第39話 ギルドプレート

 翌日。ギルドプレートを受け取る為、僕達はダンジョンギルドへと来ていた。


 受付には数人の職員が居たのだが。

 その中の一人に、昨日担当してくれた女性職員を見かけたので、その女性職員が居る受付へと並ぶことにした。


 数名の対応が終わり、僕達に順番が回ってくると、女性職員は僕達の事をちゃんと覚えてくれていたらしく。



「昨日はお疲れさまでした。

プレートは出来上がっていますのですぐにお持ちしますね。少々お待ち下さい」



 説明をする必要も無く要件を察してくれたので、この女性職員の居る受付に並んで正解だったなと一人頷いた。



「お待たせいたしました。

こちらがギルドプレートになります。

それと、事前にお話しした通りお一人様銀貨一枚になります」



 そう言って渡されたのは、ドッグタグのような物だった。

 いや、まんまドッグタグだ。


 皮紐の先には二枚の銀色のプレートが提げられており。

 そのプレートには名前、生年月日、出身地が刻まれている。

 こちらの世界には血液型と言うものが発見されていないのか、血液型は記載されていないようだった。



 僕達が女性職員に銀貨三枚を払いギルドプレートを受け取ると、女性職員はギルドプレートについて説明を始める。



「簡単にギルドプレートの説明をさせていただきます。

こちらのギルドプレートですが、ダンジョンに潜る為の許可書としての役割があります。


皆様が受け取ったギルドプレートは銀色となっていますが、ランクによって色が変わり色によって得られる恩恵も変わってきます。


皆様のギルドプレートは上層級を意味しているのですが。

中層級になりますとプレートの色が青、下層級なら赤、最下層級なら黒。

そのように色分けがされており、その色によって医療を受ける優先度や税金の免除額に差が出てきます。

まぁ、この辺は冒険者ギルドで得られる恩恵と変わりありませんね。


それと、ランクによってお店で割引を受けられると言うのもありますね」



 冒険者や探索者と言った職業の者はある程度のランクになってしまえば、一定の場所にこだわらなくても食べて行くのに困る事は無いように思える。

 そう言った冒険者や探索者を繋ぎとめる為には、色々な待遇を用意する必要があるのだろう。


 そんな事を考え、一人納得している間にも女性職員の説明は続き。

 一通りギルドプレートの説明をし終わった所で。



「それでは説明は以上になりますね。

最後にプレートに個人情報を登録して終わりになります。


このギルドプレートは今はまっさらな状態ですので魔力を流していただきます。

そうしますと初めに魔力を流した人にしか反応しないようになります」



 そう言うと女性職員は胸元からギルドプレートを取りだした。


 そして、女性職員はギルドプレートに魔力を込めたのだろう。

 ギルドプレートは反応を示し、淡く光り出した。



「このように魔力を込めると本人なら淡く光りますが、本人以外が同じ事をしても光る事はありません。

これは盗難や悪用されるのを防ぐための措置ですね」



 僕達は女性職員に倣ってギルドプレートに魔力を流すと、ギルドプレートは女性職員が言う通り淡く光り出した。



「はい、ありがとうございます。これで個人情報の登録も完了です。

これでダンジョンに潜ることもできますが、無理をしないようにして下さいね。


それと、これから初心者講習があるのですが受けて行かれますか?」



 僕達は初心者なので当然受けておいた方が良いだろう。

 そう思っているとメーテが口を開いた。



「それはどういった内容なのだろうか?」


「えっと……ですね。

ダンジョン内で迷わないようにする為の方法や、上層で遭遇する魔物の種類や倒し方と言ったところでしょうか」


「ふむ、そうか。

そう言った内容なら受けなくても構わないかもしれないな。

職員の方、折角の厚意で進めていただいた所申し訳ないが今回は辞退させて貰うよ」


「左様ですか。

そうしましたら、もし必要とする機会があれば受けてみてください」


「分かった。感謝する」



 初心者講習を受けると思っていたのだが。

 メーテの中では必要ないという判断のようで、女性職員にお礼の言葉を告げると受付を後にすることとなった。






 受付を後にした僕達はダンジョンギルド内にある食堂に席を取ると。

 紅茶を飲みながらこの後どうするかの話し合いをすることにした。



「問題無くプレートを受け取る事も出来た。

ダンジョンには潜れるようになった訳だが早速潜るか?」



 今後ダンジョンに潜るのは確定している事なので後回しにしたって良い事はない。


 正直不安が無いと言えば嘘になるが、ここで躊躇っている暇があるなら積極的にダンジョンに潜るべきだろう。

 そう考えた僕はメーテの言葉に頷く事で返事をした。



「わかった。

もう一度準備を確認して問題が無いようならダンジョンに潜るとしよう」



 その言葉で手荷物を確認する。


 手荷物と言っても大した物がある訳ではなく、腰に下げた片刃の剣とバックパックくらいだ。


 バックパックの中にはメーテお手製の傷薬と魔石回収用の布袋。

 それと非常食としてブロックタイプの栄養食が数本入っている。


 それを確認して問題が無い事をメーテに伝えると、ウルフも手荷物を確認し終わったようで問題無い事を伝えた。



「よし、それでは行くとしようか」



 メーテがそう言うと、僕達は飲みかけの紅茶を飲み干し席を立ち。

 ダンジョンギルド中央にある大穴へと足を向けることになった。






 ダンジョンギルドの中央には大穴が空いており、その大穴がダンジョンへと通じる入口になっているのだが。

 大穴の周りは柵で囲まれている所為で一か所からしか中に入る事は出来ない。


 その一か所には、ギルドの職員と警備員と思われる人が待機している受付があり。

 そこでプレートの確認をし、問題が無いようなら中へ通されると言う仕組みのようだ。


 僕達は受付へと向かうと、職員にプレートを光らせて見せた。

 恐らくだが、子供がダンジョンに潜ろうとしているのだから驚いたのだろう。


 職員は目を丸くして見せたのだが。

 しかし、そうして見せたのも一瞬でプレートが光るのを確認すると。



「問題無いようですね。それではお気をつけて」



 そう言って中へと通してくれた。


 僕達は大穴の壁面に沿って設置されている螺旋階段を下へ下へと降りて行き。

 そうして階段を降りて行くと、開けた空間へと辿り着く。


 上から見た時には気付かなかったが、その場所は結構な広さがあり。

 そこには数組の探索者の姿が確認できた。



 あるグループは壁際で簡易な食事を取っていたり。

 あるグループはこれからダンジョンに潜るのだろう。

 地面に地図のようなものを書き、難しい顔をしながら作戦会議をしている。


 他にも布を床に敷いて、その上に薬と思わしき瓶を並べ販売している者も居た。


 ダンジョンギルド内には薬などを販売している場所もあるらしいので。

 営業妨害で取り締まられたりはしないのだろうか?と疑問に思ってしまう。


 そんな事を考えながら歩いていると、探索者の視線が度々僕達に向けられ、ボソボソとなにやら話している事に気付く。



「子供? てか女二人のレベルたけぇな」


「なんだ? 貴族のボンボンかなんかか?」


「ガキが一丁前に腰に剣差してやがるぜ」



 ダンジョンと言う危険な場所で、子供と綺麗なお姉さんが二人と言う奇妙な組み合わせを目にしているのだ。

 探索者の間からこう言った声が聞こえてくるのも仕方がないだろう。


 そう思って聞き流すことにしたのだが。



「メーテ? アルの悪口言ってるみたいだけど痛めつけちゃいけないのかしら?」



 どうやら、ウルフは聞き流せなかったようで不穏な空気を出し始めた。



「駄目だ。私も我慢しているんだからウルフも我慢しろ」


「でも腕の一本くらいなら問題無いんじゃないかしら?」



 しかも、物騒な事を言い始める始末。


 本当に何かしでかすんじゃないか?

 そう思った僕は慌ててウルフの手を引き、逃げるようにその場から離れることにしたのだが。



「ウ、ウルフ一人だけ手を繋いでてずるいぞ!」



 などと、訳の分からない事を言うメーテ。


 その所為で他の探索者達から更に視線を集めることになってしまい。

 そんな気まずい空気の中、僕達の初めてのダンジョン探索が始まるのだった。

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