第66話 無意識の反応

 無事地上に戻った僕達は、迷宮都市の家へと帰る。

 そして、家に帰った僕達は転移魔法陣を使い、さらに森の家へと帰った。


 もしかしたら、エドワード侯爵が家の場所を知り、使いの者を寄こす可能性を考慮しての事だ。



 そうして僕達は、副ギルド長が言っていた一週間と言う時間を森の家で過ごしたのだが。

 一応、念には念をと言うことで、そこからさらに一週間を森の家で過ごすことにした。


 そして、それは僕にとって思いがけない休暇でもあった。


 もちろん毎日の鍛練は欠かさないし、時には森の魔物を狩りに行ったりもしたが。

 それ以外にも川へ釣りをしに行ったり、読めていなかった本を読んだりと。

 休暇らしい日々を送ることが出来た。

 中層の町では息抜きすることが出来ず、逆にストレスを溜める羽目になってしまったが。

 それを差し引いたとしても、お釣りがくる程度には充分な息抜きが出来たと思う。


 そして、なにより。

 ゴーレムを相手にしないで済む!と言うだけでも充分な息抜きになったと言えるだろう。


 そんなゆったりとした2週間を予期せず送れることになったのだから。

 エドワード侯爵に絡まれたのも、案外悪いことだけじゃなかったのかも?


 ……などと思ってしまったのが間違いだった。






 2週間ほど間を置いたので、流石にエドワード侯爵も帰ったのでは?

 そう判断した僕達は、迷惑を掛けてしまったことに対する謝罪をする為に、ダンジョンギルドへ行くことを決めた。


 正直、副ギルド長に会えるかは分からなかったので。

 その場合は手紙と菓子折りを届けて貰うことにし、副ギルド長宛ての手紙と、アリエッタで焼き菓子の詰め合わせを用意した。


 そうしてダンジョンギルドに到着すると、まだ早い時間だと言うこともあり。

 これからダンジョンに潜るのであろう探索者の姿がちらほらと見掛けられ、ダンジョンギルド内は賑わいをみせていた。


 そんな中、どうすれば副ギルド長に会えるのかを考えるが答えは見つからず。

 とりあえず職員さんに聞いてみるか?という結論に達し、受付へと向かうのだが。

 こちらもそれなりの賑わいを見せており、何組かの探索者が列を作っていた。


 探索者の背中越しに受付を覗いてみると、受付を担当する職員の中に運良くレオナさんの姿を発見し。

 レオナさんの担当する列へと並ぶと、何気なくダンジョンギルド内を見回したり、レオナさんの仕事ぶりを眺めながら時間を潰した。


 そんな風に時間を潰していると、ややあって僕達に順番が周ってくる。



「お久しぶりです。レオナさん」



 いつも通りの気安い感じで声を掛けたのだが、レオナさんの表情は渋い。

 何かあったのだろうか?と若干の不安を感じるていると、レオナさんは心配そうに尋ねた。



「……アル君、色々噂になってるみたいだけど、君達なにをしたの?」



 その質問の意味が分からず、間が開いてしまったのだが……



「もしアル君達が姿を現したなら、副ギルド長に連絡するように通達があったんだけど……」



 そう言われることで、質問の意味を理解することが出来た。


 聞いた話では、副ギルド長はダンジョンギルドの実質的なトップと言う立場だ。

 そう言った立場の副ギルド長が、一介の探索者風情に連絡を取ろうとしているのだから、それだけでもことの深刻さを図り知れる。


 それに加え、レオナさんの様子から察するに、詳しい内容は聞かされていないのだろう。


 そんな状況なのだとしたら色々と噂になるのも理解できるし。

 そう言った経緯があったからレオナさんは渋い表情を浮かべて「なにしたの?」と尋ねたのだろう。


 そして、それを理解すると同時に気分が重くなる。


 僕達のことで副ギルド長に連絡と言うことは、十中八九エドワード侯爵関連だろう。


 ダンジョンギルドに訪れた理由が迷惑を掛けたことへの謝罪なので、副ギルド長に会えるのはある意味好都合なのだが。

 レオナさんの様子や噂が飛び交っていると言う状況を考慮すると、想像していたよりも問題が大きくなっているように感じた。


 注意されたのに騒ぎを起こし、その上、逃げてしまったのが原因なのだとは思うが。

 騒ぎを起こさない選択肢としては、メーテを売るか嬲りものにされるかしかなかったのだから、どう足掻いても騒ぎになったのだろう。

 そう思うと、その理不尽さに溜息を吐きたくなった。



「アル君?」



 そういえば。と、レオナさんの質問に答えてなかった事に気付く。



「あ、すみません。エドワード侯爵と揉めまして」



 あまり重い感じで言うのもどうかと思った僕は、軽い感じで言ってみたのだが。



「……へ?」



 それでもレオナさんには重い情報だったようで。

 レオナさんは固まったように動きを止めるのだった。






 それから、どうにか立ち直ったレオナさんは、受付の奥の方へパタパタと走っていくと、少しして一人の女性職員を連れて来た。


 どうやら案内をしてくれるようで、女性職員の後に着いていくと、ある部屋の前へと案内される。

 その扉には執務室と書いてあり、女性職員はその扉をコンコンと優しい手つきで叩く。



「入れ」



 執務室から聞き覚えの声が聞こえた。


 そして、その声の主が容易にできた僕は執務室に入るのを躊躇してしまい、逃げ出したい気持ちに駆られるのだが。それをグッと堪える。



「失礼します」



 所在なさげに言うと、僕は執務室へと踏み入った。



 執務室に入ると、手前には足の短い長方形のテーブルがあり。

 それを挟む形で、一対の長椅子。その奥には高級感のある執務机があった。


 そして、その執務机で書き物をしている人物は僕達に視線を向け。



「よく来てくれたな」



 そう言って立ち上がると、僕達に長椅子へ座るように促し、その対面へと座った。


 そして。



「それでは、話を聞こうか」



 そう言う声は穏やかなものであったが、表情を見ればそれが擬態だと言うことが分かる。


 その表情は、声同様に穏やかなもので、頬笑みさえ浮かべているのだが……

 よくよく見れば、その口角は若干の痙攣をしており、無理やりに笑顔を作っていることも分かる。


 そして、なにより。その目が笑っていないのが証拠だろう。


 それらの情報によって僕は察する。




 やばい、めっちゃ怒っている。と。




 僕は身を縮ませると、対面に座る人物。

 ダスティン=バルバドス。副ギルド長その人に、中層支部を出てからの経緯を話し始めるのだった。






 そうして話し始めたのはいいのだが。

 話し始めて5分もしない内に僕達の間に相違があることに気付く。



「なっ!? エドワード侯爵の護衛を返り討にしたのか!?

まさか? 命まで奪ったのではないだろうな!?」



 あれ?なんかおかしい。


 それを知ってるからこそ問題になって執務室に呼ばれたのではいのだろうか?



「とんでもない! 気絶させて、一応、回復魔法も掛けて放置しただけです!」



 自分で言っておいてなんだが、とても「だけ」には聞こえない。



「それならいいが……いや、いいのか?」



 多分良くはないのだろうけど、撃退したことがバレてないのは朗報だった。



「てっきり、そのことで呼ばれたと思ったんですけど、違うんですか?」


「いや、転移魔法陣を利用して地上に戻ったのは担当から聞いていたのだが……

それからダンジョンを利用した形跡がなかったのでな。


もしかしたらエドワード侯爵関連のトラブルに巻き込まれて、亡き者に……などと思ってな。

杞憂で済んで良かったよ」




 副ギルド長はそう言うと、少し照れくさそうにする。


 どうしよう。副ギルド長の優しさが辛い。



「だが、なんで2週間の間姿を見せなかったんだ?

確か一週間程度羽を伸ばしたらどうだ? とは言ったが」



 そう言うと副ギルド長の目が若干鋭いものとなる。


 多分だが、怒っている理由はこれなのだろう。


 要するに。

 「まったく! 心配させるんじゃない! 無事なら無事と早く言え!」

 と言うことなのだろう。


 どうしよう。副ギルド長が王道ヒロインに見えて来た。



「すみません。もしかしたらと思いまして、予定より長い間身を隠すことにしました」


「ふむ。まぁ、そう考えるのも致し方ない事か……

では、話を戻そうか。護衛を返り討にしたそうだが、それは誰がやったのだ?」



 その質問に恐る恐る答える。



「えっと……僕です」



 その瞬間、副ギルド長の決して大きいとは言えない目が開かれる。



「アルディノ君が!? 本当なのか?」



 そう言って副ギルド長はメーテとウルフに視線を向けると、2人は答える。



「ああ、アルに任せた」


「思ったより余裕だったわね」



 2人がそう言った次の瞬間ゾワリと肌が泡立ち。

 僕は腰に差してある片刃の剣に手を伸ばす。

 そして、剣を抜こうとし――それを副ギルド長に抑えられた。



「え? 今、僕は何を……」



 自分の行動に混乱する。


 何故、剣を抜こうとしたのか?

 何故、副ギルド長に斬りかかろうとしたのか?


 どうにか頭で整理しようとするが、混乱は増すばかりで、謝ることすら忘れてしまっていた。


 だが、そんな僕を見て、副ギルド長は心底愉快そうに笑う。



「はっはっは!

いやぁーすごいな! その歳で殺気に反応するのか!

そうなると確かに護衛を返り討にしたと言うのも頷ける!

どう言う教育をすればこう育つんだ? 優秀なせんせーに是非教えて貰いたいものだ」



 副ギルド長はメーテとウルフに視線を向ける。



「全部は教えられないが、一つだけ教えてやるとした毎日の魔力枯渇だろうな」


「四肢を拘束してからの身体強化とかも重要ね」



 褒められて調子に乗ったであろう二人は、胸を張るように言うのだが。

 副ギルド長は「お、おう」と若干引き気味だ。


 そんな様子を見て、少しづつ落ち着きを取り戻して行く。


 そして、まず剣を抜こうとしたことを謝罪すると、どう言うことなのか3人に説明を求めた。



「アルディノ君を試すようなことをして悪かったな。

護衛を返り討にしたというのが少々信じられなくてな。


アルディノ君の実力を認めた今だから言うが。

多少の実力はあるかもしれないが、そちらの2人の実力で55階層まで到達したと思っていた。


だから、少しだけ試してみようと思ってな。

軽く殺気を飛ばしてみて、なんらかの行動があればその話にも納得できると思ったんだ。


気付かなければ不合格。

何らかの気配を感じ身構えて及第点。

明確に気配を感じ取り、戦闘準備に入れれば合格と言うところだな。

せんせー方、私の採点方法に問題はなさそうか?」


「適切だと思うぞ。良い判断だ」


「そうね。あの護衛相手ならそんなもんじゃないかしら?」


「ははっ。

この歳になって褒められるのも照れくさいが、存外悪くないな」



 副ギルド長は満足そうにそう言うと、説明を続ける。



「では、せんせー方の太鼓判を貰えたようだし、話を続けよう。


それでアルディノ君の場合だが、結果的には未遂で終わったが。

その意識は、殺気を放った相手を斬りつける。と言うところまで至っていた。

ここまでくれば満点合格だ。と、言いたい所だが残念ながら0点だ」



 「0点」褒めてるような様子だったので、まさかの点数に驚くが。

 僕よりもメーテとウルフの方が驚いた様子を見せていた。



「0点と言ったが、そんな落ち込まなくていいぞ? 行動としては満点だったんだからな。


そこでアルディノ君に問題だ。

何故、満点の行動だと言ったのに0点と評価したのが分かるかな?」



 その質問に思考を巡らせる。


 満点なのに0点。それは矛盾した評価だと言えるだろう。

 じゃあ何故、そんな矛盾が生じるのかを考えれば答えが出るのだろうが……


 そうして考え込んでると、メーテが口を開いた。



「0点とは中々、的を射た表現だな。少々驚かされたぞ。

そこまで分かっていると言うことは、私の考えも理解していると言うことでいいのかな?」



 どうやら、メーテとウルフは0点と評価したこと自体に驚いていたようだ。


 そして、その質問に副部長は首を振ると。



「どうだろうな? せんせー方がしていることは理解出来ているつもりだが……

その本意は? となると推測の域を出ないと言った所だろうか」



 そう言った副ギルド長の姿は何処か楽しそうに見える。


 そして、そんなやり取りを見た僕は、自分だけ理解できていない事がなんだか悔しくなり、必死に頭を悩ませる。


 満点なのに0点、どう言った場合そのようなことが起こるのか……


 そうして考えると「あっ」と言葉を漏らし、前世で一度だけ、そのような経験があったことを思い出す。

 自信がある訳ではないが、遠からずな答えな気がした僕は、その考えを口にした。



「えっと、確かダンジョンギルドにも筆記試験があったと思うんですけど。

解答用紙に名前が無い場合に、そのようなことが起きると思います」



 僕がそう言うと、副ギルド長は「ほう」と言い、続きを促すような視線を向ける。



「なので、それを当てはめるのであれば。

解答が行動に当たり、名前が主体性とか意識に当たるのでは? と。

そう考えた結果、無意識の行動であったため0点なのでは? と考えたのですが……」



 そう答えた所で、副ギルド長は嬉しそうに言う。



「面白い例えだな。

そして、それが間違いではないのだから面白い。


アルディノ君の例えで言うなら、まさにそれだ。  

名前の書かれていない解答用紙、意識の無い行動である為0点と評価した訳だ」



 どうやら僕の考えは間違っていなかったようで、ホッと一息つくと、副ギルド長は身を乗り出すようにし言葉を続ける。



「何をするにしたってそうだが、行動に移す為には意識する必要がある。

ところがアルディノ君の場合、私の殺気に対して無意識の内に反応を示した。

これはかなり歪なことだ。


では、何故、そんな歪な状態なのか? そんな話になってくる。

ここからは私の推測になるので、間違っている可能性もあるのだが……


アルディノ君のせんせー方は、意識の部分。

アルディノ君の例えで言うところの名前の部分。それを意図的に空白にしてあるように思えた。


何故そう思ったのかと言うと、これもアルディノ君の例えを使わせてもらうが。

例えば満点の解答用紙を提出されたとしよう。

だが、提出された解答用紙には名前が書かれていなかった。

本来なら単なる書き忘れで終わる話だが、その解答用紙は満点なのだ。

そんな者が単なる書き忘れをするだろうか?

何か意図があるのではないか? 当然そう言った疑問が浮かんでくる。


そして、実際にアルディノ君の行動を見た私からすれば、なにかしらの意図がある。

そう確信するには充分だった。


では、どう言った意図があるのか?

恐らくだが、アルディノ君のせんせー方は『無意識の反応』

そう言った類のものを、身に着けさせようとしているのではないか?

そんな結論に達したわけなのだが、いかがだろうか?」



 副ギルド長は、答え合わせを楽しむかのような視線をメーテとウルフに向ける。



「ふむ、恐れ入ったよ。ほぼ正解と言っていい」



 メーテがそう言うと、副ギルド長は「ほぼ正解」と言う言葉に表情を弛ませる。



「ほぼ正解か。少し悔しいが充分だろう。

だが、まだ疑問も残っている。

無意識の反応を身に着けるのはいいとして、本来、意識が収まる筈の空白の部分。

そこには何を納めるつもりなのだろうか? 意識、それとも別の何か?」



 そう言うと、ブツブツと一人で考え込むように呟き始め――



「駄目だ。わからん」



 副ギルド長は両の手のひらを見せ、降参の意志を示した。


 すると、メーテは引き継ぐように話を始めた。



「さっきも言ったが、副ギルド長殿の言ったことはほぼ正解だ。

だが、その前に理解してもらいたいのが、殺気と言うのは正確には敵意のある魔力だと言うことだ。


殺気に限らずだが、魔法や物理攻撃と言ったものにも微量だが敵意のある魔力が含まれている。

アルに身につけさせたかったのは、そう言った魔力に無意識でも反応できる感覚だ。


そして、副ギルド長殿の疑問。

空白の部分に何を収めるか? なのだが、それは副ギルド長殿のおかげで達成できた。

空白の部分に収めたかったのは、敵意ある魔力と言う情報。


本来なら自分の意識が収められる筈の場所に、敵意ある魔力と言う情報が書き込まれた訳だ。

中途半端な敵意じゃ切っ掛けにすらならなかったからな。副ギルド長殿には感謝しなければいけないな。


つまり、無意識で反応できる下地があったにもかかわらず。

何に反応していか分からないという状態から、明確な反応対象が提示された状態が今のアルだ。


だが、ここで終わりでは無い。

目指す終着点は『意識と無意識の反応』敵意ある魔力に無意識の内に反応させ、さらには自分の意識での反応をも共存させることだ。


敵意のある魔力に対して、無意識と意識による二重の反応。

名づけるのであれば『感応結界』と、言ったものがアルの目指すところだ。

まぁ、まだまだ先の長い話だとは思うがな」



 メーテが説明し終えると、副ギルド長は驚いたような表情をしながらも、何処か納得したような表情も浮かべていた。


 そして、その話を聞いた僕には思うことがあった。






 何を言ってるんだ?この人は?と。



 「アルの目指すところだ」とか言われても初めて知った話だし、無意識の内に身体が動くとか、正直言ってちょっと怖い。


 メーテとウルフは、いったい僕をどうしたいのだろう?などと考えていると。



「うむ、アルディノ君のせんせー方は本当に優秀なのだな。

ダンジョンギルドの教官に欲しいくらいだ。どうだ? 給料は弾むぞ?」



 などと副ギルド長が言い。



「私には手の掛かる教え子がいるからな。そんな余裕はないさ」


「ええ、不器用な私じゃ、一人の面倒をみるので手一杯よ」



 どこか満更でもない感じで、教師っぽいことを言うメーテとウルフ。


 そんな3人の会話を聞きながら、訳の分からないことになってきている自分の身体に、ちょっと引くのであった。






「大分話が逸れてしまったな」



会話がひと段落ついたところで副ギルド長がそう言うと、僕は心の中で大きく頷く。



「それで、護衛を返り討にした後はどうしたんだ?」



 その質問で、その後の経緯を説明するのだが。

 逃げたことや、2週間雲隠れしていたことは既に話していたので、補足程度しか伝えることが無く、副ギルド長も特に気になったところは無いようで、あっさりと説明は終わった。


 そして、説明をし終わった僕は、改めて疑問に思ったことを尋ねる。



「どうして、エドワード侯爵は護衛のことで何も言ってこなかったんですかね?」



 副ギルド長は、考える素振りを見せた後、僕の質問に答えた。



「多分だが、体裁の問題ではないだろうか。

アルディノ君達を襲ったと言う護衛だが、あれはエドワード侯爵の騎士だ。

騎士を差し向けたにもかかわらず、返り討に遭った時点で体裁が悪い。

しかも、その相手が女子供だと言われれば。

『女子供に負けるエドワード侯爵の騎士』と、評価が下され、それは嘲笑の対象になるだろう。

まぁ、アルディノ君の実力を知る私からしたら、そんな評価は決してしないがな。


そのことを理解したから、エドワード侯爵はギルドに報告をしなかったんだろうな」



 ダンジョンギルドに報告すると言うことは、騎士を差し向けたのに返り討にあったと自白するようなものだ。

 仮に嘘をついて、僕達に襲撃されとしても、騎士と女子供と言う関係上、嘲笑は免れないだろう。

 それならば体裁を保つ為にも、無かったことにするのが一番なのかもしれない。


 話を聞いた僕は、そう考えると納得することが出来た。


 そして、そう考えるのと同時に、エドワード侯爵の問題は解決したのでは?とも思った。


 護衛を撃退したこともなかったことにされ、エドワード侯爵自体も迷宮都市から離れたのだから、もはや問題はないだろう。

 そう思い胸を撫で下ろそうとしたのだが……



「だがしかし、少々問題があってだな……」




 副ギルド長のその様子から、問題が解決していないことを察すると、ぬか喜びであったことを理解し。

 僕はがっくりと肩を落とすのだった。

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