第115話 冒険者ギルドへ
『篝火亭』へと辿り着いた僕達は、鈴の音がカランと鳴る扉を開き店内へと入る。
すると。
「いらっしゃいませー!
お客様は何名様ですか――ってアルさんじゃないですか!
今日はお友達を連れて来て下さったんですね!」
思わずこちらまで笑顔になってしまうような明るい笑顔でアイシャが出向かえてくれる。
「うん、ブエマの森の近くで野営してたんだけど、ちょっと予定がズレちゃってね。
朝食を食べ損ねてたから皆で寄らせて貰ったんだけど大丈夫かな?」
「なんだか楽しそうなことしてますね~。
早朝でお客さんも殆どいないので全然大丈夫ですよ! それでは案内しますね!」
アイシャは僕の話に頷くと、そう言って席へと案内してくれようとしたのだが。
「それではお友達の方もこち――」
何故か不意に言葉を途切れさせる。
それを疑問に思った僕はアイシャの様子を窺ってみると、アイシャの頬が赤く染まっていることに気付く。
一体どうしたのだろう?
そんな疑問が浮かび、アイシャの視線を辿ってみれば。
その視線はベルトへと向けられていることに気付き。
ベルトの顔を見てみれば、こちらも少し赤く染まっていることに気付いた。
……え? まさかそう言うこと?
もしかしてだが……
これはお互いが一目惚れしてしまった。と言うヤツなのではないだろうか?
そして、そんな僕の予想を裏付けるかのように、2人は妙にギクシャクとした態度を見せる。
「ぼ、僕の顔に何か付いているのかな?」
「そ、そう言うんじゃなくて! えっと、えっと――
そ、それではお席に案内しますね!」
初々しさを感じる2人のやり取り。
2人のやり取りを見た僕は、なんとも甘酸っぱい雰囲気に思わずニヤニヤしてしまうのだが。
その反面、少しだけ肩を落としてしまう。
まぁ、冗談だと分かってはいたものの異性に好意を向けられると言うのは、僕も男なので嫌では無かった。
だが、こんなアイシャの姿を見てしまえば、やはり冗談だったんだなと再確認させられ、なんとも言えない気持ちになってしまう。
自分でも狭量だとは思うのだが……それが男と言う物なのだろう。
そう納得させると、アイシャに案内されテーブル席へと着くのだが。
「アル、なんか顔引きつってないか?」
そんな言葉をダンテに言われたことで、やはり狭量だなと思わされるのだった。
その後、テーブルに並べられていく料理に舌鼓を打ち。
食後に紅茶を楽しんでいたところでダンテから声が掛かる。
「で、この後はどうするんだ?」
「この後かー、少し考えてみたんだけどやっぱり魔石を買い取って貰い行くくらいしか浮かばないかな?」
篝火亭へと着く前にもダンテに尋ねられていたので、僕なりに考えてはみたのだが。
やはりコレと言った案は浮かばず、冒険者ギルドで魔石の買い取りをして貰う。
それくらいしか案が浮かばなかった。
「まぁ、それぐらいしか浮かばないよなー。
んじゃ、飯も食い終わったし、早速ギルドに行くか?」
ダンテも同様のようで、僕の提案に賛成を示す。
だが、魔石の買い取りをして貰う上で僕には一つだけ懸念があったので、僕は皆にお願いをすることにした。
「ギルドに行く前に、お願いしたいことが有るんだけど……いいかな?」
「お願い?」
「うん、キングの魔石なんだけど僕が狩ったことは黙ってて欲しいんだ」
「へ? なんでだよ?
キングを討伐したとなれば一気にCランク冒険者……いや、Bランク冒険者にだってなれるかもしれねぇんだぞ?」
「それはそうだと思うんだけど……」
確かにダンテの言う通りだとは思う。
正直、皆に認められるような人物を目指すのであればランクを上げた方が良いとも思うし。
僕としても冒険者登録をしてランクを上げるのはやぶさかではないのだが……
僕には闇属性の素養がある為、下手に悪目立ちするのは出来るだけ避けるべきだと考えている。
もし、闇属性の素養があると知られた場合、降りかかる受難は避けられないだろうし。
そうなった場合、今の僕には受難を跳ね除ける実力が備わっているとは到底思えない。
全てを跳ね除けるだけの実力があれば、こうして悩む必要も無いとは思うのだが……
何はともあれ、そう言った理由がある為。
オークキングを狩った事実を黙って貰えるよう、お願いしてみた訳なのだが。
当然、理由を知らない皆は怪訝な視線を僕へと向ける。
闇属性の素養がある事を話す事が出来たらどんなに気が楽だろう……
そんな風に思いながら、皆から返ってくる言葉を待っていると。
「はぁ、深くは聞かないがアルディノには何かしら理由があるんだろうな。
仕方無い、僕が家から持ち出した魔石を売りに来たことにでもすればいいさ。
まぁ、言ってはなんだがウチの家はそれなりの貴族だ。
家名を出せばギルド職員も納得してくれるだろう」
ベルトは困ったような、諦めたような表情を浮かべながらそう口にした。
「本当にいいの?」
「ああ、これは昨晩されたお願いの代わりだと思ってくれれば良いさ」
「え? ってことはアルって呼ばないってこと?」
「そ、それはそれで努力するつもりだが!
と、兎に角! お前がキングを狩ったことは黙っててやるから心配しなくていい!」
ベルトは照れ隠しなのか、カップで顔を隠すように勢い良く紅茶を流し込む。
その所為で紅茶が変な所に入ってしまったようで、大きくむせることになってしまい。
そんなベルトを見た僕は、頬を緩めると「ありがとう」と口にするのだった。
その後、皆もベルトの提案に賛成してくれたようで。
改めて皆にお礼を伝えると、僕達は篝火亭を後にし冒険者ギルドへと向かうことにした。
そうして冒険者ギルドへと到着し、冒険者ギルド内へ入ると。
気のせいだろうか?冒険者ギルド内は何処か慌ただしく感じられた。
そんな中、魔石の買い取りを済ませる為に受付へと向かい。
買い取りの為の手続きをしていると、学園の学生がギルドに居るのが珍しいのかだろうか?
チラチラと視線を送られるのだが、僕達に構っているような状況ではないようで、すぐに慌ただしさの中へと戻って行く。
なにか事件でもあったのだろうか?
冒険者ギルド内の様子を眺めながら、そんな疑問を浮かべていると。
「慌ただしくてごめんなさいね。
ブエマの森にオークキングが現れたみたいで、その対応の所為でみんな忙しいみたいなのよ」
僕の疑問に意図せずに答えてくれたのは受付のお姉さんで。
そう言うと困ったように笑って見せたのだが――
「それで、今日は魔石の買い取りと言うことだけ……ど。
へっ……この魔石って……それにこの数……」
オークキングの魔石を手にした瞬間、受付のお姉さんは眉根に皺を寄せ。
そして、「ちょっと待ってて!」と言い残すと、小走りで受付の奥へと姿を消してしまう。
その様子を見て、持ちこむタイミングを盛大に間違えてしまったことに気付き。
持ちこむ日をずらすべきだったかも?と考えるが、今更考えた所で後の祭りだろう。
自分の考えの至らなさ、詰めの甘さに溜息が漏れてしまう。
そうしている間に地面をパタパタと叩く複数の足音が近付き。
受付の奥から姿を見せたのは先程までの受付のお姉さん。
それと、小太りな中年男性と赤毛を短く切りそろえた大柄な男性であった。
大柄な男性は僕達を一瞥すると、野太い声で僕達に尋ねる。
「お前達、今日は魔石を売りに来たんだってな。
悪りぃんだが、どうやってこの魔石を手に入れたのか教えてくんねぇか?」
その質問に答えたのはベルト。
「手に入れたと言うよりかは、元から家にあったものですね。
父が入学金祝いと言うことで好きにして良いと渡してくれたものを買い取ってもらいに来ました」
「この魔石をか? 入学祝にしちゃ随分と太っ腹な親父みたいだな」
「ええ、こう見えて一応はイリス家の末子ですからね」
「ほう、イリス家のか……それなら納得出来ないこともないな」
ベルトは事前に話していた通りの言葉を口にし。
大柄な男性は納得して見せた――と思ったのだが……
「嘘はよくねぇぞ?
おい、この魔石の状態を見てくれ?」
大柄な男性がそう言うと、隣に居た小太りな男性はルーペのようなものを懐から取り出し。
オークキングの魔石を手に取ると、状態とやらを確かめ始めた。
そんなやり取りを見た僕は。
思わず『魔石の状態ってなにさ!?』と口にしそうになるが。
死んだ魔物の魔石からは徐々に魔力が抜けて行くと言う事からも、魔石の保存方法などに因っては状態に変化が起きるのかもしれないことに気付く。
それと同時に、魔石の状態である程度手に入れた時期が判明するのなら、わざわざベルトに嘘をついて貰ったのが無意味になってしまう可能性があり。
中年男性の動向を不安に思いながら見守っていたのだが……
「恐らくですが、魔石の状態からして死後3時間から5時間と言ったところでしょうね。
しかし、そうなると……」
どうやら僕の不安は的中してしまったようで、小太りの男性は確信めいた口調で告げた。
「3時間? 何かの間違いでは?
その魔石は家にあったものですよ?」
「嘘を言ってはいけませんよ?
魔石と言うものは魔物の肉体から回収した時点では魔石内で魔力の流動が見られます。
ソレから徐々に何時間も掛けて固定されて行くのですが。
貴方達が持ち込んだ魔石は未だ流動している最中、言わば新鮮と言う訳ですね。
ですが、家に保管されていたと言いましたよね?
そう言った保管された魔石では絶対に見られない兆候です。
まぁ、家で魔物を保管して回収したばかりと言われたらそれまでですが。
この魔石の大きさと質になると相当な魔物になります。
それを学園都市内で人知らず囲っていたとなると――それはそれで大問題ですよね?」
「だが――」
ベルトは僕との約束を守ってくれようとしたのだろう。
小太りな男性の説明に対し否定の言葉を口にしようとするのだが――
「ベルトありがとう。無理させちゃってごめんね」
「し、しかし!」
「いいんだ。ベルト、本当にありがとうね」
僕はその言葉を遮った。
これでベルトが否定の言葉を口にしてしまい。
ベルトどころかベルトの家族まで迷惑を掛けてしまっては流石に申し訳が立たない。
そう考えた僕は言葉を遮ったのだが、その所為で大柄な男性の視線が僕に向くことになる。
「ほう、お前の言葉から察するにイリス家の坊主の言葉は嘘だってことか?」
「ええ、そうなりますね」
「じゃあ、この魔石はどうやって手に入れた?
受付で聞いたとは思うが、ブエマの森でキングが現れた。
そして、このタイミングで持ち込まれた上質の魔石。
まさかとは思うが、お前達がキングを狩った――とは言わんよな?」
大柄な男性の言葉に僕はこれ以上嘘を吐くのは無理そうだと判断すると――
「ええ、僕がキングを狩りました」
覚悟を決めてそう口にするのだった。
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