第121話 メーテの実力診断


「さて、初日と言うことで今日は自由に遊ぶことにしよう。

と言いたいところだが、まずは今後の日程を決めておいた方が良いだろう」



 そう話を切り出したのはメーテ。

 何時の間に用意したのか、その手には紙束と羽ペンが握られている。



「だが、その前に。私はお前達の実力がどの程度なのかが分かっていない。

まぁ、4人でハイオーク5匹を討伐することが出来る実力があることくらいはアルから聞いて知っているが。

それだけでは、これからの訓練、その日程を組む上で情報が足らないからな。

まずは、お前達の実力を見せて貰いたと言う訳だ」



 そんなメーテの話を聞き、皆は困ったような表情を浮かべる。


 それもそうだろう。


 メーテは皆を鍛える気満々だが、皆はその事を伝えられていない。

 そもそもに、修業兼旅行気分を味わえる場所に連れてってくれると言う事を伝えただけで。

 詳しいことはなに一つ説明されていないのだ。


 皆がメーテの話を飲み込めていないのも仕方が無いことに思えた。

 と言うか、そんな情報しか無いのに着いてくる皆も大概と言えば大概なのだが……


 そんな事を考えていると。



「えっと、話を聞く限りだとメーテさんが俺達の訓練をしてくれるってことですか?」



 メーテの話を飲み込めたのか、ダンテが尋ねる。



「私だけじゃないぞ? ウルフもだな」



 メーテの言葉を聞いて、皆は顔を見合わせ。

 視線だけで会話をすると、代表してソフィアが口を開く。



「あの、失礼だとは思うんですけど……

メーテさんて戦えるんでしょうか? 

いや! 疑ってるとかじゃないんですよ!?

メーテさんは細いし綺麗だから、私達を相手に出来るのかなって?」



 確かにソフィアの疑問も頷ける。


 メーテの見た目は華奢なお姉さんだ。

 むしろ、その白い肌や華奢な体つきだけを見れば、儚いと言う印象を受けてもおかしくは無い。


 そして、そんなソフィアの疑問がメーテにとっては心外だったのだろう。



「まったく。

転移魔法陣を扱えるだけでも実力の有無は理解できそうなものだがな。

まぁ、ソレを組み上げ起動させる労力がどれ程の物かを理解出来るレベルまで達していないと言うことか。

仕方無い、実力を確かめるついでだ。

ちと、揉んでやろうじゃないか」



 メーテはそう言うと、紙束とペンを切り株のテーブルに置き。

 身体の調子を確かめるように腕や首を回す。


 そんなメーテの様子を見て、皆はやはり困ったような表情を浮かべると。

 助けを求める様に僕に視線をむけるのだが。



「まぁ、折角だし手合わせして貰ったらいいよ」



 僕がそう言って事もあり、渋々といった様子でソフィアがメーテの前へと立つことになった。



「まずはソフィアか。

どれ、相手をしてやるから全力で掛かって来ていいぞ?」


「ぜ、全力でですか!?」


「うむ、剣でも魔法でも好きなように使うが良い」


「で、でも……」



 ソフィアはメーテの前に立ったものの、躊躇してしまっているようで。

 剣の柄に手を添えたり、離したりを繰り返している。



「ふむ、まぁ、確かに全力と言われてもやりにくいかも知れんな。

仕方無い、少し戦いやすくしてやるとするか」



 そんなソフィアの様子を見兼ねたのであろうメーテ。

 何か案でもあるのだろうか?

 ソフィアの元へと歩みよると、耳元でなにやら囁いて見せた。


 一体何を囁いたのだろう?

 疑問に思いながら2人の様子を眺めていると――



「べべべ、別にそんなんじゃないですから!!」



 急に大声を上げるソフィア。

 それと同時に頬を真っ赤に染め上げると、耳や首筋と言った箇所まで赤く染めて行く。


 その様子を見た僕は、本当何を言ったんだろうと?と疑問に思うが。

 メーテは更に煽る様に言葉を続ける。



「おやおや〜、そんな頬を染めて『そんなんじゃない』と言っても説得力がないんじゃないか?

まぁ、私の勘違いと言うことなら、別に言っても構わんよな?」


「ななななな、何を言うって言うんですか!?」


「何って? ソフィアがア――」


「ちょっ! ちょっと待って!!」


「いや? 待たないが? 

おーい! アル〜ソフィアがな――」


「ま、待ってって言ってるでしょ!!」



 ソフィアはメーテの言葉を咄嗟に止めようとしたのだろう。

 剣の柄に手を掛けると牽制と言う感じで剣を抜く。



「おや? 漸くやる気になったみたいだな。

余程ばらされたくないと見える」


「べべべ、別にそんなんじゃないです!」


「じゃあ、言っても構わないな?

おーい! アル〜ソフィアがな――」


「だからっ! 待ってっていてるじゃないですか!」



 ソフィアはメーテに向かって剣を振って見せる。

 やはりその動きは牽制と言う感じではあったのだが。

 それでも精細さを感じられる無駄の無い動きに感じられた。


 そして、剣を向けられたメーテ。


 恐らくだが、ソフィアはメーテが避けるとでも考えていたのだろう。

 しかし、剣を振られてもまったく避ける動作を見せないメーテを見て目を見開き。

 その先の惨劇を想像してしまったのか?ソフィアはぎゅっと目を瞑ってしまった。


 しかし――



「どうした? 戦ってる最中に目を瞑るなんて愚行だぞ?」



 メーテにそう声を掛けられた事で恐る恐ると言った様子で目を開くソフィア。

 そんなソフィアと僕達の目に映っていたのは――


 振られた剣を二本の指でつまんで見せるメーテの姿だった。



「これで少しはやる気になったかな?」



 メーテはゆっくりと指を離すと、手のひらを上にし。

 「掛かってこい」と言わんばかりに指でソフィアを招く。


 そして、一連のメーテの行動によりソフィアは認識を改めたのだろう。

 目つきを鋭いものにすると。



「……本気で行かせて頂きますね」



 そう口にし、先程とは比べ物に成らない速度を持って剣を振って見せた。



「うむ、中々に無駄の無い動きだ。

だが、まだ粗が目立つようだな」



 メーテはソフィアの剣技をそう評すると、ソフィアの剣を紙一重の距離でかわして見せる。


 ソフィアも身体が温まって来たのだろう。

 剣のキレや速度が徐々に上がって行く。


 だがしかし、メーテはソフィアの剣技に完璧に対応して見せ、最小の動きだけでかわし続けて見せた。



「どうした? まだ出せるだろ?

遠慮せずに私に見せて見ろ」


「後悔っ! 後悔しないで下さいね!」



 メーテの言葉を聞いてソフィアは声を荒げると。



『火天渦巻き剣を纏えっ!!』



 以前見せてくれた『魔法剣』を発動して見せた。


 僕自身、『魔法剣』の威力は身にしみて分かっており。

 流石のメーテでも無手で『魔法剣』の相手をするのは分が悪いのではないだろうか?

 そう思っていたのだが。



「ほほう、コレはまた随分と古めかしい技を持ち出してきたな。

うむ、些か驚かされたぞ」



 メーテは一瞬だけ驚いたような表情を見せた後。



『氷点瞬き拳を纏え』



 そう口にした。


 次の瞬間、メーテの拳を氷の膜のようなものが覆っていき。

 拳の周囲で陽の光を受けた雪の結晶がキラキラと瞬く。


 これにはソフィアだけでなく、ウルフ以外の全員が呆けた表情を浮かべてしまうのだが。

 そんな僕達の様子を他所にメーテは説明を始める。



「確か、この技術が廃れる直前は『魔法剣』とか呼ばれていたらしいな。

まぁ、本来は『魔装』と呼ぶ技術で『魔力付与』同様に、武具や剣を作る技術が発展すると共に廃れていってしまった技術なんだが……

まったく、利便性ばかりに目を囚われ。

こう言った技術が廃れて行くのは実に嘆かわしいことだよ」



 そして、メーテの説明を聞き終わったソフィアなのだが。

 奥の手と同じ技術を簡単に再現されてしまったことでヤケクソと言った感じになってしまったのだろう。



「無茶苦茶ですよっ!!」



 そんな悲痛な叫び声を上げながらメーテへと突っ込んで行き。

 見事なまでに玉砕することになるのであった。

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