第38話 ダンジョンギルド
昨日の夜は最高級の羽毛布団のおかげでぐっすりと眠り。
その寝心地の良さに満足し、朝を迎える事が出来た。
僕は自分用に与えられた部屋から出ると、リビングへと向かう。
リビングにはすでにメーテとウルフが居て、ウルフはソファーの上で寝転がり、メーテは朝食の準備をしていた。
そんな一人と一匹に朝の挨拶をすると、二人も朝の挨拶を返す。
いつもと同じやり取りではあったが、今僕達が居るのは迷宮都市の家と言う事もあり。
いつものやり取りが違ったもののように感じた。
そんなやり取りで、迷宮都市での新生活が始まった事を実感していると。
テーブルの上に朝食が並べられて行き、朝食が並べ終わると、二人と一匹でテーブルを囲む。
ウルフの食事は、床の上のお皿に食事を用意すると言う形だったのだが。
最近ではそれを嫌がるようになり、テーブルで食事を取るようになっていた。
器用に椅子の上にお座りをし、テーブルで食事する姿は何とも言えない愛らしさがあるのだが。
それを口にするとウルフにいじられそうなので心の中にしまっておく。
そんな事を思いながらメーテの作る食事に舌鼓を打っていると、メーテが口を開いた。
「昨晩も話したと思うが。
朝食を終えたら、ダンジョンに潜る為の手続きをする為にダンジョンギルドに向かおうと思ってる」
昨晩メーテに教えて貰った事なのだが。
ダンジョンに潜る為にはダンジョンギルドに登録する必要があるらしい。
迷宮都市はダンジョンによる収入で、財政の大部分を補っているようで。
勝手にダンジョンに潜り、勝手に魔石を売るなどと言う事をされては、迷宮都市にとっては財政面で大きな痛手となってしまう。
その様な事が起こらないように、迷宮都市ではダンジョンギルドと言うものを置き。
魔石や人材の管理をする事によって迷宮都市外への魔石の流出を防いでいるようだ。
「それと、そうそうある事ではないと思うが何処にでもおかしな輩と言うものは居るものだ。
そう言った探索者に絡まれても極力関わらない事にするように」
メーテがそう言うと、城塞都市で絡まれた事を思い出す。
冒険者と言う職業は荒事を生業にしている所為か粗暴な者も多く見られる。
まぁ、中にはアランさんのような人も居るので一概にそうとは言い切れないのだが。
それでも粗暴な者は少なくは無いだろう。
そして、多分だがダンジョンに潜る探索者達にも似たような傾向がある為、メーテはこう言って注意してくれたのだろう。
そんな事を考えていると。
「ワォン」
「何だウルフ?」
「ワッフワッフ」
「いや、駄目だ。殺すのは最終手段だ。」
「ワフワッフ」
「ん? まぁ、殺さない程度なら良しとするか」
なんかウルフが物騒な事を言い始めているようなので。
本当にウルフを連れて行っても大丈夫なのだろうか?と少し不安になった。
そして、朝食を終えた僕達は各々の準備を終えるとダンジョンギルドへと向かう。
家を出て、迷宮都市の街並みを眺めながら暫く歩くと、メーテが声を掛けて来た。
「アル、あれがダンジョンギルドだぞ」
そう言ったメーテの指さす方向に視線を向けると、円柱状の建物が目に入る。
僕はダンジョンギルドと聞いた際に、城塞都市でみたような冒険者ギルドのような建物を想像していたのだが。
僕の目に映ったダンジョンギルドは、その想像とかけ離れていた。
円柱状の建物は直径で100メートル程はありそうな広さ。
そして、高さも五階建てくらいの高さがある。
石造りの外壁にはいくつもの柱が立ち並んでおり、その柱や壁には装飾が施されており。
そう言った装飾に目を向ければ繊細な作りの建物と言う印象を受けるが。
それと同時に、その柱の太さや、見るからに重厚な壁の作りには堅牢な印象も受ける。
そんなダンジョンギルドの外観に見入っていると。
「さて、手続きをしに行こうか」
そう言ったメーテはダンジョンギルドへと入って行き。
メーテの後を追うように、僕とウルフもダンジョンギルド内へと入って行った。
そうしてダンジョンギルド内へ入った僕は周囲を見渡してみる。
ダンジョンギルド内の床や壁はすべて石造りとなっており。
壁沿いには上の階へ上がる階段や、受付と思われるカウンター。
それに食堂なんかが目に付く。
建物の中央部分は吹き抜けになっており、室内だと言うのに陽の光が差しこみ、陽の暖かささえ感じることが出来た。
そして、何よりも目に付いたのは吹き抜け中央部分の地面に大きく口を開けた大穴だろう。
柵に囲まれたその大穴を覗きこんでみれば、螺旋階段が下へ下へと続いており。
説明されないでも、この大穴がダンジョンの入り口なんだと言う事が理解出来たのだが。
その大穴を覗いていると、穴の奥に吸い込まれるような錯覚をしてしまい、身体がブルリと震えてしまう。
ダンジョンに潜る前からこんな調子では先が思いやられてしまうな。
そんな事を考え受付へと向かうメーテの後を追うと、どうやら受付へと辿り着いたようで、受付にいる若い女性職員が声を掛けて来た。
「ようこそダンジョンギルドへ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「今日はダンジョンギルドに登録の手続きに来た。
3名ほど登録をお願いしたいのだが」
女性職員の問いかけにメーテが答える。
「かしこまりました。貴方と後ろに居る獣人の方ですね。
えっと、後一人はまだいらしていないんですか?」
女性職員は、3名の内の一人が僕だとは思わなかったようで、キョロキョロと視線を彷徨わせた。
「あの、後一人は僕です」
「えっ? 君が?
まだ子供のように見えるけど?」
僕が声を掛けると女性職員は目を丸くしたが。
慌てて平静を装うと、その後は普通の態度で対応してくれた。
「し、失礼しました。
子供のギルド登録は禁止されていませんが、あまり多くは見掛けないので少し驚いてしまいました。
三名様の登録ですね。
それではこちらの記入用紙に記入してください。
それと、登録となった場合一人銀貨一枚掛かりますのでご了承ください」
そう言った女性職員に記入用紙を渡される。
記入用紙には名前、生年月日の記入欄の他に、ダンジョン内での規約なども書かれており。
さらには命を落とした場合ギルドは保証をしないと言うような内容とサインをする為の記入欄があった。
命を落とす可能性があると言う事は予想してはいたが、実際に文章として突きつけられると説得力が違う。
記入するのを一瞬躊躇しそうになるが、ここで躊躇していても始まらない。
覚悟を決めて記入欄を埋めて行くと、記入用紙を受付の女性職員に手渡した。
女性職員は三人分の記入用紙に一通り目を通した後。
「メーティー様にヴェルフ様にアルディノ様ですね。
それではこれから簡単な審査をいたしますので別室に案内いたします」
久しぶりに聞いた皆の本名に一瞬誰?とか思ってしまったが、女性職員に案内されるまま僕達は別室へ向かった。
別室に案内されると、女性職員の手には水晶球があった。
この水晶球には見覚えがあり。
以前、僕の素養を隠蔽する練習をした時に使用した水晶球と同じものだと分かる。
「それでは素養の確認をしますので、こちらの水晶球に手を置いてください。
あっ、こちらで素養の確認はしますが、ギルド内で厳重に情報は保管して、他の探索者の方には公表する事はないので安心してください」
そう言うと女性職員は水晶球を僕達の前にあるテーブルの上へと置いた。
久しぶりなのでちゃんと素養の隠蔽ができるか不安に感じていると。
「素養の隠蔽ぐらいなら少し意識するくらいで出来るようになっている筈だ。
そんな不安そうにしなくても大丈夫だぞ?」
メーテは僕を安心させるように小声で呟いた。
少し不安が残るものの。
メーテの言うことを信じて水晶球に触れてみると水晶球は何の反応も示さず、無事隠蔽出来たことに胸おなでおろす。
次にウルフが水晶球に触れると、水晶球は何度か点滅した後、その内側を緑に発光させた。
緑と言う事はウルフには風属性の素養があると言うことなのだが、ウルフに素養があると言う話は聞いていなかったので少し驚いてしまう。
次にメーテの番なのだが……
メーテに闇の素養がある事を僕は知っている。
そして、闇の素養と言うのはこの世界では危険視されており。
闇の素養を持っていると言う事を他人に知られのは良くないと言うことも知っている。
僕は魂の形が歪と言う事もあり、独自の方法で素養の隠蔽をする事が可能だが。
メーテにはその方法を使用する事が出来ない。
メーテは素養を隠蔽できるのだろうか?それともばらすつもりなのか?
そんな不安があったのだが、僕の不安を他所にメーテは平然とした様子で水晶球に触れて見せた。
その瞬間、頭の中で黒く光る水晶球を思い描くが。
そんな僕の想像とは異なり、水晶球は何の反応も示さなかった。
反応を示さない水晶球を見て、なんで光らなかったんだろう?
そう疑問に思っていると、女性職員が口を開いた。
「はい、ありがとうございます。
ヴェルフ様は風属性の素養をお持ちで、メーティー様とアルディノ様は素養をお持ちで無いようですね」
女性職員はそう言いながら手持ちの書類にペンを走らせる。
そして、その後は女性職員による面接と心理テストのようなもの行うことになった。
「お疲れさまでした。以上で審査は終了となります。
確定ではありませんが、多分問題なく受理されると思いますので。
明日の午前中にはダンジョンギルドのプレートをお渡しできると思いますよ。
早く受け取りたいと言うのであれば、担当の者に伝えて夕方頃にはお渡し出来るようにしますけど……如何なさいますか?」
そう尋ねた女性職員に対しメーテは明日の午前中で構わないと言う事を伝える。
「かしこまりました。
それでは以上になりますので、翌日以降受け取りにいらしてください。
それと明日は初心者講習もありますので。
もし宜しければ、プレートを受け取りに来た際に受講なさってみてはいかがでしょうか?」
「分かった。時間が合うようなら受けてみる事にしよう」
「ありがとうございます。
それでは私は失礼させていただきますね。皆様お疲れさまでした」
女性職員はぺこりと頭を下げ、受付の奥へと戻って行く。
そして、女性職員の姿が見えなくなると、メーテに気になった事を尋ねてみることにした。
「メーテ? どうやって素養を隠蔽したの?」
「ああ、それはこれだ」
メーテは耳にぶら下がっているイヤリングを指で軽くはじく。
「素養認識阻害のイヤリングだ。
簡易なものだが、水晶球くらいなら騙す事が出来る」
その言葉を聞いて、そんなものがあるなら別に僕は苦労する必要なかったのでは?
そう思ってメーテに伝えてみると。
「必要なかったかもしれんな」
平然とした様子で必要が無かったことを口した。
しかし、後に続けた言葉はこうだった。
「私が居る内はな」
その言葉を聞いてハッとなる。
常にメーテが傍に居る訳ではないし、この先一人で解決しなければいけない時だってくるだろう。
そんな事にすら頭が回らず、迂闊に言葉にしてしまった事を反省するのだが。
「まぁ、まだまだアルは半人前だ。
暫くは私の目の届く所に置いておくつもりだから心配するな」
そう言ってメーテは僕の頭を雑な手つきで撫でた。
半人前扱いされたと言うのに、メーテの言葉にどこか安心してしまう自分がおり。
自分の事ながら少し呆れてしまう。
そんな風に思っていると。
「さて、今日中にダンジョンに潜れるかとも思ったが、明日以降になりそうだ。
特に予定も無いし、今日は迷宮都市でも散策して明日に備えることにしようか」
メーテに今後の予定を伝えられ、その言葉に僕とウルフが頷くと。
迷宮都市を散策する為、僕達はギルドを後にするのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます