第17話 ぼくのそよう
課外授業を終えてから数日経ったある日の事。
「アル、魔法はどのくらい使えるようになった?」
メーテにそう尋ねられた。
何の魔法が使えて何が使えないかを頭の中で整理してから、メーテの質問に答える。
「えっと、かぜまほういがいは、ちゅーきゅうつかえるよ」
そう、以前は水属性と雷属性しか中級魔法を使えなかったのだが。
あれから数カ月経った事により、風属性以外の魔法は、中級魔法まで使えるようになっていた。
あれから数カ月経ったから使えるようになったと言うよりか、毎日の授業の内容が濃いおかげで使えるようになった。
どちらかと言えば、そう言った方が正解だろう。
週に一度だけ休みはあるものの、その他の六日間は毎日陽が落ちるまで授業をしているのだから、逆に成長していなかったら嘘ってものだ。
「ふむ、ほぼ中級魔法を使えるようになっていると言う状況か。
頃合いと言うよりかは……
成長速度が速すぎて逆に教えるのが遅くなってしまったようだな」
メーテは独り言のようにブツブツと呟き、何かを決断するように「よし」と言った後に言葉を続けた。
「以前話したと思うが、属性の素養と言うものを覚えているか?」
属性の素養。
簡単に言ってしまえば才能のような物。
例えば、素養を持たない人よりも少ない魔力で魔法を使える。
或いは同じ量の魔力を込めても、威力が段違いに変わる。
素養の有無によって、同じ属性なのに魔法の質が変わる。
それが素養と言うものだ。
素養の事を自分の頭の中で整理していると、以前メーテに言われた事を思い出す。
ここ数年、毎日の魔法の授業や、身体強化の授業で忙しく、すっかり忘れていた一言。
「アルには素養あるぞ」
その一言を。
まさか?と思い、逸る気持ちを押さえながらメーテに尋ねる。
「そようおしえてくれるの?」
そ僕の質問に、メーテはニヤッとした表情を返す。
「うむ、今日からアルには素養の属性も伸ばしていってもらう」
今まで秘密にされていた僕の素養。
ある程度魔法が使えるようになってからじゃないと、素養の属性を意識してしまい、他の属性が伸び悩んでしまうと言う事で、今まで教えて貰えなかったのだが。
ついに教えて貰える日が来たようだ。
素養があると教えてもらった当初、自分の素養を予想をした事は何度かある。
水魔法と雷魔法が自分の中で覚えるのが早かったと言うのもあり。
僕の素養は、水属性か雷属性の素養なんじゃないかな?とも考えていた。
なので、メーテに告げられる素養はやっぱり水属性か雷属性なのでは?と予想をしていたのだが。
そんな予想をしていた僕に向かって。
「聞いて驚くなよ?」と、嫌でも期待させる前振りをした後、メーテはドヤ顔で僕の素養を告げた。
僕の素養。それは――
「アルの素養は闇属性だ」
まさかの闇属性だった。
素養があるのは嬉しい事なのだが、今まで闇属性の授業や練習などは一度もした事がなかった。
なので、闇属性の素養があると言われても、今一自分の中でピンと来る事が無く。
従って、こんな反応になってしまう。
「う、うん、そ、そうなんだ」
その反応に不満だったのか、
「な、なんて反応の薄い……
もっと、やったーとか、こ、この僕に闇の素養が……ククク。
とか、そういう反応があると思うのだが?」
何処の厨二病患者だ。
とは思ったが、野暮なツッコミはしないで置いた。
「もっと驚くと思っていたのに……
アルの反応はつまらん」
少々不貞腐れた様子でそんなことを言っていたが。
どうやら、僕にそう言った反応を求めるのは諦めたようで、メーテは闇属性の素養についての説明をし始める。
「アルには闇属性の素養がある。
だが、世間から見たら闇属性の素養持ちは、奇異の目で見られるだろう。
だからアルには、闇属性の魔法を覚えていくのと同時に、素養の隠蔽を学んでいって貰いたい」
確かに奇異の目で見られるのは面倒だと思う。
だが隠蔽しなければいけない程の事なのだろうか?
そんな疑問があったのだが、その疑問に答えるように、メーテの説明は続く。
「何故隠蔽するかと言うと、昔起きた「ある出来事」のせいで、闇属性の魔法自体を危険視する声が大きくなった。
取り分け闇属性の素養を持っている者などは、それだけで危険人物と判断され、隔離されてしまう場合もある。
今ではそのような行為も落ち着いてきてはいるものの。
その事件があった地域では、未だに闇属性を危険視し、排除して行こうとする姿勢からは、根深いものが感じられる……
だから、平穏に暮らして行くには、闇属性の魔法は覚えない方が良いのだが。
アルには幸か不幸か闇属性の素養がある。
一生をここで過ごすなら素養が有ろうが無かろうが問題は無いんだが、流石にそう言う訳にもいかないだろ?
なので、アルがこれから人の住む場所で過ごすには素養を隠蔽する必要があるのだが。
素養を隠蔽するには、闇属性をある程度使いこなせるようにならなければならない。
そう言った理由を含め、闇属性の魔法を学んでいって貰おうと言う訳だ」
メーテの話を聞き、「ある出来事」と言うのも気になったが。
それ以上に闇属性の扱いづらさに頭を抱えてしまう。
使える魔法が増えると言う事はむしろ嬉しい事の筈なのだが、闇属性の素養を持っているだけで忌避、迫害の対象になると聞かされた後では、闇属性の素養があると言うのはデメリットでしか無いように思える。
メーテが言うには素養の隠蔽さえ覚えれば、人が住む場所で過ごす事も可能らしいのだが。
裏を返せば隠蔽できなければ人が住む場所で過ごすのは難しいと言うことで、その事を理解した僕は、素養を知れて嬉しいと言うよりかは厄介な素養を授かってしまった。
そう言った気持ちの方が強く、なんとも言えない表情を浮かべてしまう。
それに、素養を隠蔽しなければいけないと言うことは、頑張って闇魔法を覚えた所で、使う機会が無いと言う事で、折角覚えた魔法を使えないと言うのは何となく勿体無く感じ、残念にも感じてしまう。
まぁ、メーテやウルフと森へ魔物討伐に行く時くらいは、使っても良いのかも知れないが……
素養を隠蔽する為に魔法を覚える。
なんとも本末転倒な話ではあるが、素養があると分かった以上はやるしかないのだろう。
そう言った結論を出したところで。
「それでは早速闇属性の授業を始めようか」
メーテはそう言うと、紅い瞳に怪しい光を宿らせ、その端整な顔に薄い笑みを浮かべる。
「それと、言い忘れていたが、私の素養も闇属性だ。
得意分野だから厳しく行かせてもらうぞ」
不意に伝えられたメーテの素養に驚くのと同時に、同じ素養である事を嬉しく感じたのだが。
その反面。メーテの「厳しく」と言う言葉の意味が理解できないでいた。
それもそうだろう。
僕の中では、実技だけで言うなら今でも十分に厳しいと感じているのだ。
それなのに厳しいと言うからには……
そう考えるとゾッとしてしまい。
「今でも十分厳しいです!」
そう言いたくなったのだが。
視線だけで「何か言いたいことがあるのか?」と尋ねるメーテを見て。
怖いからその言葉を飲み込むことにした。
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