第114話 事後処理
無事、オークキング達の討伐に成功した僕達。
思い思いの言葉を口にし。一頻り喜びの声を上げた後。
僕達はオークキング達の死体を前に、死体の処理について話し合うことになったのだが。
「魔石は当然回収するとして、死体はどうする?
このまま燃やしちゃえばいいかな?」
なんとなしに口にした一言に対し、皆は目を丸くしてポカンと口を開ける。
「はぁ!? 焼くってなんだよ!?
キングなんて素材の宝庫だろうが!」
「ダンテの言う通りだ。
オークやハイオークなら兎も角、キングを焼いてしまうのは流石にありえないだろう」
そう言うものなのだろうか?
ダンジョンで魔物を狩った経験は何度もあるが、素材として見たことは殆どなく。
リザードマンの皮やミノタウロスの角を採取したことが数度あるくらいで、魔石を回収した後は殆ど放置していた。
まぁ、始めの内は死体の処理として焼くようにはしていたが。
死んだ魔物がダンジョンに吸収されると知ってからは、それすらしていない。
「そうなんだ?
じゃあ、何か良い素材が取れそうなら好きにしていいよ。
それじゃ、魔石の回収しちゃおうか?」
この一言もなんとなしに口にした言葉だったのだが……
「おまえキングの価値分かってんのか!?
俺も詳しくは分かんないけど、魔石抜きにしたって金貨が数枚、いや数十枚は動く筈だぞ!」
「まーまー、アルが言うな仕方無いにゃ。
じゃあウチはキングの骨を貰うことにするかにゃ」
「ちょっとラトラ! 何勝手に貰おうとしてるのよ!
駄目に決まってるじゃない!」
ダンテは金貨数十枚の価値があると言い。
抜け駆けしようとしたラトラはソフィアに首根っこを掴まれている。
正直、それ程の価値があるなんて考えても居なかったので。
ダンテの言葉に驚かされてしまう。
それと同時に、ダンジョンでしっかり素材も回収していれば。
もっと早くに入学金を貯められたのではないだろうか?
そんな疑問も浮かんだのだが。
「アルディノはダンジョンで魔物を狩っていたらしいからな。
ダンジョンの魔物は、素材として使える魔物が少ないとも聞くし。
魔物を素材として見る機会が少なかったんじゃないか?」
図らずともベルトが疑問に答えてくれる形となる。
僕はベルトの話を聞き成程と頷くと同時に。
そもそも、素材として売れるのなら、メーテが黙っていないだろうことに気付き。
僕の疑問は杞憂であることを知る事になった。
それは兎も角。
素材として結構な価値があることが分かった以上は、適当に分配して後腐れる心配がある。
それを避ける為にもオークキングの素材は均等に分配するべきだろう。
そう考えた僕は皆に提案をすることにした。
「とりあえず素材になる部分を回収したらギルドで鑑定して貰って、後は均等に分配しようか」
そんな提案をしたのだが……
「は? 何で均等なんだよ!?
キングを倒したのはアルなんだから分配する必要なんて無くないか?」
ダンテが分配するのを拒否すると、皆もダンテの言葉に頷く。
確かにダンテが言う通りオークキングを倒したのは僕なのだが。
一対一と言う状況を作って貰えなければ、無事に倒す事が出来なかった可能性だってある。
そう言った理由から、オークキングを倒せたのは僕だけの手柄では無く。
皆の手柄だと思っていた。
なので、均等に分けるべきだと考えていたのだが……
皆は均等に分配すると言う言葉に難色を見せる。
まぁ、ラトラに至っては物欲しそうな視線をチラチラと向けているのだが……
僕はどうするべきか頭を悩ませるのだが。
僕が均等に分配すると言い張ったとしても、この様子では押し問答になるだけだろう。
そう感じた僕は「はぁ」吐息を吐き。
「分かったよ。皆の厚意を受け取って、素材は僕が貰い受けるね」
そう伝えると皆は頷くのだが。
キングの素材と言うのは本当に稀なのだろう。
皆は少しだけ未練を感じさせるような表情を浮かべる。
そんな皆の表情を見て。
本当は欲しいのに我慢してるのであろう事を察すると。
「――でも、今のところお金に困ってる訳でもないし。
キングの素材は売らないで保管しておくことにするから、欲しくなったら声を掛けてよ。
ギルドの買い取り値くらいには安くするからさ」
皆がオークキングの素材を手に入れやすいよう保管しておくことを伝え。
皆はその言葉を聞くと、明るい表情を浮かべるのだった。
それから僕達はキングから素材に使える部分を切り出していき。
残ったオークやハイオークの死体は燃やすことにした。
それらの作業が終わると、素材を運ぶ為の背負子を森の木々と蔦で作成するのだが。
工作があまり得意では無いので、随分と不細工な背負子が出来上がる事になる。
まぁ、それでも一応は背負子の役割は果たしてくれそうなので、無いよりは幾分マシだろう。
その後、背負子を作り終え、素材を積み終わる頃にはすっかりと夜が明けており。
結局一睡もしていない事に気付くと、仮眠を取るべきか?とも考えたのだが。
オークの焼けた臭いが漂うこの場所では、どうしても仮眠を取る気にはなれなかった。
そして、それは皆も同じだったらしく。
仮眠を取る事を諦めた僕達は、このまま学園都市へと帰ることに決める。
そうして学園都市へ向けて歩きだした僕達。
正直、一晩徹夜したくらいでは体調的にもまったく問題無いのだが。
まったく疲れていないのか?と尋ねられればそんなことは無く。
ちょっとした疲れの所為か、朝焼けが嫌に眩しく感じる。
そんな風に思いながら学園都市へと続く街道を歩いていると。
学園都市の方角から10数名からなる武装した集団とすれ違うことになる。
なにやら物々しい雰囲気を漂わせており。
急ぎの案件でもあるのだろうか? 僕達とすれ違う際に。
「何でこんな時間に子供達が!?
兎に角! ブエマの森で強力な魔物の発見情報があった!
危険だから君達は早く学園都市へと戻るんだ!」
そう言い残すと、脇目も振らずにブエマの森の方角へと去ってしまう。
もしかしてオークキングの事かな?とも思ったのだが。
違う魔物の可能性もあるし、オークキングの事を尋ねる前に去ってしまったので。
結局尋ねることは叶わなかった。
そんな出来事はあったものの、学園都市への帰路はコレと言った出来事も無く。
無事に学園都市へと辿りつくことになり。
朝食を取っていない事を思い出した僕達は、食事を取る為に『篝火亭』へと向かうことにした。
「飯を食った後はどうする?」
篝火亭へと向かう途中、ダンテが尋ねる。
本来であれば、今日は森を散策し、程良い時間になったら学園都市に帰るつもりだったのだが。
オークキングと遭遇したことにより、大きく予定がずれてしまった。
その為、こうしてダンテは尋ねてきたのだと思うのだが。
正直言って、僕としても特に案がある訳でもなく。
逆に「どうする?」と聞きたい気持ちではあった。
まぁ、敢えて案を上げるとしたらギルドで魔石の買い取りを済ませてしまうぐらいなのだが……
そんな事を考えている間にも歩みを進め。気が付けば篝火亭の目と鼻の先へと辿り着き。
朝の澄んだ空気の中、篝火亭の食堂から香ばしい食欲をそそる香りが漂ってくる。
その香に鼻孔をくすぐられた僕はお腹が鳴りそうになるのを我慢すると。
「とりあえずはご飯を食べてから考えようよ」
ダンテの質問はとりあえず置いておくことにして、足早に篝火亭へと向かうのだった。
◆ ◆ ◆
平原とブエマの森との境。
そこに3組の冒険者たちは立ち尽くしていた。
「一体どうなってるんだ……」
そう零したのはAランクパーティー『乱雑なる図書』のリーダーを務める男だった。
「オークとハイオークの焼死体が併せて20匹以上……
ギルドからの討伐依頼ってこの死体の事よね?」
怪訝な目つきで20匹からなるオーク達の焼死体を眺めながら。
Bランク冒険者であり『襤褸切れ』と呼ばれる女性は呟く。
「ってことは、俺達が着く前にどこかの誰かさんが討伐しちまったって言うのか?
――ちっ、久しぶりの大物だって聞いて来たのによ」
これから一戦交えるのを楽しみにしていたのだろう。
Bランクパーティー『暁鼠』を束ねる男は不機嫌そうな表情で舌を打ちならす。
オーク達の焼死体を眺めながら、それぞれがそんな言葉を口にしていると。
「キ、キングです! オークキングの死体もあります!」
『暁鼠』の構成員である荷物持ちの男の報告により、その顔を驚きの色に染めることになる。
「本当にキングが居たとは……」
「どうせオークの亜種と見間違えたんだろう。
そんな風に思ってんだけど……うん、コレはキングで間違いなさそうね」
「マジでキングだったのかよ……くそっ! もったいねぇ!
てか誰だよ! キングを討伐出来るヤツなんか学園都市に居たか!?
いたとしても出払ってていねぇだろ?
いねぇから俺達が来たってのに……ったく! どうなってやがんだ!」
一体どこの誰が?
オークキングの焼死体を前にし、そんな疑問を浮かべる3人。
オークキングを討伐出来る冒険者となれば、学園都市でも数えるくらいしかおらず。
その実力者たちも依頼等で出払っているから彼等はこの場所に来る羽目になったのだ。
実際、オークキングを倒せる実力者となれば、彼等にも心当たりはあるにはある。
それは冒険者を引退した『瞬転』や『賢者』などと呼ばれる者なのだが。
『瞬転』や『賢者』が動いたとなればそれこそ大事で。
もし、動いたとなれば間違いなく彼等の耳にも入る筈であった。
しかし、その情報が耳に入っていない以上は動いた可能性は限りなく0に近く。
やはり彼等の出した結論は、オークキングを討伐した者の心当たりが無いと言うことだった。
そんな中。
「まさか……朝すれ違ったあの子供達か?」
『乱雑なる図書』のリーダである男が半ば投げやりな推測を口にするのだが――
「見た感じ学生さんでしょ?
優秀だとしたってこの量のオークは無理ね。遭遇してたら殺されるのがオチだわ」
「おいおい、あんたがそんな事言うなんて、耄碌したんじゃないのか?」
まるで悪い冗談だと言わんばかりにその意見は否定されてしまい。
「まぁ、流石に無理があるか」
そして、否定されたことにより推測を霧散させる。
実のところ、その推測は見事に的中していたのだが――
その事に気付く様子も無く、3組の冒険者たちは事後処理に取りかかるのであった。
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