第123話 転移魔法陣の使い方

皆が修業兼旅行と称して森の家に訪れた翌日。

僕達は朝食を取り終えると庭へ集合することになった。



「さて、昨日伝えた通り、今日から2組に分けての訓練を開始することにする。

では、ソフィアとベルトは私が。ダンテとラトラはウルフが指導するから別れてくれ」



 メーテがそう言うと、皆は言われた通りに別れて行く。



「よし、別れたな。

それでは出発するとしようか」



 そう言うとメーテ組とウルフ組は森へと向けて歩きだそうとする。


 大雑把な今日の日程を聞いた限りでは。

 どうやら森の魔物と戦闘を行うことで、より確かな実力を測り。

 更に今後の予定を煮詰めていくという方針らしい。


 そんな2組を見送る僕とマリベルさん。


 皆の姿が完全に森の中へ来たところでマリベルさんが口を開いた。



「んじゃ、こっちはこっちで始めましょうか」



 そう言ったマリベルさんが手に抱えているのは数冊の本と紙束にペン。

 それを庭先にあるテーブルの上に置くと。

 何処から持ち出したか分からないメガネを掛け、くいっとメガネの端を持ち上げる。


 そんなマリベルさんの様子を見た僕は。

 異世界でも女教師と言うのはこんなイメージなのだろうか?

 などと言う疑問を浮かべるのだが。



「マリベル先生の授業は厳しいからね!」



 僕の疑問を他所にマリベルさんは実にノリノリな姿を見せる。


 どうしてこうのような状況になったかと言えば。

 昨日のマリベルさんの手合わせで見事に敗北してしまったからだろう。


 更に言えば、マリベルさんの戦闘方法を見ていたメーテが。

 是非にその戦闘方法をアルに教えて上げて欲しいと伝え。

 それを了承したマリベルさんが、それにはまず座学から学ぶ必要があると告げたからだろう。


 僕はマリベル先生の言葉に。



「お手柔らかにお願いします」



 そう伝えることにすると、懐かしの青空教室が開かれることになった。







「それじゃあ、授業を始めるわね」


「はい、宜しくお願いします!」



 マリベルさんは「中々良い返事ね」と言うと一冊の本を開くように指示する。


 その本の題名は『転移魔法陣の基礎と応用』。

 マリベルさんは僕が本を開いたのを確認し、更にページの指定をすると授業を始める。



「さて、まずは何故転移魔法陣について学ぶ必要があるのか?

そこら辺は理解しているわよね?」



 何故転移魔法陣について学ぶのか?

 それは、マリベルさんの戦闘方法と言うのが。

 転移魔法陣を利用し、短距離の転移を主軸にした戦闘方法で。

 ソレを身に付けるには転移魔法陣と言うモノを深く理解しなければいけないからだろう。


 僕がマリベルさん質問に「はい」と返す。



「理解してるみたいね。

それじゃあ、まずは転移魔法陣の基礎から説明していくわね」



 マリベルさんはそう言うとペンを手にし、紙に図を書きながら説明していく。



「まず転移魔法陣での転移方法には『固定式』と『流動式』の2種類があるの。

確かダンジョンギルドには行ったことあるのよね? あそこにあるのが固定式ね。

それで、私が戦闘に使っているのが流動式」



 「違いが分かる?」とマリベルさんは尋ねるが、まったく理解できない僕は首を横に振る。



「普通の人からしたら転移魔法陣に対する認識なんて便利な移動手段って感じでしょうしね。

固定式とか流動式とか言われれてもそんな反応になっちゃうわよね〜。

まぁ、いいわ。仕方が無いからアルでも分かる様に説明してあげるわ。

このマリベル様がね!」



 マリベルさんは何処から持ち出したのか分からないが。

 指し棒を取り出すと、僕の鼻先にビシッと指し説明を続ける。



「固定式と言うのは、例えるならトンネルみたいなものね。

A地点からB地点、B地点からA地点へ転移する為だけの転移魔法陣が固定式。


それで、紐付けた転移魔法陣があればA地点からB、C、D地点へと転移出来るのが流動式ね」



 そこまで聞いた所で、それならば流動式の方が便利なように感じてしまい。

 何故、ダンジョンギルドは流動式にしないのだろう?

 そんな疑問が浮かび尋ねてみる事にしたのだが。



「ぷすす、超浅はか」



 凄い小馬鹿にした表情でそんな事を言われてしまい若干イラッとしてしまう。



「まぁ、確かに便利そうに思えるけど。実際はそうでもないのよね。

A地点の転移魔法陣からB、C、D地点へは転移出来るけど、B、C、D地点にある転移魔法陣からは転移することは出来ないわ。

固定式が往復可能なトンネルに対して、流動式は一方通行。

こう言えば、言うほど便利じゃないって分かるんじゃないかしら?」



 成程と頷く。

 転移したは良いが戻ってこれないとなると、少々不便だと言えるだろう。


 しかし、移動する上では充分便利な気がするし。

 使い方によっては、固定式よりも有意義な使い方があるのではないだろうか?

 そう考え尋ねてみることにしたのだが……



「ぷすす、うける」



 またも小馬鹿にした表情でそんな事を言われてしまう。



「ダンジョンギルドで転移魔法陣を仕様したなら、魔石がはめ込まれた装置があるのを見たことあるでしょ?

本来、転移魔法陣を起動するにはそう言った装置が必要で。

個人の魔力で転移をしようと思ったら、かなりの魔力が必要になるんだけど。

それでも固定式ならその程度の装置で起動することが出来るわ。


でも、流動式ではそうはいかない。

流動式の場合、術者が転移先を認識する必要があって、これだけでもカナリの熟練度と魔力を要求されるわ。

それに加え、転移自体に使う魔力も倍。いえ、それ以上を要求されるとなれば。

長距離の移動手段として流動式を取り入れるのは現実的じゃないと言えるでしょうね。


でも――」



 マリベルさんの姿が目の前から消える。



「短距離の転移なら、流動式はもの凄い効力を発揮するわ」



 背後から聞こた声に振り返ってみれば。

 皮手袋を身に付け、ひらひらと扇ぐようにしてカードをもったマリベルさんの姿があった。



「ここまで話したなら、私がしたことも理解出来たんじゃないかしら?」



 僕はその言葉に頷く。

 マリベルさんの手袋に目をやれば魔法陣が描かれている事が分かり。

 手に持ったカードにも同様の魔法陣が描かれている事が分かる。


 恐らくだが、手袋に描かれた魔法陣が流動式で言うところのA地点。

 手に持ったカードが例えで言うところのB、C、D地点なのだろう。



「要するに昨日の手合わせ。

僕はマリベルさんのカードを避けましたが。

カードが後方へと抜けた瞬間、カードを媒介に転移し、僕の背後を取ったと言うことですか」


「そのとーり! 中々飲み込みが早いじゃん!」



 マリベルさんはそう言うとパチパチと拍手を送り――



「飲み込みが早いと色々教えたくなっちゃうよね!

マリベル先生頑張っちゃおうかな!」



 そんな言葉を皮切りに。

 がっつりマリベル式転移論を叩きこまれることになった。






 そして、数時間後。



「……いや、そりゃマリベル先生は頑張って教えたよ?」



 マリベルさんは実に不貞腐れたような声を出す。



「でもさ……ちょっと覚えるの早過ぎない?」



 そう言ったマリベルさんの視線の先には。

 借りうけた手袋とカードを使い短距離の転移を繰り返し使用して見せる僕の姿。


 そんな僕の姿を見たマリベルさんは――



「つまんない! つまんない! つまんない!

この子教えがいが無くてつまんないんだけどーーーーー!!」



 まるで駄々っ子のように不貞腐れて見せる。


 その姿を見た僕は。

 メーテも「教えがいが無くてつまらん」などと言って不貞腐れていたのを思い出し。

 なんだか懐かしい気分になり、思わず笑みを零してしまったのだが。



「何笑ってんのよ!! うざーーーい!」



 その言葉と共にわき腹に良いのを貰ってしまい。


 僕は悶絶する羽目になった……

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