第56話 魔物じゃない

 僕が知っているのは自室に戻るまでの事で。

 その後、どうしてこのような惨状になったのかが理解できずにいたのだが。

 とりあえずはやれる事をしようと考えると、窓を開け空気の入れ替えから始めた。


 散らかったごみを捨て、食器をキッチンへ持って行く。

 一晩放置したせいで食器の汚れが乾燥しており、軽く洗ったぐらいではすぐに落ちないと判断すると流し台に水を張り食器を沈める。



 そんな作業音に気付いたのだろう。

 一人、また一人と身体を起こし始めるたのだが。

 二日酔いのせいか?誰もかれも青い顔をし「うぅ〜」と言ったくぐもった声をあげ、ゆっくりとした動作で起き上がる。


 その姿が前世でみたホラー映画のゾンビのようで少し怖いと思ったのは内緒だ。






 それから暫く経ったところで皆も一通り落ち着いたようだ。


 起きたばかりの時は気持ち悪いと言いながらトイレに駆け込む人も居たが、メーテが用意した小瓶に詰めれらた液体を飲み干すと、それまで青い顔をしていたのが嘘のように本来の顔色へと戻っていいく。


 異世界の薬の効き目に驚きながらも、時間がある時にでも薬についても学んでみようと思わされる出来事だった。



 そして、皆が落ち着きを取り戻したところで、話を聞こうと声を掛ける。

 すると、誰が指揮するでもなく横一列に並ぶと、全員が正座の姿勢を取った。


 子供の前で横並びに正座する六人の女性。

 客観的に見たら凄い光景だなと思うと苦笑いがこぼれる。


 誰が見ている訳ではないが、流石にこの状況はよろしくないと判断した僕は、「とりあえず椅子に座ろうよ」そう声を掛けようとしたのだが。



「「「「「「申し訳ありませんでした」」」」」」



 六人の女性は、それはそれは綺麗な土下座をしてみせた。


 その光景に苦笑いを通り越して頬が引きつりそうになるが。

 それよりも、子供に六人の女性が土下座すると言う状況をなんとかしなければ!

 そんな気持ちの方が強く。



「わ、わかったから! 顔上げてよ!」



 焦るように声を掛け、顔をあげてくれるように頼んだ。



「それは出来ない。

私は、いや、私達は本当に迷惑をかけてしまった。

アルの許しが無い限りこの顔はあげることができない」



 しかし、メーテ達は僕の許しがない限り顔をあげないつもりのようだ。



 毎度の事だがメーテはお酒を飲むと羽目を外す癖がある。

 それに、部屋の惨状を見れば注意の一つも必要だろうとは考えていた。


 だが、今回に限っては変に絡まれた訳ではないし、実害があるとしたら部屋の掃除が少し大変程度だし、皆の反省した様子を見るに掃除も手伝ってくれるであろう。

 そう考えれば、実害と言う実害はない事に気付く。


 まぁ、気持ち悪い木像のせいで精神が削られたと言う実害はあったのだが……


 そう言った考えと、なにより、目の前にある異様な光景をどうにかしたかった僕は。



「許す! 許すから顔をあげてってば!」



 そう言って酔っ払い達を許す事にした。



「アル……本当にいいのか?」


「うん。今回は変に絡まれていないし、掃除さえ手伝ってくれれば問題ないよ」


「アル……ありがとう」



 そんなメーテの姿を見て、今日はなんだかしおらしいな、などと感じながら。



「とりあえずぱぱっと掃除しちゃおうよ!」



僕がそう言うと、皆も立ち上がり、自分が汚したであろう場所へと向かい始める。


 掃除をし始める皆の様子を見て、僕も洗いものを済ませてしまおうと考え、テーブルの上の食器を重ねると、キッチンへ運ぼうとしたのだが。



「な? アルはちょろかっただろ?」


「部屋の惨状を見た時は怒られると思いましたけど、結構ちょろかったですね」


「アルは怒ると案外怖いからな。

だったら先手を打って出鼻を挫いてしまえばいい」


「メーテさん策士っす!」


「ま、まぁそれほどでもないがな!」



おい? 聞こえてるぞ?



 小声で話していたメーテとバルバロさんだったがその内容は筒抜けだ。

 それと同時にメーテのしおらしさの理由を理解すると、僕を庇う時の演技は棒だったのに、自分の保身の場合だと完璧に演技をこなせることを知り、少し頭が痛くなる。


 食器をテーブルに戻すと、僕は2人に声を掛けた。



「ねぇ、メーテにバルバロさん」


「ど、どうした? 掃除ならやっている所だぞ?」


「こ、この汚れなかなか落ちないな〜」



 僕の声に一瞬ビクッと肩を跳ねさすが、メーテは平静を装い、バルバロさんは声に気付いていない振りをする。



「バルバロさん?」


「は、はひぃっ!」



 肩に手を置き、再度声を掛けるとバルバロさんは裏返った声をあげる。



「なんか興味を引かれる話をしていたようなので、詳しく聞きたいと思ったんですが?」


「あ、アルが興味を持つような話なんかしてたかなー?

な、なぁバルバロ?」


「あっ、あれじゃないですか?

あの、えー、あれですよ! あれ!」


「お、おー、あ、あれならアルが興味持つ話かもしれないなぁー」


「もしかして、あれって言うのは僕がちょろいって話?」




「「・・・・・」」



 僕がそう言うと二人は何かを諦めたような表情で天を仰ぐと、誰に言われるでもなくその場に正座をする。


 そして、その姿勢のまま、二人は小一時間説教を受ける事になるのであった。






 メーテとバルバロさんに説教をしてる間にも掃除の手は進んでおり、説教が終わる頃にはあらかた片付けは終わってしまっていた。


 殆ど掃除に加われなかった事を申し訳ないと思いながら残った作業を手伝うと、程なくして掃除が完了することとなった。


 普段通りの整頓された部屋を見渡し「ふぅ」と一息つくと、椅子に腰を下ろし、グラスに注がれた冷えた紅茶で喉を潤す。


 他の皆も掃除を終えた達成感からか?

 満足そうな表情を浮かべると各々は適当な席に腰を下ろし、僕と同じように冷えた紅茶で喉を潤していた。


 そうして落ち着いた所で、漸く僕が自室に戻った後に何があったのかを聞く事が出来たのだが、皆から返ってきた言葉は「よく覚えていない」という言葉であった。


 まぁ、朝の惨状を見る限りその答えは予想の内ではあったものの実に腑に落ちない。


 何がどうなったらあのような惨状になるのか説明してほしかったが、覚えてないのでは説明のしようがないだろう。


 僕は諦めるように「はぁ」と溜息をつくと。



「お酒を嗜むのは良いですけど、あんまり呑み過ぎないでくださいね?」



 そう軽く釘を刺し、この話はこれで終わりにしておく事にした。


 そんな僕の言葉を聞いて、皆は申し訳なさそうな表情を浮かべると。

 「ご迷惑おかけしました」と反省の言葉を口にするのだった。






「さて、時間も正午に差し掛かるようだが皆は何をする予定なのだ?」



 メーテの言葉で時計を確認するとその針はそろそろ昼の12時を指そうと言う時間だ。



「そうですね。

何処で軽く昼食をとってからダンジョンギルドにむかおうと考えてます。

魔石の買い取りも済ませておきたいですしね」



 ライナさんは魔石の詰まった布袋をポンと叩く。



「そうか。私達も魔石の買い取りもあるし昼食をとっておきたい。

やる事は同じなようだし、今暫く行動を共にする事になりそうだな」



 どうやら、ここでお別れでは無く、もう少しの間女王の靴の皆とは行動を共にする事になるようだ。


 そして、予定が決まったのであれば行動は早い方が良いだろう。

 僕達は準備を整えるとメリドの街へと向かった。




 家を出て少し歩いた所で一件のパン屋が目に留まると、昼食はパン屋で購入する事になる。


 メーテの薬のおかげで二日酔いは治まったものの、皆はあまり重いものをお腹に入れたくは無いようで、皆は野菜をサンドしたパンを選んでいた。


 だが、そんな中でもウルフは相変わらずお肉をメインにしたパンを選んでおり。

 ぶれないその姿勢をみて、無駄に感嘆してしまう。


 チーズと薄めのハムを挟んだパンを頬張りながらそんな風に感じていると。



「貴方達はまだまだね……」



 落胆ともとれる声色でウルフが呟き、三人の女性が動きを止める。

 その三人とはライナさん、バルバロさん、イルムさんの三人だ。



「野菜に逃げているようじゃ胸は大きくならないわよ?」



 三人はその一言に絶望的な表情を浮かべる。


 昨晩はかなり酔っていたので、バストアップのくだりは覚えていないものだと思ったが、どうやらそのくだりはシッカリ覚えていたようで、彼女達の切実さを窺い知る事が出来た瞬間だった。


 そして、三人の女性はと言うと、救いを求めるような視線をウルフに送るが。

 ウルフの口から出た言葉は三人をさらなる絶望にたたき落とす。



「メーテを見てみなさい? あれが野菜ばっかり食べてる者のなれの果てよ……」



酷いもらい事故だ。



「ん?呼んだか?」


「いいえ、なんでもないわ。

メーテ。メーテには他にも良い所が沢山あるのを私は知ってるわ」


「き、急にどうした?」


「本当なんでもないの。

ごめんさいね。食事を続けてちょうだい」


「あ、ああ。

ま、まったくなんだって言うんだ……」



 メーテはそう言うと、パンを頬張り食事を再開する。


 そんなメーテに、いや、メーテの胸元に視線を向けると、悲しそうな表情をする三人。


 お願いだからそんな視線を向けないであげて欲しい。



 三人は慌てるようにパン屋へ戻ると、がっつり肉がサンドされたパンを購入し、一心不乱に平らげる。


 そんな姿を見たウルフは満足そうに頷くと。



「ふふふ、貴方達が居るのはお肉と言う頂の一合目。

頂に立った時にお肉はどんな姿を見せてくれるのかしらね……」



 などと訳の分からないことを言っていた。



 そして、酷いもらい事故にあった事にも気付かないメーテは、モクモクとおいしそうにパンを頬張っており。


 その姿を見た僕は何とも言えない気持ちになると、朝に説教した事を思い出し、少し言いすぎてしまったかな?と申し訳ない気持ちになるのだった。




 そうして食事を終えた僕達は、ダンジョンギルドに向かう。

 その道すがら、残りわずかとなった必需品などの調達もついでにしておき、調達を済ませると、ややあってダンジョンギルドへと到着した。


 ダンジョンギルド内へ入ると、休日だと言うのに探索者の姿が多く目に入る。

 特に食堂なんかは盛況しているようで空席の方が少ないくらいだ。


 時計を確認すると時計の針は一時を周ったあたりを指している。

 正午を周ったとはいえまだまだ昼食の時間であることが分かり、その盛況ぶりに納得すると、目的である魔石買い取りの為に受付へと足を向けることにした。


 そして辿り着いた受付なのだが、こちらもそれなりに盛況のようで、各受付には二組、もしくは三組ほどの列ができており。

 その様子をみて時間が掛かる事を覚悟したのだが、受付を担当する職員の中に見知った顔を発見すると、僕は迷うことなくその列へと並ぶ。


 僕が並んだ受付は僕達の前に三組ほど並んでいて、普通に考えれば他の受付と比べて時間が掛かると予想できる。


 そんな受付に並んだのだから女王の靴の皆が不思議そうな顔をするのも当然で。



「アル様? 他にも人の少ない列がありますがよろしいのですか?」



 フィナリナさんがそう尋ねるのも当然の事だと思えた。



「大丈夫ですよ。下手に少ない受付よりは早い筈ですから。

それよりも大丈夫ですか? 受付目当ての方がこっちに向かってますよ」



フィナリナさん達は慌てて隣の受付へ並ぶが、どこか釈然としない様子。


 しかし、フィナリナさん達の釈然としないと言った様子を他所に、僕達が並んだ受付では一組、また一組と対応されていき、30分ほど経過した所で僕達の前に並んでいた三組を捌き終えてしまう。



「次の方どうぞ〜」



 あっという間に順番が周って来たようで、受付職員は僕達を受付へと促す。


 正直、30分と言う時間だけ見ればそれなりに待たされているようにも思えるかもしれないが、

女王の靴が並んだ受付に視線を向ければ未だその列に動きはなく。

 その様子と比べれば30分で三組を捌き切ったのは充分に早いと言えるし、受付職員の手際の良さを窺い知ることができるだろう。


 僕達は促されるまま受付へ向かうと、手際の良さを披露してみせた受付職員に声を掛ける。



「こんにちは。レオナさん」


「こんにちは。アル君。それにメーテさんにウルフさんも。

アル君達が並んだのが分かったから、順番が早く周ってくるようにお姉さん頑張っちゃったよ。

褒めてくれてもいいんだよ?」



 冗談交じりにそう言ったのは先程まで手際の良さを披露して見せた受付職員で。

 名前はレオナさん。

 ギルドプレート発行手続きの時に担当してもらったのが始まりで、その後も魔石の買い取りや、その他手続きで何度も顔を合わせている内に、仲良くなった女性職員だ。



「ありがとうございます。レオナさんは仕事が早いのでいつも助かってますよ」


「褒めてくれたのは嬉しいけど、アル君の褒め方はなんか事務的だな〜」



 レオナさんは少し不貞腐れたような表情をする。



「す、すみません……」


「あーうそうそ!

普通に嬉しかったよ!アル君。ありがとうね」



レオナさんは慌てて発言を訂正した後に「さて」と前置きしてから尋ねた。



「今日はどんな用件かな?」


「えっと、まずは魔石の買い取りをお願いします」



 僕は魔石の買い取りをお願いしに来た事を伝えると、一抱えはありそうな革袋をカウンターへと乗せる。

 革袋はそこそこな重量があった為、ドスンと言った低い音を狭い範囲に響かせると、その衝撃により中に詰まっている魔石がカランカランと鳴った。



「あー、今回も結構持ってきたねー。これはちょっと……時間掛かるかも」



 レオナさんは苦笑いを浮かべ、革袋に視線を送る。



「いつもすみません」


「んーん、大丈夫だよ。

これも仕事だし、それに、魔石の鑑定は私の仕事じゃないしね。

大変なのは鑑定担当のあの人」



 レオナさんの視線の先には中年男性の姿があったのだが、カウンターの革袋を見た中年男性は、これから振られる仕事を想像したのだろう。

 その顔には早くも渋い表情が張りついていた。



「それじゃあ、こちらは預からせてもらって鑑定しておくとして、まずは魔石の買い取りって言ってたから他にも用件がある感じかな?」


「そうですね。後はランクアップの手続きをお願いしたいんですけど」


「えっ!? て言うことはついに大顎の討伐を成功させたの?」


「はい。長かったですがこれで漸く次の階層に進めます」


「そっか、そっかー。アル君おめでとうだねー」



感慨深そうに、うんうんと何度も頷くレオナさん。


傍から見たら少し大袈裟にも取れる反応だが、その反応には事情があった。




 魔石の買い取りに限らず、その他の手続きもレオナさんに担当して貰うことの多い僕達。

 その日もいつも通り、受付にレオナさんを発見するとその受付へと並んだ。


 戦利品である魔石の入った革袋をカウンターに置くと、中身を確認するレオナさん。


 そして、革袋の中で一際赤の濃い魔石を手に取ると。



「また、入ってる……これ階層主の魔石ですよね?

何度も持ち込まれていますがランクアップはなされないのですか?」



 その言葉と怪訝な目つきから、一瞬悪い事でもしたのかドキリとしたが、別にそう言う訳では無いようだ。


 レオナさん曰く。

 中層級にランクアップするには、30階の階層主の魔石が必要となっており。

 特別、魔石に詳しい訳ではないのだが、ランクアップに必要と言うことと、受付と言う立場からそれに触れる機会が多く。

 今では実際に見て触れれば階層主の魔石かどうかぐらいは判断できるようになったそうだ。


 そうすると不思議に思うのが、何度か前から階層主の魔石を持ちこみながらも、未だにランクアップの申請をしない僕達と言う存在。


 不思議に思いながらも、ランクアップしない者もごく稀にだが、居ない訳では無いことを知っており。

 正直ランクアップしないメリットよりデメリットの方が多いような気はするが、僕達もそう言った少数派と同じような事をしているのだろうとレオナさんは判断し、深くは追求することはなかったようだ。


 しかし、何度も何度も持ち込まれる階層主の魔石を見て、ついに痺れを切らしたようで、どうしてランクアップをしないのか尋ねる事にしたらしい。


 その疑問にどう答えようか悩んだ結果。

 心配してくれるかは分からないが、余計な心配を掛けないようにと判断し、一人で大顎に挑むと言うことだけ隠して他の事は正直に伝えることにした。



 大顎との戦闘と敗北。

 ダンジョン内に拠点を置いて生活していること。

 何度も30階層に挑戦し、討伐自体なら成功させていること。

 そして、再び大顎と戦い勝たなければ先に進めないと言うことを。


 そう言ったもろもろの事情を知っているレオナさん。


 そして、そこから費やした時間に努力を知っているからこそ、少し大袈裟にもみえるが感慨深いといった様子で何度も頷いてくれるのだろう。



「ありがとうございます。レオナさんにはご心配おかけしました」


「いえいえ〜。心配したと言えば心配したけど、なんでかな?

アル君たちならどうにかするんじゃないかなって思ってたから、階層主討伐についてはそこまで心配にはならなかったんだよね。

むしろ対人関係の方を心配したよ。アル君達3人は目立つ組み合わせだからね」


「アハハ……

確かに対人関係は良くも悪くも色々とありましたからね」



 上層の町に着いた初日に絡まれたことにドモンさんのこと。

 陰では『美女使い』なんて呼ばれていることを思い出すと思わず渇いた笑い声が漏れる。



「本当に気をつけてね?

ダンジョン内に居る敵は魔物だけとは限らないから……」



 レオナさんはそう言うと申し訳なさそうな、悔しそうな表情を浮かべる。



「最近も駆け出しの冒険者がダンジョン内で重傷を負ったようなんだけど、どうやら彼等に重傷を負わせたのは魔物じゃないようなの……


職員の私が言うのもどうかとは思うけど、そう言った事態に対して、完璧に対応できるほど人員も錬度も足りてないのが現状なんだ。


今回は事の重要性から副ギルド長が指揮をとって調べている最中なんだけど……」



 レイナさんは明確に口に出してはいないが、魔物じゃないという言葉から人為的な事件である事を暗に伝えていた。



「魔物じゃない……ですか……

僕達も気を付けなきゃいけないですね」


「しつこいようだけど本当に気をつけてね?

アル君達のギルド登録は私が担当したし、言っちゃえば私はアル君達の担当員みたいなものなんだから、あんまり心配させちゃ駄目! だからね?


……本当はあまり肩入れしないように言われてるけど」



 最後の言葉は呟くように言った為に上手く聞き取れなかったが、子供に言い聞かせるように、諭すように言ったレオナさんに気押され、「は、はい」と答えることしか出来なかった。


 そして、レオナさんはその返事に満足したのだろう。



「よろしい」



 一言だけ言うと、受付から身体を少しだけ乗り出し、僕の頭を優しく撫でた。



 唐突なレオナさんのその行動に一瞬呆けたものの、自分がされたことを理解すると気恥ずかしさで顔が顔が赤くなりそうになったのだが。



「え? わ、私なにやってるんだろ!?」



 撫でられた僕よりも、撫でたレイナさんの方が何故か慌てだすと言う謎の行動のおかげで、少しだけ冷静さを取り戻すと、会話をしてなんとか心を落ち着けようと考える。


 そうして考えた結果。気になっていたことを尋ねることにした。



 尋ねることにしたのだが……



「と、ところで重傷を負ったって言う探索者の方達は全員無事なんですかね?」


「えっ、えっと、ちょっとまってね。

通達がここにあった筈……あった。


えっと、『青き清流』の五名が重傷を負ったて言うのは書いてあるけど、詳しい事までは書いてないみたい。

ごめんねアル君……アル君?」






「……え?」



返ってきた言葉により、赤くなりかけた顔を青く染め上げることになった。

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