第116話 オーフレイム

 オークキングを討伐したことを伝えると。

 僕達は冒険者ギルドにある別室へと案内されることになった。


 そうして案内されたのは、一対のソファーと脚の短いテーブルが置かれた応接室と言った部屋で。

 大柄な男性はソファーに腰を下ろすように指示し、自分もソファーに身を預けると本題へと入る。



「さて、詳しい話を聞こうじゃないか――と、その前に自己紹介をしておくか。

俺の名前はオーフレイム。冒険者ギルド学園都市支部のギルドマスターをやらせて貰ってる者だ」



 大柄な男性、もといオーフレイムさんは簡単な自己紹介を済ませると。

 「お前達の名前は?」と尋ね。僕達にも自己紹介を求めた。


 僕達は学園の生徒であることと名前を伝え。

 全員が自己紹介を終えると、オーフレイムさんは再度尋ねる。



「成程。学園の生徒と言う訳か。

学園に入学出来る事からも同年代と比べて優秀なのは分かんだが……

確か、アルディノと言ったな? お前がオークキングを狩ったって話だが……

正直に言っちまえば、俺はお前の話を信用することが出来ねぇ。

オークキングを討伐した。それを証明をすることがお前には出来るか?」



 オーフレイムさんの質問に僕は頭を悩ませる。


 オークキングの討伐を証明すると言っても魔石や素材の現物がここにはあるのだ。

 それがオークキングを討伐したことの何よりの証拠だろう。 


 だが、そんな現物を目の前にして証明を求めているのだ。


 僕としては証明する手段に見当がなく――

 いや、手段に見当はあるのだが、それに気付かない振りをしてオーフレイムさんに言葉を返した。



「証明するもなにも、現物がある以上、コレが証明になると思うのですが?」


「まぁ、そうだな。確かにコレ以上証明になる物はないだろう。

だが、俺が言いたいのはそう言う事じゃない。

俺が言いたいのはお前にオークキングを倒せるだけの力があるのか?

そして、それを証明できるのか? だ」



 オーフレイムさんはそう言うと興味深そうに僕の顔を覗き込む。


 ……まぁ、現物が討伐証明にならないのであれば、実力を証明するしかない訳で。

 その事に見当がついていた僕は気付かない振りをしてやり過ごそうとしたのだが……


 こうも真っすぐに尋ねられてしまったら誤魔化しようが無いだろう。

 そう思った僕は、これからの展開が容易に想像出来てしまい。



「……要するに実力を示してみろ。ってことでしょうか?」



 恐る恐ると言った様子で尋ねてみると――



「まぁ、そう言う事だな。話が早くて助かるわ。

子供はそんなに好きじゃないが、物分かりが良いヤツは嫌いじゃないぞ?

じゃあ、早速鍛練所に行くとするか」



 オーフレイムさんは白い歯を見せニカッと笑い。

 想像していた展開になったことに僕は肩を落とすことになった。






 そうして、冒険者ギルド内にある修練所に辿り着いた僕達。


 目の前には皮の鎧を身に着け、木剣を肩に担いだオーフレイムさんの姿があり。

 如何にもやる気満々と言った様子でポンポンと肩で木剣を弾ませている。


 何でこの人はこんなにやる気満々なのだろう?

 オーフレイムさんの姿を見てそんな疑問が浮かぶのだが。



「付き合わせちまって悪りぃな。

今朝方オークキング討伐に向かわせた冒険者数組が未だ帰ってなくてな。

お前等があいつらを襲って魔石を奪った。とまでは思っちゃいないが、可能性は0じゃない。

ヤツらが戻って、報告を終えるまで身柄を預からせて貰おうと持ったんだが……


でも、そうして待ってるのも暇だろ?

それに、自分がオークキングを狩ったなんて大層な口を聞く少年が現れたんだ。

だったら、その実力を見てやろうじゃないか。

そんな風に思うのは自然の摂理だし、仕方無いことだと思うんだわ」



 オーフレイムさんはそう言うと「そうは思わないか?」と僕に尋ねる。


 いや、自然の摂理でもないし、仕方が無いことではないと思いますよ?


 思わずそんな言葉が頭に浮かぶのだが。

 目に見えて楽しそうな表情を浮かべるオーフレイムさんを前にしては、ソレを口にした所で事態が好転する気がまったくせず。

 厄介な人に捕まってしまったと、少しだけ面倒臭く感じてしまう。


 そして、それは皆も同様だったようで。



「おい、このおっさん本当にギルドマスターか? 無邪気すぎんだろ?」


「たまに見掛けるな。こう言った戦闘狂と言う人種は……」


「ウチの親戚のおっさんもあんな感じだったにゃ……

ああ言う人種は受けても面倒だし、受けなくても拗ねて面倒だし、本当に厄介にゃ」


「いるいる。大概ああ言う人ってデリカシーとかが無いのよねぇー。

多分だけど彼女とかいない筈よ」



 ……いや、僕同様どころかかなり面倒臭い人と言う評価をしたようで。

 実に渋い表情を浮かべながら悪口ともとれる言葉を口にしていた。


 そして、そんな言葉を聞かされたオーフレイムさんなのだが。



「は? おじさん面倒臭くないしデリカシーの塊なんだけど?

それに彼女とか100人位いるし、何言ってんの? ウケるんだけど」



 多い数を言えば凄いとでも考えているのだろうか?

 オーフレイムさんはめちゃくちゃな数の彼女が居る事を主張し、否定して見せるのだが。

 皆の言葉が効いているのは明らかで。そう言うと頬を膨らませて見せる。


 だが、おっさんが頬を膨らませたたところで可愛くもなんとも無いし。

 むしろ神経を逆撫でる行為以外の何物でも無く。

 そんな周囲の冷めた空気を感じたのだろうか?



「そ、それは兎も角!

アルディノ! お前の実力を見極めてやるからいつでも掛かって来ていいぞ!」



 オーフレイムさんは大きな声を上げることで場の空気を無理やり変えると。

 「早くしろよ!」と言って僕を急かした。


 僕はどうするべきかを考えるのだが。

 手合わせする以外の選択肢は無いのだろう。

 そう判断すると、壁に掛けてある木剣を手にし、オーフレイムさんの前へと立つことにした。



「お手柔らかにお願い致します」


「おう! 全力で掛かって来やがれ!」



 オーフレイムさんの前へと立つと、オーフレイムさんは全力で来いと言って手招きをし。

 その言葉を聞いた僕は、本当に全力でやっていいのだろうか?と言う疑問を浮かべてしまう。


 だがしかし。

 こうも堂々と言ってのける事に加え。

 ダスティン副ギルド長しかり、ギルドを管理する立場の者の多くは元冒険者や探索者と言った者が多いとも聞く。

 現にオーフレイムさんの剣を構える姿は堂に入っており。

 恐らくだが、ギルドマスターになる前は名を馳せた冒険者だったのだろうと察することが出来た。


 そんなオーフレイムさんの姿を見て。

 オーフレイムさん相手なら全力を出しても大丈夫そうかな?

 そう思った僕は、身体強化の重ね掛けを施すと、木剣に魔力付与を施し始める。


 そして――



「それでは行かせて頂きますね」



 そう口にすると、地面蹴る。



「おっ! 中々速いな! だがっ!!」



 オーフレイムさんはそう口にすると、身を低くして襲い掛かった僕の剣をかわし。



「工夫が足りないんじゃないか?」



 そう付け加えると、肩口を狙って剣を振り下ろす。


 だが、オーフレイムさんが指摘したのは僕の狙いでもあり。

 本当の狙いは、単調な攻撃で油断させたところで振るわれた剣。

 それを魔力付与によって破壊することだった。


 僕の狙い通り展開が進み。

 肩口に振るわれた剣を破壊した後、一撃を加える場面まで思い描くのだが――



「なっ!?」



 武器破壊どころか、肩口まで押し込まれてしまったことに声を漏らしてしまい。



「ぐっ!」



 肩口に受けた衝撃により苦痛の声を漏らす事になった。


 苦痛に顔を歪める僕を見たオーフレイムさんは。



「おいおい、まじかよ?」



 一撃を加えたと言うのに、そう言って驚いた様子をみせる。



「何をしたんですか?」



 手合わせの最中に聞く様な事では無いし、聞いても答えてくれないと思ったのだが……



「何って? お前と同じ魔力付与だな。

武器をサクッと破壊して驚かせてやろうと思ったのいいんだけどよ。

俺の予想と違って、お前の武器を破壊する事が出来なかった。

そうなると、お前も魔力付与を使ってた言うことになる訳なんだが……

正直、俺以外に、こんな古い技術を覚えようなんてヤツが居るとは思わなかったから驚いたわ。


――うん、いいね! 楽しくなってきちまったな!」



 そう言って、魔力付与での攻撃を加えた事を説明すると、獰猛に笑って見せる。


 そして――



「おらおらっ! ぼうっとしてる暇は無いぞ!」



 嬉々として剣を振るうオーフレイムさん。

 流石ギルドマスターと言うだけあって、獰猛な剣捌きでありつつも、何処か洗練されており。

 剣技に関しては僕よりも何段階も上の高みに居ることが窺い知れた。


 それをどうにか捌いて見せるも、接近戦ではおおよそ勝てる見込みが無いように思え。

 そう判断すると、後方へと飛び、一旦距離を取る事にする。



「どうした? 剣技では敵わないと見て今度は魔法か?

いいぜ? 撃ってこいよ!」



 距離を取った僕を見て、オーフレイムさんは魔法を使うと判断したようで。

 嬉々とした表情を崩さぬままに煽って見せる。


 その姿を見て本当に戦闘狂なんだなと思うと、若干引いてしまうが。

 言われっぱなしも、やられっぱなしも悔しいので、ひと泡吹かせてやる事を決意すると。

 僕は魔法を発動させる。


 

『螺旋弾!』



 それは前世の拳銃を参考にした混合魔法。


 次の瞬間、弾丸を模した3つの土の塊が中空に浮かび上がり。

 その土の塊は回転を徐々に増して行き、一定の速度を超えると、オーフレイムさんめがけて襲いかかった。



「無詠唱!? それに土属性魔法か!

だがっ! これじゃ質量が足らないんじゃないか!」



 オーフレイムさんはそんな言葉と共に螺旋弾を木剣の腹で受けようとするのだが――



「なにっ!?」



 螺旋弾は木剣を穿ち、その弾道はオーフレイムさんの胴へと当たると爆音とともに爆ぜた。



「くっ! 無詠唱の上に混合魔法だと!?

しかし! 火力が足らなかったみたいだな! これじゃ俺の身体強化…は…破れん……ぞ?」



 オーフレイムさんの言葉が尻すぼみになる。



「ち、ちょっと待て! それは流石に無いんじゃないか!?」



 そう言ったオーフレイムさんの目に映っているのは10程浮かんだ螺旋弾。



「どうします? 続けますか?」



 先程煽られたお返しとばかりに煽り返してみると。



「ぐッ――舐めんなよ! 全力で掛かってこいと言ったのは俺だ!

さぁ! 撃ってきやがれ!」



 オーフレイムさんはそう言って両手を広げ「撃ってこい!」と言わんばかりの姿勢を見せる。


 なんだか趣旨が違ってきて居る様に思えてしまうのだが……

 オーフレイムさんは何故か目をキラキラさせながら「さぁ!」と声を上げ急かす。


 もしかして嗜虐趣味でもあるのだろうか?

 そんな疑問が浮かぶと共に「さぁ! 早く!」と再度オーフレイムさんに急かされてしまい。

 段々とオーフレイムさんがやべぇヤツに思えてしまった僕は、容赦なく螺旋弾を撃ち込むことにした。


 そして、襲い掛かる螺旋弾をまともに全弾喰らうことになったオーフレイムさんなのだが。



「がぁあああああっ!!」



 爆音と共に、修練場に響き渡る程の大声を上げることになり。

 その悲鳴を聞いた僕は、自分でやったことながら心配になって駆け寄るのだが。



「……こんなキツイのは久しぶりだ……ぜ……」



 親指を立てたまま意識を手放すオーフレイムさん。

 恐らく認めて貰えたとは思うのだが……


 ――なんだかこの人気持ち悪いかも……

 意識を手放したオーフレイムさんを見て、失礼ながらもそう思うのであった。

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