注がれると。

 皆は目を大きく見開き、驚きの表情を浮かべた。


 その反応を見た僕は。

 これで、マリベルさんの顔に泥を塗らずに済んだかな?

 そう思い、顔を綻ばせるのだが……



「そんなの教えてないからぁーーーーーーーー!!」



 マリベルさんはそう言うと、手足をジタバタとさせる。



「そ、そうですけど……マリベルさんのおかげですよ?」



 「私不満です」と言うのがありありと分かるマリベルさんの様子を見て。

 マリベルさんのおかげだと言う事を強調して伝えてみるも。



「うるせぇーーーーー!!」



 そんな言葉と共に見事なボディブローを喰らってしまい。

 なんで?と言う疑問を口にする間もなく。

 綻んだ顔を一変して苦痛に歪ませることになのであった……

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