第117話 冒険者

 実に良い笑顔で意識を手放したオーフレイムさん。


 10からなる『螺旋弾』をまともに受けることになったので、容体が気掛かりだったのだのだが。

 駆けつけたギルド職員によって治療が施されると、瞬く間に身体から傷や火傷跡が消えて行き。

 それから少し経った所で、身体から完全に傷が消え、意識を取り戻すことになった。




 そうして、意識を取り戻したオーフレイムさんなのだが。

 意識を取り戻した途端、嬉しそうな表情を浮かべると。



「学生の内からこれだけの事が出来るってのは末恐ろしいな!

引退して鈍ってるとは言え、これでも元Aランク冒険者なんだけどなー……

いやぁ、本当末恐ろしいわ!」



 賛辞の言葉を送り。



「まぁ、主旨が変わっちまったが、これだけ出来るならオークキングを討伐したって発言にも信憑性が出るわな。

――本当、疑って悪かったな」



 胡坐をかいた状態で深々と頭を下げた。



「疑いが晴れて良かったです。

それより、身体の方は大丈夫でしょうか?」



 自分でやっておいて心配すると言うのも変な話だとは思うが。

 やりすぎてしまったかも?と言う懸念があったので、身体の調子を尋ねてみる。



「ああ、心配すんな。さっきも言ったがこれでも元はAランク冒険者だ。

結果的に意識を失っちまったが、言うほど傷が深い訳じゃない。

つーか、身体強化で防ぎきる自信があったんだけどな……はぁ、本当、歳はとりたくねぇな…」



 オーフレイムさんはそう言うとがっくりと肩を落とすものの。



「それにだ、ウチの治療師は優秀だからな」



 そう付け加えると、治療をしてくれた女性職員にウィンクなどして見せるのだが。



 「あっ、はい、そうっすね」



 などと淡泊に返されていた。


 その様子を見て、何となくだがギルド内でのオーフレイムさんの扱いを察してしまう。


 出会って間も無い僕でさえ、少し面倒くさそうな人だと言う印象を受けているのだ。

 仕事を共にしている人から見ればそれは顕著に表れるのだろう。


 まぁ、職員の言葉や表情から嫌悪感を感じないので、嫌われていると言う訳ではないとは思うのだが……

 面倒臭いので、出来ることなら絡みたくない人。

 恐らくだが、そう言った扱いをされているのだと思えた。


 そして、そんな事を考えていると。



「とりあえずここで話すのもなんだ。

話の続きは応接室ですることにするから付いて来てくれ」



 立ち上がったオーフレイムさんは身体に付いた汚れをはたきながらそう言い。

 僕達は頷くと、応接室へと向かうことになった。






 そうして、再び応接室へと通された僕達。

 僕達は先程同様にソファーへと腰を下ろすと、その対面にオーフレイムさんは腰を下ろした。



「さて、まずはもう一度謝らせてくれ。疑っちまって悪かった」



 オーフレイムさんはいま一度深々と頭を下げた後、言葉を続ける。



「持ち込んだ魔石の鑑定なんだが。

急いで鑑定して貰ってる最中だから、悪いんだがもう少し待って貰いたい。


それで、只待っているのもなんだ。

俺から一つの提案があるんだが、聞いて貰っていいか?」



 提案。その言葉に僕達は顔を見合わせるのだが。

 恐らく拒否した所でオーフレイムさんは、その提案とやらを話し出すような気がし。

 僕達は頷くことで返事を返すと、ソレを確認したオーフレイムさんは口を開いた。



「俺からの提案て言うのはアレだ。

お前達、冒険者ギルドに登録する気は無いか?」


「冒険者にならないか? ってことですか?」


「そう言う事だ。

まぁ、お前達は学生だし、学生は勉学に励むのが本分だとは思うんだが。

それだけの力を持て余すのも勿体無いと思ってな」



 オーフレイムさんは「どうだ?」と言って期待するような視線を向けてくる。


 僕としては冒険者登録しておくのも良いような気がしていたのだが。

 その反面、冒険者と言う職業にあまり詳しくないので、登録した場合弊害があるのでは?

 そんな風に思ってしまう。


 無事に学園を卒業出来た場合。

 レオナさんとの約束があるので、迷宮都市へ向かうことを僕は決めていた。

 なので、冒険者ギルドに登録したことで行動を制限されるのであれば、僕にとって不都合になるだろう。

 そう言った不安があった為、幾つか質問してみることにすると。



「別に迷宮都市で冒険者登録したからと言って、ここに留まる必要なんかないぞ?

元より冒険者って言うヤツは自由気ままなヤツが多いし、留まる様に言ったって聞きやしねぇからな。

まぁ、本当に留まって欲しい時はお願いしに行くかもしれねぇが。

あくまでお願いだからな、特に拘束力がある訳でもねぇ。


ああ、緊急招集が掛かった時は例外で、招集に応じない場合はランク降格になる場合があるんだが……

15を過ぎるまでは召集に応じる必要もないしな。

アルディノが心配するような行動を制限するなんてことは殆どないと思ってくれて良いんじゃないか?」



 オーフレイムさんは僕の質問に答え。

 聞いた答えによれば、特に行動制限される訳でも無いことを知る。


 しかし、それでは冒険者登録した所でギルドには何の旨味もないのでは?

 そんな疑問が浮かんだので、その事についても尋ねてみるのだが。



「お、おう。子供の癖に面倒臭いこと考えてやがんな?

まぁ、人手が足りない時に依頼を受けて貰ったりしたら助かるとは思うけどよ。


12かそこいらのガキを相手に旨味やなんだの考える程落ちぶれてねぇぞ?

ただ単に、面白いヤツが出てきたからギルドに誘ってみよう。そんな単純な話だ。

変に勘繰る必要もないし、登録して合わないと思ったら辞めてくれてかまわねぇよ」



 オーフレイムさんは呆れたように言い。

 オーフレイムさんの言葉を聞いていた皆の間から笑いが零れた。


 確かに小難しく考える癖はあると思うが、コレが自分の性分なんだから仕方が無いじゃないか。

 そんな風に思い、面倒臭い人に面倒臭いと言われたことに少しだけ落ち込んでいると。



「まぁ、おっさんが言う通り登録してみりゃ良いんじゃねぇーか?

そんで合わなきゃ辞めれば良いんだ。

てか、ギルドマスターの直々のお誘いなんて凄くねぇか? 羨ましいくらいだぜ」



 ダンテは頭の後ろで腕を組み、まるで他人事のように言ったのだが――



「ん? 何言ってんだ?

俺はお前達全員に声を掛けているつもりだぞ?」


「へ?」



 伝えられた言葉に間の抜けた声を上げることになった。



「いやいや、キングを討伐したのはアルディノって話だが。

聞く話によればお前達だってハイオーク3匹を相手にして討伐して見せたんだろ?

その歳でそれだけの事が出来るとなれば、充分過ぎる程の有望株だ。

誘わないなんて勿体無いだろうが?」


「……まじで?」


「まじだ」



 ダンテは冒険者や探索者と言う職業に憧れており。

 それを知っているからこそ、ギルドマスター直々のお誘いを受けたダンテの心中を察することが出来た。

 そして、それを裏付けるように。


 

「ま、まぁ、誘われてるのに断るって言うのもなんだよなぁ〜。

ここはおっさんの顔を立てて、登録してやるのも良いんじゃないか?

ど、どう思うアル?」



 渋々と言った様子を演出して見せてはいるが。その頬はだらしない程に緩んでおり。

 そんなダンテを見ては断るなんて言葉を選べる筈もなく。



「じゃあ、一緒に登録しようか。 皆はどうする?」



 冒険者ギルドに登録することを伝え、皆にも尋ねてみると。



「ア、アルが言うなら仕方が無いな!

 よしっ! 登録しようぜ!」



 すぐにダンテが僕の言葉に反応し。



「折角のお誘いだし、受けて見ることにしようか」


「んにゃ。 どっちにしろ冒険者か探索者になるつもりだったから好都合にゃ!」


「えっ、えっと! ア、アルがなるなら私もなるわ!」



 全員が冒険者ギルドに登録する意志を表示する。



「おうおう、なんつーか青春て感じだな!

うし、お前らの意見は聞き届けた! 

ギルドマスターの特権を使って、お前等に合わせたランク申請しとくから後は任せておけ!」



 そんな僕達の様子を眺めていたオーフレイムさん。

 実に楽しげにそんな言葉を口にした。






 そして、それから数日後――



 学園都市メルド。

 その都市の一角で、Cランクパーティーが産声を上げることになるのだが――


 このパーティーが数々の偉業を成し遂げ、世界に名を轟かせることを。

 今はまだ、誰も知らない。

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