第40話 はじめてのダンジョンと階層主

 ダンジョン内を歩き始めて30分経過した頃だろうか?


 今の所魔物に合う事も無く、ただダンジョン内を散策していると言うのが現状で。

 僕の想像ではもっと魔物が出てくる場所だと思っていたのだが、今の所は平和そのものだった。



 そうしてダンジョン内を進んでいると。

 ダンジョン内は少しひんやりしているものの、歩き続けて少し火照った身体には丁度良いことに気付く。


 それにダンジョンと言う場所はもっとジメジメとして暗い場所を想像していたのだが。

 所々壁から顔を出している鉱石が光を放ち、他にもヒカリゴケのような物が明かりの役割をしてくれている為。

 常に一定の明るさが保たれており、自分達で光源を用意する必要が無いくらいだった。


 思った以上に快適なダンジョン内であるのだが。

 今の所分岐点などは一度しか無く、ほぼ一本道と言う状況で。

 こんな一本道では、先に通った人達に魔物を狩られてしまい、魔物と遭遇する確率も低いように思えた。


 本来であれば魔物なんかには遭遇しない方が良いのだとは思うが。

 僕のダンジョンに潜る目的が魔物を狩って魔石を集める事なので、魔物に遭遇しないと言う現状は思わしくはない。


 そんな現状に頭を悩ませているとメーテが口を開く。



「こんな一本道だと魔物を狩りつくされてしまいそうだな……

まぁ、まだ一階層だし、もう少し進んでみることにするか」



 メーテの言葉に従い、少し進んだ所で二階層へ繋がる階段を見つけ、二階層を探索を始めたのだが。

 一階層とほぼ変わりなく、分岐も殆ど無かったので、あっさりと三階層へ続く階段を見つけることになった。


 唯一違う所を上げるとしたら、一匹だけ魔物と遭遇したと言う事。

 しかし、その魔物はゴブリンで他の探索者の狩り残しと言った感じで、既に傷つき、息も絶え絶えだった。


 当然、あっさりとゴブリンを狩ることになり、魔石も回収できたのだが、このペースでは先が思いやられてしまう。



 そして三階層。


 この階層も特に何事も無く、四階層へ続く階段を見つける事が出来たのだが。

 三階層ではゴブリンが二匹狩れただけだった。



「これは予想外だな。

浅い階層でももっと魔物が狩れると思っていたのだが……

どうやら、もう少し潜らないと駄目かもしれんな」


「確かにそうかもしれないね。

今の所ゴブリンが三匹だけだし、もっと下の階層に行かないと魔物が少ないのかも?」


「二人が言った通り、殆ど魔物は居ないみたいね。

魔物の臭いが全然しないわ」 



 そうして四階層を探索し始めるものの、ウルフが言った通り四階層も殆ど魔物が居なかった。


 ウルフの鼻は魔物を感知するのに長けているようなので、それを頼りに、出来るだけ魔物と遭遇するように歩いてもらったのだが。

 それでも数匹にしか遭遇せず、遭遇してもゴブリンばかりだった。



 その後も下の階層へと進んで行き、順調に階層を重ねて行ったのだが。

 やはり魔物に遭遇する回数は少なく、遭遇するのはゴブリンばかりと言う状況が続き。

 なんとも肩透かしを喰らったような気分になっていると。



「あら、この先に人間のグループが居るみたいよ。

多分五人くらいかしら? 血の臭いが混じってるから怪我でもしてるんじゃないかしら?」



 九階層へと辿り着いた瞬間、ウルフが人が居ることと怪我人が居ることを告げた。



「ふむ、怪我か魔物にでもやられたか? とりあえずは行ってみることにするか。

ウルフ、その場所へ案内してくれ」



 ウルフはメーテの言葉に頷くと、臭いの元へと案内する為歩きだす。

 そして、それから少し歩いた所で少し広い空間へと辿り着くと――


 そこには五人の男女がおり、ウルフが言っていた通り腕から血を流す怪我人の姿があった。



「怪我をしているようだが大丈夫か?」



 僕達の存在に気が付いていなかったのだろう。

 メーテがそう尋ねると、五人の男女はビクッと肩を跳ね上げた後、僕達に視線を向け。



「え? なんで子供が居るの?」


「女性と子供のパーティー?」


「嘘だろ? ここ九階層だぜ?」



 各々がそんな言葉口にした。


 メーテは自分の問いに対する答えが返ってこなかった事にムッとしたのだろうか?



「大丈夫か? と聞いている」



 口調を強めて再度五人に質問をした。


 その強めの口調に五人はハッとした様子を見せると、その内の一人がメーテの質問に答えた。



「は、はい。

実は十階層に居る階層主に挑んだんですけど、今の僕達では力が及ばなくて一人が負傷してしまいました」


「傷は深いのか?」


「いえ、血は結構出ていますが傷自体はそんなに深いものでは無いです」


「そうか、見せてみろ」



 メーテの言葉に五人の男女は警戒するような視線を送るのだが。



「警戒しないでいい、治してやるから見せてみろ」



 治してやると言う言葉を聞くとその警戒を解いてみせた。


 そして、メーテは怪我をしている男性に近づき怪我をしている部分に掌を向ける。


 すると、掌を向けていた個所が青白く光った後、ゆっくりとその光は消えていった。



「これで大丈夫だ」



 そう言われた男性が布で血を拭うと、そこにある筈の傷がなくなっていたのだろう。

 男性は目を丸くした後、お礼の言葉を口にした。



「あ、ありがとうございます。

あの、お礼としては少ないと思いますがゴブリンやオークの魔石ならあるので受け取って貰えませんか?」


「いや、大丈夫だ。

血が結構抜けた筈だ。その魔石を売ったお金で今日は栄養のある物でも食べろ」


「ですが、それではお礼になりません」


「……ふむ、じゃあこうしよう。

さっき階層主と言っていたな? そいつの情報をお礼として貰っておく」



 メーテがそう言うと五人は「でも、それでは……」と口にし、言葉を続けようとしたのだが。

 メーテの視線を受けて説得するのは無理だと判断したのだろう。

 十階層に居ると言う階層主の情報を話し始めた。



 階層主。


 それは十階層ごとに現れる普通の魔物よりも強力な個体で、倒したとしても一定期間が開くと復活すると言う謎の多い存在でもある。


 階層主の討伐はギルドプレートのランクアップに必要な条件となっており。

 上層級から中層級に上がるには三十階層の階層主の討伐が条件になるらしく。

 同様に中層級から下層級になる為には六十階層の階層主の討伐。

 下層級から最下層級になるには九十階層の階層主の討伐が必要条件だと言うことを教えてくれた。


 そして、十階層の階層主なのだが、五人が言うにはホブゴブリンだと言う。


 ゴブリンと言う名前から強そうなイメージは湧かなかったのだが。

 五人が言うには、ゴブリンなんかとは比べ物にならない程に強力な個体らしい。


 まず身体の大きさが違う。

 本来のゴブリンンは130センチ程度の身長しかないのだが、ホブゴブリンは2メートル近い身長で体格も筋肉質のようだ。


 それに加えて剣も使うそうだ。

 剣術と言うほどではないようだが、力任せに振るうその剣は受け損ねれば確実に致命傷になりえる威力があるようで、オークと比べてもその強さは数段上だと感じたらしい。



 五人の話を聞き終えた僕は、戦うにはそれなりの準備が必要だと感じ、一度戻って作戦を立てなおした方が良いだろう。

 そう判断したのだが……



「じゃあアル、ホブゴブリンを討伐してみようか?」



 メーテのその言葉に、僕と探索者五人は目を見開く。



「ちょっと! 話聞いてました?

僕達五人で敵わなかった相手ですよ!? それをこんな子供に!」


「うむ、ちゃんと聞いていたぞ?」


「だったらそんな無謀な事はやらせるべきじゃない!」


「そう言われても困るな。

私は無謀だと思ってないし、アルなら余裕だと思っている」


「っ!? 余裕な訳無いでしょうが!

確かに僕達は駆け出しの探索者ですが、それでも一人でオークを倒す事くらいはできます。

そんな五人で挑んでも逃げ帰って来たんですよ!?

それをこんな子供に……」


「心配してくれるのはありがたいが、問題はない」



 正直、メーテが言い包められるのを期待していたのだが……

 「問題無い」と言い切るメーテを見て、それは叶わないことだと知る羽目になった……






 そして今、僕はおかしな状況に立たされている。


 ここは十階層。目の前には筋骨隆々なホブゴブリン。


 後ろにはメーテとウルフ。

 そして、何故か先程の探索者五名。


 メーテの発言が信じられなかった五人は、万が一の時に手助け出来るように付いて来てくれたようだ。

 ……良い人達だ。


 そんな事を考えている内にホブゴブリンは戦闘準備が整ったらしく。

 手に持ったロングソード僕に向かって振り下ろす為、頭上へ振りあげた。


 そして、その身体からは想像できないような素早さで僕との間合いを詰めると、その剣を振り下ろす。


 だが、僕は身体強化を掛けると横へと跳び、余裕を持ってその剣をかわしてみせた。


 その様子を見ていた探索者五人の「身体強化か」「あの年でやるわね」

 そんな会話が聞こえてくるが。

 今は戦闘中で、耳を傾けている場合ではないだろうと判断すると、いま一度ホブゴブリンへと意識を移す。



 身長差と獲物の差に加え、ホブゴブリンには早さもあり。

 この状態で迂闊に飛び込むのは愚策と考えた僕は、ホブゴブリンから距離を取ると、火属性魔法の『爆炎』を放つことにした。


 流石にホブゴブリンともなると只受けるだけでは無く、剣を盾にして防ぐくらいの知恵はあるようだが。

 それでも防ぎきれなかったようで、所々に火傷の跡が増えて行く。


 そして、この行動がホブゴブリンの怒りに火を着けたようだ。



「ギャァアアギャギャアアア!!」



 ホブゴブリンは奇声をあげると、剣を振り上げ襲い掛かる。


 その攻撃を身体強化で底上げされた動きでかわすのだが。

 剣を避けるたびに地面が抉られ、その威力を見た僕は思わずゾッとしてしまう。


 しかし、当たらなければとなんとやらと言うヤツで。

 僕はホブゴブリンの攻撃をかわしながら、隙を見ては『爆炎』を放ちホブゴブリンに当てていく。



「え? 身体強化しながら魔法?」


「それって機動魔法てヤツじゃないの?」


「て言うか詠唱してなくない?」



 またも五人の探索者の会話が聞こえてくる。

 と言うか機動魔法とか詠唱とか気になる単語が聞こえてくるのだが、今はそれどころでは無いだろう。


 それから数度『爆炎』を放った所で、ホブゴブリンの足が止まる。


 ホブゴブリンは何度も『爆炎』をくらった事により、先程まで見せていた動きは見る影もなく。

 ここが勝負の決め時と判断した僕は、火属性の中級魔法『炎渦』を放つ。


 この『炎渦』と言う魔法は炎の渦。

 いや、竜巻と表現した方が的確だろう。


 竜巻状の炎が対象を燃え尽くすように上昇していくと言う魔法だ。

 そして、使う場所にもよるが、その竜巻の温度は1000度に迫るらしい。


 そんな魔法を直撃したホブゴブリンの末路は想像するに難しくない。


 悲鳴を上げ剣を振りまわすが、それでどうにか出来る筈も無く。

 程なくして悲鳴は断末魔へと変わって行った。


 そして、『炎渦』の炎が消えると、そこには黒く焼け焦げたボブゴブリンンの死体が出来上がっていた。


 僕は傷を負う事も無くホブゴブリンンを倒す事が出来た事にホッと胸を撫で下ろすと、額に伝う汗を拭う。



「ほらな? アルなら余裕だっただろう?」


「余裕だったのかな? 中級魔法も使ったよ?」


「中級魔法までしか使わなったの間違いだろう? そう言うのを余裕と言うのだ」



 そう言うものなんだろうか?と考えていると。



「中級魔法までってなんだよ? まさか上級魔法が使えるのか?」


「まさか? 流石に嘘でしょ?」


「いや分からないわよ? 炎渦でさえ無詠唱だったのよ?」



 五人の探索者はそんな言葉を交わすのだが。

 メーテや探索者の言葉から察する通り、今の僕は上級魔法を使う事が出来る。

 まだ水属性の魔法しか上級魔法は使えないが、確かに上級魔法を使う事が出来るのだ。



「アル? 魔石は回収しなくて良いのかしら?」



 そんな事を考えているとウルフがそう尋ねて来たので、魔石を回収する為にホブゴブリンの死体の元へと駆けよる。


 ボブゴブリンの死体はこんがりと焼けており、脂が焼けた臭いが嫌に鼻につくが。

 自分でやった事なので、臭いを我慢しながら魔石を回収すると。

 今までゴブリンやオークの魔石は何度も回収した事があったが、ホブゴブリンの魔石は今まで回収してきた魔石とは違い、色が濃いように感じた。



「ほう、思ったよりは色が濃いな。

これなら金貨一枚くらいの値がつくんではないか?」



 そして、そう思ったのは間違いではなかったようで、メーテは魔石を覗きこむと魔石の色が濃いと言った。


 以前、魔物によって魔石の大きさや色が違うことは教わっていたが。

 これほど色の濃い魔石を見たのは初めてだったことに加え、聞かされた金額が思った以上に高かったので、思わず頬が緩んでしまう。


 そうしていると。



「さて、今日は階層主も倒せた事だし切りも良い。

 今日はこれぐらいにしておいて一度地上に戻るか」



 どうやら、今日はここまでだとメーテは判断したようで、地上に帰ることを提案する。



「そうだね。

これ以上潜るとなると食糧とかも必要になりそうだし戻ろうか」


「そうね。深く潜るならしっかりとした準備が必要そうね」



 僕とウルフも異論は無く、メーテの提案に賛同を示し。



「うむ、それでは一度地上に戻ろう。

そう言えばお前達はどうする? 私達と一緒に戻るか?」



 そ声を掛けられた五人の探索者は、願ってもないと言う表情で何度も頷いてみせる。



「よし、それでは帰るとするか」



 メーテの言葉に僕達も頷くと、僕は初めてのダンジョン探索を終えるのだった。

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