三章 迷宮都市 前編
第36話 迷宮都市へ
学園都市へ通う為のお金を溜める生活が始まって数カ月経った現在。
メーテが予告していた通り、普段の授業に加え、森へ魔物を狩りに行く時間が設けられるようになっていた。
そのおかげで、この数カ月で順調に貯金を増やす事が出来たのだが。
毎日のように森で狩りをしている所為か、最近では魔物に遭遇する確率も格段に下がってきており。
貯金を殖やそうにも魔物に遭遇しないのだから増やし様がなく、学園に通う為に必要な大金貨八枚まではまだまだ程遠いと言う現状であった。
そんな現状に少し焦りを感じ始めていたある日の事。
それは、魔物を狩る為に森の中を探索している時だった。
「森の中での狩りもそろそろ限界か。
そろそろ狩り場を変える必要があるな」
メーテはそう言うと唇に指をあて、何か考えるような素振りを見せる。
僕も森での狩りで貯金を増やすことに限界を感じており。
狩り場を変えると言う意見には賛成だったので、より魔物を狩れる場所があるのであれば、と言う思いからメーテに尋ねた。
「僕も思ってたんだけど、最近、森の中で魔物に遭遇する回数が少なくなってると思う。
他に魔物が狩れる所をメーテは知らないかな?」
「ふむ、アルはもっと魔物が狩れる所を求めているのか?」
「うん。順調に貯金額は増えているけど、最近は魔物の数も減ってるみたいだし。
このままじゃ後期入学に間に合わなそうだから……」
僕がそう言うと、メーテはニヤリと笑みを浮かべた。
「そんなアルに朗報だ。
魔物も多く狩れて、ついでに名誉や称号まで手に入る場所がある」
名誉や称号と言うものにはあんまり興味はなかったが、魔物が多く狩れると言うのは魅力的だし興味をそそられる。
「そんな場所があるの?」
その質問に対し、メーテは答える。
「あるぞ。
その場所の名前は迷宮都市メルダ。ダンジョンの恩恵により栄えた都市だ」
ダンジョン。
僕が想像する通りのダンジョンであるならば、当然のように魔物が居る筈だ。
そして、今の僕はお金を貯める為に魔物を狩りたいと思っており。
そんな状況でメーテが迷宮都市やダンジョンの事を話したと言うことは、ダンジョンで魔物を狩るのであろうことが予想できた。
そして、その予想はどうやら当たっていたようで。
「アルには迷宮都市でダンジョンに潜って貰おうと思っている」
ダンジョンと言う単語が出た瞬間悪い予感はしていたのだが、悪い予感ほど当たるようで。
どうやら、僕はダンジョンに潜る事が決定しているらしい。
魔物を狩れるると言うのは非常にありがたい話なのだが。
ダンジョンと言うものが僕の中では未知である為、今の状況では不安の方が強いと言うのが本音で、少しばかり気が引けてしまう。
そんな不安が表情に出ていたのだろう。
「そんな不安そうにしなくても大丈夫だ。
アルの実力ならそこそこの階層まで潜れるようになると私は思っている。
それに万が一の為に私も同行はする。
まぁ、アルは自分で稼ぎたいようだから極力手は出さないようにするが」
不安そうにしている僕を見て、メーテは同行すること伝えた。
メーテが同行するのであれば心強く、不安も少し和らいだのだが……
自分で稼ぐとは言ったものの、金銭面以外だと本当メーテに頼りっぱなしだと言う現状に。
はたしてこれが自分で稼いだと言う事になるのか?と不安になる。
しかし、自分一人で出来ることなど、オークを狩って地道に貯めることぐらいしか出来ず。
情けなくはあるが、いずれ何かの形で恩を返そう。
そう思うことで、どうにか自分を納得させた。
そして、そんな事を考えていると、今まで黙っていたウルフが「ワォン」と吠えた。
そんなウルフに視線を向けると「ワッフワッフ」吠えている。
残念な事に狼状態のウルフでは何を言っているのか僕にはまだ理解できない。
何かを訴えかけているのだけは分かるのだが……
そんな何かを訴えかけてくるウルフにメーテは声を掛けた。
「どうしたウルフ?」
「ワッフ」
「なんだ? ウルフも迷宮都市に行きたいのか?
でも、そうなると一日の大半を人化の術で過ごす事になるぞ?」
「ワォン」
「そう言うなら構わないが……
でも、ウルフは留守番してた方が良いんじゃないか?」
「ワフワッフ」
「ち、違うぞ!
あれは節約の為でツインと間違えただけだ!」
どうやらメーテは、ツインとダブルの部屋間違えちゃった事件について言及されているようだ。
「ワッフワッフ」
「ワ、ワザとじゃない! そんなメーテだけには任せられないだと!?
ち、違う本当に間違えたんだ!
と言うかアル! ウルフに喋ったな!」
僕は高速で目を逸らした。
「くっ、アルの裏切り者め!」
何も裏切ってないのだけど、メーテの理不尽な物言いに反論する事は出来ない。
「わ、わかった。
留守番なんて言ってすまなかった! ウルフも迷宮都市に行こう!」
「ワォーーーン!」
そう言った口論の後。
どうやら二人は納得し合ったようで、ウルフの迷宮都市行きも決定した。
そんな二人の様子を見ると先行きに不安なモノを感じるが。
まぁ、どうにかなるだろうと半ば投げやりに納得させた。
そして、後日。
僕達はリビングに集まっていた。
僕は城塞都市に行った時と同様の格好で。
フードの付いたカーキ色の外套を羽織り、腰には小さめのバッグを提げ、背中には大きめのバックパックを背負っている。
しかし、城塞都市に行った時と違うところもある。
それは腰に差しているボルガルド通りで買った片刃の剣と、背負ったバックパックには殆ど荷物が入っていないと言う事。
メーテとウルフも同様な格好をしているが、二人のバックパックにも殆ど度荷物が入っていない。
今回は旅行では無いので、迷宮都市までの道中を楽しむ事をせず。
転移魔法陣で直接、迷宮都市に転移する事にしているので、バックパックの中には必要最低限の物しか入れていない。
全員の準備が出来た事を確認し終えると、地下へと続くギシギシと軋む木の階段を降りて、地下の扉の前に立つ。
メーテがその扉を開くと、幾何学模様の浮かんだ幾つもの転移魔法陣が目に映り。
そして、メーテは一つの転移魔法陣の上に立つと、僕とウルフをそこへ招き入れる。
「さて迷宮都市に転移するぞ、準備はいいか?」
「大丈夫だよ」
「ええ、問題無いわ、人里に行くのなんて久しぶりね」
メーテの質問に僕とウルフがそんな言葉を返すと、メーテはこくりと頷き。
僕達を迷宮都市へと転移させる為、転移魔法陣は淡く光りだすのだった。
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