第57話 怒り

 ダンジョン。


 そこには多数の魔物が存在しており、魔物と戦うことで生計を立てる探索者には怪我が付きものだ。

 切り傷や擦り傷、打撲に捻挫、それくらいなら可愛い方だろう。

 それに加えて骨折に部位欠損。最悪の場合は死に至るケースもある。


 基本ダンジョンギルドはダンジョン内で命を落とそうが責任を取ることをせず、探索者もそれを承知したうえでダンジョンに潜る。


 だが、ダンジョンから生き延びた者にも手を差し出さないかと言えば、それは違う。


 ダンジョンギルド内には治療魔法に長けた者が数名常駐しており。

 他にも治療専用の部屋や、身体を動かせない者の為にベッドなどが用意されている。


 緊急の患者が出た際、いつでも処置を施せるよう、ダンジョンギルド内には治療機関が併設されていた。




 僕は今、ダンジョンギルドの治療機関にある一画。

 その一画にある、部屋の前へと来ていた。


 レオナさんから青き清流の名前を告げられた後、理解が追いつかずに頭が真っ白になってしまった僕だったが。

 回らない頭でどうにか整理をすると、僕が出した結論は「安否の確認をしなければ」だった。


 その結論に達した僕は、レオナさんに詰め寄ると半ば強引に皆の居場所を聞き出し、ランクアップの手続きも終わらせないままに、この場所へと向かっていた。


 そんな僕を見て女王の靴の皆もレオナさんも困ったような表情をしていたが、それに気付くことが出来ないほど、その時は冷静さを欠いていたのだと思う。


 そんな冷静さを欠いていた僕だったのだが。

 扉を一枚隔てた向こう側から、聞き覚えのある声を聞いたことで、安否を確認するまでは完全に安心できないものの、ひとまずの安心を得ることができた。


 そうして安心したからなのだろう。

 漸く冷静に物事が判断できるようになったのだが、冷静になったことで反省する事になる。


 レオナさんに詰め寄ったことや、手続きの途中でその場を離れたこと。

 それと、女王の靴の皆を置いて来てしまったこと。


 第一に、青き清流とは顔見知りとは言え、半日程度を共に過ごしただけだ。

 この世界の知り合いが極端に少ない僕にとっては数少ない知人だが、青き清流にとっては数か月前に少しの時間を共にしただけの相手だ。

 急な訪問も相まって迷惑に思われても不思議ではない。


 それに、怪我をした相手を訪問する場合には、お見舞いの品の一つも必要だろう。


 冷静になって考えたところで自分の至らなさに頭が痛くなり、中に入るのを躊躇ってしまう。


 そうして躊躇っていると。



「どうしたのアル? 中に入らないの?」



 一足先に辿り着いていた僕に追いついたウルフが声を掛ける。



「うん。冷静になって考えてみたら急にきたら迷惑かもと思って……」


「そういうものかしら? 人の決まりごとは複雑だわ。

尋ねるのにもお見舞いの品? て言うのが必要みたいだしね」


「そうなんだよね……慌ててたからすっかり忘れちゃってて……」


「ああ、それなら大丈夫よ?

メーテとフィナリナが買いに行ってるみたいだから」


「メーテとフィナリナさんも?」


「ええ、メーテだけだと最近の子が喜びそうな物が分からないとかで、無理やり連れていったみたいね」



 どうやら、お見舞いの品については解決しそうでひと安心と言った所だが、メーテの気配りやフィナリナさんを巻き込んだことに、再度自分の至らなさを痛感することになった。




 その後、時間にして十数分経過したところで、メーテとフィナリナさんが合流する。

 その手には、お見舞いの定番とも言える籠に入ったフルーツの詰め合わせと、包装された箱状の物を抱えていた。


 箱状の物はドライフルーツをふんだんに使った焼き菓子のようで、若者の間で、主に女性の間で好んで食べられているらしい。


 お見舞いの品を用意してくれた2人に感謝の言葉を伝えると、フィナリナさんには謝罪の言葉も伝える。



「フィナリナさんまで巻き込んでしまって申し訳ありません」


「お気になさらないでください。

それに聞いた話によりますと、 青き清流の方達に怪我を負わせたのは魔物では無いと言う話ではないですか?

私達も同じようにダンジョンに潜る身ですから他人ごとではありませんしね。

青き清流の方々の体調にもよりますが、是非お話を聞いておきたいところですし」



 ダンジョンに潜る身としては確かに知っておきたい情報だろう。

 フィナリナさんの言い分に納得はできたが、 積極的に話に参加する事で、僕に罪悪感を抱かせないようにしているようにも感じられた。

 申し訳ない気持ちと感謝の気持ちで、「ありがとうございます」

 そんなありきたりな一言しか伝る事が出来なかった。


 そうして肩を落としていると、この話はおしまいだと言った様子でメーテが口を開く。



「さて、青き清流の安否も気になることだし、ここでこうしていても仕方がないだろう」



 確かにその通りだ。

 余計なことばかり考えていたが、今一番考えなければいけないのは青き清流の容態だろう。


 そう結論付けると覚悟を決め、恐る恐るではあるがコンコンと扉を叩いた。



「はーい、どうぞー」



 中から聞こえた声は聞き覚えのある声で、声の主がピノさんであると確信する。

 その声に悲壮感を感じない事に安心すると、扉を開いた。



「あれー!? アルじゃない! もしかしてお見舞いに来てくれたの?」



 そう言ったのはピノさん。小柄な魔法使いの女性だ。



「えっ? アル君? わぁ久しぶりだね〜」



 そう言ったのはユーラさん。

 彼女も魔法使いでおっとりした雰囲気を持つ女性だ。



「おっアルっひじゃん! メーテひゃんにウルフひゃんも!

うひろのこはしょけんだけどあたらひいメンバー?」


「お見舞いに来てくれたのか? ありがとうな」



元気よく皆の名を呼ぶのはトーマスさん。主に斥候を担当している男性だ。


そして、お礼を述べたのはドルトンさん。

青き清流の中では最年長であり副リーダー。見た目も体格もいかにも戦士と言った男性だ。



「おっアル、それにメーテさんにウルフさん。

来てくれたのは凄い嬉しいけど、なんか格好悪いところばかり見せちゃってるな……」



 恥ずかしそうに鼻の頭を掻くのは、青き清流のリーダーであるマルクスさん。


 少しおどけた様子でそう言ったマルクスさん。


 重傷と聞いてはいたのが、皆の声はそれを感じさせない明るさを含んでいた。




 それを感じさせない。


 それを感じさせないだけだった。



 今、僕の目に映るのは痛々しい皆の姿。


 ピノさんの顔には、口から頬にかけて深い傷が刻まれており、かわいらしい顔だけにやけに生々しくその傷が印象に残る。


 ユーラさんは右肩や腕に包帯を巻いていたが、その包帯の一部は赤い染みを作っており、深い切り傷を負っている事が予想できた。


 トーマスさんは今も笑顔を向けてくれているのだが。

 顔を包帯で巻かれており、笑顔から本来覗かせる筈の白い歯は確認できず、口内を黒く彩っている。


 ドルトンさんは頭に身体に腕に、包帯を巻きつけられて見えない分、痛々しさは感じにくいが、ほぼ包帯の白で覆われたドルトンさんは、重症度で言えば一番深刻なのかもしれない。


 そして、マルクスさん。


 擦り傷や切り傷。

 そういった細かい傷が見えるが、その腕に視線を向けると、二の腕の中程から先にある筈の物がそこには存在していなかった。



 あまりの光景に絶句しそうになってしまうが、当の本人達が明るく声を掛けてくれる以上、そうするのは失礼にあたる。


 そう思って「お久しぶりですね。お見舞いにきました」そう言おうとしたのだが……


 自分の意志に反して声が出ない。


 どうにか声を出そうとするのだが、それでも僕の声帯は震えることをしなかった。



「久しぶりだな。先程お前達が怪我を負ったと聞いて顔を出させてもらった。

それとこれはお見舞いの品だ。

定番だがフルーツと、こっちはフィナリナに選んでもらった焼き菓子だ。

若者が好む者は分からんが同世代のフィナリナが選んだんだ。きっと口に合うだろう」


「あっ! これ! アリエットの焼き菓子ね。

フィナリナさんだっけ? 貴方、中々良い趣味してるじゃない!」


「あ〜ほんとだ〜、ここの焼き菓子おいしいのよね〜」


「私の趣味で選んでしまいましたが、喜んでもらえて安心しました」


「たひかにうまそうだけど、まえばがごっそりないからな〜。

まぁ、おくばはあるからなんとかいけるか!」


「あら? それは不便ね。お肉が食べられないじゃない」


「ははは、たひかににくはきついですね〜。

そうら。ドルトンうごけないだろ? おれがたべしゃせてやるよ!」


「ん……ありがたいがトーマスにか……」


「あっ、やっぱドルトンはユラっひにたべひゃへてもらいたい?」


「えっ? 私? いいわよ。じゃあドルトンあーんして?」


「いやっ! 別に俺は……よ、よろしく頼む」


「なんだ? 実に青春してるじゃないか」


「甘酸っぱいわね〜」



 不甲斐ない僕を他所に、メーテ達は笑い交じりに会話を交わす。


 正直、痛々しい皆を前に笑い声を上げるのは不謹慎ではないか?とも思いはしたが。

 青き清流の皆がそんな重苦しい空気を望んでないようにも見えた。

 当の本人が望んでないのであれば、他人が不謹慎だと言って自重を呼び掛けたところで、それは当人達の為にならない身勝手な自己満足にしかならないだろう。


 そして、そんな普段通りの会話を望んでいる雰囲気の中で、僕一人だけ声を出せず黙りこんでいるのはその雰囲気を壊してしまう。

 そう思っていつも通りを演じようとするが、どうしても声が出ない。


 まるで声の出し方を忘れてしまったかのように。


 そうして声も出せず、自分の無力さに打ちひしがれていると。



「アル」



 不意に名前を呼ばれたことにビクリと肩を跳ねあげる。

 その声の主はマルクスさんで、少し困ったような表情を浮かべると口を開いた。



「アルお見舞いに来てくれてありがとな。

てか、皆こんな有様だからビビっちゃうよな? 俺がアルくらいなら絶対ビビるもん」


「ち、ちがっ」




 慌てて否定しようとしたが、やはり上手く言葉が出せない。


 部屋に入ってから何一つ口にしていない僕を見て気を使ってくれたのだろう。

 マルクスさんは、僕の立場に自分を置きかえるとそれを肯定して見せた。


 今一番辛いのはマルクスさん達本人である筈なのに、黙り込んでしまった僕の事を気遣ってくれる。

 マルクスさんの優しさを噛みしめる一方で、そんな優しい人に、今の状況で気を遣わせた自分に嫌気がさす。



「いいって、いいって気にするなよ。

自分でも酷いもんだって自覚してるしさ」



 マルクスさんはそう言うと本来ならある筈の腕を軽く振ってみせる。



「腕もこんなんなっちゃったし、探索者家業はここまでだな。

短い探索者生命だったけど、それなりには探索者してたと思うんだよな。


アル達は知らないと思うけど俺達もそれなりに頑張ってさ。

20階層の階層主討伐したんだぜ? なかなかやるだろ?」



 上手く声が出せないのがもどかしい。

 そう思いながらも、何度も何度も頷くことでマルクスさんの言葉を肯定して見せた。



「まぁ、階層主を倒して油断した所を仮面を着けた連中に襲われちまったんだけど……

最後の相手が魔物じゃなく、人間だって言うんだから笑い話にもならないけどな……


まぁ、とにかくだ。悔しいけど俺達はここで終わりだ。

だけど、アルにはまだまだ先がある。

だからさ、俺達みたいな失敗はしないようにしてくれよ?」



 マルクスさんはそう言って笑うと右手で拳をつくり僕の胸を軽く叩いた。


 ただ胸を叩くと言う行為。それだけの行為だったのだが。


 その行為に大きく一つ鼓動が鳴ると、一つの感情が芽生えたのが分かった。






 それから少しづつ落ち着きを取り戻した僕は、暫くの間、他愛も無い話を楽しんだ。


 何処の食事がおいしかった。


 あのギルド職員の態度が悪い。


 世話してくれる職員が意外に可愛い。


 そんな他愛もない話だ。


 そして、窓から外を覗けば空が茜色に染まりはじめていた。



「ふむ、長居してしまったようだな。

あまり長居しても悪い。そろそろ私達は行くとするか」



メーテが立ち上がると、それに倣って青き清流の皆も起き上がろうとするが。



「ああー無理しなくてもいい。そのままゆっくり横になっていてくれ。

そんなふらふらの状態で見送られても心臓に悪いからな」


「たしかに。これ以上は心配掛けられないですしね。

申し訳ないですが楽にさせて貰います」



 青き清流の皆は起き上がるのをやめると再度ベッドに身体をあずけた。

 そんな中、起き上がる様子さえ見せなかったドルトンさんを見て、動けないほど重症なのだろうと再確認させられた。



「じゃあ、行くとするか」


「わかりました。

それと、今日は本当にありがとうございました。

メーテさん、ウルフさん、フィナリナさん……それにアル。本当にありがとう」



マルクスさんが感謝の言葉を告げ、深々と頭を下げると、青き清流の皆も頭を下げる。



「気にしないでくれ。

もう少しここで世話になるのだろ? また顔を覗きに来させて貰うよ。

じゃあ、私達は行くが、しっかり養生するんだぞ?」



 メーテがそう締めくくり、僕達も各々に別れの挨拶をすませると、部屋を後にする事になった。






 気が付けば受付を離れてから結構な時間が経過しており。

 女王の靴の他の皆が長いこと食堂で待ちぼうけを食っている事を知った僕達は食堂へ向かう。

 そうして足早に食堂へ向かう最中。



「皆の傷はメーテの聖魔法じゃ治せないの?」



 メーテの魔法なら、もしかしたら治せるかもしれない。

 そんな淡い期待の元に尋ねてみた。



「残念だが無理だろうな。

始めの段階で私が治療に携われたならもう少しましな治療が出来たとは思うが。

すでに聖魔法によって、完治までとは行かないが大元の傷は治療されてしまっている。

異常の無い所を治療しても意味がないだろ? 要するにそう言うことだ。


まぁ、ピノの顔の傷やユーラの傷などは気長に治療して行けば目立たないくらいにはなる筈だ。

それにトーマスの歯は魔法ではどうにもできないが、今は入れ歯? と言うものもあるようだし日常生活に困ることはないだろう」



 メーテの答えを聞き、今よりも症状が良くなることを知ると少しほっとする。



「だが」



続く言葉は無情な現実を突きつける。



「ドルトンは探索者としてはやっていくことは望めないだろう。

軽く診断させてもらったが、骨折した所が変なくっつき方をしている。

あれでは激しく動く度にかなりの痛みを伴うだろう。

始めの段階で私が治療に携われたならもう少しまともに治療できたんだろうが、結局はたらればだ。

それに、私が見た限りでは、むしろ命があるのが幸運と言った状態だ。

後遺症で済んだんだから御の字だと言えるだろう」



 動くこともままならない様子だった為、重症だとは思っていたが、思ってた以上に危険な状態だったことに今更ながら背中に冷たいものが流れる。



「それとマルクスだが。

当然のことだが部位欠損はどうすることも出来ない。

切断された直後、切断された腕の状態が完璧であるなら不可能ではないと言えるが。

傷口の治療を終えた今では腕が完璧な状態であったとしてもくっけるのは不可能だろう」



 回復魔法があるこの世界だ。

 人を生き返らせることはできなくても、もしかしたら欠損部位の回復は出来るんではないか?

 そう言った希望もあったのだが、その希望は打ち砕かれる。



「そうか……マルクスさんも探索者として続けることが出来ないのか……」



 始めて出来た探索者の知り合い、友人と言うには気安すぎるかもしれないが。

 マルクスさんの今後を思うと気が付けば、そんな言葉を口にしていた。



「ん? なんでだ?」


「え?」


「なんで探索者が出来ないと思ったんだ?」


「え? だって腕がないし……」


「ああ、そう言うことか。

まぁ、確かに不便だとは思うが、隻腕でも一流の者もいるからな。

後は本人のやる気次第だと思うぞ?」



 隻腕でも探索者を続けられることを知った僕は、驚くと同時にマルクスさんに伝えなければと言う衝動に駆られ、一瞬足を止める。


 だが、そんな胸の内を察したのであろう。



「後は本人のやる気次第だと言っただろ?

本人にやる気が無ければ、アルが伝えたとしても意味が無い。

まぁ、自暴自棄といった様子ではあったものの、探索者に対する未練を会話から感じることは出来たがな」


「だったら――」



 早く伝えてあげた方が良いんじゃないの? 

 そう口にしようとしてメーテの言葉に遮られてしまう。



「まぁ、待て。確かマルクスはリーダーだったな?

リーダーとして皆を危険にさらした責任にドルトンのこともある。

探索者を続けたいと思ってもそうそう口にする事は出来ないんだろう。

私はマルクスでは無いから断言はできないが、そう言った葛藤をしている最中なのかもしれないな。


だから、今はマルクスが答えを出すのを見守ろうじゃないか。

それに、私達が余計なことを言わなくてもマルクスには仲間がいる。

考えに行き詰ったら仲間が導いてくれるさ。


それでも答えが出せず辛い様子なら、その時は私達が力になってやればいい。そうだろ?」



 メーテは僕の頭に手を乗せるとワシャワシャと頭を撫でた。


 メーテの言うことはもっともで、頭を撫でられながら自分の考えが拙かったことを反省する。



「そうだね。もし頼ってくれることがあったらその時は力になってあげたいな」



 精神的な部分だけではなく、今の青き清流は身体的にも辛い状態だ。

 もし力になれることがあるならば力になってあげたい。本心でそう思えた。


 そして、そう思うと同時に痛々しい皆の姿を思い出す。



「メーテ……」


「ん? どうした?」


「僕は皆をあんな風に傷つけた相手が許せないよ……」



 青き清流の皆にはダンジョンについて色々と教えて貰い、その知識には攻略の際に随分と助けられた記憶がある。


 駆け出し冒険者であるにもかかわらず、未だ到達することもない階層にまでその知識は及んでおり、そのことからもダンジョンに対する熱意と言うものを感じることができた。


 そして、その熱意は本物なのだろう。

 出会った時は10階層で足止めを食っていた彼等であったが、数カ月かけて確実に階を重ねて行きつい先日20階の階層主を討伐するまでに至った。


 そんな様子からも彼等の誠実さが窺えた。


 だからこそ思う。そんな彼らが何故こんな目に会うのだろうと?



「ああ、正直私も腹に据えかねている」



 僕の言葉に賛同するようにメーテが言うと。



「あの子達は良い子だったものね。私もちょっと機嫌が良くないかも」


「そうですね。

あのような傷を負いながらも明るく振る舞っていて、皆さん優しい方なんだと思いました。

そんな優しい彼等を襲った者を私は許せません」



ウルフとフィナリナさんも同意の意を示した。



「アル、許せないと言ったがどうしたいんだ?」



 ただ、許せないと思い口にした言葉だった。


 だが、その言葉に対して「どうしたいんだ?」と答えを求めるメーテ。

 まるで、胸にある気持ちを見透かし、誘導するかのような言葉に、僕の胸はドクンと鼓動を打つ。


 そして、マルクスさんが悔しいと言った時の表情や、拳で僕の胸を叩いた時の笑顔を思いだすと、その時芽生えた感情に塗りつぶされていく。



「この国の法とか僕は分からないけど、皆を傷つけたヤツは罪を償わせたい」



 だが、感情に塗り潰されないよう、どうにか心を落ち着かせてメーテの問いに答えたのだが。



「アル? もっと素直になっていいんだぞ?」



 内心を見抜かれたことに思わず苦笑いが零れてしまう。

 そして、見抜かれている以上は取り繕っていてもしょうがないだろう。


 そう思った僕は感情のままに、芽生えた感情、『怒り』のままに口を開く。




「皆を傷つけたヤツをぶん殴ってやりたい!」




 僕の答えが予想外だったのか、3人揃って目を丸くするが、それも一瞬で。



「ふむ、単純だが良い答えだったぞ。

襲ったヤツに、ちと灸をすえてやろうじゃないか」


「アルの意外な一面を見た感じね~」


「そんなアル様も素敵です! 私達も微力ながらお手伝いさせていただきます!」



 そう言って僕の言葉に賛同すると。



「とりあえずは女王の靴と合流しよう。話を煮詰めるのはそれからだ」



僕達は女王の靴と合流する為、食堂へと向かうのであった。

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