第118話 パーティー名
冒険者ギルドで冒険者登録を済ませてから数日が経ち。
今日は学園が休園と言うこともあり僕達――ダンテ、ベルト、ソフィア、ラトラ。
それに僕を加えた5人は僕の家へと集まっていた。
何故、僕の家に集まっているかと言うと――
「えー、俺達はCランク冒険者としてなった訳なんだが。
パーティとして動くからには決めておかなきゃいけないことが色々とあると思う。
なので、今日はその話し合いをしようと思う!」
そう言う事らしく、ダンテが実に活き活きとした様子で音頭を取り。
「確かにダンテが言う通り、決めておくべき事は多々あるだろうな」
「そうね。規則とか方針とかかしら?」
「んにゃ。パーティーを組む上で規則や方針は必要だにゃ。
とりあえず、恋愛禁止は組み込んでおくことにするかにゃ?」
「は? はぁ!? ま、まぁ、私は困らないけど!
で、でも! アレだしアレなんじゃないかしら!?」
「じょ、冗談にゃ……そ、そんな取り乱さなくても……」
「と、取り乱して何か無いわよ!!」
他の皆もそれなりに乗り気なようでそんな会話を交わしている。
まぁ、確かにダンテやソフィアの言う通り、色々と規則や方針は決めておいた方が良いだろう。
そう思った僕は人数分のカップを用意すると紅茶を注いでいき、皆の前へと並べて行く。
そうして紅茶を並べて行き。
紅茶を並べ終わったところで、僕も椅子に腰を下ろそうとしたのだが。
「な、なんで私達には紅茶が無いんだ……」
「アルが意地悪をするわ……」
恨めしそうな視線を向けるメーテとウルフの姿が目に入る。
と言うか、何故居るのだろう?
確か、昨日の夜。
『明日は友人が来るからね?』
そう伝えた筈なのだが……
そう思って2人に視線を向けると、2人は僕の疑問を察したのだろう。
「うむ、友人が来ると言うからもてなそうと思ってな!」
「そうそう、だから昨日の内からメーテはアップルパイを焼いてたのよ?
私的にはミートパイが良かったんだけど……
でも、これはこれでおいしかったわ」
2人は謎の理屈を展開して見せる。
確かに『友人が来るから来ないでね?』と、はっきり言わなかった僕も悪いとは思うが。
言葉のニュアンスから察してくれても良いような気がしてしまうのは我儘なのだろうか?
などと考えていると。
「はぁ? ウルフ! お前つまみ食いしたのか!?」
「……気のせいじゃないかしら?」
「気のせいって――と言うか口の周りがベタベタじゃないか!?」
「……これは朝食の肉の脂じゃないかしら?」
「甘い匂いをぷんぷんさせて嘘を吐くな!」
そんなやり取りを友人達の前でして見せるのだから、恥ずかしさのあまりゴリゴリと精神が削られて行く。
そして、友人達はと言うと。
そんな僕達に、生温い視線と共に渇いた笑みを向けるのだった。
どうにか落ち着きを取り戻した僕達。
メーテが作ったアップルパイで舌鼓を打ちながら、本来の目的である話し合いを再開させる。
「それで、規則や方針の話し合いだよね?
まずは何から決めようか?」
リーダや前衛、中衛、後衛。そう言った役割も決めるのも大事だし。
学生と言う本分がある以上、どの程度冒険者としての活動に時間を割くのかと言うのも決めておくべきだろう。
そう思って皆に尋ねてみたのだが。
「アル、それよりも大切なモノがあるぞ」
「んにゃ。これは外せない案件だにゃ」
ダンテとラトラは神妙な面持ちでそんな言葉を口にする。
それほどに重要な事があるのだろうか?と疑問に思うのだが。
僕には思い当たるような案件が無く、ソフィアとベルトも思い浮かばなかったのだろう。
僕達はダンテとラトラの言葉に真剣に耳を傾けることにした。
したのだが……
「規則や方針の前にまずはパーティー名だろうが!」
「んにゃ! 強そうで格好良さそうなのを希望にゃ!」
2人の発言に僕達は肩をこけさせることになる。
「あんだけ神妙な顔してパーティー名!?」
「は!? パーティー名は重要だろうが!
お前舐めてんのか!?」
「んにゃ! パーティ名は重要にゃ!
名を轟かせるようににゃった場合、変な名前だと格好つかないし、拍をつけるのには重要にゃ!」
まぁ、確かに『美女使い』なんて二つ名を付けられた立場からしたら、名前が重要だと言うのは理解できるのだが……
それほどの剣幕で言うことだろうか?
そんな風に疑問に思っている間にも3人の力説は続き。
その剣幕に押されてしまったのだろう。
「わ、分かった! 皆が納得するような名前を付けることから始めようよ!」
気が付けば観念するように、そんな言葉を口にすることになった。
そうしてパーティー名を決めることになった僕達。
3人の剣幕に押されてパーティ名を決めることにはなってしまったが。
決まったからには真剣に考えるべきだろう。
そう考え、パーティ名に頭を悩ませていると。
「出来た!」
そう声を上げたのはダンテで、パーティ名が書かれた紙を僕達に広げて見せる。
「Sランク冒険者になると黒のギルドプレートになるんだけどよ。
ソレにあやかったってのと、学園生って言っちまえば半人前だろ?
半人前とこれから成長していくって言う期待を込めて『黒の雛鳥』ってのはどうよ?」
ダンテは自信満々と一った様子なのだが。
……なんと言うかいまいちピンとこない。
皆も同様のようで、悪くは無いんだがこれではないな。と言った表情を浮かべている。
次にパーティ名を思いついたのはベルトの様で。
少し照れがあるのだろうか?
コホンと咳払いした後にパーティ名が書かれた紙を僕達に見せた。
「冒険者と言えば粗野なイメージがある。
僕はそう言った印象を変えようと考えた結果『白き帆布』と言う名前を押したいと思っている。
ありきたりではあるが、これからどんな絵が描かれて行くのかと言う可能性と清さを表現したつもりなんだが……
ど、どうだろうか?」
確かにベルトの言う通り、冒険者と言えば粗暴なイメージを浮かべる者も多いと思う。
ベルトの押すパーティ名ならば清廉潔癖な印象を受けるとは思うのだが。
なんて言うか、キッチリし過ぎのようにも感じてしまう。
まぁ、ベルトらしいと言えばベルトらしく、良い名前だとは思うのだが……
そんな風に思っているとラトラが声を上げた。
「次はウチの番にゃ!」
そう言ってラトラが広げた紙には『筋肉と物理』とだけ書かれており。
僕達は示し合わせるでもなく、ソレを見なかったことする。
「なんでにゃ!!」
そんな言葉も聞こえたのだが、勿論それも聞かなかったことにした。
「次は私ね!」
最後に名乗りを上げたのはソフィア。
どうやら自信満々の様で、薄い――では無く。
胸を張ってパーティ名の書かれた紙を広げて見せる。
「ダンテも言ってたけど、Sランク冒険者になると黒のギルドプレートが与えられるんだけど。
探索者で最下層級になると白銀のプレートを与えれるみたいじゃない?
だから、その二つの色を合わせると灰色になるってことで『狼の煙』ってのはどうかしら?
まぁ、狼煙を分解しただけなんだけど、動物の名前を使用する人も多いみたいだし。
狼煙よりは語呂が良いでしょ? それに始まりを告げるって言う意味ではぴったりだと思うのよね」
確かに自信満々と言う感じなだけあって中々に良い名前なような気がする。
それと同時にアランさん達のパーティ名が『灰纏い』だったことを思い出し。
ソフィアが言うような意味があるのだと気付き、実は大志が隠された名前だったことを知ることになった。
そうして、一通り皆はパーティ名を発表した訳なのだが……
正直言ってまだまだだ。
ここは漢字にルビを振ることでまったく違う読ませ方をする国の本領を見せるべきだろう。
そう思った僕は満を持して、考えたパーティ名を発表することにした。
「皆はまだまだだね……僕が考えたパーティ名はこれだ!」
僕が広げた紙の上には。
『四つ
白と黒と言う要素をしっかりと押さえている上に。
認識をひっくり返すと言う意味合いが込められているセンスに、きっと皆は腰を抜かすだろう。
そんな確信を持っていた訳なのだが……
「いや、意味わかんねぇよ? 四つ角征服してどうすんだよ?」
「そう読ませる意味が分からんし、リバーシとはなんだ?」
「アル、どう考えてもそう読むことはできにゃいぞ?」
「わ、私は嫌いじゃないけど……今回は違うのにしましょうか?」
皆からは大不評の様で、散々な言われ方をしてしまう。
そんな中、ソフィアだけは気を使ってくれたようなのだが……逆にその優しさが辛い。
そして、そんな僕達の様子を眺めていたメーテとウルフ。
どこか呆れたような表情を浮かべながら口を開いた。
「まったく。格好の良い名前をつけようとするのは分からんでもないが……
格好付けたりせず、何を目的にして、何を目指し、どうしたいのか?
そんな名前を考えてみたらどうだ?」
そんなメーテの言葉を聞いて僕は今一度考えてみる。
何が目的か?
僕が冒険者になる目的、それは有名になること。
何を目指し?
誰からも認められるような。そんな人物になりたい。
どうしたいのか?
メーテや闇属性の素養を持つ人間が迫害される現状、その間違った世界の認識を変えたい。
僕は自問すると、自答して行く。
そして、改めて自分の目標。
やるべき事を再確認すると、口を開いた。
「そうだね。ちょっと浮かれすぎてたのかもしれない。
だから、もっと分かりやすい名前にするよ」
僕は一息ついた後に再度口を開く。
「僕が考えたパーティ名は『黒白』。
冒険者と探索者、その最上位を獲ることを目標とした名前で。
それを成し遂げる為の名前でもあるんだけど……どうかな?」
そうだ。世界を認識を変える為にはそれぐらい成し遂げなければいけないだろう。
言わば、このパーティー名は後に引かない為の覚悟でもある訳なのだが。
正直、皆からすれば、大仰な名前なんて枷にしかならないだろう。
僕の内心を知る筈も無い皆の口からは、当然のように反対する意見が飛んでくると思っていたのだが……
「黒白ってお前……流石に気が引けるレベルだぞ?
だけど、まぁ……アルが言うとなんか出来ちまう気がするから不思議だわ。
うし! 分かった! 俺は『黒白』に賛成するわ!」
「両方の称号を取った人物なんてひと握り……いや、一つまみだと言うのに……
はぁ……元よりアルディノをリーダに据えるつもりだったし、リーダが言うことなら逆らえないな」
「おおっ! アルはもやしっ子だと思ったのに案外男らしい所もあるにゃ!
やっぱり男はそれぐらい攻めにゃいとにゃ!」
「ア、アルがそう望むなら、私も精一杯頑張って見せるわ!」
そう言って僕の言葉に賛同して見せてくれる。
そんな皆の言葉は胸に来るものがあり、感傷に浸っていたのだが……
「……ほう、両方の最上位を目指すのか?
そうなると今のままでは全員力不足が否めないな。
そうは思わないか、ウルフ?」
「そうねー。今のままじゃ全然足らないわよね?」
「うむ、ちと鍛えてやる必要がありそうだな?」
「ちと、じゃないわよ? 相当に鍛える必要があるわよ?」
そんなメーテとウルフの声が聞こえてしまい。
皆が盛り上がる中、僕だけは顔を青くするのであった。
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