第18話 素養の隠蔽
闇属性の素養があることを伝えられてから数週間が経ち。
徐々にではあるが闇属性魔法にについて理解を深めていく日々を送っていた。
そうして闇属性魔法の理解を深めていった訳なのだが。
まず分かった事と言えば、闇属性魔法と言うのは物の重さを扱う魔法。
所謂『重力魔法』だと言うことだった。
あれは授業初日のこと。
僕はメーテに連れられて森の少し深い場所まで来ていた。
どうやら、闇属性魔法を実演して見せてくれるらしいのだが、少し派手だと言うことと、周囲に被害を出したくないと言う事らしく、森の深い場所まで連れてこられた訳だ。
そうして辿り着いたのが、森の中の少し開けた場所で、特に目立った物も無い、周囲をぐるりと木々に囲まれた普通の場所であった。
わざわざ森の深い場所まで来たのだから、なにか特別な物でもあるのではないか?
そんな風に期待していたので、連れてこられた場所を見渡し、少しばかり残念に思っていると。
「面白いのが見れるのはこれからだぞ?」
僕の内心を見透かすようにメーテが言う。
内心を見透かされたことで、少しドキリとしながらメーテへと視線を向けると。
メーテの手に木製の歪な杖が握られていることに気付いた。
普段、メーテが魔法を使う際に、杖などを使っている記憶が無かった為、なんだか珍しいものを見たような気がし、少しだけ得をしたような気持ちになる。
そんな事を思っていると、メーテはその杖を頭上に掲げ「良く見ておくんだぞ?」と言った後。
『押し潰せ』
そう言って杖を振り下ろした。
そして、次の瞬間。
目の前の木々がメキメキ、バキバキと言う渇いた音を立てた。
まるで超重量の何かに押し潰されて行くように、在りえないひしゃげ方をしながら砕けていく木々。
時間にして数秒と掛からない内に目の前の森の一角は消滅し。
その代わりに直径で20メートル程だろうか?
それくらいの規模のクレーターが姿を現していた。
そんな在りえない光景を見せられた僕は、目を見開き、口を塞ぐことも出来ないでいたのだが。
「どうだ? これが闇魔法だ」
そんな僕を他所に、メーテは清々しい程のドヤ顔でそう言ってみせた。
その後もメーテは色々な闇属性魔法を実演して見せてくれた。
そうして実演して見せてくれたのが、相手に対する重力の付与や、あるいは重力の解放と言ったもので。
その効果は文字通りと言った効果を発揮し、重力を付与されると身体が重く、思うように動けなくなり。
重力を解放されれば身体が軽く、身体能力以上に身体を動かす事が出来るようになった。
重力を解放された時は、身体がその軽さに着いていけず、木にぶつかったり枝に引っかかったりと大変な目にあってしまったのだが・・・・・
だがしかし、慣れる事が出来れば重力の解放だけでも色々な事が出来そうだと感じ。
その可能性を考えると、胸が高鳴り、闇属性魔法に興味を惹かれることになった。
このような経緯があった為、闇属性魔法と言うものは『重力操作』だと言うことを理解した訳だ。
そうして、闇属性魔法に触れてから数週間経ったのだが。
肝心の魔法の方はどうなったかと言うと、初級魔法であれば割とあっさり覚える事が出来た。
闇属性魔法も基本五属性を覚えた時と同様で、まずは魔法を発現する為の感覚を身体で覚えなければいけないらしく。
その感覚を覚える為には、重力の付与、重力の解放を順番に施して行き、それを繰り返す事で、闇属性魔法を使う感覚を覚えることが出来る。
と言うことをメーテは教えてくれた。
僕もそれに倣い、闇属性魔法を使う感覚を身に着ける筈だったのだが。
前日に重力の付与と解放を体験したと言うことに加え、前世の重力に関する知識もある程度は在ったので、自分の重力に対する知識と魔法による想像をどうにか結びつけ、駄目で元々という気持ちで闇属性魔法を使ってみると――
的として用意されていた岩の一部が、パキパキと言う音を鳴らし、上から球体を押しつけられたような形に窪んだ。
あっさりと成功してしまった事に僕自身驚いていると、その様子を見ていたメーテが。
「やっぱりアルは教え甲斐がない……」
そう言って不貞腐れており、成功したと言うのに、なんだか申し訳ない気持ちになってしまった。
まぁ、メーテが不貞腐れたのは兎も角。
流石素養と言うべきなのか?
闇属性魔法を使う感覚と言うものを覚えてからは、まるでスポンジが水を吸収するような勢いで闇属性魔法に対する知識を吸収していき、あっという間に幾つかの初級を覚える事が出来た。
自分でも少しばかり早いペースだとは思うのだが。
現在は初級魔法について学びつつ、中級魔法にも手出し始めていると言う状況であった。
そして、今現在。
「中級魔法には苦戦しているようだが、そろそろ頃合いか。
アル、ちょっと付いて来てくれ」
その言葉に従ってメーテの後に付いて行くと、ギシギシと軋む地下へと続く階段を降りる。
すると、地下にある一室。メーテの書斎へと案内されることになった。
そうして案内された書斎を見渡してみると、壁の三面には天井まで届く棚が設置されており。
その棚には本が隙間なく並べられ、床を見れば、僕の腰の高さ程に積まれた本の山が幾つも目に入った。
そんな書斎を見て、まるで本の森に迷い込んでしまったような錯覚をしてしまう。
「本の森か、中々洒落たことを言うもんだな」
どうやら思っていた事を口に出してしまったらしく。
感心したような茶化すような、どちらとも言えない感じでメーテは言った。
そう言われて少し恥ずかしくなった僕はそれを誤魔化す為に。
「これはどんなほんなの?」
一冊の本に手を伸ばしながらメーテに尋ねたのだが……
「ん? それは魔導書だな。
下手に触ると呪われる魔道書もあるから気を付けるんだぞ?」
などと恐ろしい事を言われてしまい、伸ばしかけた手を引っ込めることになってしまった。
その後、本に触れないように身を縮ませながら、なにやらゴソゴソと探し物をしているメーテを眺めていると。
「おっ? あったあった」
どうやら探し物が見つかったようで。
メーテは棚の下に収められていた箱から怪しい占い師が使うような水晶球を取り出し、机の上へと置いた。
その水晶球を見て、メーテは占いでも始めるのだろうか?
などと惚けたことを考えていると。
「その水晶球に手を置いてみるんだ」
メーテは水晶球に触れるように指示した。
それにどう言った理由があるのかは分からなかったが。
言われ通りに水晶球に手を置くと、水晶球は何度か点滅した後、その内側を黒く発光させた。
その変化に少し戸惑いながらも黒く淡い光を眺めていると。
「この水晶球は、素養を確認する為に用いる道具だ。
素養のあるものがこの水晶球に触ると、その素養に対応した光を放つようになっている」
メーテは水晶球がどう言う物なのかを説明し。
自分も手を置いて見せると、僕の時と同様、黒く淡く発光させて見せた。
「これがどう言うものか分かっだろ?
そして、ここからが本題になるのだが、アルにはこの水晶球を騙して貰おうと考えている。
まぁ、そう言われても意味が分からないだろうから、まずは説明が必要だろうな」
メーテは水の入ったグラスを机にトンと置き、話を続ける。
「本来、魔力と言うものは肉体と魔力が綺麗に混ざり合っていて、魔力と肉体と言うのは別々に考えることは出来ない。
言わば見えない臓器とでも言えば良いのかな?
それくらい切っても切り離せないものだ」
メーテはグラスにインクを垂らし、グラスの水を指先でくるくると回すと、水とインクは綺麗に溶け合い、うっすらと色の付いた水が出来上がる。
「要は水が肉体でインクが魔力。
普通の人間であれば、この水のように2つが綺麗に混じり合う形になる訳だ。
だが、アルの場合はこうだ」
すると、メーテはペン先で人差し指をプツリと刺し。
指先にプクリと血が浮かび上がると、その血をグラスに落とした。
ぽたぽたと落ちる血はグラスの中で不規則な模様を描き、ゆらゆらと漂う。
その光景を見た僕は思わず顔を顰めてしまうが、そんな僕を横目にメーテは説明を続ける。
「アルの場合、魔力と肉体が綺麗に混ざり合っている事に加え、この血のような不規則な流れがあり、非常に歪な形をしている。
これは本来では在りえないことだ」
メーテの説明を聞いて恐らく転生した事が原因だと予想は出来たが、それを伝える訳にはいかず、それを心苦しく思う。
今は伝えることは出来ないが。
いつか絶対に話す事を誓うと、今は心の中で謝罪の言葉を口にした。
そして、ここまで聞いて疑問に思ったのが。
メーテは普通に僕の魔力の流れと言うものを把握し、状態を見抜く事が出来ていると言うこと。
もし水晶球を騙せたとしても、メーテのような人が居ればすぐにばれてしまうんではないか?
その事を疑問に思いメーテに尋ねる。
「いや、その可能性はほぼないと思うぞ?
私の場合は眼が特別製だから分かるが、アルの魔力がおかしいことに気付くのは、並はずれた魔法使いか、ウルフ並みに野生の感が働く奴くらいだ。
素養判別の水晶球さえ騙せれば、まずばれるような事は無いだろう」
どうやらそう言う事らしく、素養を見抜ける人が少ないのであれば安心かな?
そう思うと、今度は「目が特別製」と言う言葉に疑問を持ってしまう。
なんとなく厨二ぽく感じられて、魔眼てヤツか!?
などと頭の中で盛り上がっている内に、質問するタイミングを逃してしまったようで、メーテは説明を始めてしまった。
「それでだ。
本来なら魔力と肉体は混ざり合っているもので誤魔化しようがない。
だが、アルの身体の特殊性、混じり合っていない魔力に意識を集中し。
その魔力で素養判別の水晶球に触れる事が出来れば、上手く誤魔化す事が出来るのではないかと考えているのだが……
どうだ? 出来そうか?」
メーテの質問に考えを巡らす。
要するに、僕の中にあるもう一つの魔力をかき集め、その魔力で水晶球に触れば良いと言う事だとは思うのだが……
すこし難しいような気もするが。
折角の異世界なのだから色々と見て周りたいと言う気持ちがあり、魔力の隠蔽が出来ない場合、そうやって色々見て周る事もままならないのなら、頑張って覚えるしかないだろう。
そう腹を括ると、メーテの言葉に頷き、試しに自分の中にあるもう一つの魔力とやらを探ってみる。
すると、 意識した途端に今まで感じた事の無い魔力があることに気付き、その魔力が普段扱っている魔力よりも身体に馴染むのが分かった。
それと同時に、これが僕本来の魔力だと言う事を理解すると、これなら魔力の隠蔽が出来るのではないだろうか?
そんな確信めいたものを感じ、僕は水晶球に近づくと、そっと手置いてみた。
水晶球は先程とは違う反応を示す。
いや、正確には何の反応も示さなかったと言うのが正解だ。
数秒の間、手を置き続けたが水晶球は反応をする様子が無く、この結果が成功なのか失敗なのかが分からずに、何の反応も示さない水晶球をただ眺めていると。
「……本当にアルは教え甲斐が無いな」
そう言ってメーテは不貞腐れて見せた。
どうやら、無事に成功したようなのだが。
そんなメーテの姿を見ると素直に喜んでいいのか分からなくなるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます