第110話 アル先生
出来上がったクレーターを呆けたように眺めていた皆であったのだが。
それから少しした所で、各々が口を開き始める。
「マジで上級魔法使えるのかよ……」
そう言ったのはダンテ。呆れたような表情を浮かべている。
「あ、ああ、しかも上級魔法まで無詠唱とか……まったく意味が分からないな……」
「……もはや学園に通う意味がにゃい気がするんだけど?」
「やっぱりアルは凄かったけど……でも、これじゃ全然横に……」
ベルトにラトラもそう言って呆れたような表情を浮かべるのだが。
ソフィアだけは少しだけ浮かないような表情を浮かべている。
それが気になった僕は、ソフィアに声を掛けようとしたのだが。
「てか、魔法を使うと地形がおかしくなりそうだから使わなくてもいいけどよ。
他に何が出来るのかを教えて貰っていいか?」
ダンテのそんな言葉で遮られる。
「そうだな、他にも何が出来るのかを知りたい所でもあるが……
僕としては、どうしたらそんな規格外の事が出来るようになったのかを知りたいな」
「うんうん、確かにそれは気ににゃるにゃ!」
ベルトとラトラはどのような魔法が使えるかよりも、使えるようになるまでの過程が知りたいようで、興味津々と言った視線を僕へと向けている。
ソフィアの様子が気になる所ではあったのだが。
「そうね! どんな教育を受けたのかを知れば、アルに近づけ……
い、今よりも強くなれる方法が分かるかもしれないわ!」
そう言って真剣な視線を向けてくるソフィアを見た僕は、皆の質問に答えて行くことにした。
そうして、闇属性の素養の事など、答えられないことは煙に巻きながら答えて行き。
皆の質問に一通り答えて行くと。
「最低でもひとつずつ全属性の上級魔法を使えるとか……
マジで意味が分かんねぇな……」
「魔力枯渇をほぼ毎日!? しかもそれを10年近く続けてるって言うのか!?」
「凄い自虐癖にゃ……
と言うか、魔力枯渇すると魔素に干渉しやすくにゃるって言うのは俗説だと思ってたにゃ」
「私も先生には厳しくされてきたつもりだけど……
アルの場合は厳しいと言うよりか、よく死ななかったわね? って言いたくなるレベルね」
『青き清流』の皆に授業内容を説明した時にも驚かれたが。
やはり、僕が今まで行ってきた授業は普通から逸脱していたらしく。
皆はそう言うと、驚きと呆れを含んだような視線を僕へと送った。
「確かに、始めの内は魔力枯渇させるのは辛かったけど。
慣れちゃえば、魔力枯渇の倦怠感? って言うのかな? そう言うのも無くなるよ」
「ちなみに、なれるのにはどれくらい掛かるもんなんだ?」
「んー、大体5年か6年て感じじゃないかな?」
「やっぱアルの先生も大概だけど、それをやり続けたアルも大概だわ」
ダンテは呆れたと言うよりかは若干引いてしまったようで、苦い表情を浮かべる。
「それと、私の為……じゃなくて、学園に通う為にダンジョンに潜ってたのは知ってたけど。
まさか中層級になっていたのは知らなかったわ」
「そうそう! それだよ!
俺が冒険者とか探索者になりたいってのを知ってたのに何で黙ってたんだよ!」
「聞かれなかったからかな?」
「なんでだよ!? 普通はもっと自慢するだろ!?」
確かにダンテの言う通り、中層級の探索者だと言えば自慢になるのかも知れないが。
しかし、闇属性の素養があり、それを隠している以上は余計なことを言って目立ちたくないと言うのが本音で。
あまり自分からペラペラ喋ることでは無いとも思っていた。
まぁ、答える相手は選ぶものの、聞かれたら答えるつもりだったし。
目立ちたくないと言うのも、どの口が言っているんだ?と言われてしまいそうな最近の状況ではあるが……
「てか、アルの実力を知る為の集まりだったけど。
なんて言うか、想像以上すぎてどう評価していいかわかんねぇなコレ」
「ああ、それは確かにそうだな。
学生のレベルを遥かに超えていると言うのは分かるが……」
「本当だにゃ、アルならウチの母ちゃんといい勝負が出来るんじゃにゃいか?」
皆はそんな言葉で僕のことを評する。
多少大雑把な評価ではあるものの。
自分の実力と言うものが少しは理解できたので、今日の集まりに参加してくれたことへのお礼の言葉を口にする。
「自分で言うのもなんだけど……
学園の生徒達を基準にして、それよりも大分実力がある事が分かったよ。
皆、今日は付き合ってくれてありがとうね」
そんなお礼の言葉を口にしたのだが。
そう言った僕の表情を見てソフィアが尋ねた。
「アル? 少し浮かない顔して無い?」
その言葉にドキリとする。
ソフィアが言った通り、僕には浮かない表情を浮かべる理由があった。
「う、うん。
自分に実力があるって言うのは分かったんだけど。
そうなると、生徒同士で手合わせする機会に全力でやる訳にはいかないでしょ?
かといって様子を見ようとすると後手に回る必要があるし……
それでグレゴリオ先輩と戦った時みたいに痛い目見るのも嫌だしなー。
なんて思ったんだよね……」
僕が言葉にした通り、実力差がある場合は相手に合わせる必要がある。
ある程度加減をした戦い方を覚えれば良いとは思うのだが、一朝一夕で身につくものでもないように思えた。
暫くは後手に回り時には痛い思いもする事になるのかな?
表情に出しているつもりはなかったが、そんな考えがあった為、少し浮かない気持ちでいたのだが。
そんな内心をソフィアには見抜かれてしまったようだ。
そして、僕の言葉を聞いたソフィアは少し悩むような表情を見せた後、なにやら思いついた様子でパンと手を打つ。
「じゃあ、アルが先生として私達と手合わせをするのなんてどうかしら?
一応、第7席でもある私がアルの話を聞く限りじゃ勝てそうにないんだから、他の皆が本気で戦ったとしてもアルには勝てないと思うの。
だから、皆は本気で手合わせが出来るし。
アルはアルで手加減を覚える事が出来るでしょ?
お互いに利益になるって思ったんだけど……どうかな?」
ソフィアは少し不安げな上目づかいを僕へと向ける。
僕はソフィアの話を聞いて考える。
ソフィアの案であれば、皆にも僕にも利益があるし、手加減を憶えておきたい僕にとっては願ってもいない話であった。
だがしかし、皆の反応はどうなのだろう?
そう思ってソフィアと同じように不安げな視線を皆へと向けてみると。
「おお! 良いじゃん! 同年代だとどうしても遠慮する部分があるからなー。
その点アルの実力なら手加減も必要無さそうだし、全力でやれる相手が居るのは貴重だわ!」
「ああ、僕は一度手合わせしているが、あれから少しは実力を上げたつもりだ。
あの時と同じではない事を証明しなければな」
「いいんじゃにゃいかな? 学園に来てから勉強ばっかで思いっきり暴れて無かったからにゃ。
良い機会にゃ! 存分に暴れてやるにゃ!」
どうやら、皆もソフィアの提案に賛成なようで、やる気を感じさせる言葉を口にしていた。
これでソフィアの提案に皆が賛成に形になったのだが。
ソフィアは相変わらず不安そうな視線を僕に向けている。
何故か皆の視線も僕に集まっており、それを疑問に感じてしまったが。
そう言えば、賛成の言葉を口にしていないことに気付き――
「そ、それじゃあ! ふ、不束者ですが先生役を務めさせていただきます!」
慌ててそう口にすると。
皆は慌てた僕の口調に笑い声を上げ。
ソフィアは安心したように笑みを浮かべるのだった。
そうして手合わせを始めた僕達。
皆は本気を出せると言うことで本当に遠慮なしの手合わせとなった。
ダンテは以前にも言っていた通り。
魔法を主体にする戦い方では無く、剣術を主体に魔法を混ぜると言った戦い方が得意なようで。
土属性魔法の素養があると言うのに殆ど魔法を使うことは無く、剣術を使うことが殆どであったが。
剣術を得意とするだけあり、その腕はなかなかのもので。
魔法も攻撃よりかは防御に使うことが多く中々に攻めづらい印象を受けた。
ベルトとは試験の際に手合わせをしたが。
今回もその時と同じような戦い方で、魔法を中心にし、剣術を混ぜると言う戦い方で。
ダンテと基本的な戦い方はダンテと似ているものの、ベルトと手合わせした感覚で言えば、近中距離での戦いが得意なように思えた。
それとだが。いつの間にか『水弾』を同時に4発出せるようになっていて、それには思わず感心させられた。
ラトラは始めて手合わせすることにもあって、どの距離での戦いが得意なのか分からなかったが。
何となく虎の獣人と言うこともあり、速さを活かした近距離が得意なのでは?
そんな予想をしていたのだが。
どうやら、その予想は当たっていたようで、身体強化を駆使した近距離戦を仕掛けられた。
魔法もそれなりには使えるようなのだが、攻撃に使うと言うよりかは補助に使うことが多く。
例えば、風属性魔法を後方へと放ち、加速に利用するような使い方をしており。
その珍しい魔法の使い方には勉強させられる点が幾つもあった。
そして、ソフィアなのだが。
――正直言って驚かされた。
僕の中でのソフィアの印象と言えば幼い頃オークに捕まり怯えている姿が強かったのだが。
今のソフィアにはオークに怯えいた時の面影など欠片も無かった。
「アルがダンジョンに潜ってる間、私だって頑張ってたんだから!」
そう言った後に続けた言葉は。
『火天渦巻き剣を纏え!』
詠唱でもないその言葉に、これから何が起こるのか分からず注視していると。
ソフィアが手にしていた剣に炎が纏った。
普通の魔法でも無く、僕の魔力付与とも違うその技に驚きを隠せないでいると。
「やっぱりコレはアルも知らなかったみたいね!」
ソフィアは自慢げに言葉を続け。
「コレは私の剣の先生から教わった『魔法剣』てヤツよ!
古い文献に合った技術を先生が再現したものだって言うから、アルも知らないと思ったけど。
ふふん、これで驚かされっぱなしのお返しが出来たみたいね!」
そう言うと上機嫌な表情を浮かべる。
「それじゃ行くわよ!」
その言葉を合図に手合わせが始まったのだが。
魔法剣と言ったその技はかなりの威力を持っており、僕が持っていた鉄の棒をあっさりと切断して見せた。
そして、その切断面を見て見れば、斬ったと言うよりかは溶かしたと言った表現の方が近く。
こんな物をまともに食らったら……
そう思うと血の気が引いていくのが分かった。
そこからは僕もそれなりに実力を発揮し手合わせをしたので。
ヒヤッとする場面もあったが、どうにかソフィアとの手合わせをやりきることが出来た。
そして、全員との手合わせが終わり。
「本気でやったけどマジで余裕で捌き切ったな……」
「試験の日から少しは実力を上げたつもりだが、まだまだのようだ……」
「んにゃーーー! 一発くらい良いのを入れてやろうと思ったのに! 理不尽にゃ!」
「少しは驚かせることが出来たみたいだけど……
もっと腕を磨かなきゃいけないみたいね……」
皆は地面に腰を下ろしながらそんな言葉を口にする。
皆の言葉を聞く限りでは随分と楽にいなした様に聞こえるかもしれないが。
僕としてはヒヤッとする場面も何度もあったし、言うほど余裕であった訳ではない。
それに、みんなとの手合わせは自分に無い発想が多く、凄く勉強になったのだが。
傷一つない僕を見れば、そう言って浮かない表情を浮かべるのも理解出来た。
なので。
「凄い勉強になったから、また手合わせしようよ?
僕でよければ何時でも手合わせするからさ?」
励ますつもりでそう言ったのだが。
「約束だからな!」「約束だぞ!」「約束だにゃ!」「約束だからね!」
そんな言葉と共に、驚くほどの勢いで詰め寄られ。
ちょっと安受けおいしすぎたかな?
などと少しだけ後悔するのであった。
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