第41話 青き清流
僕達が地上に戻った頃にはすっかり陽は落ちていた。
階層を降りる時とは違い、帰りは道を把握していたので順調に帰る事が出来たのだが。
それでも十階層分の移動だ。それなりに時間が掛かってしまった。
しかし、長時間の移動にも拘らず、その道中、退屈する事はなかった。
その理由は、九階層で知り合う事となった五人の探索者。
その五人の探索者にダンジョンについて色々と話を聞く事が出来たからだ。
彼らは新米探索者で、パーティ名は『青き清流』。
西洋風の顔立ちのせいで二十歳前後と思っていたのだが。
実際は思った以上に若く、一番上でも十八歳で他は十六歳で構成されているらしい。
それとパーティ名なのだが、彼らは皆同じ村の出身と言う事で、村にちなんだ名前を着けようと言う事になったらしく。
村のちょっとした名物でもあった清流、そこからあやかって青き清流と言うパーティ名に決めたそうだ。
そして、青き清流のリーダーの名前はマルクスさん。
僕がホブゴブリンと戦う事になった時、メーテを止めようしてくれたのがマルクスさんだ。
黒髪に黒い瞳の男性で職業は剣士。
次に副リーダのドルトンさん。
怪我をメーテに治して貰った男性で、黒髪黒目で大きな体格の持ち主。
職業は戦士で唯一の十八歳がこの人だ。
男性最後はトーマスさん。
髪を後ろに流し、一つに縛っている髪型が特徴的な男性で。
金髪に茶色の瞳、職業は斥候で罠師の資格も持っているらしい。
そして女性が二人。
名前はユーラさんとピノさん。
ユーラさんは茶色い髪にタレた糸目が特徴の女性で、職業は魔法使い。
主に防御の魔法を得意と言っていた。
そしてピノさん。
身長は僕より少し高いぐらいの小柄な女性だ。
金髪に青い瞳で、職業は魔法使い。主に攻撃魔法を得意としているようだ。
そんな青き清流のみんなと無事に地上に戻る事が出来た僕達なのだが。
傷を治して貰ったお礼に食事ぐらいは奢らせてほしいと言い寄られ。
それを了承した結果、青き清流のみんなと酒場へと向かうことになった。
ちなみに階層主のホブゴブリンの魔石なのだが、メーテの予想通り金貨一枚で買い取ってもらえた。
酒場に着くと、すでに陽も落ちていると言う事もあり酒場は賑わいを見せていた。
ダンジョンから戻り、そのまま酒場へ向かったのだろう。
防具を着けたままジョッキを傾ける人達も多く。
笑い声をあげるテーブルもあれば、何処か浮かない様子のテーブルもある。
そんな様子を見ると彼らのダンジョンでの成果がなんとなく想像が付いてしまう。
そんな事を思いながら店内を眺めていると、僕達に気付いた店員さんが声を掛け、テーブル席へと案内してくれた。
「エールを七つと紅茶を一つお願いします。
後、すぐに出せるようなおつまみを何品かもらえますか?」
マルクスさんが店員さんにそう言うと、店員さんは「かしこまりました」と言って厨房へオーダーを伝えに行く。
皆はとりあえずエールと言う事らしくエールを頼んでいたが。
僕は肉体的には子供なので、当然飲む事が出来ず紅茶を頼んだ。
それから少しすると人数分のジョッキが並べられ、各々の手にジョッキが行きわたった所でマルクスさんが口を開いた。
「今日はドルトンの傷を治していただき本当にありがとうございました。
ささやかですがこの食事の代金は払わせていただきますので。
好きに飲んで食べて、楽しんでいって下さい。
それでは、皆さんとの出会いを祝して、乾杯!」
そう言うと各々ジョッキをコツンとぶつけ合いエールを口へと運んで行く。
僕も冷たい紅茶を口に運ぶと、思った以上に喉が渇いてたことに気付き、勢いよく喉を潤すことになった。
ジョッキに注がれた紅茶が半分以上無くなった所で、ジョッキをテーブルに置くと、その様子を見ていたマルクスさんが。
「良い飲みっぷりだね。俺も負けてられないや」
そう言って自分のジョッキを空にする。
その後、テーブルに食事が並べられて行き。
テーブルの上が賑やかになってくると、皆のお酒のペースも進んで行く。
そうして暫く食事を楽しんでいると、酔っているせいか?
それとも会話する事で心を開いてくれたのだろうか?
青き清流の皆は、砕けた口調で話しかけてくれるようになっていた。
「なぁなぁアル? 何でアルはあんな魔法使えるんだ?」
「そうそう! あたしも気になってた!」
「うんうん、ほんとすごかったわ〜」
マルクスさんがそう尋ねると、ピノさんとユーラさんもこちらに視線を向ける。
「すごかったよねー、無詠唱だと気付いた時は流石にびびったし」
「始めは剣士かと思っていたが、まさか魔法も使うとはな」
トーマスさんとドルトンさんもこの話に興味があるのか、身体をこちらに向けそう言った。
どうしてあんなに魔法が使えるのか?
その問いにどう答えて良いか少し悩む。
もちろんメーテとウルフの教えが優れていると言うのはあるが。
それ以外の要因としては、転生した事により、幼い頃から自我があったので効率的に魔法に取り込む事が出来たと言うのと。
前世の知識を元に魔法と言うものを想像だけでは無く、科学的にも理解する事が出来たと言うのが理由の一つだと思う。
しかし、転生者と言う事を説明しても良いのか分からなかったので、当たり障りのない事実だけを伝える事にした。
「えっと、先生の教えが良かったのと、今より小さい頃から毎日のように魔法の勉強をしたおかげですかね?」
しかし、その答えでは皆納得してはもらえなかったようで。
「あたしとユーラだって小さい頃から村の魔法使いのおじいさんに教わってたよ」
ピノさんは納得できないと言う表情を浮かべる。
「アルは誰かに魔法を教わったのよね? まさか独学とか言わないでよね?」
「流石に独学は無理ですよ。ちゃんと教えて貰いました」
「……なるほどね。
アル自身に魔法の才能があるのかも知れないけど。
それよりも、アルに魔法を教えた先生って言うのが凄く教え上手だった可能性が高いわね。
もしかしたら名のある魔法使いなのかも知れないわね」
ピノさんはどうやらそう結論付けたようで、うんうんと頷いている。
そしてピノさんの評価を聞いていた僕の先生達にチラリと視線を向けると――
なかなか良い角度のドヤ顔を披露していた。
そして、気分を良くしたのか饒舌に話を始めた。
「いやぁ、確かにアルの才能はあるが、それを引き出した者の手腕は素晴らしいな。
何処の誰かは知らないが、実に素晴らしい人物であるに違いない。
いやぁ、本当何処の誰かは知らないが、アルは感謝してもっとその人物に優しく接するべきだと思うぞ。
そうだな……例えば添い寝をしてあげるとか?
他にもそうだな……添い寝をしてあげるとかした方が良いんじゃないか?」
二択のように聞こえるが実際は選択肢が無いようだ。
メーテに選択肢の無い二択を突きつけられていると。
「ねぇ、アル?
もし良かったら、今後の参考の為に教わった内容を教えて貰えないかな?」
ピノさんがそう尋ねて来たので、闇属性の素養や魔法には触れないように授業の内容を教える事にした。
教える事にしたのだが。
その内容を話している内に、五人の顔は青ざめて行く。
「毎日魔力枯渇するまで魔法使い続けさせるとか鬼かよ!」
「身体を縛られて身体強化の練習とかなんて拷問?」
「しかも、身体強化の授業の後に魔力枯渇するまでとか考えただけで吐きそう」
「四歳でゴブリン八匹相手にしろとか、死んできなさいって言ってるようなものよね?」
「俺が四歳の頃なら間違いなく死んでるな」
「アル……さっきはごめんんさい。
アルとの差が悔しくて先生のおかげみたいな事を言っちゃったけど、間違いなくアルの才能と努力の結果よ」
五人はそう言うと、憐れみと慈愛の入り混じった表情を僕に向けてきた。
ユーラさんに至っては。
「うんうん、辛かったわよね」
「うんうん、頑張ったんだね」
と言いながら涙を流し、慈母のような微笑みを向けてくる。
確かに辛いと思った事は多くあるが、僕にとっては当たり前のようにやって来た事なので。
流石にこの反応は大袈裟なのでは?と思い。
「そんなー、皆さん大袈裟ですよ? 大袈裟だよね?」
そう言ってメーテとウルフに視線を向けた。
視線を向けたのだが……凄い勢いで目を逸らされた。
「ウ、ウルフこの肉は食べたか? 癖があって中々に美味だ」
「さ、さっき食べたわ。確かに癖になる味よね」
「そ、そう言えば、
皆知ってるか?肉は調理する前に叩くと柔らかくなるぞ!」
そして、話題さえも逸らそうとしている。
しかし、逸らそうとしているのだが、話題の逸らし方が下手なうえ情報が浅い。
どうやらメーテとウルフの反応から察するに、五人の反応は大袈裟では無かったようだ。
この件は家に帰ってからゆっくりと問い質す事にしよう。
その後は、メーテとウルフが連携する事でどうにか話題を変える事に成功したようだ。
その無理やりな話題の変え方に、五人の目は疑わしいものを見る目をしていたが。
メーテとウルフは上手く話題を変えてやった。
そんな表情をしているので、メーテとウルフにとっては成功なのだろう。
そして、暫く食事にお酒に会話を楽しんだ後、時間も時間と言う事で解散する事になった。
結局、ホブゴブリンと戦っていた時に聞こえた、機動魔法や詠唱の事については聞きそびれてしまったが、家に帰ったらメーテに聞けばいいだろう。
酒場を出ると僕達は食事のお礼を伝えると。
「気にするなよ。ドルトンのお礼がしたかったのは俺達だし。
それに、アル達と知り合いになれて良かったよ」
「そうですね。
これからダンジョンに潜る機会も多くなりそうですし。
ああ言う場所だから、助け合える知り合いは多い方が良いですもんね」
「そう言う事だ。
俺達の実力じゃアル達の手助けするどころか、手助けされてばかりになりそうなのが不安だけどな」
そう言ってマルクスさんはバツが悪そうに笑う。
「それじゃあ、俺達はそろそろいくぜ。
メーテさんにウルフさん今日はありがとうございました。
アル、お互い頑張ろうな!」
僕達が別れの言葉を返すと、青き清流の五人は一つ頭を下げ、城塞都市の街へ消えて行き。
その後ろ姿を見送った後。
「さて、私達も帰るか」
「そうだね。メーテとウルフにはゆっくり聞きたい事があるしね」
その言葉に二人は視線を逸らした。
そして。
「今日は帰りたくない気分だ」
「そうね。今日は帰りたくない気分だわ」
別の状況なら勘違いしてしまいそうな言葉を口にする二人。
そんな二人を引きずるようにして家へと帰ることになるのだった。
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