七章 学園都市 一学年

第104話 不良生徒

 おとぎ話の真実を聞いた日から数日が経ち。

 待ちに待った自宅謹慎が解かれる日を迎えることになった。


 この数日、メーテとウルフが遊びに来たり。

 ダンテやベルト、それにソフィアが授業内容の報告に来たりと。

 あまり謹慎中らしい生活を送ることが出来ず、一日一日を騒がしく過ごす事になってしまったが。

 外出することは意識して控えていたので。

 堂々と外を歩き、学園に再び通えるようになるのは素直に嬉しく感じ。

 なんとも言えない開放感を感じてしまう。


 僕は、2週間ぶりの制服に腕を通すと、気持ちを新たにし。

 今後は謹慎なんてくらわないようにしようと心掛ける。


 そうしていると――



「もう謹慎なんか喰らうんじゃないぞー」


「わっふ!」



 薄い壁の向こう側からそんな声が聞こえてくる。



「き、気を付けるよ……

それじゃあ、メーテ、ウルフ、行ってくるね!」



 薄い壁の向こう側に居るメーテとウルフに家を出ることを伝えた僕は。

 2週間ぶりの学園を想いを馳せ。

 部屋から出ると、一段飛ばしで階段を降りて行った。






 そうして2週間ぶりの学園へと到着し、教室へと向かうと教室の扉を開く。



「おはようございます!」



 久しぶりのクラスメイト達の再開に気持ちが高揚してしまい。

 朝の挨拶が自然と大きなものになる。


 だが、挨拶をした瞬間、教室にいたクラスメイト達の話し声がピタリと止まった。


 一体何事かと思った僕は、思わず周囲を見渡してみるのだが。

 皆の会話を止めてしまうような原因を確認することが出来ない。


 クラスメイト達の反応を不審に思いながらも自分の席に着くと。

 なにやら周囲の視線が僕へと集まっているような気がする。


 そんな視線に加え、ヒソヒソとした話声が聞こえるのだから、少しだけ居心地の悪さを感じてしまう。

 本当、一体何事なのだろう?

 そんな疑問を浮かべていると。



「おはよーっす」



 そんな挨拶と共にダンテが教室へと入って来た。



「おっ!? 漸く謹慎が解けたみたいだな!」



 ダンテはすぐに僕が居ることに気付いたようで。

 そう言うと僕の元へと足早に歩み寄り、目の前の席へと腰を下ろす。



「おはようダンテ、今日から宜しくね。


――ところでさ、謹慎が解けたのは嬉しいことなんだけど……

なんか、クラスメイト達の様子がおかしい気がするんだけど? 僕の気のせいかな?」


「様子がおかしい? どこら辺がだ?」


「なんて言うか、余所余所しいと言うか、避けられていると言うか……

謹慎していたのが原因だとは思うんだけど、もしかして僕がいない間に何かあった?」



 僕に対するクラスメイト達の態度に疑問を持っていた僕は。

 ダンテなら何か知ってるかも?と思い尋ねてみる。


 ダンテは教室をざっと見回した後。



 「あー、そう言うことか」



 一人だけ納得するような声を上げた後に僕の疑問に答えてくれた。



「多分アレだわ……アルは入学してすぐに謹慎になっただろ?

しかも、前期組のヤツに暴行を加えたってのが謹慎の理由だ。


まぁ、簡単に言っちまえば、アルにビビってるんだろうな」




「へ?」



 ダンテの言葉に思わず間抜けな声が漏れる。


 クラスメイト達が妙に余所余所しいのは、僕の事を怖がっているからだとダンテ言う。

 言ってしまえば不良生徒のような扱いをされていると言う事なのだろう。



 いやいや、そんなまさか。


 前世から通じて僕は割と真面目に生きてきたつもりだし。

 出来るだけ素直であろうと思って生きてきたつもりだ。


 そんな僕が、正反対の生き方とも言える不良だなんて。


 ダンテはちょっと様子がおかしいから、妙な勘違いをしているのだろう。

 きっとそうだ。

 うん。ダンテはちょっとおかしいもん。


 そう自分に言い聞かせた僕は笑顔を浮かべると。

 ダンテの言っていることが間違いであると証明する必要があるだろう。

 そう思い立ち、一人のクラスメイトの元へと歩み寄り声を掛けてみることにしたのだが……



「変な噂が流れてるみたいだけど。

噂って言うのは当てにならないし、僕は不良じゃ――」


「す、すみません!

自分、銅貨8枚しか持ってないです! これで勘弁して下さい!」



 クラスメイトは何を勘違いしたのか銅貨8枚を机に並べて見せる。



「やだぁ、やっぱり不良だったのよ……」


「おいおいおい、朝から堂々とカツアゲかよ……

とんでもねぇな……」



 そして、周囲からは耳を疑いたくなるような会話が聞こえてくる。



「ち、違くて! お金なんかいらないから!

僕達はクラスメイトでしょ!? そんなことしないよ!」


「お金じゃ無いってことは……

も、もしかして!? 舎弟になれとかそう言うことですか!?」



 いや?違うよ?そう言う事じゃないよ?


 クラスメイトの発想が突拍子も無さ過ぎて、思わず呆けてしまう。



「舎弟だってよ……」


「前期組に喧嘩を売りに行くつもりだって噂があったし。

その為の仲間集めってことかしら……」



 更に、周囲からは耳を疑いたくなる会話が聞こえてくる。


 いやいや、おかしくない?


 そう思い、ダンテに縋るように視線を向ければ憐れむような視線を向けられ。

 クラスメイト達に視線を向ければ、その視線を勢いよく逸らされる。



 ……どうやら本当に不良生徒だと思われているようで。

 そんな自分の状況を知った僕は、幸先の悪い再スタートに力無く渇いた笑みを漏らすのであった。

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