第122話 マリベルの実力

 『魔法剣』もとい『魔装』を再現してみせたメーテに挑み、玉砕してしまったソフィア。


 魔力も枯渇寸前まで使用したしまったのだろう。

 息も絶え絶えと言った様子で玄関先に腰を下ろしぐったりとした姿を見せる。


 そして、メーテはと言うと。



「さて、次の相手は誰だ?

ダンテか? ベルトか? ラトラか? なんなら全員で掛かってきても良いぞ?」



 皆の実力を測るのが楽しいのだろうか?

 実に生き生きとした様子を見せていた。



 そうして皆の実力を測る為に手合わせをする事になったのだが。

 流石に多対一と言うのには抵抗があったようで、一人一人手合わせしていくことになった。


 まぁ、結果から言ってしまえば、皆が全力を出した所でメーテをどうにか出来る筈も無く。

 上手いことあしらわれ続けた結果、今は4人仲良く玄関前でぐったりとしている訳なのだが……

 それでもメーテからしてみれば及第点には達していたようで。



「これくらいの実力があれば、2週間後には一回り――

いや、2回りくらいは成長した姿をみせてくれそうだな」



 そう言うと満足そうに頷いていた。


 僕としても友人の評価が悪くないことは嬉しく、思わず頬を綻ばせてしまう。


 しかし、そうして頬を綻ばせていると気掛かりがあった事を思い出し。

 少し不安に思っていた僕は、メーテに尋ねてみることにした。



「皆を招いてくれたのは嬉しいんだけど……

この場所って他の人には知られたくなかったんじゃないの?」



 そう。僕が気掛かりだったのは、皆を我が家に招いても良かったのか?と言うこと。


 メーテは過去に『禍事を歌う魔女』と呼ばれ人々から恐れられた存在だ。

 そのような理由を一つとし、身を隠すようにして浮世から離れた生活を送って来た筈だった。


 だから、メーテ自身の強さを見せつけた事もそうだし。

 自分の存在や居場所がばれる様な事をしても良いのだろうか?

 そんな気掛かりがあったから尋ねてみることにしたのだが。



「長い間、浮世から離れた生活を送っては来たが。

このままここに閉じ籠っているのも何だか違うような気がしてきてな。


流石に魔女だと言うことを伝える訳にはいかないし。

アルの友人には転移魔法陣のことも私の実力も一応は黙って貰うつもりではいるんだが。

少しづつだが、また外の世界と関わりを築いて行けたら――そんな風に思ったんだ。


まぁ、言ってしまえばコレはその第一歩と言ったところかな?」



 どうやらそう言う事のようで、僕は頷きながら聞いていると。



「――こんな風に思えたのも、アルが私の事を受け入れてくれたおかげだろうな。

本当、アルには感謝しているよ」



 メーテは優しく微笑み、僕の頭をクシャクシャと撫でるのだった。






 その後、皆は体調がある程度回復したのだろう。

 未だぐったりとした様子ではあるものの、話をするぐらいの余裕はあるようで。

 皆の間からちらほらと会話が聞こえ出す。



「確かに只者じゃないとは思ってたけど想像以上と言うか規格外ね……」


「てか、あんな華奢なのになんだよアレ!? 俺が全力で押し込んでも微動だにしなかったぞ!?」


「悔しいけど、どうにもならなかったな……」


「本当にゃに者にゃんだ……いや、アルのおねーちゃんにゃんだろうけど……」



 皆はメーテに対する評価を改めたようで、各々が自分の言葉でメーテを評価する。

 そんな皆の姿を見た僕は、何となく誇らしい気持ちになってしまい、少しだけ胸を張ると。 



「まぁ、メーテは僕の先生だしね。

叶わないのも仕方が無いよ」



 自慢半分、慰め半分といった感じで声を掛けて見たのだが。



「「「「ソレを早く言いえよ!」」」」



 皆から総突っ込みを入れられることになってしまった……



 そうしていると。



「少しは体調も戻ったようだな」



 僕達のやり取りを見たメーテから声が掛かる。



「手合わせしたことで、とりあえずの実力は大体把握することが出来たし。

そのおかげで、大雑把ではあるが今後の予定を組むことも出来た。


それで、今後予定なのだが――ウルフ! ちょっとこっちに来て貰っていいか?」



 メーテがウルフの名前を出したことで。

 ウルフとマリベルさんは、ここに来てから殆ど喋っていない事に気付く。

 ウルフの事だから、手合わせをしている時点で参加しそうなものなのだが……


 そう思って視線でウルフを探してみるも、ウルフの姿は見当たらない。


 何処に言ったのだろう?


 そんな疑問を浮かべていると、家の中からウルフの声が響いた。



「呼んだ〜? 今行くからちょっと待ってて」



 その声と共に玄関の扉が空き、ウルフが姿を見せるのだが。

 何故かその手にはマリベルさんが抱えられている。



「ウルフっち! もうちょっと! もうちょっとだけだから!」


「駄目よ? 転移魔法陣に興味あるのは分かるけど。

私かメーテが居る時にしましょうね?」


「ああーん! ウルフっちの意地悪!」 



 ウルフの腕の中でバタバタと手足を動かすマリベルさん。

 その姿だけ見れば、駄々をこねる美少女と言った感じなのだが。

 実際のところは……うん、その先は言わないでおこう。


 それは兎も角。

 恐らくではあるが、マリベルさんが転移魔法陣に興味を示し。

 それにウルフが付き合っていたから2人の姿を見掛けなかったのだろう。

 そんな風に一人納得していると。



「マリベルには後で時間を作ってやるから、少し我慢してくれ」



 メーテは駄々をこねるマリベルさんを見て、少し呆れたように言い。



「メーテっち! 約束だからね!」



 マリベルさんはその言葉に喰い気味に反応する。


 そして、言質を取ったことに満足したのだろう。

 マリベルさんは足取りを軽くして切り株の椅子へと腰を下ろし。

 それを見届けたメーテは、軽い溜息を吐いた後に話を本題へと戻した。



「さて、話を戻そう。それで今後の予定なのだが。

お前達4人はソフィアとベルト、ダンテとラトラといった感じで2組に別れて貰う。


何故2組に別れて貰うかと言うと、お前達の実力を見た私なりの判断ではあるのだが。

魔法を主体に成長させた方が良い者と、身体強化を主体に成長させた方が良い者が居た。


そう言った理由で、魔法主体がソフィアとベルト。

身体強化主体がダンテとラトラといった感じで分けさせて貰った訳だ」



 メーテはそう言うとソフィアとベルトを手招きで呼び。

 2人はふらつく足で立ち上がると、メーテの元へと歩み寄る。



「それでだ。魔法主体にして成長させる者には私が先生として着くことにする。

どうだ? 嬉しいだろ?」



 メーテは笑顔で2人に問い掛けるのだが。

 先程の手合わせを思い出してしまったのだろうか?

 返す笑顔は何処かぎこちない……と言うか若干引き攣っている。


 そして、その様子を見ていたダンテとラトラ。

 自分達の先生がメーテで無いことに露骨なまでにホッとした表情を浮かべて見せた。



「て、ことは俺達の先生はアルってことか?」


「よ、よかったにゃー、アルにゃらメーテさんより気が楽そうにゃ」



 メーテが先生ではない事を知り、僕が先生役を買って出ると思ったのか。

 2人はそんな推測を口にし、頬を緩ませていたのだが――



「あら、それは残念ね?

貴方達の先生は私が担当するみたいよ?」



 ウルフに声を掛けられ、一瞬だけ肩を跳ね上げる。

 しかし、その声の主がウルフだと分かると、再び頬を緩ませ。



「驚かさないで下さいよ〜。

と言うか、ウルフさんも結構強かったりするんすか?」


「でもウルフさんにゃら、優しそうだしアルよりも良い先生かもしれにゃいにゃ〜」



 そんな呑気なことを言う。



 まぁ、実際。普段のウルフと言えば、のんびりとした印象を受けるし。

 2人がウチに遊びに来た際も、そんなウルフの姿ばかりを見ている筈なので。

 2人の口からそんな感想が出るのも仕方が無いと言えば仕方が無い事に思える。


 だがしかし。こと教育となればのんびりとした印象など欠片も見せず。

 厳しいと言うか、ちょっと意味の分からないレベルを要求されるなんてこともざらにあり。


 それを知っているからこそ、「ご愁傷様です」と言う言葉が頭の中に浮かび。

 それと同時に「死なない程度に頑張ってね!」と思うと胸の内で手を合わすのだが。



「あれ? そう言えば僕はどうするの?」



 ふと、組分けの中に僕の名前が無いことに気付く。



「アルか……今回はソフィア達のレベルに合わせて訓練をするつもりだからな。

アルには自主的に訓練をして貰おうと思ったんだが……

それも流石に可哀想と言えば可哀想か。


ふむ、どうするべきかな……

なんなら、今回は私とウルフと共に指導に周ることにするか?」



 メーテは顎に手を当て、考える素振りを見せた後、指導する側に周ることを提案する。


 僕としても手合わせなどをして、加減の仕方を覚えたいと考えていたので。

 メーテの提案に同意しようと口を開きかけると――



「メーテっち、なんならアルの相手は私がしてあげようか?」



 マリベルさんが横合いからそんな提案を出す。


 これには僕を含めその場にいた全員が胡乱気な視線をマリベルさんに向けることになった。



「な、なによその目は!

こ、これでもそこそこ有名な冒険者だったんだからね!」



 マリベルさんは皆の視線を受け、心外だとばかりに声を張り上げるのだが。

 見た目だけなら華奢な美少女である為、いまいち発言の信憑性に欠けてしまう。


 メーテも見た目と実力に大きな差があるので、見た目と実力は比例する訳ではない事を分かってはいるのだが……

 やはり、どうしてもマリベルさんの言葉を鵜呑みにする事が出来ずにいると。



「分かったわ! なんなら実力を見せてあげるわ!

アル! 掛かってきなさい!」



 マリベルさんは肩から提げていたポーチから白い手袋を取り出し身に着け。

 懐にカードのようなものをしまい込む。


 そして――



「数分後には、マリベル様素敵とか! 格好良い! とか言わせてやるんだから!」



 そう意気込むと僕との距離を詰めに掛かる。


 唐突に始まった手合わせではあるが、マリベルさんの動きは驚く様な速さである訳でもなく。

 やはり、『有名な冒険者だった』と言うのは嘘だったのだろうか?

 そんな風に思っていると――



「戦場では油断したヤツから死んでいくわよ?」



 マリベルさんは不敵に笑うと共に懐からカードを取り出し、僕へと投げつける。


 だが、放たれたカードの速度はやはり大したことは無く、首を傾けるだけで避けて見せる。


 しかし――



「あれ?」



 次の瞬間、僕は間抜けな声を漏らすことになった。


 そして――



「ほら、死んだ」



 何故か耳元でマリベルさんの声が聞こえ、首にナイフの腹が押し付けられていることに気付く。


 状況が整理出来ず、混乱する頭でどうにか整理としていると。

 首元からそっと冷たいナイフの感触が消える。



「どう? これで少しは信用して貰えたかしら?」



 僕はその言葉に無言で頷き。



「これはマリベルの事を見誤っていたな」


「だから、転移魔法陣に興味津々だったのね〜」



 一連の流れを見ていたメーテとウルフから感嘆するような声が漏れるのであった。

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