第35話 ソフィアの決意 後編
今日はアルとメーテさんが家に来る日。
昨日はパパにお願いして新しいドレスを買って貰った。
本当はフリフリの付いた可愛いドレスにしようと思ったんだけど。
アルの前で着たら子供っぽいて思われちゃうかもしれないから、少し背伸びして黒いリボンのついた赤いドレスにした。
少し背伸びし過ぎたかしら?
でも、アルは少し大人っぽいし多分大丈夫よね?
ドレスを買った後は頑張って部屋の掃除もした。
正直に言うと私は掃除があんまり好きじゃない。
だけど、もしかしたらアルが部屋に来るかもしれないし頑張って掃除した。
自分で言うのもなんだけど、部屋の散らかり様は酷かった。
流石に私一人で掃除してたら日が暮れちゃうから、メイド達にも無理言って手伝わせちゃったけど……
メイド達には掃除のお礼として、お茶菓子の差し入れでもしてあげなきゃね。
メイド達がバタバタと慌ただしくなり。
数人のメイド達は、お出迎えの為に玄関ホールに集まり始めた。
そろそろ到着する時間かしら?
そう思って二階の窓から外を覗いたら、門の前に箱馬車が停まり、アルとメーテさんが馬車から降りる姿が見えた。
それを確認した私は、急いで玄関ホールへ向かう。
玄関ホールに着くと、アルとメーテさんは既に屋敷内に招かれていて、アルはキョロキョロと屋敷内を見まわしていた。
そんなアルに向かって、私は昨日練習したお迎えの言葉を口にする。
『いらっしゃいアル。
今日は先日のお礼なので、食事を楽しみながらゆっくりしていってね』
そう言ったつもりだったんだけど、実際はこうだった……
「よ、よく来たわねアル。
今日は先日のお礼だから、ゆ、ゆっくりしていけばいいわ」
なんなの? 本当、この前から変だ。
アルを前にしてしまうと思ってる言葉が出ない。
そんな自分の奇行に頭を抱えたくなる。
そんな事を考えていたら。
「うん。今日はありがとう。
ソフィアちゃんの今日の格好、良く似合ってるね」
……どうしよう。凄くうれしい。
でも、ここで表情を表に出したら単純な子だと思われたりしない?
でも、褒めてくれたんだからお礼を言わなきゃ!
そうよソフィア。
『アル、褒めてくれてありがとう、嬉しいわ』そう言えばいいのよ。
簡単な事じゃない。
『アル、褒めてくれてありがとう、嬉しいわ』そう言えばいいの。
さぁソフィア!
『アル、褒めてくれてありがとう、嬉しいわ』て言うのよ!
「ア、アルに褒められても嬉しくなんてないんだから!」
……本当自分が嫌になるわ。
そんな私の様子を見ていたメイド達は。
「えっ? お譲さまが最近妙に張り切ってたのってそう言う事?」
「あの気難しいお譲さまが!」
「やだぁ甘酸っぱい!」
とか言ってるし。
なんなの? やっぱりお茶菓子の差し入れは無しね。
そのあとは予定通り食事会が始まった。
パパは今回コース料理じゃなく、立食形式に近い形の食事会にしたみたい。
確かにコース料理だと堅苦しいもの。
アル達は田舎の出身だって言ってたしマナーも分からないかもしれないから、ここは流石パパと褒めるところよね。
食事会は適度に雑談を交えて楽しんでたんだけど。
パパ?今日はちょっとお酒を飲むペース早くない?
ちょっと不安になったけど、大丈夫よね?
……大丈夫じゃなかったみたいね。
「家のソフィアは少し気難しい所がありますが、
本当に優しい子でね。この前なんか――」
「最近なんて私が疲れていると思ったんでしょうね、肩を揉んでくれましてね――」
「私の誕生日なんかは帰りが遅かったと言うのに起きて待ってくれていまして――」
「とにかく!
ソフィアはこの世に使わされた天使なんじゃんないか?!
そんな事を私は常々思っているのですよ」
パパ、もうやめよう?
パパの愛情は嬉しいし、私もパパの事好きよ?
でも、お願いだからやめよ?
ほら、アルがなんか生暖かい目で私を見てるじゃない!?
恥ずかしさのあまり逃げ出したい気持ちを必死に抑えていたんだけど……
「うちのアルだって天使だ!!」
「うちのアルなんかこの前料理を作ってくれてだな――」
「誕生日なんか野うさぎを狩ってきてくれてだな――」
「寝顔なんか。
あれ? 私死んで天使が迎えに来たの?
いや、違う! なんだアルかーってくらい可愛いんだぞ!」
パパも大概だけど、メーテさんも大概よね?
アルに視線を向けてみると、その赤茶色の瞳は光を失っていて。
私も今、同じような目をしているんだろうなって確信があった。
そんなアルと目が合うと、お互い頷いてこの部屋から逃げ出すことにした。
食事会から逃げ出した私達は、私の部屋に行く事にした。
アルに椅子を用意すると、私はベッドに腰を下ろす。
「はぁ、パパが私の事大切に思ってくれるのは嬉しいし、感謝してるんだけど……
流石に今日のは耐えられなかったわ……」
「僕もメーテが大切にしてくれるのは分かるんだけど、さっきのは流石に恥ずかしかった……」
そう言ってお互い苦笑いを浮かべた。
今の雰囲気ならちゃんと言えるかもしれないと思って、改めてお礼の言葉を口にしてみる。
「一回お礼は言ったけど改めて言うわ。
アル、オークから助けてくれてありがとう。
そ、それと同い年なんだからソフィアちゃんとかじゃなくて。
特別にソ、ソフィアって呼んでくれて構わないわよ!」
ちゃんとお礼を言えたのが嬉しくて、調子に乗って思わずソフィアって呼んでって言っちゃったけど。
顔が熱くなって行くのが分かったから、それがばれたくなくて顔を伏せた。
「それじゃあ、お言葉に甘えて、今後はソフィアって呼ばせて貰うことにするよ。
それと、感謝の気持ちは十分受け取ったから、そんな気にしないでいいからね?」
気にしないでいいからって言われても、私は命を救って貰ったのよ?
それに、あの時見たアルの横顔を思い出すと……
「……気にするなって方がが無理よ」
思わず内心を口にしてしまった事に驚いて、慌てて話題を変えた。
「そ、それとだけど、アルは私と同い年なのに、なんでそんなに強いの?」
聞かれてないわよね?大丈夫よね?
どうやらアルは聞き取れていなかったみたいで、なんで強いのかって言う質問にだけ答えてくれた。
アルにも先生が居て、その先生に鍛えて貰ってるみたい。
他にも魔物と戦う経験がアルを強くしているみたいね。
そんな話をしながら笑いあっていると、急に現実に引き戻される。
アルと居られる楽しい時間も後数時間もしない内に終わってしまう。
もしかしたらもう会う事も無いかもしれない……
だけど、そう思った時に私は思いついた。
「そう言えばアルは学園都市には行かないの?」
そうだ!学園に通う事が出来ればまた会う事が出来る。
入学までは二年以上先だけど、二度と会えなくなるよりは断然良い。
だから私は学園に誘った。
お金の事を心配してるみたいだけど、命の恩人のアルならパパだってお金を出してくれるかもしれない。
「お金の事なら私がパパに言っ――」
「いやいや! 流石にそこまでお世話にはなれないよ!」
そう言いかけた所でアルに断られてしまった。
そして、その言葉で身体から力が抜けていくのが分かった。
でも、ここで諦めたら本当にもう会えないかもしれない。
でも、私にはどうする事も出来ない。
どうする事も出来ない問題にどうにか答えを出す為に頭を悩ませていると――
「正直約束は出来ないけど、学園に行けるように頑張ってみるよ。
僕は魔物を倒して小遣い稼ぎしているんだけど。
それで学園に入学できるだけのお金が貯める事が出来たら、その時は学園の試験を受けてみるよ」
アルがそう言ってくれた。
嬉しい! また会えるかもしれないそう思うと私の言葉も強くなる。
「絶対! 絶対に約束だからね!」
その言葉にアルは自信なさそうに答えたけど、私は無理やりにでも約束をする。
「駄目! 絶対に約束だから」
そう言うと自然と笑みがこぼれた。
そして後日。
アルから一通の手紙が届いた。
その内容は九歳からの入学は無理だけど、十二歳からの後期入学には間に合うように頑張るよ。
約束をちゃんと守れなくてごめんね。
そんな内容の手紙だった。
始めはアルの嘘つき!
なんて思っていたんだけど、パパから入学するのに掛かる費用などを聞いて、そんな気持ちは消えてしまった。
だって、大金貨で十五枚以上かかるなんて知らなかった。
後期入学だって大金貨八枚以上かかる。
アルは魔物を狩って、それでお金を溜めると言っていた。
もしかしたら後期入学に間に合うかも怪しい所だと思う。
でも、それでもアルは後期入学には間に合うように頑張ると言ってくれた。
それなら私がする事は只一つ。
頑張ってくれるアルに負けないよう。
私自身も剣に魔法、それと少し苦手だけど勉強も頑張って。
先に入学した学園の先輩として、恥ずかしくない自分でいる事だ。
今でも強いアルの事だから、数年後にはもっと強くなってると思う。
そんなアルと一緒に居て恥ずかしくない自分でいる為に。
数年後、また出会う時の為に。
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